【完結】何度やっても君が死ぬ   作:ほほほのほ

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15.雲の上

 ようやく夏が終わり、過ごしやすい季節になってきた。私の本領発揮だ。この時代にはまださつまいもはないのに、惰性で庭の落ち葉を集めていた。どうしよう、これ。

 

「もうすっかり秋ですねぇ」

「……この時期になるとあのことを思い出して頭が痛い」

「あのこと? 何のこと?」

「少し前の新嘗祭でな──」

 

 頭を抱える裏梅。『新嘗祭』という単語を聞いて、ある人物が浮かんできたところで、鋭い殺気を伴った何かが飛来してくる。

 慌てて避ければさっきまで私がいた石畳は粉砕され、無惨な瓦礫となっていた。土煙が晴れた先にいたのは──全裸の女だ。

 

「宿儺ってば、どうして私というものがありながら新しい女を侍らせているのかしら!? あなたに愛を教えるのは私のはずなのに!」

「話題に出すのではなかった……! コイツが新嘗祭で宿儺様に不敬を働いた痴れ者だ!」

「あ、そう……」

「やだ、万様って呼びなさいよ、裏梅。私は宿儺の伴侶になる女よ?」

「貴様っ……!」

 

 裏梅の血管がブチ切れそうになっているが、そんなことよりも私の視線は自然とある一点に吸い寄せられていた。

 おっぱい。万が動く度に、その大きすぎず、小さすぎずの脂肪の塊が形を変えて揺れる。

 痴女やんけ。亨子ちゃんは一応局部は術式で隠していたから、こんなことは思わなかった。

 

「通さないなら力ずくでいかせてもらうわよ」

「その必要はない」

「宿儺!」

 

 私が気を取られているうちに、宿儺が騒ぎを聞きつけて表へ出てきた。そして、私を指差す。

 

「おい、お前が万と戦え」

「私!?」

 

 突然のキラーパス。戦闘はなるべく避けたい。だが、宿儺の命令に私は抗えない。悲しい従僕の定めなのだ。自分から望んだことだけど。

 

「そろそろ貴様の飯も飽いてきた。ここらで俺に価値を示してみろ。負けたら殺す」

「うぐっ……」

「宿儺様の前で無様な姿を晒すなよ」

 

 うーん……占星術や神のお告げと称して未来の話とかしてみようかな。まあ、これで負けたら現代に戻ってちゃんと料理勉強しよう。裏梅に勝てるビジョンは浮かばないけど。

 

「領域展開はなしでいいですよね?」

「構わん」

「ねえ宿儺、私が勝ったらあなたは何をしてくれるの?」

「そうだな……少し遊んで(・・・)やろう」

 

 宿儺の言葉に万が嬉しそうに飛び跳ねる。全裸じゃなければ可愛らしい女性なのだが。

 いつの間にか羂索も来ていた。見学する気満々だ。さりげなく宿儺の隣に座ろうとしたが、裏梅に追い払われて少し離れた場所に腰を下ろしている。

 

「頑張ってね〜」

「人ごとだと思って!」

 

 ニヤニヤしながらこっちを見つめてくる羂索。

 私と万は向かい合って、構える。万は私を値踏みするように見て、フッと鼻で笑った。舐められてるな。

 

「始め!」

 

 裏梅の声に合わせて、私たちは呪力を流す。あちらの戦法は当然、構築術式による液体金属の操作だろう。呪力消費が大きいから、肉の鎧は温存してくるはずだ。

 

 想定通り、万は液体金属を構築する。彼女の呪力によって精密に制御されたそれは、鋭く尖って私に迫ってくる。

 地を蹴って避けても、液体金属は万の呪力が流れる限り自在に操ることが出来る。当然、追いかけてくる。

 

「避けてばっかりじゃない!」

 

 構築術式に頼りきりでは平安の猛者と呼ぶには足りない。万は近接戦闘の腕前も優れている。液体金属と彼女の打撃を両方同時にいなすのは難しい。

 反転で治しにくいのは打撃より刺突。だから万の拳よりも液体金属を避けることに専念する。何発か食らってしまったけど、致命傷じゃないので大丈夫。

 

「そこ、よ!」

「い゛っ……たいな!」

 

 万も私の思考が分かっているようで、黒い流動体を囮に私の顔面に強い一撃を入れた。衝撃で歯が何本か折れたので、血反吐と一緒にペッと地面に吐き捨てる。

 

 依然万が優勢。流動体がぐにゃりと歪み、1つの大きな槍となった。液体がまとまれば呪力を流せる量はその分増える。先程までとは桁違いのスピードでこちらへ迫る液体金属。

 

 ──今だ。

 

「『氷凝』」

「なっ……!」

 

 過冷却状態の呪力が液体金属を包み込み、凍結させる。氷塊と化した槍に一撃蹴りを入れれば、いとも容易く砕け散る。パラパラと氷粒が辺りに散り、陽の光を反射して輝いた。

 

「あれは、私の……?」

「へえ……」

 

 液体金属の対処法は溶鉱炉に落とすか、超低温にするか、酸をかけるって昔映画好きの友人から聞いた。1番呪力が節約できるのは低温だ。高温は割と上限がないけど最低温度は決まってるからね。

 

 液体金属を失った万に向けて氷柱を放つ。難なく避けられて、彼女の頬に何本かの赤い線を入れるだけに終わった。

 

 構築術式は燃費が悪い。もう一度液体金属を生成してもまた凍らされるなら呪力の無駄。次の彼女の一手は決まったも同然だ。

 

「やるわね……!」

「ありがとう。まさかこれで終わりじゃないよね?」

「そんなわけないでしょ。仕方ないからあなたにも見せてあげる。私の構築術式の〝極み〟をね!」

 

 パキリ。万の身体を覆うように何かが構築されていく。

 

「あなた、肉弾戦はあまり得意じゃないでしょう」

「お淑やかな方なので」

「人のものに手を出しておいて、どの口が言うのかしら」

「……何言ってんの?」

 

 いや、宿儺は万のものでもなんでもないだろう。そもそも私は宿儺に手など出してない。寧ろ物理的に出されている方だ。

 宿儺の呆れたようなため息が聞こえた。

 

 万の全てをつぎ込んだ肉の鎧が完成した。昆虫を模したその姿に、私は思わず身震いする。

 虫はあんまり得意じゃない。アイツらは小さいからいいけど、目の前に人一人程の大きさの虫が出てきたら流石に怖気付くわ。

 

 昆虫のサイズは大きくても大体掌に収まるぐらいが多い。それでも、自重の何百倍もの重量を持ち上げられるほどの力を持つ。

 では、それがもし何十倍ものサイズだったなら?

 

 万は鎧で太くなった足で回し蹴りを放つ。先程よりも遥かに動きが早い! 避けられないと判断し、腕で受ける。

 

「う、ぐ……っ!」

 

 バキ、と嫌な音がした。勢いがまるで殺せずに、腕の骨と左の肋が何本か折れた。力が抜け、左腕がダラリと垂れる。とんでもない膂力だ。

 

「『氷凝』」

 

 ぶわりと冷たい呪力を撒き散らすが、腰の辺りにある翅を上手く動かし、万は立体的に飛び上がって避けた。幾度も羽ばたく翅が、偏光性なのか色とりどりにギラギラと光る。

 

 高い位置から、彼女はそのまま拳を構えて落ちてくる。翅による推進力もあって、まるでミサイルだ。

 動かない左腕はおいといて、もう片方の腕で受ける。当然、骨が砕け散る。鈍い痛みが私の身体を蝕んでいく。

 吹き飛ばされた私は、石畳の上に叩きつけられた。内臓が損傷したのか、込み上げてきた血液を床にぶち撒ける。衝撃はなんとか呪力で防いだけど、万の攻撃の手は止まない。

 

「『氷凝』……!」

 

 何度も、何度も冷気を吐き出す。当たったり、当たらなかったり。馬鹿の一つ覚えのように同じことしかしない私を、万が鼻で笑う。鼻から漏れた空気は、白かった。

 

 腕は使い物にならない。胴体……そこそこやばい。足はほぼ無傷。顔は腫れ上がっている。割とボロボロだ。反転を掛けてもいいけど、術式の出力が落ちるので今はしない。

 

「さあ、そろそろ降参する気になったかしら!?」

「全然。したら殺されちゃうし……」

「宿儺に殺されるなんて贅沢、許さないわよ。そのまま私が嬲り殺してあげる」

 

 むざむざ殺される気はない。また冷気を放つ。

 

「またそれ? 無駄なことを……っ!?」

 

 先程よりも、万の動きが鈍い。そりゃそうだ。だってこんなに寒いんだから。

 昆虫は変温動物だ。急激な温度変化に弱い。……といっても万のは肉の鎧だからそんなに効果はないかもしれない。

 それでも、辺りの気温は氷点下をとうに切っていた。人間でも動きは当然、鈍くなる。

 

「『氷凝』」

 

 今ある呪力の全てをつぎ込んで、息を吐いた。

 先程までなら絶対に直撃しなかった一撃。万は避けようと身体を動かすも、この位の速さなら私でも見切れる。

 万は肉の鎧ごと、凍りついた。大きな氷塊の出来上がり。

 

「……宿儺様」

「まあ、よい」

 

 主人からの許しを得られたので、術式を解く。

 氷は溶け、辺りの空気もぬるくなる。あー寒かった。

 

「あなた……」

「今回は私の勝ちということで」

 

 といっても万はほとんど無傷、私はボロッボロなのでどっちが本当に勝ったのか分かったもんじゃない。

 脱臼した肩を羂索にはめて貰った。死ぬほど痛い。じわじわと涙が滲む。

 

「お疲れ。よく勝てたねえ」

「真剣な殺し合いだったら絶対負けてたよ……」

 

 万は私を倒したあとの宿儺のことも考えていたから、若干手を抜いていた。だからなんとかなった。ありがとう宿儺。でも元凶は彼なので、やっぱり感謝は取り消すね。

 

 呪力も尽きかけなので骨を接着させるだけしかできなかった。別に呪力の回復もやろうと思えばできるけど、わざわざリソースを割くのももったいないのでやめた。

 

「貴様……何故私の術式が使える? 炎の術式ではなかったのか?」

「あの術式は裏梅だけのものじゃないからね」

「どういうことだ? 詳しく説明しろ」

「いやあ、こればっかりはこっちの命綱なので話す訳には……」

 

 裏梅に思い切り揺さぶられる。怪我が治ってないので痛い、痛いです。

 私は宿儺にちらりと目を向けた。

 

「あの〜……勝ったんですから、何かその、褒美とかは……」

「殺されないことが何よりの褒美ではないのか?」

「出過ぎた真似を致しました!!」

 

 不機嫌そうな声音。慌てて地面に額を擦り付ける。

 まだ治っていない身体が思い切り悲鳴をあげた。勢いよく土下座しすぎた。

 

「まあまあ。彼女も頑張ってたんだし、良いんじゃないの?」

「貴様、また宿儺様に馴れ馴れしく……!」

 

 羂索。もしかしてお前は私の友なのか? 希望を込めて、頭を少しだけあげる。

 

「……聞くだけ聞いてやらんこともない」

 

 おお、羂索。お前は私の友だった。

 

「す、宿儺様の領域展開はまさに神業だと聞いております。是非一目見たいと常々思っておりまして……」

「ほら宿儺。それぐらいなら良いだろう? 私も見たいし、頼むよ」

 

 いいぞ、羂索! 私の中で彼の好感度がどんどん上がっていく。上がっても意味ないけど。

 

「フン、いいだろう」

「あ、私たちは必中の対象から外してよね。まだ微塵切りにはされたくないからさ」

「注文の多い奴だ」

 

 必中対象を制御するのは高度な技術が必要だが、宿儺程の実力があれば容易い事だろう。私たちは宿儺の領域展開をじっと待つ。

 

 ──一瞬の出来事だった。

 

 彼が掌印を組み、領域を展開した瞬間、辺りの木々が塵芥になって空を舞った。

 キャンバスを用いず空に絵を描く。器もなしに水を貯める。根も葉も茎もなく種から花が咲く。ハードなしでソフトを再生する。

 

 そんな馬鹿げた行為を実際に行えてしまうのだ。少しでも呪術、結界術を齧ったことがあるものなら、彼の技巧がいかに素晴らしいのかすぐに理解できるだろう。

 

 更地になった場所を見つめながら、私はようやく息をした。今の今まで、呼吸するのを忘れていた。

 

「流石だね」

「これで満足か?」

「……はい、ありがとうございます……」

 

 遠い。あまりにも遠い。一体いくら時間をかければ辿り着けるのだろう。それでももう、進むしかないのだけれど。




■刹那
がんばれがんばれ。

■宿儺
原作でも羂索に割と甘くない?

■万
一般全裸厄介STK。
邪魔者が増えたと聞いてやってきた。

閑話の方は中々難産です。三人称難しい……

那由多の明日はどっちだ

  • しめりけ
  • だいばくはつ
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