【完結】何度やっても君が死ぬ   作:ほほほのほ

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13.十把一絡げ

 お布団の中で、私は胎児のように小さくなって寝転んでいた。心がズーンとして何もしたくない。

 多分、先日の反動だ。どうにも躁鬱とかそういう感じな気がする。

 

 あの後夜蛾先生だけじゃなくて悟にもこってり絞られた。危ないことをしたのは自分でもわかっている。

 だが、危険を冒した甲斐はあった。無生物の魂すらも観測できる目を手に入れたのだから、自分自身の魂を認識するのなんてもっと簡単なはすだ。

 

 硝子がくれたゼリー飲料を飲み干した後、私はだるい身体を無理矢理動かして、ベッドの上に胡座をかいた。

 首に手を回す。ドクドクと血液が流れる感覚がする。

 そのまま目を瞑ってゆっくりと、自分の世界の奥へと入り込んで行った。

 

 パシャン。地に降り立った私の足元には液体が広がっている。

 周りを見渡せば、1面の死体の山。まさしく屍山血河。よく見れば液体は血だ。ばっちい。

 夏油のものと私の死体が混ざっている。が、私の死体からは目を凝らさなくても、小さく糸のようなものが伸びているのが分かる。もちろん私からも。この辺は目が良くなった恩恵だろう。

 

 糸を辿っていって、血の池地獄をどんどん進んでいく。

 領域展開したらこれが出ちゃうから、あんまりしなかったんだよね。知り合いに見られると絶対誤解されるし。

 でもこんなことになるならもっと使って研究するべきだった。浅慮を嘆けど後悔先に立たず。まあ今から頑張っていこう。

 

 全ての糸が凝集されたような空間。凄惨だが、却って何処か神秘的ですらあるような場所。

 至る所に糸が伸び、墓が山ほど立っている。1層豪華な墓の上で、1人の少女が啜り泣いていた。

 

「ねえ」

 

 少女は声をかけられて、こちらを見上げる。私と同じだけど少し幼さが残る顔。私と違ってギリギリ肩に付くぐらいの短い髪。紺と白のセーラー服を血で汚して、座り込む少女は、紛れもなく元の世界の私だ。

 

 ──きっと、心のどこかで拒絶していた。

 家に返して。お母さんに会いたい。友達と遊びたい。呪霊なんかと戦いたくない。死にたくない!

 

 なんとまあ、哀れな子どもだろう。他人事のように思った。

 

「おいで」

 

 私と私たちは、同じようで同じ存在じゃないのだ。

 オリジナルとコピー。マザーコンピューターとその子機。魂を複製したもの。

 だけど、記憶を焼き付けられる前に育てられた環境によって少しずつ歪みが生まれる。

 そのせいで悟が言うように肉体と魂が完璧に一致しなかったんだろう。

 

 なら、本体と私たちが同化してしまえ。全部、全部一緒になろう。ミキサーに入れて攪拌するみたいに。

 

「何度夏油が死んでも、何度私が死んでも。絶対諦めないよ」

 

「だから、力を貸して」

 

 少女を抱き寄せれば、彼女はこちらに身を任せる。その無防備な喉笛に、歯を立てる。湧き上がる血潮も、暖かな肉も、全て噛みちぎって、咀嚼して、飲み込んだ。

 口の周りにベッタリと着いた血糊を舌で舐めとって、周りを見た。無数に伸びる糸を力任せに引っ張ると、先から現れる死体の数々。

 

 柔らかな頬肉に口付けをした。骨を噛み砕いた。脳を掬いとった。床にまで広がった血を啜った。臓物を引き抜いて、くちゃくちゃと食み続けた。

 全部を私の中に入れて、消化して、己の血肉にしてみせる。

 恐ろしいことに、吐き気も、嫌悪感も、何も感じなかった。

 

 私を全部食べ切ったあと、残ったのは夏油の死体。一つ一つに手を合わせて、1箇所に集める。積み重なった哀れな骸たちは、何も言わない。意志も命も感じない、無機質な瞳が虚空を見つめていた。

 

 指を鳴らすと、何重にも層が積み上がった仏塔が現れる。中の広々とした空間に夏油の死体を次々運ぶ。夏油は重いので、結構大変だった。

 

 私の生得領域が随分と小綺麗になったものだ。劇的ビフォーアフターに出れるかもしれない。

 血の池が足元に広がり、死体が山積みの年齢指定(Gの方)が着きそうだった世界は一転。清浄な雰囲気が漂う空間となった。

 いつの間にか仏塔からは蓮の花が咲いている。色とりどりで美しい。

 誰に見せても恥ずかしくない領域だ。魂のズレも解消されたことだし、領域展開に向けて頑張っていこう!

 

「刹那ー? ご飯だよ?」

「うん、今行く」

 

 硝子に呼ばれて、現実世界へ戻ってくる。ずっと長いこと集中してたからお腹減った。

 

 ──1つ、目標は達成だ。

 

 この身体は正直もう用済み。呪力も使えないフィジカルギフテッドだと新しい『力』を使うのには向いてない。

 

 もう、少女の泣き声は聞こえなかった。

 

 


 

 呪術全盛期──平安。私は今、この時代にいます。

 そして、当然のように死にかけています。身体が熱くて、顔や手足にできた発疹から膿の香りがする。もう何日も水しか飲んでない気もする。死にそう。

 

 ──あ、死んだ。

 

 ひどい。本当にひどい。現代に生きてきた私にとってこの環境は辛すぎる。

 ロクに飯も食えない時があるし、呪霊は無駄に強い。何人もの私が目的に擦ることすら出来ずに死んでいった。

 

 科学技術や医療技術が発展していない中、人々が縋るのは加持祈祷とか、呪術的なものだ。

 疫病や災害が蔓延する中、人々の負の感情は溜まり、呪霊は山のように生み出される。そのレベルも現代とは段違い。

 

 それに呼応するように、術師の力量も高い。勿論五条悟みたいなのがポンポン生まれるわけじゃなくって、平均レベルが高い感じ。

 しばらく平安の世で生き続けて、何故こんなにも皆強いのか、その理由の一端はわかった気がする。ひとつは先程言った呪霊の強さ。弱いやつはさっさと死にます。

 

 そしてもう1つ。娯楽がないのだ。

 識字率の低さ、生活の余裕のなさ、文化レベルの低さ。美味しいものもあんまりない。楽しいことが何にもないのだ!

 現代で飽和するほどの娯楽を浴び続けた私にとってこれほど辛いものはない。炊きたての真っ白な白米が恋しい。

 その代わりに、術師の適性がある人間はそれに集中出来るのだ。集中しないと大体死ぬ。

 

「ちょっと、何ぼーっとしてるのよ! 今からあの『両面宿儺』と戦いに行くのよ!? しっかりしなさい!」

「あ、ごめんなさい」

 

 新しい私は藤氏直属暗殺部隊、日月星進隊の一員だ。亨子ちゃん──今は名無しだけど──が率いる部隊だ。

 今から私たちは上からの命令で呪いの王、両面宿儺の暗殺へ向かう。まあ結果はお察しだが。

 

「つまらん」

 

 仲間たちがあっという間に膾にされていく。宿儺の御厨子による3分クッキングだ。これだけでも強いのに、なんと相手は呪具も持っている。黒焦げになった仲間の死体がたった今出来上がった。

 猛者の集まりの中でも隊長らしく抜きん出た実力の亨子ちゃんと、はなから真面目に戦う気がなかった私だけが生き残っている。

 

「……中々骨のあるやつもいるようだな。片方は木偶のようだが」

 

 ジロリ。4つ目の半分が私を、残りの半分が亨子ちゃんを射抜く。私たちを視線だけでも押し潰せるほどの圧を放っていた。強い。まさに生物としての格が違う。

 亨子ちゃんもガタガタ震えている。もう暗殺は失敗したんだから命があるうちに逃げた方がいい気がする。

 

「木偶の坊で申し訳ありません。両面宿儺様、私は貴方とお話したく……」

 

 私が持つ礼儀の全部を使って、なるべく恭しく振る舞う。こういうのあんまりした事ないから無礼だったらどうしよう。不況を買ったら速攻で斬られるよね。

 

「何故俺が羽虫と話さねばならん? 不愉快だ」

 

 ──キンッ。

 不可視の斬撃が私を襲う。惚れ惚れするほど美しい切れ味だ。私の腕が地面に落ちる。

 震える手で腕を拾って、接着させるように反転術式を使った。綺麗に斬られているとくっつくのに然程時間はいらない。大丈夫。

 

「きっと面白い話をしてみせますよ」

「ほう?」

 

 宿儺って新嘗祭で万に突然抱き締められても殺さなかったんだよね。いや、万が力量のある術師であることも関係しているんだろうけど。

 その後も交流はあったみたいだし、案外甘いんじゃない?

 希望的観測。というかそうじゃないと計画が破綻する。

 

「なら、先ずはこれを耐えてみろ。そのあとは話を聞いてやらんこともない。──『(はち)』」

 

 あっ。

 

 また死んだ。もう私の命は宿儺の言う通り羽虫ぐらい軽い。死んだ回数を数えることは諦めた。こんなことに脳の容量使うのも勿体ないからね。

 

 もっともっと強くならないと。 辛うじて挙げられる平安の良い点は猛者が跋扈している分、私も割と強くなりやすいところだ。

 ガチャで例えるなら現代がSSR排出率3%なら平安はその10倍ぐらいある。とんでもないインフレ。

 

 原因はなんとなく分かっている。私の転生の仕組みに関係しているのだ。

 無数にある世界線の中で、適当に神様が私の器となる肉体を産み落とす。これはあくまで比喩ね。アイツがまじで出産してるわけじゃない。

 

 その後、別の世界線で私が死んだら、その世界の記憶を魂にコピーしてまた別の世界線へ。その時に対象になるのは私が指定した年代、年齢の器。

 転生時に生き残っている器から転生先が選ばれるから、この魑魅魍魎の跋扈する時代を生き抜くことが出来た強者の素質を持った人物になりやすいってワケだ。多分……。

 

 とりあえず今回は宿儺の居場所も分かったし、アプローチを変えてみようと思う。

 将を射んと欲すればまず馬を射よ、と言うだろう。つまり、裏梅ちゃん……くん……さん。裏梅さんに接触して、そこから宿儺にお目通り願いたい。

 

 

 人のいない寂れた神社。恐らく神主が病で倒れ、そのまま放棄されたのだろう。かつては美しい朱色だっただろう鳥居の丹塗は剥げ、木目がむき出しになっている。なんだろう、諸行無常さを感じる。

 

 そこに入っていく人影。この時代には物珍しい白髪だ。夕日に反射して輝く白糸は、寒空に降りしきる雪を思わせる。

 私は思わず綺麗だな、と息を漏らした。同じ白髪でも姿が違えば別の魅力があるものだ。

 

 ボーッとしている場合じゃない。ハッとして、追いかけようとした時に、足元が凍りついているのにようやく気付いた。そういえば随分と気温は下がり、吐き出した息は白くなっている。

 

「先程からこちらを見ていたな? ……貴様、何者だ」

 

 ギロリ。熱を感じない瞳がこちらを睨め付ける。

 

「こちらに『呪いの王』がいらっしゃると聞きまして。是非お目にかかりたく……」

「何故貴様のような下臈を通さねばならぬ。去ね!」

 

 最後までいい切る前に私の身体は氷漬けにされる。すごく冷たいけど、今は夏なのでちょうどいいかもしれない。なんてふざけたことしてる場合じゃないね。

 

 生きているうちに呪力を練り、術式を使う。身体から炎が吹き出して、あっという間に氷が水になり、一部が水蒸気になって辺りに撒き散らされた。

 

「裏梅さん、熱いのは好き?」

「ふざけた真似を……!」

 

 ちなみに私は嫌い。平安は現代より夏が涼しくて、そこだけは気に入っている。

 

「喧しいぞ」

 

 私の炎と裏梅の氷がせめぎ合っていると、荘厳な声が響く。地響きのような感覚。その一声で、今すぐに平伏したいという衝動に苛まれそうになるほどの重圧が私を襲う。双方共に術式を解いた。

 

「す、宿儺様……」

「裏梅。飯はまだか」

 

 2本で腕を組み、残りの2本の腕を腰に当てた呪いの王はどうやら夕餉をご所望のようだ。

 この機を逃すわけにもいくまい。

 

「両面宿儺様!」

 

 目で追われることもなく、斬撃が私の胴を切り裂く。容赦なし。

 傷を塞ぐように反転術式を必死に掛けながら、私はまだ口を閉じない。

 

「食べた事のないような御食を食べたくはありませんか!?」

「何?」

 

 あ、やっとこっち見た。




■刹那
すぐ死ぬ。
ちなみに今の状態で羂ちゃんに乗っ取られるとヤバい。

ドキドキ平安メモリアル編は最後まで捏造たっぷりでお送りします。

那由多の明日はどっちだ

  • しめりけ
  • だいばくはつ
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