【完結】何度やっても君が死ぬ   作:ほほほのほ

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1章「お前のアオハル人身御供」
1.何度やっても君が死ぬ


 ある日、私の目の前に神様が現れた。神様、と言っても本当かどうかは知らないけど。

 後光が差し、シルエットしか捉えられない推定神様は言った。

 

『あなたの願いを1つだけ叶えてあげましょう』

 

 謎の真っ白な空間。目の前の変な人。私は思った。

 ──これは、夢だ。

 朦朧とした意識の中、こんなことが現実だなんてとてもじゃないが思えない。

 

 だから適当に答えた。『最近読み始めた漫画のキャラクターの生存ifが見たい』って。ああ、どうして私はこんなことを口走ってしまったのだろう。

 私の地獄行脚が軽はずみな一言で始まるなんて、誰も思わないでしょうが。ふざけんな。

 

 呪術廻戦。友達からオススメされて、全巻貸してもらった。

 その中でも夏油傑がお気に入りだった。顔がいいし、問題児五条悟を御せるその手腕も好き。

 

 だからこそ、彼が闇堕ちしていく過程は目も当てられなかった。1歩ずつ、1歩ずつ、確実に彼の心にヒビが入るような出来事が続いていく。

 

 そして壊れた彼は──未曾有のテロを引き起こし、親友の手によって命を落とした。

 それで終わるのではなく、別の人間──羂索によって身体を乗っ取られ、良いようにされる。一体どんな星の元に生まれてるんだ。

 

 まあ所詮は漫画の中の出来事。救いを求めて小説投稿サイトで生存ifでも漁ろうとしていた矢先に、私の目の前に神を名乗る不審者が現れたのだ。

 そしてあれよあれよという間に私は呪術廻戦の世界へと落とされた。

 

『夏油傑を生存させなさい。あなたの望みが叶えば元の世界へ返しましょう』

 

 奴はそう言い残して、光の粒子となって消えた。

 

 1回目、私が初めてこの世界に来た時。

 まず私はあっという間に死んだ。当たり前だ。呪霊と戦う覚悟なんてしてなかった。当時は、まだ夢の中だと思っていたのだから。

 

 腹を裂かれ、内臓が飛び出す感覚は今でも忘れられない。

 平和な世界で生きてきた私には刺激が強すぎる。家に返してくれ、と死ぬまでの間、叫び続けた。

 

 それから何回か死に戻って、ようやく私はこの世界に生きている、という実感を持てた。

 ︎呪力を操る術、戦う覚悟を得て、なんとか呪霊相手に戦うことができるようになったのだ。それでも時折元の世界が恋しくて、泣いてしまう日もあった。お母さん、元気にしてるかな......?

 

 特級連中やアウトプット反転を持つ3人に比べて私はあまりにも脆弱だ。運が良くても精々準1級にまで上り詰めるので精一杯。

『呪術師は才能が8割』と言われる。もちろん私も例外ではない。

 

 術式だけは最低保証としてあった。しかし『構築術式』などの使い辛い術式も存在する。

 これで呪力総量や効率が悪ければそのループはほぼ終わりだ。呪霊に殺されておしまい。

 

 ──ただし、一つだけ。私には神から与えられた恩恵があった。

 言うなれば転生特典。私が死に戻っても記憶や経験を受け継ぐのは当然のこと、死ぬ度にポイントが一定数貰える。

 それを消費すれば呪力の総量や運動神経、頭脳に下駄を履かせたり、術式を指定できたりする。

 それを使って何とか夏油傑を生き残らせろってことなんだろう。

 

 初めの──100回を超えるまでは、真面目にやっていた。

 夏油傑とちゃんとコミュニケーションを取るようにしてみた。それだけでは駄目だ。アイツの闇堕ち原因は多すぎる。

 

 護衛任務、灰原の死、呪霊玉の味、ミミナナの村、九十九との会話、五条との隔絶──それらを何個か潰しても、駄目だった。

 

 全部潰さなければならない。

 そのためには、理子ちゃんを死なせない、産土神を倒せるほどの力、呪霊玉の味を変えられるほどの技術。ああ、何から何まで必要だ。

 

 たまには闇堕ちは必要経費として考え、一緒に呪詛師落ちしてそこから生き残る術を探してみたりもした。

 だが五条悟は強い。乙骨憂太も強い。ちょっと勝てない。

 何を言っても夏油傑は呪霊を分散するし、呪詛師どもは夏油の言うことしか聞かない。やってらんねー。

 

 獄門疆で五条悟を封印する、というルートも考えてみた。そうすれば乙骨憂太の対処だけを考えることが出来る。

 残念ながら、流石に情報が足りない。数回ループして探し回ってみたが見つけられなかった。

 

 というか可処分時間が少なすぎるのだ。私が意識を取り戻し夏油が死ぬまでの間で、私が自由に動けるのは10年程しかない。

 小さい頃は親の庇護下で過ごさなければいけないし、特別な家系に生まれなければ海外へのツテもない。

 

 なので百鬼夜行ルートは没。仕方がないのでちゃんと闇堕ちしないように頑張るしかない。

 

 そのためには、ポイントが必要だ。何十回、何百回と闇堕ち回避のためではなくポイント稼ぎのためのループを行った。本当に心が折れそうだった。

 

 その度に、母の、友人の顔を思い出して自らを鼓舞した。少しずつ、その声も、顔も、記憶から薄れていったけど、私の心の支えだ。

 

 そして前回の世界線。

 術式ガチャにも成功し、呪力総量、センス、身体能力、全てを今まで貯めてきたポイントを全て使い切って高水準にした。私は特級に認定された。今までのループではなかったことだ。

 

「チッ、防がれたか」

 

 理子ちゃんの頭へと飛んできた鉛玉を防ぎ、黒井さんの怪我も治した。盤星教はこっそり潰しておいた。夜蛾先生には叱られたが呪力は使ってないので問題はない。

 

「産土神信仰......あれは1級案件だ。たまたま先輩が同行してなければどちらかが死んでいたでしょう」

「危なかったね!」

 

 後輩の任務に同行して、産土神を祓った。灰原は生き残り、七海も術師を辞めなかった。

 

「『もっと自分勝手に生きたって良い』? ......何だい、ソレ。ハハ......」

 

 夏油の価値観をぶち壊した。一緒に修行もしたし、五条悟との橋渡しもした。九十九とは会わないように仕込みをした。

 

 村の任務は私が半ば無理矢理同行して、村の連中を拳でしばき回した。夜蛾先生にはまた叱られてしまった。頭のたんこぶは2週間ぐらい治らなかった。

 別に反転術式で治せばいいんだけど、それもどうかなと思ったのでそのままにしておいた。

 

 ミミナナは夏油家で引き取ったらしい。暫くは怯えた様子だったけど、そのうち懐いてくれるようになったらしく写真も見せてくれた。かわいい。

 

 ひたすらに奔走した結果、夏油の闇堕ちを防ぐことがついに出来たのだ。

 

『私は……冥さんのようにフリーの術師になるよ』

 

 高専卒業の日、夏油からその言葉を聞いた時、思わず涙が零れた。硝子は『なに泣いてんの』って笑いながら私の目を拭ってくれた。優しい。

 

『何だよ、お前ら傑が一緒じゃなくていいのかよ』

 

 五条悟は不満気な顔をしていたが、そんなことは私にとってはどうでもいい。

 ようやく。ようやくだ。夏油は呪詛師にならず、百鬼夜行も行われない。夏油傑が五条悟の手によって死ぬことはない。

 ──そう思っていた。

 いつ元の世界に帰れるんだろう、内心ワクワクしながら呪術師として過ごしていた私の元に、五条から連絡があった。

 

『傑が行方不明になった』

 

 私の口から、何かが漏れた。声にならない叫び。慟哭。

 忘れていたのだ。彼の呪霊操術、五条悟の親友という立場を付け狙う──羂索のことを。

 私の意識は薄れた。夏油傑が死んだからだ。殺されたからだ。

 

 もうポイントはない。前回全て使い切ってしまった。

 また何百回もやり直して、ポイントを貯めて、今度は羂索という平安の猛者を倒せるまでに鍛えなければいけない?

 

 ──そんなのは、無理だ。

 

 私の心は、パキリと折れた。

 特級とは言っても、彼らと私には圧倒的な差があった。全てを費やしても私は最強の2人に終ぞ手が届くことはなかったのだ。それなのに、夏油傑を羂索の魔の手から守りきれだなんて。

 それでもループは続く。私の魂が遊離して、胎児へと埋め込まれていく。

 

 私の自意識が生まれるのは術式を自覚する時。術式の自覚と同時に今までの記憶と経験が脳へと流れ込む。

 何度やってもこの情報の渦は慣れない。知恵熱で1週間かそこらは寝込むことになる。

 

 熱が冷め、意識を取り戻した時。随分と大人びた様子の子に母も父も戸惑っていた。

 ループによって親は毎回変わる。ある時は呪術師家系、ある時は非術師家系。虐げられたりするときもあったが(主に術師家系のとき)、今回はどうも善良そうだ。

 そして、自らの術式が何なのか理解したとき、私の口角は上がったらしい。母が『熱が治ってご機嫌ね』と頭を撫でてくれたから。

 

 私のやることはもう決まった。夏油傑を生かすために、私が出来ることは──1つしかない。

 

 桜も散り、初夏の兆しを感じる季節。こじんまりとした教室に、3人の生徒が座っていた。

 

「季節外れの転校生だってさ。楽しみだね」

「一般出の子だっけ?」

「......俺聞いてねえし!」

 

 白髪の男が机から勢いよく立ち上がる。

 

「どうせ悟は夜蛾先生の話を聞いてなかっただけだろう?」

 

 やれやれ、と肩を竦めた特徴的な前髪の男。

 

「ああ? 喧嘩売ってんのかよ傑」

「そう思うんならそうなんだろうね」

 

 その態度に腹を立てたのか、底冷えするような声で白髪の男は隣の男を睨みつける。

 目の前で険悪なやり取りがなされているにも関わらず女はニヤリと面白そうに笑い、懐から煙草を取り出して吸い始めた。

 2人が立ち上がり、互いの胸ぐらを掴んだとき。

 

 ──ガラリ。教室の引き戸が動き、外から人が入ってきた。

 1人は3人もよく知る担任、夜蛾正道。そしてもう1人は見慣れない女性。艶のある髪を高い位置で結い上げた、黒髪黒目の何の変哲もない一般人かと見紛うような姿。

 

 五条悟は一瞬で興味を無くしかけたが──サングラスの奥、青い瞳で彼女を捉えた時、少しだけ好奇心が湧いた。

 

「あの、初めまして。虚枝 刹那(うろぎ せつな)です、よろしくお願いします」

 

「術式は──『呪霊操術』です」

 

 私の今回の目的は2つ。夏油の闇堕ちを防ぐこと。

 そして、羂索に身体を乗っ取られるようにすることだ。




■虚枝刹那
度重なるループのせいで目が若干死んでいる。

■夏油傑
割と仲良し。
卒業の日刹那に大号泣されてビビった。

■五条悟
実はそんなに仲良くなかった。
こいつの好感度もちゃんと上げないと乗っ取られないので頑張りましょう。

■家入硝子
ほぼ親友だった。
反転出来るのに治療をせがんでくる刹那が地味に好き。

転生特典
・記憶の引き継ぎ
すごく頭が痛くなる。つらい。
・ポイント制度
レートはクソ渋い。
実績解除すると死後貰えるポイントも増える。(星漿体生存、特級認定etc...)

術式は最低保証として用意されてる。使えるかは分からんけど。
能力も当然ランダム。(後からある程度鍛えることも当然できるが)
なので能力と術式の噛み合わせがクッソ悪い場合もある。

那由多の明日はどっちだ

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