【完結】何度やっても君が死ぬ   作:ほほほのほ

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16.恩寵

「新入生歓迎会〜っ!」

「わ〜」

 

 ドンドンパフパフ。数人の拍手の音が狭い教室に響く。

 

「本日の司会はこの五条悟が承ります!」

「ぶ〜」

「帰れ〜」

「うるせえぞそこの女子2人!」

 

 教室は4人で作った紙製の花飾りや輪飾りで装飾されていて、黒板にも大きく『〝超〟新入生歓迎会』と書かれている。誰だよ、この『COME!!』って書いたやつ。

 

「ではではまずは新入生の自己紹介から!」

 

 無駄にテンションの高い五条がマイクを1年生の2人に向ける。七海はマイクを頬に擦り付けられて露骨に機嫌が悪い。

 

「……七海建人です」

「灰原雄です! 好きなものはお米です!」

「いいねぇ! 七海クンは一体何が好きなんだぁ!?」

「……パンです」

 

 2人しかいない新1年生の派閥が早速別れてしまった。終わりである。

 質問しといて五条は興味なさそう。コイツまじで……。

 

「次! 好きなタイプは!?」

 

 2番目にする質問じゃなくない?

 無表情を貫いていた七海の頬がピクリと動く。

 

「いっぱい食べる子です!」

「答えたくあり──」

「質問拒否は認めませーん!」

 

 五条は七海の言葉を遮ってマイクをより一層グリグリと七海の頬に押し付ける。七海の眉間の皺はもはやマリアナ海溝よりも深い。

 いつの間にか五条は灰原の頭に乗っていた小さな帽子を奪い取って自分のものにしていた。新入生扱いした方がいいのかな、このクソガキ。

 いい加減見かねた夏油が仲裁に入った。

 

「こら、悟。あまり無理強いをするのは良くないよ」

「先輩……」

「それに七海は人に言えない性癖を持っているかもしれないじゃないか。触れてはいけないときだってあるんだよ」

「先輩」

 

 夏油、それフォローになってないです。ああ、七海の視線が絶対零度になってしまった。

 五条から無理矢理マイクを奪って、硝子に渡す。

 

「じゃあこっちも自己紹介。私は家入硝子。こっちは虚枝刹那。で、そっちのクズ共は五条悟と夏油傑」

「よろしく」

「クズ共……なるほど」

「先輩方はクズなんですかー!?」

 

 七海は深く頷き、灰原は驚いたように大声をあげる。可哀想に、コイツらが君たちの先輩なんだよ。

 その後はジュースで乾杯して、菓子パ開催。五条の前に積まれたお菓子が次々と消えていく様子を見て、後輩は目を丸くし、私たちは爆笑した。

 どこかの馬鹿がろくでもないことをしないように夜蛾先生が教室の後ろで見守ってくれていた。

 

 

 楽しかった思い出。残念ながらこれは夢である。

 ムクリと身体を起こすと、寝相で乱れた和服が目に入る。外を見れば未発展な木造建築の群れ。ここは平安。夢との落差に絶望した。

 

 あれから数年経った。私に出来ることといえば、この時代にない野菜をこっそり構築、栽培して裏梅に流したり、未来のことを宿儺にお話することぐらいだ。

 残念ながら呪いの王は野菜より肉派なのでトマトやじゃがいもは大して興味は引けなかった。裏梅は料理のレパートリーが増えたと喜んでいたが。

 最近はサトウキビの栽培に力を入れている。何せ平安は甘いものが少なすぎる。時折甘味に釣られてやってくる畜生を始末すれば肉も得られて一石二鳥だ。

 

 宿儺を狙う術師たちの前に露払いとして叩き出されたり、万の強襲にあってボコボコにされたり、裏梅に雑な扱いを受けたり、宿儺に閉じない領域の練習風景を見られて『お前センスないな(意訳)』となじられたり、当然のように甚振られたり。散々な日々だった。

 頭のおかしい平安連中の中でも羂索は意外と穏健派なので、他の3人を差し置いて仲良くなるのは当然のことだと言える。

 

 過去(未来とも言う)のことが恋しくなって地面に木の枝で級友の似顔絵を描いていると、哀れんだ様子で羂索が紙と筆記用具をくれた。

  この時代だと高級なはずだが、それなりに身分のあるガワを持った彼にとっては簡単に手に入るものらしい。ありがたく受け取って、何枚も書き連ねた。

『この人ら誰?』と聞かれたので、『友人』と答えると、想像の産物だと思ったようで頭の病気を心配された。殺すぞ。ちなみに似顔絵はすぐに宿儺に切り捨てられて塵芥となった。

 

「ねえ、悪かったって。機嫌直してくれよ」

「別に怒ってないから」

「嘘だぁ、怒ってるじゃないの」

「だから怒ってないって!」

 

 嘘だ。めちゃくちゃ機嫌を損ねている。だが、ごめ〜んと舐めた態度で謝ってくる羂索を見ているとなんだか怒る気も失せた。

 

「いやぁ、私たちって友人じゃない? 嫉妬だよ嫉妬」

「嘘つき。軽薄野郎。二枚舌超えて百枚舌」

「言い過ぎでしょ」

 

 いつか未来でイギリスの三枚舌外交もビックリの交渉をするんだから、言い過ぎという程でもないと思う。

 サトウキビを丸かじりしながら、私は泣き真似をする羂索を鼻で笑った。

 

「……君さぁ。よく見慣れない植物を持ってきたり、私も知らない知識を知っていたりするけど、一体どこから仕入れてくるのさ」

「ん? アンタには言わなかったっけ? 神からの啓示とか恩恵みたいなもん」

「神、ねぇ。天使みたいなこと言うんだね」

「あれとは宗派が違うよ、宗派が」

 

 訝しむようにこちらを見る羂索。じゃあ君の言う神って何なのさ、と問いかけてきた。

 

「私にとっては邪神とも言える。信仰してるわけじゃない、存在を認めているだけ」

「随分な言い草だね」

「そう言える程のことをされてきたの。アレはきっと人が必死に藻掻く姿が好きなんだよ」

 

 と、私は勝手に思っている。ただ平穏に生きてきた人間を甘い言葉で誘惑し、食らいついた哀れな生贄を地獄の谷底へ突き落とす。そこから這い上がろうと足掻き続ける姿が好きなんだろう。

 

「素敵な神様だね」

「どこがだよ」

「……君は凡人だ」

 

 喧嘩売ってんのか。自分が凡人に過ぎないなんてそんなの自分が1番分かっているから、喉元から出かかった言葉を無理矢理飲み込んだ。

 

「宿儺のような強さも、裏梅のような一芸も、万のような執着も、君にはなかったんだろう。だが、そんな君に対して一歩踏み出す機会をくれたんだよ? 憎むどころか感謝するべきだ」

 

 そんな機会要らなかった。ただ、漫然と平和な日々を享受していたかった。学校で嫌々ながら勉強して、友達と遊んで、家でお母さんの作ったご飯を食べる。その繰り返しで良かったのに。

 

「……そう言えるのは、アンタが昔の私を知らないからでしょ」

「うん、知らない。でも、私にとっては今の君が1番好ましく映るよ」

「よく回る口だこと」

 

 私はわざとらしくため息をついた。なんて、馬鹿らしい。

 でも、アレから与えられた餌にまんまと飛びついたのは私だ。後先考えず、あまりにも愚かだった。その責任は自分でとろうじゃないか。

 とりあえず、私今良いこと言いましたよ、みたいな顔してる羂索の額にデコピンした。

 

 

 私は返り討ちにした術師から奪った金品や米を持って、都の市場まで買い物に来ていた。平安は未だ物々交換のところも多い。

 念の為市女笠を目深に被って、小さな店が軒を連ねる市場をぐるぐると彷徨う。果物、布や櫛を買って、私は割と満足した気持ちで帰路に着く。

 

 道の途中ですれ違いざまに男と肩がぶつかった。私は軽く謝罪をして、そのまま行こうとするが、男の腕が伸びて、私の手首を掴む。

 もしかして絡まれる? 面倒だなと思っていたが、男は何故か怒った様子もなく、気安そうに声をかけてきた。

 

「や、刹那」

「……どなた?」

 

 私の知り合いなんて片手で足りるほどだ。男の顔をちらりと見れば、額を横切る傷跡。やっぱり羂索かよ。

 

「私だよ、羂索。言ってなかったっけ、肉体を転々と出来る術式なんだよね」

「うわ……私の身体取らないでよね」

「……? 優れた実力も権力もない君の身体に入ったってしょうがないでしょ」

「この野郎……」

 

 息をするようにこちらを煽る羂索。何やら私を探していたようで、少し人混みから離れた場所で私たちは腰を落ち着けた。

 

「君は未来……面白いことに興味はないかい?」

「宗教の勧誘ならもう結構です」

「もう、冗談を言ってるんじゃないんだよ」

 

 魂を呪物化して、時を渡る。そんな荒唐無稽なことが彼には出来るらしい。というかまじで出来る。

 羂索が言うにはもう既に宿儺や裏梅、万の他にも様々な猛者たちとは契約を交わしたらしい。最近見ないと思ってたらそのために各地を走り回ってたわけだ。

 

「ふーん」

「君もどうかな?」

 

 別に契約しても良い。死滅回游が始まる頃には私はまた別の世界線にいるだろうから、巻き込まれることもない。

 ただ、私の魂ってちゃんと呪物化出来るのかどうかは不明である。やってみないと分からないか。

 

「別にいいけど、条件を付けてもいい?」

「聞くだけ聞いてあげる」

「呪物化したあと、完全に成功してるか分からないから1度受肉させて欲しい」

 

 私の腕を疑う気かい? と羂索は悲しそうな素振りを見せる。どうせ見せ掛けだけだろう。

 私の魂は何かと複雑なのだ。同化しているから大丈夫だと思うけど、呪物化した瞬間死亡判定食らってループになったら嫌だな。

 

「……というか、定期的に受肉させてよ」

「えー……何で?」

「1人だと寂しいじゃない」

「それってどっちの意味?」

「どっちも。アンタだってこの先進み続けるなら友達なんて減る一方なんだから、時々顔を合わせるぐらい良いでしょ」

「全く。呪物化も受肉もそんなに簡単じゃないんだよ?」

 

 1000年ただ生得領域の中で生き続けるのも修行としては良いが、恐らく気が滅入る。時折外の世界の空気を吸って気分転換したいのだ。あわよくば羂索に結界術について教えてもらいたいし。

 

「一応聞いてあげるけど、何のためにこんなことすんの?」

「ふふ……見たことないものを見たくはないかい?」

「アンタって賢いのに馬鹿だよね」

 

 でも私も見たことないものは見たい。そのためにこんな地獄に足を突っ込んだんだから。

 私は羂索の手を取った。

 

 

 

 

 生得領域の中、私は中心に聳え立つ仏塔の中へ入る。そこに寝かされている夏油の遺体の頬に手を添えた。冷たい。死んでるから当たり前だ。

 ときどき思い出す。虚枝刹那の世界線で、夏油はちゃんと生きているのだろうか。いや、生きているんだろう。アレは第1条件達成って言ってたし。

 

 血糊のついた顔をそっと拭う。血色のない青白い肌。唇は水分を失って少しカサついている。

 私は死んだ後、その世界を観測することなど出来なかった。だから、どうなっているかなんて知る由もないことだ。

 ただひたすらに願うしかない。どうか、私の友人たちが幸せに過ごしていますように。

 

 領域の中に、侵入者が現れる。どちらかといえばこちらが相手を侵食する側だけど。

 年若い女は、ここがどこだか分からずに戸惑っている。ごめんなさい。心の中だけで謝罪の言葉を口にして、私はその女に手を伸ばした。

 

 長いこと見ていない陽の光に目を焼かれて、開いた瞼をすぐにまたキツく閉じる。目が慣れたら、ゆっくりと辺りを見回した。ここはどうやら山沿いの小さな村らしい。

 

「おはよう、久しぶりだね。気分はどうだい?」

「最悪」

 

 記憶を辿る。何も失われていない。完璧な姿で魂はそこにあった。すぐそこにあった池で自分の姿を見れば、何ら変わりない、いつもの私がいた。服装は当然違うが。

 羂索は当然、ガワが変わっていた。刀を携えて、まるで侍みたいな無骨な装いだ。

 

「少し遅かったんじゃないの」

「色々と立て込んでいてね。それより聞いてよ、今は武士が世を支配しているんだ」

「へえ」

「関心なさそうだねぇ。少しは世間に興味を持ちなよ」

 

 世の中の変遷に大して興味などない。大体知ってるし。

 ふわ、と大きく口を開けて、私は欠伸をした。まだ日も完全に登りきっていない。眠い。

 

「これからどうするの?」

「とりあえずアンタについていこうかな。面白いものを見せてくれるんでしょ」

「まだ準備段階なんだけどね。ま、君でも傍にいるなら用心棒もどきにはなるでしょ」

 

 無茶言うなよ、私そんなに強くないんだから。




■刹那
好感度は羂索>裏梅>宿儺>万。

■羂索
刹那に少しだけ何かしらの可能性を感じる。
もっとなんか出来るんじゃない?

那由多の明日はどっちだ

  • しめりけ
  • だいばくはつ
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