【完結】何度やっても君が死ぬ   作:ほほほのほ

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※前回とは違う時間軸
ダメな方向に進んじゃったら みたいなIFです





*掻い付く痴人

 

 死ぬ、やり直す。死ぬ、やり直す。

 終わりのないリセットゲーム。その果てにあるはずの救いに私は辿り着けるのか?

 何度も、何度も繰り返す。いつしか、理想の術式じゃなければ、死んで最初からやり直した方が早い、なんて思い始めた。

 

 私の足元には、たくさんの死体が積み重なっている。

 袈裟を着た夏油の死体。学生服の夏油の死体。

 いつしか私も混じっていた。夏油に比べると、年齢層が幅広い。

 

 生まれてすぐ母親に忌み嫌われ縊り殺された私。力及ばず呪霊に殺された私。術式が外れだったから腹を自分で割いた私。四肢を欠損したから諦めて飛び降りた私。私。

 その大きさもまばらな手が、私の背中を押す。次こそは、次こそは夏油を助けてあげてって。

 

 もっと、別の方法を探すべき? いや、私が呪詛師になっても夏油は死ぬ。殺される。駄目だ。もっと、もっと、もっともっとイカれた発想じゃないと──

 

『夏油、あんた呪術師やめれば?』

 

 いつかのループで、私が夏油にかけた言葉を思い出す。

 彼は苦笑いしながら『何言ってるんだ。私は力を持っている以上、非術師たちを守る責任がある』なんて言ったっけ。

 夏油が呪術師にならないようにしてしまえばいいのかな。

 

 結論から言うと、失敗。

 私が自我を得るのは幼いとき、親の庇護下。勝手には動けない。

 ある程度自由に動けるようになったときにはもう既に、彼は高専からのスカウトを受けている。駄目だ。

 

 私の背中を、私が押している。崖っぷちに立った私の背中を、私たちが押している。

 つま先が、崖からはみ出る。あと半歩踏み出せば、落ちてしまう。

 

 何回目かの回帰。

 私は高専の廊下で1人、腰を下ろしていた。その手には綺麗にラッピングされた袋。

 こんなの、馬鹿げている。狂っている。

 だって、私は、夏油傑が幸せに生きている姿が見たかったのに。こんな方法は間違っている。

 

 ──でも、もう。これしか残ってないんじゃない?

 

 耳元で私が囁いた。怖くなって耳を塞ぐ。せっかく綺麗に包んだ袋がスカートへ落ちた。私が崖から落ちるまで、あと何センチ?

 

 ひとつ、賭けをしよう。

 もし、今日ここを誰も通らなかったり、夏油以外の──五条とか、先生とか、硝子が来たら。おしまい。今までやってきた準備はなかったことにして、またやり直そう。

 

 もし。もしも。夏油がここを通ったら。

 私は1歩、踏み出そう。背中を押す無数の手に、答えよう。

 

 廊下から差す日の光が、段々と温かみのある色へ変わっていく。ここは少し季節も相まって肌寒い。オレンジ色の夕日とは正反対に、私の肌はくすんでいるように見えた。

 

 ──コツ、コツ。

 廊下の向こう側から、誰かの足音が聞こえた。私はギュッとスカートを握る。心臓が高鳴る。冷や汗が滲む。

 お願いします。お願いします。

 ──私は、誰が来てほしかったんだろう。

 

「......刹那? こんなところで何してるんだい?」

 

 夜蛾先生じゃない。彼はもっと低い声だ。

 五条じゃない。彼はもっと憎たらしい声音をしている。

 会いたかったような、会いたくなかったような。

 私の目の前には、不思議そうにこちらを見る夏油傑の姿があった。

 

「......ぁ」

 

 暫く黙っていたからか、声が出なかった。出したくなかったのかもしれない。

 小さく咳払いをして、もう一度口を開く。

 

「夏油......今日が何の日か知ってる?」

「......2月14日だろう? ......待ってくれ、その手の中にあるのは......!」

 

 夏油は私の手の中のものに気づいて後ずさりをする。

 

「悟には渡したのかい?」

「......渡してないって言ったら?」

「正直グループが崩壊しそうで受け取りたくない」

「クズめ」

 

 思わず鼻で笑ってしまった。

 コイツ、五条に比べて一見真面目そうだが、親友と言うだけあって負けず劣らずのクズである。

 

「安心しなよ、五条にも夜蛾先生にも渡す予定だから」

「じゃあ貰おうかな」

 

 コイツ、私が本命だって言ったらマジで受け取らなさそうだな。

 私は腹いせに夏油の顔面目掛けて袋を投げる。夏油は持ち前の運動神経であっさりと受け止めた。畜生。

 

「ねえ、味見してないからさ。ちょっと食べてくれない?」

「そんなものを人に渡すのはどうかと思うけど」

「うるせー」

 

 夏油は袋を開ける。中から出てきたのはトリュフチョコ。

 一瞬、彼は顔を顰めた。

 

「......」

 

 あ、嫌がらせかどうか悩んでる。呪霊玉に似てるもんな。

 呪霊玉よりも1,2回り小さなそれを指先で掴んで、夏油はそれを口へ入れた。

 

「......うん、悪くないと思うよ」

「上から〜」

 

 声は、震えてないだろうか。いつもと同じ顔でいられているだろうか。

 もう1つ入っていたチョコもあっさりと食べきって、夏油は外装を小さく折り畳んだ。

 

「ありがとう。お返しには期待しないでくれ」

「は? 30倍返しが基本でしょ」

「どこの国の基本なんだ......」

 

 それから暫く世間話をした。くだらない、本当にとりとめのないことだ。五条のイタズラがどうとか、夜蛾先生の胃腸とか、硝子の健康とか。

 

「で、悟がそのと──」

 

 話の途中で、夏油の声が途切れた。

 ──パタリ。

 夏油は糸が切れたように崩れ落ちる。

 それを米俵のように抱き上げて、私は高専から抜け出した。

 

「おい、傑と刹那が失踪したってどういうことだよ!?」

「あの2人に限って、まさか駆け落ちなんて言うわけないよね?」

「いや、それがだな......」

 

 ──夏油傑特級術師及び◼◼刹那準1級術師が失踪。

 監視カメラの映像などにより夏油傑は昏倒した状態で連れ去られていることが確認される。

 ◼◼刹那は逃走中目撃者の術師及び非術師を殺害。

 呪術規定9条に基づき◼◼刹那を呪詛師として認定、処刑対象とする。

 

 ────

 

「う......」

 

 夏油は目を覚ました。随分と長い間寝ていたらしい。瞼が妙に重い。喉もやや掠れている。

 身動ぎをしようとして、自らの現状に気付いた。

 四肢が、拘束されている。

 

「何だ......!」

 

 固く結び付けられた縄を外そうと藻掻くが、身体に上手く力が入らない。

 ならば、と呪霊を呼び出そうとするも、呪力が乱されるような感覚があり、術式を行使できない。

 一体何があったのか。意識を失う前の記憶を思い出そうとしている夏油に声をかける者がいた。

 

「夏油、諦めなよ。その縄は特別製だから外れないよ」

「刹那......!?」

 

 彼の級友、◼◼刹那。犯行が彼女ということも夏油にとっては驚きだが、それ以上に。

 彼女の容姿に動揺してしまった。

 

 黒々とした瞳は片や眼孔だけになっており、長かった髪が耳の辺りまで短くなっている。それだけならまだいい。

 最も目を引いたのは、腕。片腕が失われている。

 そしてもう一方の手は、全て爪が剥がれており、赤色が痛々しい。

 友人の惨状に夏油は拘束されているということも忘れて心配の声を掛けた。

 

「その姿......刹那、何があったんだい?」

「私の術式は知ってるでしょ」

「構築術式だろう?」

「その通り。構築術式ってすごく燃費が悪くて、私みたいに呪力が十分にあっても中々使いづらいんだよね」

 

 夏油は知る由もないが、未来の特級術師である現代の異能──乙骨憂太に並ぶほどの呪力量を今回の刹那は持っていた。

 しかしその呪力量を持ってしても準1級止まりであることから、構築術式がどれだけ扱いが難しいものかがよく分かる。

 

「でも、私は貴方を拘束するためにどうしてもこの縄が欲しかった。そのためには代償がいる。片目、片腕、両手両足の爪、髪、肝臓の大部分、片方の腎臓。それらを捧げて、私は術式を乱す『黒縄』を作った」

 

 これは半分嘘だ。構築術式で術式効果の付与された呪具を構築するには『絶命の縛り』がほぼ必須となる。

 しかし、刹那は次の回帰の自分の命を捧げることで今の自分の命を保ちながらも黒縄を生み出した。次の自分がどうなるのかは彼女自身も知り得ない。

 ただし未来の自分に全てを押し付けることは叶わず、代償として自らの身体の幾つかも持っていかれた(・・・・・・・)

 

「なぜ、こんなことを......」

「知りたいの?」

 

 残った1つの瞳。真っ黒な瞳は隣の穴と区別がつかないほど、光を通さない。全てを呑み込むようだった。

 その奥に狂気じみた執着心が見え、夏油は少し身震いする。

 

「君は一体何がしたいんだ......」

「あなたに生きて欲しいだけ」

「君が私のことをそこまで好いていたとは意外だよ」

「......何それ」

 

 冗談めかした夏油の態度に、刹那も頬を緩ませる。鬼気迫るような雰囲気も和らいだ。

 だがすぐに瞳孔が開き、刹那はとんでもない事を口走った。

 

「私があなたを好いてる好いてないは最早関係ない。あなたは死ぬ。このまま高専にいれば確実に。だから、私が連れ出したの」

「はぁ......?」

 

 まるで見てきたかのように話す少女の姿に、夏油は呆けてしまう。

 

「未来が見えるとでも言うのかい?」

「違う、実際に体験してきたこと。『夏油傑は呪詛師になり、五条悟に殺される』。それはあなたが高専にいる限り、確実なこと」

「......!?」

「お願い......夏油............」

 

 刹那の頬に、ひと筋の涙が伝う。それを皮切りに次々と涙が溢れだし、嗚咽を漏らした。

 夏油は、目の前の友人が泣いているのを初めて見た。

 割かしさっぱりとしていて、補助監督や術師が死んでもあっけらかんとしていた彼女の痛ましい姿に、夏油は動揺していた。

 

「何でもするから、ここにいて」

 

 力無く必死に縋り付いてくる刹那。その手は震えている。

 夏油は何も言えず、ただその涙が途切れるのを待っていた。

 

 

「ねえ、夏油。今日のご飯は何がいい?」

「ざるそばかな」

「また? 好きだね」

 寂れたマンションの一室で、2人は今も暮らしている。

 いつ崩壊するか分からない綱渡りのような状況。

 それでも2人は呼吸を行い、食事を取り、仲良く会話する。

 刹那は生きている(・・・・・)夏油の姿を見て、満足そうに笑った。




・夏油がなんとか逃げ出す
・ガチギレ五条に見つかってしばき回される
・羂索に見つかって利用される
・普通に2人で暮らし続ける
この後どれになるかは想像にお任せします。

■ ◼◼刹那
壊れちゃった。夏油と自分の死に直面しすぎてSAN値ゼロ。
誰にも見つからなければこの方法でもクリア条件は達成されます。

■ 夏油傑
絆されているのか、それともそういうフリをしているだけなのか。
別に刹那と男女間の感情はない。ただの友達。

■ 五条悟
見つけたらシバキ回してどういう意図か吐かせてやると意気込んでいる。
部屋に置いてあったチョコは美味しくいただいた。

■ 家入硝子
暴走する五条を見ながら殺される前に早く帰ってこいよーと思っている。
2人がいなくなった分怪我人も増えて忙しい。

■ 羂索
都合のいい人間が消えてたはー困っちゃうよね状態。
一応探してはみるけど見つからなかったらサブプランに切り替えようとしているのでダメージは全然受けてない。

あとお気に入り、感想、評価貰えてめちゃくちゃ嬉しいぜ!ありがとう!

那由多の明日はどっちだ

  • しめりけ
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