どこかの器曰く、「良い人だと思う!」。
どこかのトンガリ頭曰く、「意外と悪ノリするタイプ」。
どこかの紅一点曰く、「女泣かせてそう」。
どこかの特級曰く、「良い人だよ」。
どこかのパンダ曰く、「パンダを見下している」。
どこかの天与呪縛曰く、「胡散臭ぇ前髪」。
どこかの呪言使い曰く、「ツナマヨ!」。
どこかの賭博師曰く、「冷めたように見えて内心は熱がある」。
どこかの男の娘曰く、「金ちゃんには負けるけどカッコイイ」。
どこかの双子曰く、「大大大好きな家族!」。
どこかの女医曰く、「クズ」。
そして、どこかの最強曰く──「たった1人の親友」。
それが、夏油傑への評価。
伏黒恵は苦悩していた。自らの実力が明らかに伸び悩んでいる。死んだはずの級友は何故か息を吹き返し、そして見違えるように強くなっていた。焦燥感が伏黒恵の胸をじりじりと焼き付ける。
世話になっている一応恩師に稽古もつけてもらったが、あの人は天才型すぎてあまり参考になっていない気もする。
なので、自分が手放しに尊敬できる唯一の先輩の元へと赴いたのだ。
「え? うーん……それなら夏油先生のところへ行ったらどうかな?」
「夏油先生」
「うん。あの人教えるのがとっても上手なんだよ」
前髪を1房垂らした長髪の男が頭をよぎる。昔は伏黒の幼馴染とも言える美々子と菜々子の世話の一環でよく会っていたが、最近は担当学年も違うからか中々顔を合わせる機会がない。
伏黒にとって彼は……普段は真面目だが五条の悪ノリに付き合うところもあるから、あまり尊敬できるとは言えなかった。
だが、乙骨から勧められたにも関わらず「やっぱいいです」とは言えない。ぐっと伏黒の眉間に皺が寄る。
そこにふらりと3回生の不良筆頭──秤金次が通りがかる。
「あっ秤先輩!」
「ん? 乙骨と……1年の坊主か」
「伏黒です」
「へぇ……」
秤は伏黒をちらりと見て、興味をなくしたようにすぐ視線を外す。そのまま行こうとしたが、乙骨が彼を話題に出したので、足を止めた。
「秤先輩も夏油先生に指導してもらったんだよ」
「げ……なんだお前、あの人に教えてもらうのか?」
「……何か問題が?」
「夏油さんはなぁ……」
「あ、あはは……」
顔を歪めた秤が話し始める。
突然夏油に呼び出されて、秤金次は『どうせ成績のことかなんかだろう』とタカをくくっていた。しかし、その場には乙骨もいて、別案件だとすぐに察する。
『君たちは領域が使えるから、展延もついでに覚えてもらおうと思って。特に秤君』
夏油はそう言って、まずは座学を始めた。当然秤はツマンネーと真面目に聞いていなかったし、聞いてもよく分からなかった。乙骨は分かりやすいと誉めそやしていたが。
知識を頭に入れ終わったらすぐに実践へ。修練所でひたすら秤たちは夏油に扱かれた。最初はやる気のなかった秤だが、物理的指導をする夏油があまりにも熱を放っていて、乗せられたのだ。
ボコボコにされ、修正点をいくつもあげられる。そしてまたボコボコにされ、修正の繰り返し。頼みの術式も使えなかったから、忙しいはずの家入も付きっきりで治療してくれた。
「『死なないように、強くなれ』って言ってたな。何だかんだお人好しだぜ、あの人は。ただし、スパルタだ」
「五条先生はとにかく実践あるのみ! 自分で掴め! ってタイプだけど、夏油先生は結構理論派なんだよね。最後は結局実力行使に走るんだけど……」
不安である。伏黒は2人の話を聞いて、本当に夏油のもとへ行くのかどうか悩んでいた。
しかし、背に腹はかえられない。指導の上手さは確かだと言うのなら、その力を貸してもらおう。伏黒は2人と別れて夏油のもとへ向かった。
「恵、私に用事があるなんて珍しいね」
「……はい」
1年生のうち、他の2人にはなくて伏黒にはあるもの。それは結界術の才だ。それを伸ばして、なんとか呪術の極致──『領域展開』まで至りたかった。
そもそも使える人も少ない。五条に聞いても『頑張ったら出来るよ。ガンバ!』とフワッとしたことしか言わない。天才肌の人間はこれだから嫌なのだ。
「『領域展開』ねぇ……私も悩んだことがあったよ」
「夏油先生もですか?」
「私は悟と違って天才なんかじゃないからね」
嘘こけ。伏黒は心の中で吐き捨てた。4人が特級、その内の1人。この人は何を言っているんだと睨み上げると、夏油は困ったように笑う。
「知りたいなら教えてあげよう。私は結構優しいから心配しなくていい」
「そうですか」
夏油の言葉に、伏黒は先程の2人の話を思い出して気付かれないよう小さくため息をついた。
まずは領域展開とは何かを纏めた紙芝居風の授業を受けた。資料がやけに古ぼけている気がする。
そして、掌印や領域展開の名前を考えようと言われた。最初はもしかしてこの人こっちを揶揄っているのかと思ったが、存外真面目な話であった。
「イメージを固めるのも大事なことだ。一部の天才は頭にパッと浮かんできたりもするけれど、そうでない大多数の人間は生得領域を現実世界に連れてくるのに苦労するからね」
「一部の天才」
どこかの白髪頭が伏黒の頭をヘラヘラ笑いながら通過する。
実際に夏油が掌印を考えている映像も見せてもらった。
スマホに写った動画は、年代的に恐らくガラケーで撮ったのだろう、画質が悪い。解像度の荒いお団子頭の夏油がああでもない、こうでもないと腕をもぞもぞさせていた。撮影者であろう人の笑い声が微かに聞こえる。
誰がこれを撮ったんだろう。伏黒は一瞬疑問に思ったが、夏油が話を続けるので口に出さずに飲み込んだ。
「しっかり手順を踏んで、抽象的なものではなく、具体的なものにすることで少しだけそれが楽になるんだ。あとは必殺に拘らずに必中だけにするとかハードルを下げるのも効果的だね」
確かに、説明は分かりやすい。案外まともだ、先輩2人はちょっと自分のことを脅しすぎではないかと伏黒が油断したとき、夏油は突如呪霊を出した。明らかに上級の呪霊だ。
「領域の感覚を覚えてみると良い。死なないように加減はするから」
前言撤回。この人おかしい。伏黒は呪霊の領域に閉じ込められ続けて、あわや腕がちぎれそうになったり、病に侵されそうになったり、それはもう散々な目にあった。全て未遂に済んだが。
苦労した甲斐はあり、あと少し、何かが掴めれば上手くいくだろうと確信を得られた。伏黒は夏油に頭を下げる。
「ありがとうございました」
「いいんだよ、君たちが強くなるに越したことはない」
「夏油さんは……教えるのが上手いんですね」
そう言うと、夏油の顔が少し曇る。何か不味いことを言っただろうか? 伏黒は内心少し焦った。
「ああ、いや……私よりも教師に向いてそうな奴が昔いたんだ。少し思い出してしまってね」
「へぇ……」
何か事情がありそうだったので、あまり深堀はしないでおく。そう思っていたのだが──
「絶ッ対! 何かあるわよ」
「何かってなんだよ釘崎」
後日、伏黒は同級生に呼び出されていた。釘崎はピンと指を突き立てて、意義を唱えた虎杖に向ける。
「私ね、交流会のあと家入さんに治療受けてたんだけど……医務室にね、ネイルがあったのよ」
「家入さんだってネイルぐらいするだろ」
「随分古いやつよ? しかもほとんど使ってない。家入さんに聞いたら『まだ残ってたのか。欲しいならやる』って言われたの。その時の顔が、何か含みのある感じでね」
だから何だよ。伏黒は心底そう思った。だが、虎杖もそういえば、と口を開いた。
「死んだフリをしてる間、ナナミンと任務行ってたんだけど、『呪術師はクソです。良い人間から消えていきます』って言ってた。何か実感篭ってる言い方だったな」
そう言われると、伏黒も先日の夏油の様子が気にかかる。
「ナナミンって確か五条先生たちの一個下だよな。つまり……」
「その辺の世代できっと何かあったのね」
とは言ってもどう考えたって人の生き死にが関わっている。そう簡単に掘り起こすものではないだろう。そう結論づけて、終わった話だった。
五条に呼び出されて、3人は高専内の彼の部屋へ入る。だが、呼び出した張本人は呑気にすやすやと寝息を立てていた。
虎杖が物珍しさにキョロキョロと部屋を見回すと、棚の上に小さな写真立てがあるのに気付く。気になって、つい見てしまった。
「おっ、学生時代の五条先生たちじゃね? 伊地知さん昔とあんま変わんないな〜」
「七海さんと灰原さんもいるな。あの変なメガネ、昔は付けてなかったのか……」
「やだ、夏油先生ってボンタン履いてたの? なんかイメージ変わるわ」
恐らく花見をしていたのだろう。桜の木が咲き誇る中、彼らの記憶よりも大分若い姿の大人たちが写っていた。
その中でも、1人、全く見覚えのない人物がいた。家入の隣で頬を少し染め、口角を上げる暗い目の女性。
「結構デカイな……」
虎杖は思わず言葉を漏らす。夏油よりも少し小さいぐらい。女性にしては随分高身長だ。虎杖悠仁の性癖センサーが僅かに反応した。
「気になっちゃう?」
背後から声がして、3人は心臓が飛び出るほど驚いた。釘崎と虎杖は口から悲鳴が漏れ出すほどだ。
寝ていたはずの五条はとっくに起きており、大きく口を開けて欠伸をした。五条は目隠しをずらして生理的な涙を拭う。そして、写真の女性を指差した。
「コイツは虚枝刹那。かつての特級の1人だった」
「特級……っ!?」
夏油や五条、乙骨たちに並ぶ人物の存在に伏黒は動揺を隠せない。この世代明らかにおかしいだろうと思った。
しかし、すぐに五条の過去形から察する。この女性は既にこの世にはいないのだと。
「だった……? ってことは」
「そ、死んだの」
虎杖の疑問に、五条はなんでもないことのように話す。しかし、白髪の隙間から見える青い瞳は何かしらの感情が漏れ出ているように伏黒は感じた。
「わる〜い術師に殺されたんだよ。こうだよ、こう」
手刀を首に当てるような動作を繰り返す五条。釘崎は首のちょん切れた死体を想像してしまったのか、顔を顰めた。
五条は3人の頭を次々雑に撫でて、珍しく真剣味を帯びた顔で言った。
「だから、君たちは強くなるんだよ。死なないぐらいにね」
「俺、頑張るよ。五条先生!」
「当たり前でしょ!」
雰囲気に呑まれかけて、伏黒は言葉が喉に詰まった。しかし、級友たちはあまりに堂々と発言するものだから、それに釣られて目の前の教師に向かって宣言していた。
「強くなってみせますよ」
「いいね、合格!」
先程までの研ぎ澄まされたような雰囲気は消え、何のために呼び出したのかを話し始める五条。虎杖は少しだけ、写真の女性が気になって後ろ髪を引かれる思いだったが、すぐに任務の内容に集中する。
いつかどこかで、その女性と出会うことになるとは知らずに。
「助けてあげようか、真人」
10年は経ったのに、写真とほぼ全く変わらない姿で、写真と全く違う狡猾な笑みを浮かべた女性。その額の傷に、虎杖はどこか既視感を覚えたような気がした。
■夏油先生
命綱と知識をつけさせて地獄でバンジージャンプさせるタイプ。
高専関係者からは賛否両論だが、モブからの評判はまた別。
■伏黒 恵
付和雷同中にちゃんと領域展開できた。たぶん。
■虎杖 悠仁
刹那のことが割とタイプと思ってしまった。
ただし今の中身は母親である。
ところで原作最初で虎杖が宿儺の指食べたのって羂ちゃんが仕向けたと思ってるんだけどどうなんだろうね。
那由多の明日はどっちだ
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しめりけ
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だいばくはつ