【完結】何度やっても君が死ぬ   作:ほほほのほ

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12,死中に活を求めよ

 本人の意図しない夏油セラピーの甲斐もあり、私は正気に戻った! ホントだよ。嘘じゃないよ。

 いつまでも悲観的な考えに囚われていないで、これからについて考えていこう。

 

 まず、『報酬』などと称して私に与えられた新たな力。

 1つ目、今身をもって実感しているが──『天与呪縛』。

 本来はポイントを消費するものだが、今回はお試しということなのか、勝手に消費されることもなくフィジカルギフテッドになっていた。びっくらポンだぜ。

 相応のデメリットがあるものの普通にステータスを盛るより遥かにポイント効率が良いのが特徴。但しフィジカルギフテッドを除く。

 

 2つ目、『転生時期と記憶を取り戻す時期の自由化』。

 私は1989年の春に生まれ、術式を知覚する4歳〜6歳に今までの記憶を取り戻す。今までならそれが確定事項だった。

 それが私の好きに選べるようになったということだ。但し、私の目的はあくまで夏油。虎杖たちと仲良く学生やったりするわけにはいかないよ。

 

 3つ目。これがかなりの問題児なのだ。ポイント交換枠に爛々と輝く項目──『巻き戻し』。

 今まで経験してきた時間軸の好きな時期に、〝1度だけ〟戻ることが出来る。

 まさに因果のぶち壊し。機械仕掛けの神様みたいで素敵な力だと思います。皮肉だぞ。聞こえてんのか。

 その凶悪な性能からか、必要なポイントは文字通り桁が違う。本当に交換するなら一体何百人の私が犠牲になることやら。人の命をなんだと思ってるんだ。いい加減怒るよ。

 

 ……というかよくよく思い返してみると、神っぽい何かだけじゃくてなんか羂索にもムカついてきたわ。なんだよアイツ。わざわざ人が身体乗っ取らせてやったのに無駄になったじゃん。

 

 あの野郎、鉄の棒炙ってる最中はカメラ止めてたんだけど、その間私にのうのうと話しかけてきやがった。なんて言ったと思う!?

『君、演技上手いね〜』だよ!? 演技じゃねえよ、マジのマジで痛がってんだよこっちは。

 かなりイライラしてきた。腸が煮えくり返るとはまさにこのこと。ベッドのサイドテーブルを力任せに叩いたら嫌な音がした。

 

「やば……」

 

 さっきまで煮えたぎっていた心が氷河期のように凍りつく。これ、なんて言おう……。悟に頼んだら普通に弁償してくれるかな。してくれるよね、兄貴分だから。

 

 私はベッドから降りて、テーブルの様子を探る。実はちょっと金具がズレただけだったりしない?

 駄目だ。完全に足がポッキリ折れちゃってる。フィジカルギフテッドの膂力は恐ろしい。気をつけねば。

 

 悟に頼んだら二つ返事で新しいのを買ってくれた。御三家当主パワーだ。

 しかし、私がテーブルを破壊したことは夜蛾先生にあっさりバレ、怪我人だろうと容赦なく頭に拳が振り下ろされた。確かに治りかけだったけど、酷い!

 

 

 ついに怪我が完治したので私は自分の部屋へと行くことが出来る……と思ったら、硝子と同室だった。

 

 私はもう大丈夫、一人部屋でいいよと何度言っても悟は絶対1人部屋は駄目だと主張して食い下がった。全く、手のかかる兄貴分だぜ。

 

 部屋の扉を開けると、もう私の私物は運び込まれていて、十分生活できるようになっている。私物といっても雀の涙ぐらいの量しかないが。

 

 部屋にはベッドが2つ並んでいて少し狭苦しい。硝子に申し訳なくなってきた。その硝子も今は怪我人の治療に奔走しているようなので、私は自分のベッドへと飛び込んだ。

 布団も好きだけど、私はベッド派だ。少し高さのある方がなんか安心する。

 

 お日様の香りがする掛け布団にくるまって、また考える。主に、前回最後の神の言葉について。

 

『第1条件達成おめでとう。少しだけ報酬をあげましょう。次はもう少し頑張ってみてね、〝あなたの望み〟が叶うまで』

 

 第1条件。つまり、複数の条件──最低でももう1つあるわけだ。聞いてねえぞ。

 性格が悪すぎる。私は今でもアレが本当に神なのかと疑っているが、世界で最も売れてる本に出てくる方も割と敬虔な信者に試練を与えがちなので、実は神ってそういう生態なのかもしれない。

 

 さて、私はアレと初めて会った時何と言っただろうか? 脳の底に沈められた記憶を少しずつ手繰っていく。

 

『最近読み始めた漫画のキャラクターの生存ifが見たい』

 

 ああ、反吐が出そうなほど馬鹿馬鹿しい願いだ。もっと地に足ついたこと言えばよかったのに。

 来年の高校受験合格とか。今日の晩御飯はお母さんの作ったオムレツがいいとか。

 

 私が推測するに、条件は恐らく2つ。

 ──『夏油傑の生存』と『それを私が観測すること』だろう。

 

 つまり、私と夏油の2人とも生存する必要があるってことだ。じゃあやっぱり羂索は倒さなきゃいけない。

 そんなの出来るかぁ! と投げ出したくなってきたけれど、しなくちゃいけないならやるしかない。

 さながら営業が取ってきたクソ案件の後始末をする現場の気分だ。社会出たことないからあんまよくわかんないけど。

 

 あれの厄介なところはやはり卓越した結界術の技量。

 羂索の閉じない領域内では、九十九さんほどの実力者が使う簡易領域でもみるみるうちに剥がされていた。本物の領域展開で押し合いをしなければ話にならないだろう。

 

 そしてただの領域展開だと、外側からの攻撃に弱く、閉じない領域による術式効果で外殻があっさり破壊されて終わりだろう。

 対抗するならこっちも閉じない領域を展開できるようにしないと。領域の要件をコロコロ変えれば普通の領域でも行けるだろって?アレは化け物同士の戦いなので参考にしたくありません。でも結界術の練度で言えば羂索も化け物?うん……。

 

 ま、まあそういう訳だから、結界術に対して造詣を深める必要がある。ポイントはそのために使えばいい。

 と、思うんだけど……私はさっき見た巻き戻りの5文字が頭から離れない。

 

 脳みその冷静な部分はやめとけとプラカードを全力で上げて抗議している。当たり前だ。あの量のポイントを稼ぐのは途方にくれるだろうし、巻き戻ったとして勝てなければ無意味だ。

 

 ──でも、それじゃあ前の私があまりにも報われないじゃないか。

 

 2周前のときはこちらに非があったから、悔しいけど納得はしている。しかし虚枝刹那は最善を尽くした。夏油生存以外に条件があるなんて思わないだろう。その無念をなんとか晴らしたい。

 

 理性と感情が乗った天秤が揺らいでいる。どちらを選べばいい? 脳内でディベートが始まりそうなぐらい、正解がない問題だ。

 

 数時間悩みに悩み続けて、私は結論を出した。これを出したと言えるのかは疑問だが。

 

 ──とりあえず後回しで! 閉じない領域を会得するのが先。出来た後で問題児については考えよう。

 

 ループにあたって必要なのは心の強さ。前回とか、前々回とか上手くいったように見えて実は駄目でした、なんてことがあるとかなり罅が入る。

 閉じない領域って言うのは羂索や宿儺みたいな上澄みも上澄みみたいな連中しか使えない技だ、そう簡単に覚えられるものではないだろう。その過程で恐らく私は苦しみ続ける。

 

 それでも、私は絶対諦めない。散っていった夏油の、そして私の骸が、いつだって背中を押すのだから。先日まで割と折れかかっていたのはスルーしていただきたい。

 

 というわけで、次の目標は決まった。

 

 ──閉じない領域を会得しよう!

 

「はぁ……」

 

 1人の部屋で私は思い切りため息をついた。窓から見える景色は真っ暗で、もうとっくに日は落ちている。硝子はまだ帰ってこない。

 

 目標を立てるのはいいものの、そんな簡単にいくなら私は何度も繰り返していない。

 何百回ものループの中、そもそも普通の領域展開を会得するに至ったのは1回のみ。そしてそれも結界術の才能によるゴリ押しで、割と不格好な領域だったはずだ。あくまで展延用だったからね。

 

 悟が言っていた私の魂と肉体のズレ。そして夢で見た謎の光景。全てはきっと繋がっているように思える。紐解けば、多分領域展開も出来るはず。私の勘とか第六感的なアレが告げている。そこから外殻を無くせるかは置いといて。

 

 まずは魂の輪郭だとか、呪力の核心だとか、そういうものを掴まなければいけないのだろう。

 そして、そのためには──

 

「相撲しようぜ!!」

 

 翌日、私は教室に殴り込みをかけた。

 

「は?」

「どうしたんだい急に」

「怪我治ったんだ、おめでと〜」

 

 教室にいる悟を始めとした3人はまさに三者三葉の態度を取る。

 こいつ何言ってんだみたいな目線を向ける悟。頭の具合を危惧する夏油。完治を祝う硝子。

 

「相撲は冗談。……リハビリしたいの。組手付き合って」

「馬鹿かお前。まだ治ってそんなに経ってねぇんだから安静にしてろよ」

 

 悟の正論パンチ。しかし私は1歩も引かない。

 

「逃げるの? 私に負けるのが怖いんでしょ」

「……昔から俺の後ろで呪霊に怯えてたヤツが何言ってんだ」

「鬼ごっこだと負け越しのくせに」

 

 ピキリ。悟の真っ白な肌に青筋が立つ。

 悟には煽り耐性がなさすぎる。クソガキ故。

 ちょっとばかし焚き付けてやれば、瞬間湯沸かし器のごとくやる気満々になった。

 

「はあ……君たち子どもじゃないんだからさあ……」

「うるさい変な前髪」

「そうだそうだ変な前髪」

「表へ出ようか」

 

 類は友を呼ぶという言葉がある。

 夏油は一見優等生に見えて、悟と仲良くやれるぐらいにはカスだ。そして、ティ〇ァールぐらいすぐに沸く。

 

 前髪を逆立ててこちらへ向かってくる夏油から私と悟は逃げる。硝子が『馬鹿だなーコイツら』と煙草を咥え始めた。あくまでも傍観者に徹するらしい。

 

 夏油から逃げつつ校庭へ向かう。全力で走っている間にも行われる、兄貴分との熾烈な足払い対決。両者、互角!

 広々とした地面に足を踏み入れると、私はすぐに悟の首元と袖を掴んで投げ技を仕掛けた。ここで無下限をあえて発動しないのが悟の案外優しいところ。舐めてかかっているとも言う。

 

 悟は逃げるのではなく、むしろこちらに近付いて、私を投げ返そうと力を込める。

 

「ぐっ……!」

 

 押し負けた! ぐるんとらせん状の軌道を描いて倒れ込んでいく私の身体。されるがままという訳にも行かない。軸足じゃない方を蹴り上げて、顎を狙う。

 あっさり避けられたが、その辺は想定内。互いに距離を取り、睨み合う。

 

 そんなとき、新たな乱入者登場。夏油傑が参戦しました。

 もうそっからは乱戦。殴っては殴られ、蹴っては蹴られ。私を気遣ってか術式どころか呪力すら使ってない。

 

 それでも私が割と押し負けているというのも不思議な話ではある。

 真希ちゃんとは違って私は伏黒甚爾と同じ、生まれながらにして完成されたフィジカルギフテッドのはずだ。なのに、どう考えても伏黒甚爾とは比べ物にならないほど弱い。男女や年齢の差を考慮してもだ。

 

 恐らく、気持ちの問題だろう。

 12年間、悟以外の家のものに蔑まれてきた私は、元来の臆病な性格もあって真の力を奥に押し込めているのだ。反骨心とか、闘争心のようなものが足りない。

 こればっかりは簡単に治るものでもなし、地道にやっていこう。

 そしてそれが解消されれば、魂を観測できるほどの目を手に入れることできる、はず。

 

 そう結論付けた私にぬっと夏油の腕が伸びる。その爪先が首を掠めた。

 ──瞬間、頭が真っ白になる。

 

「──やめろ!」

 

 今までにないほど鋭い蹴りが夏油の腹に放たれる。軽く何mか吹き飛んでいく夏油。

 やばい! やり過ぎた! 慌てて夏油の元へ駆け寄る。

 

「ご、ごめん! つい身体が勝手に」

「いや、大丈夫。咄嗟に呪力でガードしたから」

 

 今の感覚は、何だ。身体が異常に滑らかに動いた。こう動かそうと思考した通りに、そして瞬時に! 全身の細胞が躍動したような高揚感。

 まさか、これがマジのあっち側の世界と言うやつか。

 

 防衛本能。過去のトラウマから身を守るために力が引き出された。そう仮定するならもっと虐めてやればいいんじゃない? 私の脳内に天啓が降りる。

 

「悟! 刀持ってきて!」

「は?」

「いいから!! 早く!!」

 

 この感覚を忘れる前に!

 鬼気迫る表情の私に悟も夏油もドン引き。話にならないので急いで教室へ戻って、硝子のメスを借りる。

 また校庭へ出る。そして悟に無理矢理メスの柄を握らせた。

 

「さあ! やろう!」

「出来るわけねぇだろ!!」

「何故……?」

 

 ああ、いつにも増して世界が輝いて見える。今なら何でもできそうなのに。悟が協力してくれないならその辺の獲物持ってる呪詛師でも探しに行こうかな。

 

「悟、なんかあれ瞳孔開ききってるけど大丈夫なのかい?」

「ありゃダメだな」

「君の妹、少し……その……」

「ちょっと()()が可笑しくなっちまったんだわ」

 

 身体が自由に動くうちに、さっさと高専から抜け出しちゃおう。2人がコソコソ話をしているのを見計らって、全力で走る。

 

「ゲェッ! 逃げんな!」

「いやでーす」

 

 気配を消しながら、建物を利用してアクロバティックに逃げ回る。私には呪力探知が通じないから人や呪霊の多いところにまで出られたらこっちのもんだ。

 山を駆け下り、コンクリートの地面を思い切り蹴りつけた。まるで飛んでるみたいだ。

 夏油の呪霊が飛んできているが、視覚共有は出来ないし、私相手だと残穢も辿れないから手を出さなければ何の問題もない。

 

 ついに人里まで降りてこれた。今の私はさながら飢えた熊。刃物を出せ。工具でもいいぞ。

 治安の悪そうな奴はいないかとキョロキョロ辺りを見回すと、人集りができている箇所があった。その1番後ろの人に話しかける。

 

「何かあったんですか?」

「銀行強盗よ。銀行員を人質に取ってるらしいわ」

「……刃物を持ってるんですか?」

「ええ。物騒よねえ……」

 

 それが聞ければ十分。私はマダムに礼を言って、人集りの中でも1番層が薄そうな所からぎゅむぎゅむ進んで行った。

 1番前に出ると、丁度強盗らしく目出し帽を被った男が銀行から出てきたところだった。なんと運が良い。

 

 人質の女性は首元に刃渡り30cmぐらいの包丁を突きつけられて、涙目で震えている。そりゃ怖いでしょう。

 男が周りの警察を脅すように包丁を動かす度に、チラチラと太陽光が反射して眩しい。でも、太陽と同じぐらい、私の目も輝いているよ。

 

 ふう、と深呼吸ひとつ。そして、私は地面を思い切り蹴り上げた。

 男のすぐ目の前に着地し、腕を捻りあげる。包丁は床へ叩きつけられた。

 女の人を抑えている方の腕も外して、その華奢な背中を押して逃がす。離れたのを確認したら、地面の包丁を指さして私は男に言った。

 

「拾え」

「は!? なんだ!? 何が……!」

「包丁を拾え」

 

 錯乱した男は中々刃を手に取ろうとしない。くそ、面倒だ。私自ら拾って相手に渡す。

 男は私の意図が読めないようで、その身体はさっきの女の人みたいに震え始めた。私に切っ先を突きつけて、必死に脅そうとしてくる。

 

「ひぃっ! 来るな! 来るなぁっ!」

「いいね」

 

 子どもが駄々をこねるようにぶんぶんと包丁は振り回される。私は全身が心臓になったのかと思うぐらい、鼓動の音を鳴り響かせながらも、その軌道を目に焼き付けていた。見える。

 男の身体の全て、筋肉も、脈動も! そして、魂すらも! この瞳で読み取ることが出来る!

 

 空気の歪みを見ることが出来れば、相手がどう動くのか手に取るように分かった。

 役目は終えたし、もういらない。私は男の包丁をへし折って、首の後ろを手刀で叩く。多分首の骨は折れていないはず。

 

 暫くギャラリーは呆然としていたが、通報によってやってきたパトカーのサイレンでハッとしたように意識を取り戻す。

 警察には素人が危ない真似をするなとこっぴどく怒られた。

 

 そして夜蛾先生にも当然怒られた。拳骨では済まされず、アームロックを骨がへし折れる寸前までキメられた。あの、病み上がりなんですけど……。




■五条 刹那
気の持ちようで精神がそう簡単に良くなるわけないだろ!
躁だよ。

■五条 悟
もはや理解できない生命体と化した妹分にさらに頭を抱えている。

■家入 硝子
同室?煙草吸えるなら別にいいけど〜のノリで快諾。
刹那は面白い女なので概ね満足。

■夏油 傑
悟、君の妹おかしいよ(ドン引き)

那由多の明日はどっちだ

  • しめりけ
  • だいばくはつ
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