虎杖悠仁は厳正なアンケート結果により高専にぶち込まれました。もう少しで逃げ切れそうだったけど残念!
その後の話①
◆フィジカル強者たちによるRI〇AP
目が覚めてから、約10年寝たきりだった刹那の食卓は流動食ばかりであった。当然である。点滴を糧に生きてきた以上、働いていなかった内臓たちは弱り切っていた。
それに不満を覚えながらも、刹那は目の前に置かれたどろどろの粥を口にした。よく言えば優しい、本音を言ってしまえば味気ない病院食。
白い隔離施設から無事退院したあと、彼女の心は1つの感情に満たされていた。
──食べたい。とにかく食べたい。
身体はカロリーを求め、頭の中には肉、米、油、スイーツと様々な食べ物がひしめき合い、口の中はヨダレまみれであった。なんとこの女、齢27である。
食通である後輩2人を誘って米やら小麦やらをひたすら喰らう。
血液が糖分で出来ていそうな同期とスイーツバイキングで文字通り賊の如く生クリームや砂糖の塊を掻っ攫う。
仕事上では先輩である苦労人の後輩と、鉄の肝臓を持つ酒豪な同期と、浴びるように酒を飲む。
まさに、暴飲暴食の化身。時々内臓は悲鳴をあげたが、肝臓だけは未だ沈黙を保っている。
そして、その生活はデリカシー皆無な白髪頭の一言で一変した。
「あれ、刹那最近丸くなった?」
「なっ……!」
刹那は口を開けたまま、言い返すことも出来ずに固まった。
容易に上がらなくなったボトムス。下着のゴムの痕が食い込むようになった肌。見ないフリをしていた現実を突きつけられたのだ。
風呂上がり、彼女は生まれたままの姿を鏡を見る。以前は縦筋のあった腹には、両手で摘めるほどの贅肉が付いていた。
──昔とそう変わらない食事量なのに。こんなの納得できない! 姿見の前で崩れ落ちる刹那。
しかし、残念ながら彼女の肉体はアラサー相応の新陳代謝であるし、肉体労働をしていた現役時代とは違って今はデスクワーク中心だ。その頃と同じ食事をしていても消費エネルギーがまるで違う。
ゆっくりと、刹那は体組成計に乗った。
数字は嘘をつかない。残酷なまでに真実が表示された機械。何度測り直しても体重と脂肪率は変わらなかった。
──このままではいけない。
刹那は決意した。無駄な脂肪を削ぎ落とし、あの頃のようなスタイリッシュな体型へ戻ってみせると。
「と、いうわけで君たちを呼んだのよ」
「ダイエットってことか?」
「虚枝さんそういうの気にするタイプなんだ」
彼女に呼び出された真希と虎杖。生粋のフィジカル強者である彼女らと共に鍛錬することで少しはマシになるだろうという思惑であった。
──別に肉付きが良いのは悪いことではないのになあ。
しかしいつも世話になっている事務員の頼みなら、と2人は快諾。近接訓練に混ぜてもらえることになった。
「てか傑に頼めばいいんじゃねえの?」
「絶対馬鹿にされるじゃん。嫌!」
我儘な女である。
刹那の成長は目覚ましいものであった。元は術式頼りで近接戦闘はそこまで力を入れていなかったが、今は呪力も練れず、頼れるのは己の肉体のみ。その極限状態が彼女を開花させた。
不完全とはいえフィジカルギフテッドの真希と、何故かそれに匹敵する程の身体能力を持つ虎杖の攻防に、最初はついていけなかった。
喉から出てはいけない類の音を出し、か細い呼吸をする刹那に慌てて2人が家入を呼んだり、筋肉痛で動けなくなって泣く泣く五条に在宅勤務の要請をしたりと挫折の連続。
しかしそのうち身体は軽くなり、引き締まっていく。毎日体組成計に乗って増えていく筋肉量を見るのがココ最近の彼女の楽しみの一つであった。
元より恵まれた体躯の彼女。そこからスポンジのように近接戦闘の極意を吸収していくと、出来上がるのは──
奇跡と根性の合わせ技で、2人から1本取ることも出来た。当然、呪具や呪力強化はなしの話ではあるが。
しなやかな筋肉が絡みついて、スラリと伸びる四肢。くっきりと腹に刻まれた三本の縦線。
誰がどう見ても、肉体美といって差し支えない。
──成ったな。
刹那は虎杖と真希に誠心誠意礼を言い、親愛のハグをした。真希とはそのまま組手が始まり、虎杖は押し付けられた双丘の柔らかさにたじろいだ。
そして彼女はそのままの勢いで夏油に喧嘩を売り、案の定床を舐めていた。上には上がいるものである。
「私に勝とうなんて100年早いよ」
「ちくしょう……」
「まあ昔より体術は良くなったんじゃない? 自衛手段があるのはいいことだよ」
「うす……」
数日後、彼女は夏油から話を聞いた白髪の同期のせいで、また地べたを這いずる羽目になるのであった。
◆恋愛トーク
日はとっくの昔に落ち、窓から見えるのは黒1色だというのに、刹那の仕事は終わらない。
とにかくこの業界は人手不足だ。彼女のような呪力もほぼないような人間でも、呪術について知っているだけで馬車馬の如く働かされている。
「おいこれセル結合したの誰だよぉ!!」
刹那はキーボードをクラッシュしたい衝動を抑え込んで、『10秒チャージ!』と書かれたゼリーを吸う。
パソコンでひたすら事務作業をしている中、部屋に突然人……人? が入ってきた。
「真希ちゃん、パンダ、夜遅くまで任務お疲れ様。どうだった?」
「楽勝」
「大したことなかったぜ」
扉から顔を出したのは禪院真希とパンダ。2人は共同任務に出ていたらしく、報告書を出しに来た。
刹那は書類を受け取って、斜め読みする。特に問題はなさそうなので受理して、2人には休むように言った。
だけど、パンダは中々部屋から出ず、つぶらな瞳で刹那を見つめている。
「虚枝ってさあ……」
「うん?」
「付き合うなら誰が良い?」
「……は?」
「バカ、この畜生!」
一瞬彼女の思考と手が止まる。しかし、止まっていても目の前の仕事は減らない。急いでキーボードに置いていた手を動かした。
どうやらパンダは動物の癖に人間の色恋沙汰に興味津々のようだ。自分には相手がいないからその反動だろうか。
確かにこの業界はどうしても同業者とくっつくケースが多い。危険が多い仕事だと吊り橋効果が付き物であるし、非術師相手だと秘密にしなければいけない事項が多く、それが発端となって破局することもあるからだ。
「悟とかさあ、傑とか……七海や灰原も歳近いよな? もし! もし付き合うなら誰が良い?」
「いや、そういうの考えたことなかったな」
「もし! 仮に! 選ばないと死ぬなら!」
パンダは押しが強い。モフモフの顔が近づいてきたので、刹那は腱鞘炎になりそうだった手で撫で回す。
彼女の疲労メーターがグンと下がった。俗に言うアニマルセラピーというやつなのかもしれない。
パンダの言葉に刹那の頭にクズや後輩たちの顔が浮かんだ。
──付き合う……付き合う……? TSUKIAU……!? いや、無理だろ。
しかし、せめて1人を上げろと言うなら。彼女は苦虫を噛み潰したような顔で言った。
「……まあ伊地知でしょ」
「「何でだよ!!」」
ドアの隙間から夏油と五条が雪崩れこんでくる。扉にピッタリと張り付いて聞き耳を立てていたらしい。
真希はまあそうなるわな、と頷いて、パンダはほうほうとメモしている。刹那はそのメモを奪い取って燃やした。
クズ2人はズカズカと部屋に入ってきて、思い切り刹那に顔を近付ける。顔面偏差値の暴力によって彼女の疲労度はみるみる上がっていく。
「何で僕たちじゃないの!? こんなにカッコイイのに!?」
「そうだよ刹那、まさか伊地知とは……」
「いや、お前らは特に論外だろ」
目隠しをずらしてキラキラと輝くようなご尊顔を見せつける五条。眉を下げて、涼しげな目元から刹那にじっとりとした視線を送る夏油。
それに陥落することもなく、彼女はただこう思うのみだ。
──いくら顔が良くても中身がちょっと。
学生時代のあれやこれやは彼女の脳の一部に焼き付いている。忘れられるわけもない。
「なんで七海や灰原は駄目なんだ? マトモじゃん」
パンダの純粋な疑問。
「七海は真面目すぎるし、灰原は根明すぎる。後輩としては可愛いけどちょっと性格的に合わないかな」
伊地知は仕事ぶりも文句なし、刹那が弄っても面白い反応を返す。程よく真面目だが、突然牙を剥くようなタイプでもない。ちょっと窶れ気味なのも彼女にとってポイントが高い。
甘やかしたいといじめたいの半々の気持ちがあった。もしかすると、これがキュートアグレッションなのかもしれない。刹那は苦労人な後輩の顔を思い浮かべた。
「僕らあんなに濃い青春を過ごした仲なのに……」
「うう、あっさり捨てられてしまったね……」
泣き真似をする五条と夏油。生徒たちは年甲斐もなく醜態を晒す教師2人に冷たい視線を送る。
「じゃあアンタら私と付き合えんの?」
「いや無理」
「ちょっと遠慮したいかな」
「クソが!!」
刹那はクズ共の脛に蹴りを入れる。白い方は大人気なく無下限バリアで防いでくるし、黒い方は肉体強度が高すぎて効果がないようだ。
2人はお互い顔を見合わせて悪い顔をする。嫌な予感がしたので彼女はすぐに逃走を試みる 。
しかしまわりこまれてしまった!
「ぬがああああ! ギブ! ギブだってええ!!」
「うわ……」
「これマサミチ呼んだ方がいいか?」
両肩の関節を極められて、ひたすら悲鳴を垂れ流す羽目になった刹那。それを聞いて駆けつけた夜蛾によって技は解かれ、彼らの頭には大きなたんこぶが誂えられた。未だ元担任の権能は失われていないようだ。
後日、刹那はげっそりとした伊地知に『五条さんに何言ったんですかぁ……』と泣きつかれたので憂さ晴らしに2人で飲みに行った。飲みすぎて吐いた。
◆キズモノ
「ん? 虚枝さん、その腕どうしたの?」
湿気がこもり、少し汗ばむ季節。刹那はノースリーブのリブニットを着用していた。
露になった二の腕のうち、左側。上腕の辺りを回り込むように色素沈着のような痕が残っている。それを目ざとく見つけた虎杖はつい疑問をそのまま口に出してしまう。
どう見ても傷跡のようなそれ。ホントデリカシーねえなコイツ、とその場にいた釘崎は明るい髪色の頭を思い切り叩いた。
「アンタねえ……!」
「別にいいよ。触れられたくなかったら隠すし。でもこれについて話そうと思うと、私の学生時代の話になるから長くなるよ? いいの?」
「俺聞きたい!」
そういうのなら話すものやぶさかではない。刹那は少し離れたところで自主練をしていた伏黒も呼んで、話し始める。
「まあ簡単に言うと私が夏油にキズモノにされた話なんだけど……」
ほう。釘崎の目が好奇心に当てられ輝く。彼女は本能で夏油傑が女泣かせであることを悟っていた。
刹那が続きを話そうとしたとき、その背後から黒い影が忍び寄る。
「誤解を招く発言はよしてくれ」
「げぇ、夏油!」
「夏油先生だ! やっほー」
夏油は一切の躊躇無く、刹那の顔を覆い隠せるほどの大きな手で彼女の顔面を鷲掴みにした。アイアンクローである。
2人の身長差はそれほどない上に、刹那自身が厚底ブーツを履いているからしっかり技が決まらなかったものの、指が頭蓋骨にめり込んで悲鳴が上がる。
「ぎゃあああ! ごめん、ごめんって!! うそうそ、冗談!」
「君は中々精神年齢が成長しないね」
「仕方ないでしょ、私の心は未だ19歳なんだよ」
「開き直るな」
どうも彼女は学生時代から時が止まっている……というより寧ろ、あの時よりも若返ったように感じる。夏油は手を離して、話の続きを促した。
今度は真面目に話し始める刹那。語り手としては悪くない。
1年生たちは少しずつ前のめりになっていく。夏油の補足説明もいい味を出していた。
「私が呪霊に乗って空へと逃げようとしたその時、敵は思い切り刀を投げたのよ。それが物凄く業物でね。首からそれを逸らすことだけを考えていたら、刀身は左腕を滑った。それだけで肉どころか骨も断ち切れて、私はバランスを崩して床へと落ちていったわけ」
「あの刀一体なんだったんだろうね。今も持ってるけど、私が使うとあれほどの切れ味は出なかったよ」
「先生持ってんの!? 見せて見せて!」
生徒の要望に応えて、夏油は武器庫呪霊から釈魂刀を取り出す。鈍色に光る刃は冷たく、人の血を吸う妖刀と言われても納得できるようなものであった。
虎杖はピチピチの男子高校生。厨二心を擽るような釈魂刀に夢中になる。伏黒は『これいくらするんだろう』と現金なことを考えていた。
「……で、星漿体の子は無事元の生活に戻れたの。めでたしめでたし」
「ハッピーエンド……!?」
伏黒は思わぬ結末につい声を上げてしまった。
呪術界で語り草になるような話は大体全員が死ぬか、それよりも最悪の状況になる胸糞案件が多い。
しかし、天内理子と黒井美里はなんとかそれから逃れて幸せに暮らしていた。天元の口添えが主な要因である。
虎杖も良かった良かったと胸を撫で下ろす。途中までは女子中学生がどうなるのか検討もつかなかった。
刹那が敵の狙撃を華麗に受け止めたシーンには思わず『スッゲー!』と感嘆した。その後夏油によってだいぶ描写が盛られていることが発覚したが。
釘崎も同じく、胸糞悪い結末にならずにすんで胸が晴れた。自分らしく生きることを心情にしている彼女にとって、生まれた時から『星漿体』として同化するのが決まっているなんて、吐き気のするようなことである。
3人の満足そうな顔に刹那はご満悦のようで、にんまりと笑顔を浮かべる。そして、最後にこう口走った。
「結局のところ、私は夏油にキズモノにされたんじゃなくて、ふし──」
「刹那。ちょっといいかな」
「ふし?」
その言葉は最後まで紡がれることなく、刹那は口を塞がれる。そのまま右手首を夏油に引っ張られて連行されていった。
1年生たちはその場に残されたまま、頭に疑問符を浮かべる。
「ちょっと、話がまだ終わってないんだけど」
「はぁ……。伏黒甚爾の話を恵の前でするのはやめるんだ」
「え、お父さんのこと話してないの?」
伏黒甚爾。伏黒恵の父親であり、話の中に出てきた強敵のことだ。最後に名前を明かして驚かせてやろうと思っていた刹那はとんだ期待外れだと肩を落とす。
「話せるわけないだろう、『君のお父さんは裏の人間で私たちを殺そうとしたけど返り討ちにあって死にました』なんて!」
「それもそうだ」
夏油の正論パンチ。こうかはばつぐんだ!
「恵の方から聞いてきたら言うつもりだけどね。とにかく、そういうことだ」
彼女はコクコクと頷いて、2人はまた1年生のところへ戻る。
「ごめんごめん。ちょっと事実確認してた。で、私が不審者にキズモノにされたのを、夏油はちょっと気にしてたのよ」
「君が容赦なく人をパシるからそんな気持ちとうに失せたけどね」
「そうはいいつつ腕見て気まずそうにするじゃん」
照れ隠しなのか、夏油のチョップが炸裂した。刹那の頭の脳細胞は死んだ。
話が終わると、3人は小さく拍手をしてくれた。
案外こうして語り部をするのも悪くない。他に何かネタがあったらまた聞いてもらおう。そう思って刹那は脳内で必死に記憶を整理していた。
1人になったあと、刹那はそっと指で傷跡をなぞる。少しだけぼこっと浮き出ているけれど、ただそれだけだ。
元から彼女はそのことなんて気にしていない。欠損していたら流石に気落ちしたかもしれないが、くっついて腕が機能を満足に果たしている以上、夏油を責めるようなことはしない。
寧ろ、勲章なのだ。この腕ひとつで尊い命と夏油の心を守れたのだから。クス、と刹那の口から小さな笑いが漏れた。
質問返信
Q.神って結局なんだよ
A.高次元生命体かなんかなんじゃないかな…。
神を名乗ってるけど本質的には悪魔に近い気もする。
この辺は深堀すると、もはや呪術関係なくなるので見逃してくれや。
Q.仏塔に蓮が巻く心象風景はどういうこと?
A.夏油を救うまでの過程には、何人もの夏油と刹那の亡骸が転がっています。つまりそういうことです(???)
那由多の明日はどっちだ
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しめりけ
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だいばくはつ