【完結】何度やっても君が死ぬ   作:ほほほのほ

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『前回』の話。残される硝子さんいいよね……。


*幽明境を異にする

 刹那は、少しだけ浮世離れした雰囲気があった。

 五条の軽口もさらっと受け流し、夏油と五条の2人が喧嘩しててもボーッと眺めているだけ。

 私が初めてアイツの前で煙草を吸ったときも、『身体に悪いよ』の一言だけ言って、止める気配はなかった。

 その癖、任務で怪我をしたら自分でも反転術式を会得してるにも関わらず『硝子、治して』と甘えてくる。

 あの一切光を通さない真っ黒の瞳に見つめられると、なんだか落ち着く。

 

 絶妙な距離感。案外、それが心地よかった。

 私たちは多分、夏油と五条みたいに露骨ではないけど、確かに親友だった。

 心の底までは理解できなくても、浅瀬で仲良く隣に座っている。そんな感じ。

 だから、あの時意外だったのだ。

 

『げ、と......うあ、ああああん!!』

『ええっ! どうして泣くんだ!?』

 

 卒業の日、夏油がフリーの術師になることを告げると、刹那は堰を切ったように思い切り泣き始めた。

 その瞬間、アイツが纏っていた1枚の壁が掻き消えた、そんな気がした。今までの大人びた感じは消え、等身大の人間になったのだ。

 

 刹那は五条と同じく、高専の教師になった。

 曰く『五条や硝子よりは教えるの上手いでしょ。フリーはちょっと……私には無理かな』らしい。

 

 実際に生徒から評判も良かった。色々なところを飛び回ってる五条と違って特級のくせに割と高専に入り浸っているし、私より忙しそうに見えない。

 だから生徒の指導をすることも多く、私みたいに感覚的な説明じゃなくて理論付けられた説明が上手だった。

 私としてはなんで私の説明じゃ分かんないのかが分かんないんだけど。ひゅーっとやってひょい、としか言えないんだから。

 

「あ、夏油じゃん。元気?」

「硝子、久しぶり。前より隈が増えたんじゃないか」

「忙しいんだよね」

 

 重傷者の治療がやっと終わった朝方に、たまたま夏油が高専にやってきた。何だか変な格好をしている。

 夏油はフリーの術師をしながら、非術師同士に生まれた呪術師の卵を保護する活動をしている。その活動で袈裟を着ている方が信頼されやすいらしい。

 それにしたって態々五条と名のつく袈裟を着なくてもいいんじゃないの、とは思うけど。コイツらは妙に愛が重い。

 最近は徐々にメンバーも出資者も増えているらしい。持ち前の顔と話術で人を誑かしているんだろう。このクズは。

 

「硝子、差し入れだよー……あれ? 夏油?」

「やあ刹那」

「本物だ……」

 

 刹那は煙草とか軽食を態々買って来てくれたらしい。コンビニのビニール袋を私に手渡して、夏油をジロジロ見る。袈裟を着ている夏油が面白いのかニヤついている。

 そのまま暫く3人で座りながら駄弁っていたら、五条までやってきた。

 

『なんで僕のこと仲間外れにするのさ』なんて言いながら夏油の隣に座る。

 夏油は五条が『僕』なんて言っていることに感動したのか、それとも面白いのか顔を伏せて震えていた。

 また4人で上層部の愚痴とか、京都校での歌姫先輩の活躍とか、非術師の面倒臭いところだったりをダラダラ喋っていると、夏油が時計を見て焦ったように立ち上がった。

 

「しまった、もうこんな時間か」

「なんかこの後用事でもあるの?」

「ああ、うちで保護してる子がクレープが食べたいらしくってね。そろそろ行かないと店が閉まってしまう」

「いつの間にか保護者になってやがるこの僧モドキ」

 

 それじゃあ、ということで解散になった。五条は名残惜しそうにしていたが、また会えるだろとその背中を刹那がぶっ叩く。刹那は五条の無下限を突破できる術を持っているから、いい音が高専に響いた。

 痛みに呻く五条を見て、通りがかった真希が腹を抱えて笑って、パンダが刹那にビビり散らしていた。

 

 ──それが、『夏油』と会った最後の日だった。

 

 

 

 珍しく急患もないからとコーヒーを片手にゆったりしていると、金髪と黒髪の少女が私の元を訪ねてきた。中学生ぐらいの年齢で、顔立ちがよく似ているから双子か姉妹だろう。

 どこかで見覚えがあると思ったら、随分昔に夏油から見せてもらった写真に写っていた2人だ。随分とあれから大きくなったらしい。

 

「夏油様は来てませんか?」

「連絡が付かないんです」

「……いや、来てないね」

 

 不安げな顔で見つめてくる2人。珍しく高専にいた五条も呼んで、話をしっかり聞くことにした。

 美々子と菜々子の話によれば、数日前に『息子の様子がおかしいので見てもらいたい』という手紙が来たらしい。それから夏油が手紙に書かれた住所へ向かったまま、連絡が途絶えたようだ。

 

「息子の様子がおかしいって……なんで傑にそんな手紙が?」

「素質のある子どもは非術師から見るとおかしな言動を取りやすいんです。何も無いところを見て怯えたり、道を蛇行したり。呪霊がいるからでしょうけど」

「だから夏油様はそんな子どもがいたら相談してくれっていう旨を広報してるんです。新聞とか、掲示板とかに」

「なるほどね……」

 

 夏油は意外としっかり考えてやっているらしい。今度私も新聞を取ってアイツの胡散臭い笑顔でも見てやろうか。

 そのためにもさっさとアイツを見つけないとな。

 

「その住所を教えてくれる?」

「はい。えっと、仙台の……」

「仙台? 今刹那が旅行中じゃなかったっけ?」

「あー……そういえばそんなこと言ってたっけか」

 

 確か『なんか肩の荷が降りたからちょっと遊んでくるわ』とかなんとか言って暫く休みを取っていた気がする。ついでにあの辺の任務も押し付けられていたけど。

 それならば、ということで五条が刹那に連絡する。

 

『もしもし? なんの用?』

「あー刹那? 今仙台だよね?」

『いや、今もう帰ってきて高専の入口だよ』

「そっかー……じゃあ硝子のところまで来て。非常事態発生」

『えっ!?』

 

 電話口から裏返った声が聞こえた。そしてヒールを床に叩きつけるような音が廊下に響いて、私の部屋のドアが勢いよく開かれた。

 随分と楽しんでいたみたいで、お土産の紙袋を腕にたくさん吊り下げている。

 

「何があったの!? あ、これお土産」

「おっ、喜久福じゃーん」

「私のは酒か。ありがと」

「……あれ?夏油のとこの子だ」

 

 視線を向けられた双子がビクリと肩を震わせる。刹那の目付きが少し剣呑としている。非常事態と告げられたからだろうか。

 私は2人の頭に手を置いて、話し始めた。

 

「この子たちが夏油と連絡がつかなくなったらしくてね、それで……」

 

 話を聞いているうちに、刹那の顔色がドンドンと悪くなっていく。温泉でも入っていたのか、血色が良かった肌が青ざめて行く様子は見てられなかった。

 ……しかし何故刹那は夏油のことになると少し心配性になるのだろうか? 別に惚れた腫れたの話ではないことは分かっているが。

 

「ウソ………わ………た。羂……。勝…………」

 

 ブツブツと頭を抱えながら一人言を呟き続けている刹那。やがてその目からポロポロと涙が零れ、嗚咽が漏れ始めた。息も荒くなり、過呼吸に陥っている。私は慌てて背中を擦る。

 

「は、ッ……ハッ…………ぅ、あ……っ」

「刹那、落ち着いて。息を大きく吸って。」

「ふ、…………はぁ、っ、…………っ」

「……いやいや、まだ傑がどうなったか分からないでしょ。そんなに悲観的にならないでよ」

 

 五条も慰めるように刹那の頭を軽く叩く。暫くしたら落ち着いて呼吸が出来るようになったが、疲れたようで気絶してしまった。泣いて寝るとか赤子かよ。

 ともかく刹那が使い物にならないので五条が赴くことになった。『僕に任せなよ』なんて吹かしていたが、アイツも不安なのだろう。少し様子が変だった。

 

 双子は私たちに頭を下げて、『夏油様をどうか見つけてください』と言って帰ってしまった。あっちも随分と泣き腫らしたらしく、目元が真っ赤だったのが印象に残っている。

 

 それから、五条から連絡があった。

 手紙に書いてあった住所から少し離れた山の中で、夏油の残穢が見つかった。

 現場には大量の血痕と激しい戦闘の痕が残されており、解析で血液は夏油のものだと分かってしまった。この量ならばアイツはおそらく生きてはいないだろう。

 

 五条は随分と憔悴している。私も、夜蛾学長もだ。

 先日の双子にこのことを伝えるために私と五条は夏油の作った組織へと向かった。

 

 双子は泣き叫んでいたし、大人組はどうするべきか考えあぐねていた。夏油がいなくなっても保護した子どもたちは確かにそこにいるのだから。

 高専側で保護しようか? と提案もしたが、断られた。私らがどうとかではなく上層部が信用出来ないらしい。私もそう思う。

 夏油がいなくてもそのまま組織の運営は続けるらしい。それが夏油の意志なのだから、と。双子だけはまだ夏油が死んでいることを信じたくないと頭を振っていたが。

 

 ──そして、刹那はあの気絶した日から目を覚まさない。

 外傷はなく、生命活動はしているにも関わらず、意識が戻らない。植物状態のようなものだ。

 だが、脳の機能が停止しているわけでもなかった。まるでそれ以外の……俗に言う『魂』が抜け落ちていると表現すれば良いのだろうか。

 

 呪いではないだろうか。そう思って五条にも六眼でよく見てもらったが、よく分からなかったらしい。術式は確かに存在するので、死んだわけではないだろうと言っていた。

 

 私は病室に横たわる刹那の髪を触る。定期的に頭を洗っているからサラサラで、触り心地が良い。

 でも私は、それを高くまとめあげたいつもの姿が見たいのだ。

 

「早く帰ってこいよ……」

 

 口からポロリと言葉が漏れた。珍しく、感傷的な気分になってしまった。

 

 

 夏油の行方が分かった。奴は殺されてガワを使われていた。

 そして敵は夏油の姿を利用して、五条が封印されてしまった。

 渋谷の騒動で七海も灰原も死んだ。どうして皆死なない程度の傷でこっちに戻ってきてくれないんだ。

 敵によって全国の意識不明者が目を覚ましたというのに、刹那は目を覚まさない。

 虎杖悠仁たちを通して天元様とやらにも聞いてみたが、『因果の外側の者の事は分からない』とだけ。意味がわからない。

 

 あの学年で無事なのは私だけだ。全く、残される身にもなってほしい。そう思うよな、伊地知。

 歌姫先輩に禁煙するって言ったのに、また吸い始めてしまった。

 燻る煙が空へと登っていく。何度目か分からないため息が漏れた。

 

 




■刹那
ループ後どうなってるか考えたけどやっぱり植物人間が妥当かなーということで寝たきり。
目を覚ますことはない。

■家入 硝子
最早未亡人。
この後五条も見送るんだよね……。

■五条 悟
傑とは別の道を歩んだ。
随分大人になりました。

■夏油 傑
手紙の場所に行ったら額に傷のある女性と会った。
別にボロ負けしたわけではなく、相手が自分の痕跡を隠蔽しただけ。

■ミミナナ
実は夏油の皮を被った何かと『縛り』を結ぼうとして殺された。
この世界線ではちゃんと夏油は呪術について教えていたはず。
それが却って命取り。
他のメンバーは真面目に組織の運営してる。ミゲルは母国に帰ってるかも。

那由多の明日はどっちだ

  • しめりけ
  • だいばくはつ
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