【完結】何度やっても君が死ぬ   作:ほほほのほ

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その後の話③

◆そうだ、京都へ行こう

 

 日々の仕事をこなし、五条の無茶振りに耐え、時々耐えられなくなってキレて。そんな中、虚枝刹那は奇跡的に連休をもぎ取った。

 

 当然浮かれ舞い上がっていた。無趣味の傾向がある彼女は休みに何かする訳でもないが、連休という響きだけでパーティ気分だ。

 ──たまにはどこか旅行でも行こうかな。そうだ、歌姫先輩に会いに京都に行こう。

 

 刹那が連絡をとると、歌姫からは当然歓迎の言葉。五条たちにも一応伝えて、荷造りをしていた。

 しかし、その3日前──

 

「ごめん、やっぱり旅行は中止してくれない?」

「……は?」

 

 五条に呼び出された刹那は、投げられた言葉に固まった。

 

「いやー皆任務で休み取れなくってさ」

「な、なんで? 私1人で旅行ぐらいいけるよ」

 

 刹那がそういうと、五条はわざとらしくため息を漏らした。そして、1つずつ懇切丁寧に説明する。

 

 ──呪術界の改革を目論む五条と夏油。2人は保守派にとっては目の上のタンコブだが、その強さと権力によって容易に手が出せない。

 その2人と仲が良い家入硝子がいるが、彼女は反転アウトプットというほぼ唯一無二のアドバンテージがある。彼女の機嫌を損ねるのは危険だ。

 

 そんな中、虚枝刹那が目を覚ました。かつて特級の1人に名を連ねていた優れた術師だったが、今はただの一般人に近い。

 抵抗する力を持たない彼女は、改革派に首輪を付けるのに丁度いい存在。

 そんな彼女が単身で保守派の巣である京都に行くというのは、まさしく飛んで火に入る夏の虫。

 

「で、オマエの旅行の日に都合よく空いてる術師がいない。護衛がいないのに送り出すのはちょーっと厳しいかな」

 

 刹那は暫く口をはくはくと開け閉めして、何か言葉を捻り出そうとしたが、最終的には口を閉ざした。

 ──呪術師はクソです。後輩の言葉が刹那の脳内に流れる。

 自分1人に被害がいくならまだしも、2人にも……いや、2人が擁する術師たちにも害が及ぶとなるとそう我儘は言えない。刹那は仕方なく、五条の言葉に頷いた。

 肩を落としてとぼとぼ歩く彼女の背中を、五条が見つめていた。

 

 連休前日。刹那はスマホを弄っていた。新幹線のチケットは未だキャンセル出来ていない。歌姫にも申し訳なくてまだ連絡していなかった。

 オフィスチェアにもたれかかって、首を預ける。

 仮眠しようとそのまま刹那が目を瞑ろうとしたとき、視界を遮るように長い黒髪が顔の横に落ちてきた。

 

「や、刹那。ちょっといいかい?」

「……今度は何なの」

 

 刹那は身体を起こし、椅子をくるりと回して夏油へ向き直る。夏油は彼女の手に、何かを握らせた。

 黒と白のツートンカラーの紐。彼女の目にはただのストラップにしか見えない。

 

「……何これ」

「私と悟の呪力を込めた簡易的な呪具さ。君に危害が加えられると発動する。これをずっと身につけるなら、京都に行っても構わない」

「!」

 

 呪具を握りしめて刹那はキラキラとした視線を夏油に向ける。彼女にしては珍しい、毒気のない表情だった。

 

「あ、ありがとう……!」

「うわ、君が素直に礼を言うなんて。明日は槍でも降るんじゃないか?」

「私だって恩を仇で返したりはしないよ。五条にもお礼言ってくる!」

 

 カツカツとヒールを鳴らしながら小走りで彼女は去っていく。その足取りは軽かった。

 さて、自分も生徒たちの面倒を見なければ。夏油も踵を返して、教室へと向かった。

 

 


 

 

 どうせ金なんてそこまで使う機会はあまりないのだからここで惜しむこともないだろう。そう思って彼女は指定席を取っていた。

 キャンセルしてなくて良かった。刹那は少し前の自分に感謝する。

 どれにしようかな、と選んだ駅弁を食べながら、京都で何をするか刹那は悩みに悩んでいた。

 

 夏油たちから貰ったストラップはスマホに取り付けた。基本肌身離さず持っているものだから。

 シンプルなケースに白黒の紐が垂れ下がっているのはなんだか遊び心がない。

 

 ──今度、野薔薇ちゃんと買い物にでもいこうかな。いや、せっかくなら京都校の女の子たちに選んでもらってもいいかも。

 車内販売で買った、ものすごく硬いアイスクリームにスプーンをぶつけながら、京の都への期待を存分に膨らませていた。

 

 京都駅からタクシーを拾って小一時間。碁盤の目のように真っ直ぐ整えられた京都の街並みを眺めつつ、刹那は京都府立呪術専門高等学校へたどり着いた。

 

「歌姫せんぱーーーい!」

「刹那!」

 

 云年ぶりの感動の再会。2人は熱い抱擁を交わす。

 歌姫も目を覚ました刹那に会いたがっていたが、京都と東京の距離の差はすぐには埋められない。任務と教師業を兼任する彼女は多忙なのだ。

 

 奇跡的に時間が出来たり、任務で東京方面へ向かった時に歌姫が昏睡状態の刹那を目にする機会はあった。青白い肌と少しずつ細くなっていく身体は正直見てられなかった。

 だが今はどうだ。健康的な肌色に、程よく……程よく? 肉の付いた柔らかそうな肢体。生命力を感じさせる後輩の姿に歌姫は涙した。

 

「よく来てくれたわね……」

「はい! 歌姫先輩に会いたくて!」

 

 素直な後輩の言葉に思わず歌姫はその頭をワシワシと撫でる。その背後にへばりつく呪霊は見ないふりをした。生意気な方の後輩の呪力を感じるから、一応護衛用なのだろう。

 

 折角来たのだから生徒たちにも会ってみないか。歌姫がそう提案すると、刹那はふたつ返事で頷いた。

 

「あーいたいた。この子がちょっと前に言ってた私の後輩、刹那よ」

「虚枝刹那です。今は東京校の事務員やらせてもらってます」

 

 刹那は3人の女生徒に向けて軽く頭を下げる。

 教室で寛いでいた西宮、真依、三輪もお互い軽く自己紹介をした。

 歌姫の携帯が鳴り、『ちょっと席を外すわね』と言って彼女は部屋を出る。歌姫がいなくなってすぐ、真依は刹那を睨みあげた。

 

「貴方が『呪力を失った元特級術師』さん? どうしてまだこの世界にいるのかしら?」

「ちょ、真依!?」

 

 露骨に態度の悪い真依に平和主義の三輪は慌てふためく。

 刹那は特に気を悪くするでもなく、淡々と『色々あって……』と答えた。

 

「いつまであの2人の世話になるつもりなの? 貴方ってもう大人でしょう、恥ずかしくないのかしら?」

 

 喧嘩腰に投げつけられた言葉に、一瞬無表情になったあと刹那はクスクスと笑う。

 

「真依ちゃんは優しいね」

「……はぁ?」

 

 真依の整った顔が歪む。見れば見るほどその顔は刹那の知るもう1人の禪院にそっくりだ。

 

「だって、私の事心配してくれてるんでしょ? 違うの?」

 

 禪院真依は、呪術界の陰湿さをよく知っている。その中で、無力な女1人がただ生きていけるわけもない。

 自分と違って術師の家系でもないのだから、さっさとこんな世界からは抜け出してしまえばいいのに。真依はそう思っていた。

 

「……別にそんなんじゃないわよ。貴方に何かあれば歌姫先生が悲しむじゃない……」

 

 歌姫はよく話をしてくれた。東京に住む2人の可愛い後輩のことを。

 保守的な考えが蔓延るこの京の都で、何の偏見もなく自分を見てくれた担任。もし歌姫が大切な存在を失ったら、きっと悲しい顔をする。

 そんなもの、真依は見たくなかった。ただそれだけ。別に刹那のことを心配しているだとか、そういった感情は一切ない。

 

 ふい、と顔を背ける姿に、刹那の庇護欲は思い切り刺激された。

 ──なんていじらしいのだろう。先輩は良い生徒を持ったものだ。

 

「可愛いねえ」

 

 刹那は真希とは違って少し癖のある髪に手のひらを置いて、撫でる。『やめなさい!』と少し顔を赤くして声を上げる真依の姿に、辛抱たまらず、刹那はより一層大きく手を動かした。

 

「また真依ちゃんが女をたらしこんでる……」

「なんかもう、才能ですよね……」

 

 あっという間に骨抜きにされた刹那を見て、西宮と三輪は友人の恐ろしさを知った。

 

 

 歌姫がようやく教室に帰ってきた。その後ろには男子生徒1人と、ロボットがいる。刹那はつるりとした表面の機械に目が釘付けになった。

 

「丁度任務が終わったから連れてきたわよ。こっちが加茂憲紀、こっちがメカ丸」

「メカ丸……?」

「そ。あくまでこっちのは遠隔操作してるだけで本体は別にいるのよ」

「あー」

 

 傀儡操術なのだろう。ちゃんとした人型を操るなら本体は近くにいるのかな、会ってみたい。

 刹那はそう思っていたが、任務終わりだから疲れてるだろうと口には出さなかった。

 刹那は2人にも自己紹介をする。

 

「加茂家嫡流、加茂憲紀だ。……君のことは庵先生から聞いている」

『加茂家ってのは〜とにかく古きを重んじる家で、保守的! 上層部とも仲良しだからね、気をつけること』

 

 五条の言葉が刹那の頭をよぎるが、差し出された手を握った。

 生真面目そうな青年だ。本家の出なのにわざわざ高専に通うなら、保守派とは言えど上層部のように腐りきってるわけでもあるまい。勝手に大丈夫だろうと刹那は判断した。

 

「メカ丸……ダ」

究極(アルティメット)メカ丸ですよ!」

「苗字?」

究極(アルティメット)は苗字じゃなイ」

「メカ丸はね、すごいんですよ! 電池が好きなんです!」

「だからそれは真依たちの冗談だト……」

 

 三輪とメカ丸は仲睦まじく会話を弾ませていた。呪術師としてやっていけるか不安になるほど、三輪は普通の良い子だ。

 

「京都校の子たちも良い子ばっかりですね」

「え、ええ……あと1人問題児がいるんだけど。アンタは会わない方が良いかもしれないわね……」

「問題児?」

 

 歌姫は言葉を濁す。メカ丸が『高田ちゃんとやらの特番があると言っていタ。暫くは出てこんだろう』と機械越しの無機質な音声で情報を告げる。

 目的の先輩にも会えたし、荷物を置きに一旦ホテルへ帰ろうと刹那は席を立つ。歌姫も出口ギリギリまで同行してくれて、夜になったら飲みに行こうと誘った。当然刹那も頷く。

 

 タクシーを待ってる間、恐らく学生寮の方向から1人の男が現れる。五条にも匹敵するほどの身長、服越しでも分かる鍛え上げられた筋肉。尋常ではない覇気を放っていた。

 彼が恐らく残りの1人、問題児と言われていた生徒なのだろう。

 強そうだなあと刹那が見つめていると、視線に気づいたのか、男と目が合う。

 その瞬間、男──東堂葵に稲妻が落ちた。

 

 ショートブーツ込で180cmは越えるだろう高身長。スラリと伸びた足を生かすようなテーパードパンツの布地は、臀部の辺りで押し広げられてピッタリと張り付いている。

 まさしく、東堂葵の理想の女、『身長(タッパ)(ケツ)のデカイ女』であった。

 だが──彼には既に運命とも言える女性がいる。

 

「すまない、俺には高田ちゃんという心に決めた人が……」

「えっ」

 

 出会って3秒で振られる珍体験。怖くなったので、刹那は到着したタクシーにすぐさま乗り込んだ。

 あとで歌姫に確認を取ると、やはり彼が問題児だったらしい。『私がちゃんとシメとくわね』という返信が心強い。

 

 歌姫の仕事が終わったあと、刹那と歌姫は当然のように夜の街へ繰り出して飲んだくれになった。近所でもないし流石に1人で帰れる酒の量に留めていた刹那に、歌姫は少し不満そうな顔をしていた。

 

 翌日。新幹線の時間が来るまで京都を観光する。残念ながら、他の皆は授業や任務なので刹那1人だ。

 東京の友人や同僚に渡すお土産を選定しつつ、趣のある街や神社仏閣をぐるぐると巡る。

 

 ──そろそろ時間だ。駅に向かおう。

 スマホで時刻と地図を確認しながら歩いていた刹那は、背後から近付いていた人影に気付かなかった。

 ふっと身体が軽くなる感覚に襲われて、彼女は振り向いた。

 

「なんかヤバイのに取り憑かれとったで」

「……ありがとうございます」

 

 毛先に少し黒の混じった金髪。髪の間から除く耳には幾つもピアスが連なっているのに、書生服を着ている。なんだかチグハグな気がするが、端正な顔立ちが無理矢理全てを調和させていた。

 

「君、虚枝刹那ちゃんやろ? 俺は禪院直哉。よろしゅう」

 

 差し出された手に応じるべきか、少し刹那は悩んだ。

 禪院家の悪評は五条からも、生家を出た真希からも聞いている。その中でも特に禪院直哉というのは、禪院家の嫌な所を煮詰めたような男らしい。

 

 躊躇していると、彼はやや乱暴に刹那の手を取って、握りしめた。容赦なく力を込められて、少し痛い。彼女の眉間に小さな皺が刻まれた。

 

「うーん……悟君と傑君と懇ろな関係の女やっていうから期待してたけど、顔は地味やな。でも乳と尻はええやん。ただちょーっと身長が生意気や。72点ってとこやね」

「は?」

 

 いつの間にやら勝手に批評されていることに苛立つ刹那。直哉の舐めるような視線には全く気付いていなかった。

 シバキ回したいが、新幹線の発車時刻が刻一刻と迫っている。とにかく手を外そうと藻掻くも、ガッチリと握られた手は離れない。

 

「ちょ、新幹線乗らないといけないんで離してくれません?」

「アカンで。ウチでお話しようや」

「いや、無理ですよ。東京帰らないと……!」

 

 ──話にならん、仕方ない!

 刹那は目の前の男の股間を狙って蹴り上げるも、まるで瞬間移動したように彼の姿が掻き消えた。

 

「おー怖。抵抗するなら痛い目見るで。大人しくしとき」

「そんなこと言われて大人しくすると思ってんなら頭パッパラパーだよ」

「……お口も悪いなぁ、減点対象やで」

「勝手にやってろ」

 

 面倒臭ァとため息をついて、直哉は術式を使い刹那の首元を狙う。その手刀が当たる前に、刹那のスマホにぶら下がっていた紐が千切れた。

 

「何や!?」

「おーすげー」

 

 刹那と直哉をそれぞれ隔離するような結界が展開する。閉じ込められた直哉は外殻を必死に叩くが、壊れる気配はまるでない。

 

「直哉君だっけ? この礼はいつか返すから覚えとけよ」

 

 そう捨て台詞を吐いて、刹那は結界から出ようとした。しかし、押しても叩いても結界が開いたり壊れたりする様子はない。

 あれ? と刹那は首をかしげる。こういうのって私は出れるんじゃないの、と疑問に思ってると、携帯が震える。夏油からのメールだ。

 

『呪具が発動したみたいだから、任務が終わったらすぐ迎えに行く。展開した結界は私か悟じゃないと開けないから大人しくしててくれ』

 

 自分も閉じ込められたことに気付いて刹那の顔色が悪くなる。その様子を見て直哉はぷっと吹き出した。

 

「……何笑ってんのよ」

「いや、華麗な捨て台詞吐いたのに君も出られへんねやろ? ダッサイなー思て」

「うるさい……! アンタこそかっこ悪いでしょ。何が『大人しくしとき』やねん。大人しくさせられてるやんけ」

「それは君も同じやんけ。てかそのエセ関西弁やめてくれん? 不愉快やわぁ」

「私がなんで関西出身じゃないって思い込んでんの? エセかどうかなんか分からんでしょ」

「いや君東京出身やんな? なんでそんなすぐバレるくだらん事いうん?」

 

 流石関西人ということなのか、刹那の小ボケに鋭くツッコんでくる。

 ──どうせ夏油が来るまで暇なんだから、コイツと話すか。

 結界で安全が保証されたことで、刹那の脳は思い切り平和ボケしていた。

 

「てかさ、懇ろって言い方やめてよね。なんかキモい」

「ん? 君どっちか狙ってるんちゃうん?」

「んなわけない!」

「有り得へんわぁ、あの二人相手に? 性欲枯れてるんか?」

「言い方!!」

 

 ゾワリと刹那の二の腕に鳥肌が立つ。肩に羽織っていたジャケットに腕を通した。

 

「なんか思ってた女とちゃうなあ。てっきりもっと可愛らしい子やとばかり思ってたわ。実物はブスやしふてこいし、会いにこんかったら良かったな」

「カス……」

「誰がやねん。舐めた口聞いてたら禪院家の権限で潰すで」

「アンタまだ当主じゃないでしょ。それに私には五条家の加護がありますから」

「容赦なく虎の威を借るなあ、この女狐。そんなんしてたら五条家に謀殺されても知らんで」

「えっ」

 

 突然の死亡案件に刹那は思わず声を上げる。

 直哉は呆れた顔で説明した。

 

「君はぶっちゃけ悟君の弱点や。五条家にとって当主の足元取られるような邪魔な存在なんか、消したいに決まっとるやろ」

「嘘やん……私まだ死にたくないんやけど……」

「やからそのエセ関西弁やめろ言うとるやろが。ま、俺に土下座するんやったら、当主になった暁には多少口添えしてやってもええけど?」

 

 一応人間としてのプライドと、御三家当主に最も近い男の好感度。刹那は2つを天秤に掛けてみるが、命は何よりも重い。直哉の方に傾いた。

 刹那は結界の中で直哉に見せつけるように地べたに頭を擦り付ける。何故か昔よくそうしていたような気がする。母の胎内に帰ったような安心感があった。

 

「うわ、ホンマにしよった! プライドとかないんか!」

「誇りでおまんまは食えないし、命も守れないんだよ坊ちゃん」

「カッコつけとるけど土下座してんねんで君」

 

 結界さえなければその頭を好きなだけ踏みにじってやったのに。直哉は歯痒さに思わず結界を叩く。罅1つ入らなかった。

 

「あのね、直哉君。私のプライドなんてものは同期に守られてないと生きていけない状況に立たされてる時点で、塵芥みたいなもんなのよ」

 

 ふぅ、と息をついて刹那は遠い目をした。

 ちなみに呪術界から逃げようとしても間違いなく保守派に捕まるので、彼女はもうこの界隈からは逃れられない。権力に勝るものはなし。実質詰みである。

 

「哀しい目をしとる……。なあ、ついでに『直哉様に忠誠を誓います』って言ってくれん?」

「調子乗んなよカス」

「なんやとこのクソ女ぁ!」

「いやこんなんで縛り設けられたら堪らんので……足ぐらいなら舐めてあげるからいつでも東京遊びに来なよ」

「足舐める奴が舐められる奴呼び出すことあるんか? 君がこっち来るやろフツー」

 

 直哉の言葉を刹那は鼻で笑った。

 

「アンタと違って私は忙しいんですよ」

「俺が暇なわけあるかァ! こちとら特別1級術師やぞ!!」

「分かりましたよ、また今度京都遊びに来た時に好きなだけ舐めますから……」

「なんでお前が譲歩した風になっとんねん! そもそも俺は足舐めろなんか言うてへんやろうが!!」

 

 少しずつ直哉は激昂し、辛うじて被っていた皮は完全に剥がれていた。刹那はそんな彼の態度を面白がっている。

 彼女が乗る予定だった新幹線が発車してから1時間強。ようやく彼女らの前に夏油が到着した。

 

「夏油!」

「刹那、無事だったかい?」

「見ての通り」

 

 夏油が刹那の分の結界を解いて、ようやく自由の身となった。

 

「これで私は自由だー!」

「クソがぁ……! さっさと出せや!」

「彼女に一体何をした?」

「大丈夫だよ夏油。コイツ私の舐め犬だから」

「足舐めるのを舐め犬って言うなや! というかそれならお前が舐め犬やろうがボケェ! 殺すぞ!!」

「アハハハハハ!!」

「え……?舐め……犬……?」

 

 結界を必死に叩く直哉。刹那はその姿に爆笑していた。

 夏油は状況を掴みきれず、友人に危害を加えようとした男にむけていた怒りが霧散してしまった。なんなら宇宙猫状態である。

 

「直哉君、アンタには夏油や五条が持ち合わせない天賦の才がある」

「……は? なんやねん急に」

 

 急に真面目な顔に戻った刹那。その瞳は驚くほど真剣で、直哉も思わず昂っていた気を鎮める。

 刹那は親指を立てて、片目を瞑った。

 

「ツッコミの才能あるよ!」

「ボケがァ!! 舐めてんのか!!」

「舐め犬だけに?」

「引きずんな! そんな下品な話!!」

 





那由多の明日はどっちだ

  • しめりけ
  • だいばくはつ
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