【完結】何度やっても君が死ぬ   作:ほほほのほ

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産土神に関しては完全に捏造です。詳細どっかで出てたら教えて……


6.交喙の嘴

 私は七海と灰原と一緒に、飛行機へ乗っていた。遠出と言ってたが、本当に遠いな。

 七海には灰原がちゃんと話したようで、『この人過保護だな……』という眼差しで私のことを見つめつつも、私の同行を許してくれた。

 

 私だってこれが2人の任務ってことは分かっているので、基本見守るだけ。不慮の事態に陥らない限りは手出しはしないと言っておく。

 

 空港から出たあとは、先に到着していた補助監督の車に乗って移動する。

 どんどんと人里からは離れた場所へと向かっていく。窓から見える景色が若干荒廃してきた。

 

「いやあ、結構時間掛かるね」

「そうですね……こういうのは瞬間移動出来る五条さんに任せるべきでは?」

「確かに」

「七海、僕らも先輩に負けないぐらい頑張らないと!」

 

 現地到着。車から降りて、私たちは地面を踏みしめる。

 見れば見るほど酷い有様だ。

 草は刈り取られずに伸びっぱなし、畑は放棄されたのか、枯れ果ててしなびた葉っぱが生えているだけ。恐らく住んでいる住民もいな──

 

 

「旅のお方ですか?」

「……ん? ああ、はい」

 

 ふと、老婆に声を掛けられた。茅葺屋根の家宅が並び、子どもが走り回っていて、随分と活気のある村だ。噂に違わない。

 

「この村で時折異変が起こると聞きまして。私はそういったものを調査しているんです」

「アレのことですかな。それについては村長が詳しいことを知ってるはずですから、どうぞ此方へ」

「ありがとうございます」

 

 老婆の案内に従って、村の最奥へと向かう。辺鄙なところに位置しているのに道は綺麗に整えられていて、歩きやすい。村の住人たちがしっかりと整備しているのだろうか?

 畑の畝にも青々と野菜が茂っている。この村の規模にしてはやけに多い気もする。外に卸すのも大変だろうに。

 

 外からでも立派だと分かる、この村でもより一層大きな屋敷。門の前で、老婆が止まった。案内はここまでと言うことだろう。

 

「さあ、この屋敷に村長がおりますので」

「ご親切にどうも。──そしてさようなら」

 

 呪力を込めて老婆の腹へと拳を叩き込むと、塵と化して消えていく。

 あ、危ねえ。相手の術中に嵌りかけていた。先程まで確か私たちは荒廃しきった村の跡地にいたはずだ。

 

 とりあえず、七海と灰原を探そう。私は呪霊を出して村中を捜索する。が、いない。

 あと探していないのは目の前の屋敷だけだ。門をくぐり、鍵のかかった玄関を蹴り破った。

 

 屋敷中に呪霊を放つ。そのうち1つが反応したので全速力で向かう。死んでませんように。

 襖を勢い良く開く。七海と灰原はそこにいた。灰原は恐らく屋敷のものに出された料理を口にする直前だった。セーフ!

 

「え? 虚枝さん?」

「ずいぶんと荒っぽい登場ですね」

 

 灰原の腕を引っぱたいて、箸を落とさせる。床に転がるご飯を見て、灰原が悲しげな声を上げた。すまん、後で上手いもん食わせてやるから許せ。

 

「呪霊の生得領域内だ。窓の等級誤認だな、これは2級呪霊なんかの仕業じゃないね」

「……成程」

 

 灰原はまだ状況が掴めていないが、七海は元々警戒していたのだろう、あっさり立ち上がって臨戦態勢に入った。

 

「ここからは私の指示に従って。2人とも自分の命を最優先で」

「はい!」

「分かりました」

 

 産土神ってのは生まれた土地の守護神で、人々を見守るどちらかといえば善性のものだ。それが呪霊化すると唯の呪霊とは桁違いの厄介さを誇る。

 

 恐らくこの村は少子高齢化で人がどんどんいなくなったんだろう。それで残された人間が縋ったのか、神様側から干渉したのかは知らないが、人を呼び込むためにこうして栄えた村のフリをする。

 

 窓が騙されるのも無理はない。優れた術師の才がなければ、ここには呪霊に困った人々が住んでいるのだと思い込んでしまう。

 私たちは村に住む人のフリをした何かを祓除し続ける。そうすれば本体が怒り狂って出てくるはずだ。

 

「ア゛ア゛ァァ!! 我ノ、民ヲォォォ!!」

 

 こんな風にね。

 人を繋げて祠を形作ったようなおぞましい呪霊が、村へと仇なす私たちを殺そうと呪力を漲らせる。

 

「『鬼子母神』、この2人のことをちゃんと守っててね」

 

 鬼子母神──慈悲深い母のような顔の反対側に鬼のような形相を持つ2面性のある呪霊。

 平時はそこまで強くないが、守るべきものに手を出されると頭がぐるりと回転し、攻撃を加えようとした敵に執拗に攻撃し、守護対象を死んでも守ろうとする。呪力もかなり上がる。

 守護対象を七海と灰原に設定。これで何かあってもある程度はコイツが庇ってくれるだろう。

 

「2人とも、まだいける?」

「勿論ですよ!」

「まだ余力は残しています」

「いいね。じゃあ七海は術式で本体を狙って、灰原は七海の補助。ここは相手の生得領域内だから、何処から攻撃が来るか分からない。その辺は気をつけて」

「虚枝さんは?」

「とにかくうずまきをぶつける!」

「……脳筋…………」

 

 七海が私のことをアホを見るような目で見ている気がする。

 

「それじゃあ行くよ。2人は命が最優先だからね、何かあったら絶対にこの場から離れること」

 

 2人はコクリと頷いて、呪霊に向けて走る。私も別の方向からうずまきの準備をしつつ、告死鳥に乗って向かう。

 

 畑から野菜が抜けて、こちらへと飛んできた。

 それにも呪力が纏わりついていて、まあ当たるとろくでもないことになるのは確かだ。告死鳥に叩き落としてもらう。

 

 七海たちは上手いことヒットアンドアウェイで着実にダメージを与えている。逃げる時の追撃を灰原が上手いこと逸らし、対処し切れないのは鬼子母神が牛刀で切り払う。

 戦況は悪くない。2人ともちゃんと対応出来ている。

 

 私は祠の扉目掛けてうずまきを撃つ。扉がバキリと音を立て、砕け散った。

 ──中から、無数の人間のような何かが溢れ出てきた。

 

「この村は、この村は終わらないのです」

「おお、どうか……許してくだされ……」

「こんな辺鄙な村絶対出ていくんだもん!」

 

 恐らく呪霊が取り込んだ人たちを元にして作られたものだ。流暢に言葉を話し、女子どもだっているなら誰だって多少は躊躇する。呪術師はしない方が多い気もするが。

 

 さらにその数も膨大だ。明らかに村の規模とは合っていない人数がひしめき合っている。

 最初は村の住人や昔そこに居た者を狙っていたが、その親族、そのまた親族と範囲を広げていったのかな?

 

 数の暴力に対抗できるのは圧倒的な個か、同じく数の暴力だ。

 私の呪霊操術は数の暴力筆頭。腐っても特級と言われるだけはある。際限なく湧き出す奴らと同じように呪霊を出す。

 勿論私の呪力で強化済みの連中だ。そう簡単にはやられないぞ。

 

 少しずつ村の中の人口は減っていき、やがて1つの小さな木の彫刻だけが残る。それをうずまきで吹き飛ばせば、周りの景色が変わっていく。

 

「終わったね」

「死ぬかと思いました……というか虚枝さんがいなければ……」

「まあまあ七海、僕たちは生きて帰れた、それで十分だろう!」

「楽観的すぎる……」

 

 来た時と同じ、荒廃した村の跡地。私はその奥へと進む。人の手がかかっていない伸びきった草をかき分けて、少し開けた場所に辿り着いた。

 古びた小さな祠。その中に、微かに呪力を感じる。

 

「さ、おいで」

 

 弱りきったそれを引き寄せ、丸める。綺麗な真球になった。

 呪霊玉を飲み込んで、任務はおしまい。まずいよー。

 

「口直しになんかご飯食べに行こう! 私の奢りで!」

「いいんですか!? 僕は魚が食べたいです!」

「あの時変なもの食べそうになったのによく食欲があるな……」

 

 遠くから補助監督の車がやってくる。とてもとても焦っている様子。

 どうやら私たちは車から降りたあと行方不明状態だったらしい。というか補助監督が領域に入ってなくて良かった。帰れなくなるところだったな。

 

 お土産もちゃんと買っていこう! 甘いやつと、しょっぱいやつ。どっちも買った。金の力は偉大だ。

 


 

 任務が終わって一休み。私は何故か五条と2人でスイーツバイキングに来ていた。

 いや、夏油が任務、硝子は甘いものが嫌いでパスしたからなんだけど。

 

「よく食べるね」

「これぐらい普通だろ」

 

 五条は幾つも机に皿を並べ、そのどれにも溢れんばかりにケーキが敷き詰められている。載せすぎだろ。

 私は皿に載ったショートケーキをフォークで1口分に切り分け、口に運ぶ。甘くて美味い。

 

「てかさ、なんで私誘ったの? 夏油が任務終わるまで待てばよかったじゃん」

「……オマエ、それマジで言ってんの?」

「え?」

 

 目にも止まらぬ早さで動いていた五条のフォークがピタリと止まる。

 五条のサングラスの奥の六眼がこちらを見つめていることに気づき、私はたじろいだ。

 

「な、何……」

「俺はさ、お前のこともダチだと思ってるけど。お前は違うの?」

「ダ、チ……達……友達!?」

「うん」

 

 私は驚いてフォークが手から滑り落ちそうになった。慌てて反対側の手で受け止める。

 

「いや、その……そこまでとは、思ってなくて……良くて知り合い以上友達未満かなって」

「オマエさあ……」

 

 呆れたような五条のため息が聞こえる。なんだか後ろめたくなって、俯いた。

 

「隙あり」

 

 その瞬間、五条が長い腕を伸ばして、私のショートケーキの上に乗った苺を奪い去った。

 

「は?」

 

 赤い宝玉は既に五条の口の中。私は──キレた。

 

「おま、おま、おまえっ!!! 苺欲しいんなら自分で取れよ!!」

「いやー、甘いもの食べたらサッパリしたくなるじゃん? 丁度いいところに苺があったから」

「私の苺なんだけど!? 返せよ!」

「オエー」

「そうじゃねえ!!」

 

 ガシャンと机を叩いて立ち上がり、五条へ迫る。周りが音に反応してこちらを一斉に見つめる。気まずくなって、そっと席に座り直した。

 

「はあ……」

「こんな風にしててさあ、友達じゃないなんて思うなよ」

「う……ありがと……苺の恨みは忘れないので後で夏油に報告します……」

「ずりぃ! やめろよ!」

「いやでーす。……あのさ」

 

 私は佇まいを正して、五条と目を合わせる。

 

「五条は、私が死んだら悲しんでくれる?」

「……急になんだよ」

 

 一番の目玉がなくなってしまって、ただのスポンジとクリームになってしまったショートケーキの残骸を頬張る。時折薄くスライスされた苺が入っているのがなんだか物悲しい。

 

「上層部に私が〝おまけの特級〟って言われてんのは知ってるでしょ? 正直、そうなんだけどさ。どうしても気にしちゃって」

「ああ、あれね。傑もキレてたわ。気にすんなよな。オマエは別に弱くはねぇ……というか十分強ぇだろ」

「でも、いつかアンタらが余裕で勝てる相手に負けちゃうかも知れないじゃん? その時はさ、私の死を悼んで、忘れないでいてくれる?」

 

 五条は口を噤んだ。

 暫くして、頭を掻きむしったあと、ちょっとだけ恥ずかしそうに言った。

 

「仕方ねぇから悲しんでやるし、忘れないでいてやるよ」

「そっか……それは良かった」

「俺らがいるんだからそんな状況にはさせねぇけどな! 覚えとけよ!」

「はいはい」

 

 しんみりとした空気は散り、私たちは別の話へと切り替えた。2人の間だとどうしても夏油の話題が出てしまう。

 今も任務の間を縫って2人は勝負してるらしい。呪力なしなら夏油、ありなら五条が勝ち越してるようだ。

 

「そういや、傑の修行ってオマエが協力したらしいな」

「同じ術式なら色々と研究し合えるところもあるからね。アイツは領域展開出来るようになったのに、私は出来ないまんまだけど」

「才能ないんじゃね?」

「うるせえよ……五条だって出来ないんでしょ?」

「え? 言ってないっけ? 俺もう出来るけど?」

「先に言えや……」

 

 私の腹の底から出た声に五条は吹き出す。本当にクソガキだ。夏油、ちゃんとコイツを教育してるんだろうな?

 夏油と戦ってて、いつの間にか出来るようになっていたらしい。才能が憎い。憎すぎる。

 

「はー……何なの本当に……」

「……なーんか変なんだよな」

「何が?」

「いや、何でオマエが領域展開出来ないのかって話」

「才能でしょ?」

「それもあるけど、他にもあんじゃねーのってこと」

 

 五条はフォークをゆらゆら揺らす。いつの間にか机の皿の大半は綺麗に平げられていた。

 五条はサングラスを外して、隔たりなしの六眼で私を見る。

 自分が丸裸にされているようで少し気分が悪い。犯罪者に対する尋問のような、探偵の推理中にチラチラ見られているような、そんな感じ。

 

「なんて言ったらいいんだ? 魂と肉体が少しだけズレてるっつーか……どっか欠けてる? ……とにかく変なんだよ、オマエ」

「そんなの初めて聞いたわ」

「本当にちゃんと観察しねぇと分かんねえぐらい微かな歪みだからな」

「ふーん」

 

 心当たりはある。そもそも私って魂は別世界のだし。

 でもだからってどうしようも無いのが辛いところ。元の肉体持ってくる訳にもいかないし。

 

「あと……」

「ん?」

「いや、なんでもねぇ。見間違いか」

「あっそう」

 

 チョコレートケーキを食べきり、新たな甘味を求めて私は席を立つ。

 五条も全ての皿が空っぽになり、私と同時に立ち上がった。

 

「ちょっと、サングラス──」

「ねえ、あそこのお兄さんかっこよくない?」

「うわ本当だ! しかも足長っ!」

「目、めっちゃ綺麗な青色だね。日本人なのかな、それともハーフ?」

 

 他の席にいた女性たちが、サングラスを外した五条の顔面にやられて騒ぎ始める。顔が良いって罪だな。

 私は五条とはなるべく離れた位置でスイーツをとる。ひと皿分しかないので五条より早く席に戻ってこれた。

 冷めた紅茶を啜って、さっきの五条の言葉について考える。

 

 私は何かを見逃している? 与えられた術式だけじゃなく、自分自身の魂ともっと向き合うべきなのか?

 タルト生地をフォークで切る。皿にフォークの先端が当たり、カツンと音がした。

 

「ま、いっか」

「んー、何が?」

 

 いつの間にか五条が帰ってきていた。器用に何枚も皿を運んでいる。面白いので写真撮って皆に送ってやろう。

 

「別に何でもない」

 

 もう私はこの世界線で終わらせる気なんだから、深く考えてもしょうがないのだ。

 五条のショートケーキの苺を奪おうと手を伸ばすが、あっさり防がれた。畜生。

 

 




■虚枝 刹那&灰原 雄&七海 建人
この後めちゃくちゃご飯食べた。

■虚枝 刹那&五条 悟
この後めちゃめちゃ苺の取り合いした。

那由多の明日はどっちだ

  • しめりけ
  • だいばくはつ
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