【完結】何度やっても君が死ぬ   作:ほほほのほ

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1章の後の世界。


*いつかどこかの話①

 あれから、誰もが平然とした態度を表面上は取り繕っている。

 夜蛾はこういうことはよくあることだと言った。

 だからといってすぐに割り切れるほど彼らも大人ではない。だが、嫌だ嫌だと駄々をこねる程子どもでもなかった。

 

 あの春から早々に時は過ぎ、3人は5年生になった。

 モラトリアム期間として与えられた自由な1年であるが、なんだかんだでどいつもこいつも高専に入り浸るばかりである。

 

 陰鬱とした気持ちを振り払うように、夏油と五条は今日も修練所でひたすらにしのぎを削る。家入は2人が──主に反転術式が使えない夏油が怪我をしたときの治療役として離れたところで座っていた。

 

 ボーッと煙草を咥えている家入。その煙草はもう最初の半分程に短くなって、味も悪くなっているのに新しいものを出さずに、ただ漫然と煙を吐き出していた。

 先から灰が地面に落ちようとしていたとき、誰かがそっと灰皿を差し出して受け止めた。

 

「七海か」

「灰は灰皿に、ですよ」

 

 真面目な後輩らしい一言だった。珍しく、灰原とは一緒にいないようだ。

 七海は家入の隣に腰掛ける。そして、爆風が巻き起こる戦闘風景を見ていた。

 

「家入さん」

 

 暫くして、重苦しい雰囲気を漂わせながら七海は口を開く。随分と言い難いことのようで、先程から何度も口を開いたり閉じたりしていた。

 家入はチラ、と後輩に視線を向け、言葉の続きを促す。

 

「高専を卒業したら、呪術師をやめようと思います」

「そうか」

「虚枝さんの死について、あなたたちは何も言わなかった。ですが、私はどうしても気になって調べてみたんです」

「……」

「この世に何故『知らぬが仏』という言葉があるのかよく分かりましたよ」

 

 家入は何も言わない。七海は「呪術師はクソです」と吐き捨てる。

 騒々しい爆心地から離れた場所は、恐ろしい程静寂に包まれていた。

 

『蒼』、『赫』、『茈』。そしてそれに対抗できうるだけの呪霊を練り合わせた『うずまき』が幾度も互いに衝突し、その余波で周りの木々が吹き飛ばされていく。近年騒がれている環境保護の真反対をいく光景であった。

 ここにもし自然を愛する特級呪霊でもいたならば、すぐさま呪いの本能が原因の2人に対し牙を向くだろう。

 

 もう1時間ほどは経っただろうか。やはり六眼により呪力のロスが殆どない五条の方が優勢である。夏油もそれに食らいつくように必死に呪力を練る。

 

 ──疲れによるものか、双方ともに精彩を欠いていた。

 

 五条の茈の制御は完璧だった。その威力以外は。

 勝つために事を急いたのか、仮想の質量は持ち主をも巻き込んで、破裂する。

 

「あのバカ。やりすぎだ」

 

 やべ、と小さく漏れた五条の焦り声が爆発音に飲み込まれて消えた。

 五条はともかく、夏油がマズイ。家入は現場へ急ぐ。七海は人外どもの戯れを、苦虫を噛み潰した顔で眺めていた。

 

 夏油は茈が自分にぶつかる直前に呪力を身体中に纏わせるが、それで凌げるような威力ではない。

 三途の川の向こう側で、級友が手を振っている気がした。いや、違う。全力で追い返そうとしている。

 夏油は刹那の流れるようなアッパーを食らい、容赦なく弾き飛ばされた。

 

 ──死の間際という極限状態。力への渇望。手を伸ばした先で、何かを掴んだ気がした。

 ぐるり。呪力の指向が反転する。

 

 

「何してんの、マジで」

 

 家入は反転を回し治療を始めている五条の背を蹴りつけた。五条はそれを甘んじて受ける。

 ボロ雑巾のようになった夏油を治療しようと呪力を練り始めたときに、家入は異変に気付く。

 ──治り始めている?

 傷口から溢れていた血が止まり、夏油はその目を開く。ガバリと勢いよく起き上がって、喜々として呪力を全身に流す。

 

「掴んだんだ……! 〝呪力の核心〟を!」

 

 幸か不幸か、今際の際の更に際々で夏油は反転術式を会得したのであった。

 馬鹿らしくなったので家入と七海はすぐにその場を立ち去る。残されたクズ2人は草木の一本も生えない不毛な大地となった修練所でごろりと転がった。

 

「傑」

「なんだい」

「俺たちさあ……最強だよな」

「ああ、私たちは最強なんだ」

 

 隣で寝転がりながら、五条と夏油は空を見る。生憎の曇り空であった。

 

「……でも、俺たちだけが強くてもダメらしいよ」

「……ああ」

 

 2人の脳裏に黒目黒髪の死んだ目つきがアイデンティティだった同期の姿がちらつく。

 あれから刹那の話はしなかった。しようとも思えなかった。

 

「進路さ、悩んでただろ。俺と一緒に教師しねえ?」

「君が先生? 笑えるね」

「うるせ。……弱い奴が少しでも死なないようにしてえんだよ」

「教師になるならまず、その一人称から変えるべきだよ。守るべき生徒を怯えさせてはいけないからね」

 

 また良い子ちゃんぶりやがって、とイラついて五条は反論しようとした。……が、握った拳の力を緩める。

 

「それもそうか。()も人を導く立場になるんなら、少しは大人にならないとね」

「……」

「んだよ、その顔は!」

 

 物腰が柔らかくなった五条の姿が妙に面白くて、夏油はニヤけてしまう。怒りか、それとも照れなのか、顔が真っ赤になった五条の吠えるような声が修練場に響いた。

 

「もういいだろこの話は! とりあえず、その第一歩としてついてきて欲しい場所があるから付き合えよ、傑」

「勿論だよ。五条先生」

「馬鹿にしてんだろ!!」

 

 五条が先生らしくなるのはまだ少し時間がかかるかもしれない。

 


 

 

 細長い家屋がひしめき合う住宅地。その入り組んだ細道に、黒いランドセルを背負った男児が歩いていた。

 そこに、背の高い影がかかる。

 

「伏黒恵君、だよね?」

 

 物珍しい白髪の大男。どう見ても不審者らしき男を、伏黒恵は睨み上げた。

 顰めっ面があまりにも父親とそっくりで、白髪の男──五条は苦い顔をする。しかし、すぐに取り繕って、幼い恵に対し父親やその家系の醜悪な事情を話そうとする。が、もう1人の男にベチンと頭をはたかれた。

 

「悟。わざわざそんな話をする必要はないだろう」

 

 また変なのが増えた。口には出さないものの恵の嫌疑心が一段階上がる。

 夏油は膝を曲げて、恵と視線を合わせた。

 

「君には特別な力があるのは自覚しているだろう? 私たちはそういう人たちを保護しているんだ。君のお母さんと少し話をさせてくれないか?」

「母親は随分前に死んだ。もう1人、血の繋がってない姉がいるけどそいつの母親も少し前から帰ってない」

「ふむ……」

 

 チラ、と夏油は五条の方を見る。五条は叩かれた頭を撫で上げて、夏油と同じく身をかがめてから恵に指を2本立てた手を突きつける。

 

「君には選択肢が2つある。1つ、君のお父さんの実家に行く。そしてもう1つ、僕らに保護される。ちなみに僕のオススメは後者ね」

 

 どちらの選択肢もあまり大差がないのではないか。恵は不審者どもを睥睨するが、どちらにしろ小学生2人が何の支えもなく生きていくなど不可能だと知っている。

 2人で暮らしている部屋の窓から、彼の姉がこちらを覗いていた。

 恵は目の前の男に問う。

 

「津美紀が幸せになれるのはどっちだ?」

「当然僕たちの方だよ。100%間違いない、それは断言出来る。なんたって君のお父さんの家は男尊女卑、術式至上主義だからね。さあ、どうする?」

 

 言っている意味はよく分からなかったが、聡明な恵はこの男が嘘をついているわけではないと本能的に理解して、小さく頷いた。

 

「オッケー! 後は任せなさい」

「私たちのところには君たちと同い年ぐらいの女の子もいるからね。仲良くなれるはずだよ」

 

 二人の男から頭を撫で振り回されて、恵のただでさえ癖の強い髪が乱されまくっていた。

 


 

「やだああぁぁ!!」

「傑にいさま……」

「……」

 

 泣き喚く菜々子、夏油の後ろに隠れて縋る美々子。そして姉を守るように前に出て警戒する恵、困ったような顔をした津美紀。

 

 ──思っていたようにはいかないな。

 夏油はこの惨状にほとほと困り果てていた。

 

 五条の干渉でなんとか伏黒恵と津美紀の養育権は勝ち取られ、早速夏油の家で引き取った美々子と菜々子に会わせることになった。

 しかし、非術師を毛嫌いしている美々子と菜々子が津美紀を拒絶し、それによって恵が怒りを露わにしたことで一触即発の険悪ムードに陥ってしまった。

 

 美々子と菜々子を養子にしたいと言った時には親に『犬猫じゃないんだから』とか『その子たちの親はどうしたの』とか大人の正論パンチを喰らい、ひたすら事情を吐かされて、結局親が養子縁組をしてくれたなあ、なんて過去の記憶を思い出して現実逃避に走る。

 

 夏油も子どもたちよりも遥かに歳上とはいえ未だ歳若い身。どうにもできないときもあるのだ。

 

「美々子、菜々子。術師じゃないからと言って全部が全部腐っているわけじゃないんだよ」

「でも、でも……!」

「村の、人達は……」

「私の親は嫌な人だったかい?」

 

 双子はふるふると首を横に振る。宥めるように夏油が2人の頭を撫でると、少しだけ落ち着いたようだ。

 

「あの」

「津美紀!?」

 

 ふと、恵を押しのけた津美紀がゆっくりと二人に近付いて、ポケットから出した飴玉を差し出した。

 

「食べる……?」

「「あ……」」

 

 美々子と菜々子は同時に息を漏らす。

 

『……食べる?』

 

 かつて、自分たちが檻から助け出された後、高専に保護されるまでに一緒にいた女性。無愛想ながらも2人を気遣ってひたすらポケットや鞄から小さなお菓子を差し出してくれた。

 津美紀とその女性が重なった。

 

「私には2人みたいな特別な力はない。けど、あなたたちのことを怖いなんて思わないよ」

 

 嘘つき、偽善者だ、喉まで出かかった言葉。だが、2人の口からそれが飛び出すことはなかった。津美紀の瞳があまりにも真剣で、慈愛を帯びていたから。

 

「……ごめんなさい」

「ごめん、なさい……」

 

 2人は飴玉を受け取って、頭を少し下げた。津美紀はニコリと笑って、2人の手を引いた。

 

「大丈夫! 一緒に遊びましょう」

 

 3人の間に雰囲気が柔らかいものになり、和気藹々とし始める。1人、置いてけぼりにされた恵が居心地の悪そうな顔をする。

 

「……君のお姉さん、すごいね」

「アイツは馬鹿なだけだ」

 

 夏油は素直じゃない子どもの頭を初対面の時のようにぐしゃぐしゃと乱し、その背中を押す。

 

 一日が終わり、解散する頃には4人は最初とは見違えるほど仲良くなっていた。




■五条&夏油
俺たち最強は継続中。
でも強いだけじゃだめだよね。

■家入 硝子
ひたすら治療。とにかく治療。
目の隈が取れなくなってきた。

■七海 建人
真実に辿り着いてしまった男。
灰原に伝えたら「戻りたくなったらいつでも言ってね!」といつもの調子で言われたので毒気を抜かれた。

■恵&津美紀
多分原作とあんまり変わんない。

■美々子&菜々子
真面目に呪術について学んでいる。
非術師はやっぱり嫌いだけどいい人もたまーにいるよね。たまーに!

那由多の明日はどっちだ

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