【完結】何度やっても君が死ぬ   作:ほほほのほ

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オリジナル技使います。


3.星の瞬き

 夜蛾先生からの鉄拳制裁を受けて、五条はぶすくれていた。

 

「そもそもさぁ、〝帳〟ってそこまで必要? 別に一般人に見られたってよくねぇ?」

「駄目に決まってるだろ」

 

 ああ、身勝手な五条と優等生ちゃんな夏油の言い合いが始まってしまった。

 私は聞き流しつつ硝子に五条のサングラスを貸してもらう。おお、本当に何も見えない。私には無用の長物だね、五条に返そう。

 

 ……五条は論外だけど、夏油の弱者生存には私も全面同意という訳にはいかないかな。

 弱者──非術師は自分が無力だということを知っている。だからこそ厄介なのだ。あれを守るものだとは正直思いたくない。私は何度も迫害されてきたし、殺されたこともあった。

 

 ま、仕事が増えるからアイツらの平穏を守るのは大賛成だけどね。

 さて、そろそろ議論がヒートアップしてきたので硝子と一緒に逃げよう。恐いねー。

 

 ほとぼりが冷めた頃を見計らって教室へ戻る。今回の星漿体護衛任務は五条と夏油だけみたいだ。

 たまに私も指名される時もある。大半は別にそんなことはない。天元様の気紛れだろうか。

 

 私にとって重要なのは最後の同化直前なんだから、任務に参加しようが参加しまいが大して変わらない。任務がある時もあるけど、さっさと終わらせるか最悪バックれる。私にとっては任務より夏油の精神の方が大事に決まってるからね。

 

「じゃあ護衛任務頑張れ〜」

「頑張れよクズ共〜」

 

 硝子と一緒に適当に手を振って見送ってやれば、あちらも手を振り返してくれた。

 これから数日間アイツらと顔を合わせることもない。今のうちにゲームの練習しとこう……。五条がいる間にバレると揶揄われるから嫌なんだ。

 

 与えられた任務をサクッと終わらせた後、私はゲームセンターで1人格ゲーをしていた。このコンボは使えるぞ……!

 一息つこうとカバンの中に入れてるお茶を取ろうとした所で、携帯が鳴った。メール受信の音だ。

 

 送信元は……灰原だ。『先輩! お土産は何がいいですか?』だって。そういえば空港を守るために沖縄にいるのか。

 どうせ五条たちはお土産なんて買って来れないだろうし、灰原に頼んじゃおう。『ちんすこう。出来れば塩入ってるやつね』っと。

 さて、明日の午後に帰ってくるはずだ。こっちも準備しないとね。

 

 ──午後3時、都立呪術高専 筵山麓。

 私は高専結界の境界付近で夏油たちを待っていた。

 

「おっ、刹那じゃん。わざわざお出迎え?」

「うん。2人とも疲れたでしょう。人手は多いに越したことはないはず」

「もう懸賞金は取り下げられたんだから心配ねーっての」

「刹那、その鞄は?」

「秘密兵器その2かな」

「その1はどこいったんだい……」

 

 片手に持ったアタッシュケースに目ざとく気付く夏油。まあこれが効果あるかどうかは分かんないけど、気休めとして持ってきた。

 私は五条たちの後ろに隠れる少女たちに頭を下げる。

 

「初めまして。黒井さんと、理子ちゃん……って呼んでいいのかな? 私は虚枝刹那。コイツらの同級生だよ」

「ま、マトモじゃ……高専とやらは変なやつらの集まりではなかったのか……」

「傑、こいつもっかい絞ろうぜ」

「そうだね」

「おやめ下さい!!」

 

 馬鹿ふたりが妙な動きをしたので理子ちゃんを庇う。コイツらは幼気な少女相手に全くもって容赦がないな。

 

「馬鹿なことしてないでさっさと結界の中に入りなよ」

「そうだね。悟、本当にお疲れ様」

「二度とごめんだ、ガキのお守りは」

 

 ガキがなんか言ってら。理子ちゃんも落ち着いて。

 五条の気が緩んで、今までずっと付けっぱなしだった術式を解いたその瞬間。

 ──どこからともなく現れた男が、五条の腹を刀で貫いた。

 

 ああ、怖い。本当に怖い。天与の暴君め。

 五条が相手をするっていうから私たちは同化優先で、急いで天元様の元へと向かう。

 今頃、五条は死にかけているんだろうなあ。これがきっと正しい選択なのだ。私は最善を尽くしているんだ。誰に言う訳でもない弁解を頭の中で続ける。

 

 ドンドンと高専の奥地へと進んで、黒井さんともお別れする。早くその場を離れるように耳打ちした。これも気休めでしかないけれど。

 

 薨星宮まで辿り着いた。同化ももう目前、というところで、夏油と理子ちゃんがずっと話をしている。私は蚊帳の外。首を突っ込むほど無粋じゃない。

 

「帰ろう、理子ちゃん」

 

 ──私も早く、家に帰りたいな。

 ああ、郷愁のようなものに襲われて、気が散ってしまった。この後の弾丸に備えないと。

 

「……うん!」

 

 ──タン。

 理子ちゃんの頭を正確に狙った鉛玉を、私は呪霊で防いだ。

 状況を理解してしまったようで、理子ちゃんの小さな口から悲鳴が漏れた。その首筋を軽く叩いて、力の抜けた身体を抱えあげた。

 銃を握った男──伏黒甚爾は狙いが外れてしまったことに首を捻った。だが諦める様子は全くない。

 

「アレ? 防がれちまったか。ちゃんと殺さないとな」

「なんで、お前がここにいる?」

「なんでって……あぁ、そういう意味ね」

 

 ──五条悟は俺が殺した。

 

 その言葉を聞き終えるなり、夏油は虹龍を出して伏黒甚爾を殺そうとする。それに私は待ったをかけた。

 どういうつもりだ、と強くこちらを睨みつける夏油は置いといて、片手に持っていたアタッシュケースを伏黒甚爾の方に放り投げた。

 

「キッチリ現ナマ6000万。これを渡すから手を引いてくれない?」

「刹那! 何を言ってるんだ、コイツは悟を……!」

「そう簡単に死なないでしょ、アイツは。それに硝子だっているし。……ねえ、返事は?」

 

 ふむ、と伏黒甚爾は顎に手を当てて、少しだけ考えていた。だがすぐに獰猛な笑みを浮かべる。残念、交渉決裂か。

 

「オマエらを半殺しにして星漿体を殺す。そうすれば俺は9000万貰えるんだから、そうしない手はないよな?」

「ああそう、残念。邪魔してごめんね夏油。やっちゃっていいよ」

「何だったんだ今のは……刹那、理子ちゃんを頼む!」

「任せろー」

 

 夏油の呪霊と伏黒甚爾がぶつかり合う。フィジカルギフテッドの情報開示までして、本気だなあ……。あ、虹龍が捌かれた。カッコよかったのに……。

 

 その間に意識を失った理子ちゃんを抱えたまま、私は告死鳥で飛び上がろうとする。伏黒甚爾はそれに気付き理子ちゃん目掛けて銃を撃つ。でも呪霊に呪力も籠ってない弾丸は意味が無い。ふっかふかの羽毛が理子ちゃんを庇う。

 ならば、と直接こっちに向かってくるが、夏油の呪霊がそれを妨げる。簡易とは言え領域持ちは便利だ。ある程度相手の行動を制限することが出来る。

 

 さっさと高度を上げて逃げないと。このフィジカルだと本当に壁を蹴って飛びかねん。

 空を飛ぶ際の風圧に思わず目を瞑る。しかし、何か──第六感が働いたのか、嫌な予感がしてその目を開く。

 そこには、鈍く光る刀身があった。

 

「げっ……!」

 

 釈魂刀を投げやがった! いくらすると思ってんだよこの呪具。

 思わず引き攣った悲鳴をあげてしまう。コイツに殺された数は両手じゃ数えられないんだよ! このチャート破壊神が!!

 

「…………刹那ッ……!」

 

 夏油の焦り声が聞こえた。世界が緩慢に感じる。死に際によくあるヤツだ。とにかく呪霊を出さないと、いや、でも釈魂刀を防げるやつなんかいない。ヤバい、せめて首だけは──

 

 鋭い刃が、私の腕を滑る。上腕の真ん中辺りを通ったそれは、私の左腕を綺麗に切り落とした。落ちていく腕の綺麗な肉色と白色の断面が見える。

 

「あ゛、いた、……ぅう゛……ッ!」

 

 片腕を無くしたことで重心を崩し、告死鳥から私だけ落ちていく。落下の衝撃は呪力で何とかした。

 切り口からとめどなく血液が流れていく。やばい、失血死しそう。足の太い血管が切られるよりもマシだったけど、こっちも十分ヤバイわ。

 いや、でも理子ちゃんも告死鳥も無事だ。あのまま飛ばせてどこかに避難させよう。

 

 べちゃり、と床に這いずる私はきっと芋虫みたいに醜い。制服の裾をちぎって止血する。

 私の腕を落としたにっくき釈魂刀は伏黒甚爾が受け止めて、夏油は煮付けみたいに切込みを入れられ倒れ伏した。

 そして、当然私の元へ伏黒甚爾はやってくる。呪霊の操作を止めるために、気絶させたいんだろう。

 

「おいおい、あんま手間かけさせんな。さっさと寝てもらおうか」

「まだまだおネムには早いでしょ。呪霊操術──『魚群遊泳(なむらゆうえい)』」

 

 私の術式で、無数の低級呪霊が呼び出される。それらは群れをなし、まるでひとつの生命体のように蠢いていた。

 

「呪霊操術なんか烏合だろ」

「そうだね」

「ん……?」

 

 何体かがあっさりと切り刻まれて塵になる。しかし、すぐに塵から元の姿に戻り、また群れを形成する。

『魚群遊泳』は無条件で取り込めるような低級呪霊たちをなんとか有効活用したくて私が頑張って生み出した技だ。五条たちは疎か、夏油にも教えてない秘密兵器だ。

 

「この術の呪霊たちは互いに連結して群れを成している。どれがひとつが倒されようとも他の連結している呪霊の支援ですぐに復活するよ」

「この量を一気に倒せばいいわけか」

「まあそういうこと。別に倒し続けてても呪力切れで終わりだけどね」

 

 じゃあこんなものは唯の時間稼ぎにしかなんねえよ、と傷跡の残る口元を歪ませる伏黒甚爾。数十秒──いや、数秒しか持たないだろう。だがその時間は、私が死ぬほど求めていたものだ。

 

 あっという間に呪具で祓除されていく呪霊たちを横目に、こっそりと呼び出していた呪霊を私の身体の下に潜り込ませて、思いっきり飛び跳ねさせた。毒々しい模様があるカエルの呪霊だ。

 

「はぁ?」

「じゃあね、依頼失敗ドンマイ!」

 

 飛び上がった私を告死鳥の足が掴み取る。

 そのまま私たちは飛び上がって外へと向かう。もうこの高度まで来たら流石の天与の暴君だって追いつけないだろう。

 

「あー……くそっ、とりあえず戻んねえと……」

 

 下で頭を掻きむしる伏黒甚爾の姿が見える。さて、私もさっとこの場から離れないと。

 足で掴まれてる状態からなんとか腕へと戻ってこれた。ふっかふかの羽毛で落ち着く。もぞもぞと、羽毛が蠢いた。

 

「なんじゃっ! 妾はどうなったのじゃ!?」

「あ、起きたの」

「う、うう虚枝とやら! 状況を説明せよ!」

 

 うーん、何から説明しよう。理子ちゃんへの弾丸を防いで、夏油の尊い犠牲もあってなんとか逃げ出せた、ぐらいでいいかな。

 

「彼奴は死んだのか!?」

「死んでないよ」

「うう……それはよかったが……これからどうすれば……」

「そうだね……うーん」

 

 丁度高専から出た私たち。その下で回復した五条と伏黒甚爾がぶつかり合っているのが見える。これならもう安心だろう。粘った甲斐があったもんだ。

 戦闘に巻き込まれないようにもっと離れないと。

 あ、そうだ。

 

「ねえ理子ちゃん。貴方の暗殺を依頼した人間がボコボコにされる様って見たくない?」

 

 

 盤星教の本部は何回か行ったことがあるので、あっさりと辿り着けた。告死鳥をしまって、死んだフリの理子ちゃんを抱えたままドアを蹴破る。

 

「星漿体はいらんかね。なんちゃって」

「その制服は高専の……!」

「そうだよ。でもガキ1人で3000万なら悪くないよねってことで。秘密だよ」

 

 理子ちゃんを転がす。なるべく優しくね。

 盤星教のお偉方──園田はその姿を見て、感動に打ち震えていた。そして詳しく見ようと顔を覗き込んで──その目が見開かれた。理子ちゃんは、精一杯の変顔をしている。多分女子からは裏切り者認定される具合のやつね。

 驚いているその横っ面に拳を叩き込む。

 

「待て、私は非術師だ。呪術規定を破る気か?」

「呪術規定9条。呪術師は呪術、呪霊または呪物を用いて非術師に危害を加えてはならない、でしょう? 私はこの拳には何の呪力も込めてないよ。だから、規定には引っかからない」

「へ、屁理屈だ……っ」

「それがまかり通るなら私らは非術師のサンドバッグじゃん。じゃ、歯ァ食いしばってね」

 

 園田を理子ちゃんの気が済むまで──いや、『もうやめてあげた方が……』と言うまでボコボコにした。

 私が非力とは言ってもあのゴリラ共基準の話だ。よっぽど鍛えた一般人以外なら呪力なしでもいなせる。

 

 その後も理子ちゃんに手を伸ばす不敬な輩を殴り飛ばしまくる。気絶した信者を尻に敷いていると、五条たちが来た。

 私たちがまさか盤星教の本部にいるとは思わなかったらしく、随分と探したみたい。かなり息が上がってる。

 

「なんでこんなとこにいんだよテメェは!」

「天誅のため。私は理子様の忠実な下僕ですから」

「何を言っておる!」

「これ、どうするんだい……」

「あっちも星漿体に手を出すヤバさを知ってるんだから平気平気。それに呪力使ってないから誤魔化せるよ」

 

 パチンと愛嬌たっぷりのウインクをしたら五条に思いっきり殴られた。酷い。

 夏油が私の左腕に視線を向ける。そういえば切り落とされたんだった。

 

「綺麗に切れたんだからくっつくよ。腕回収したよね?」

「ああ。……それでも謝らせてくれ。君は本来任務には参加してなかったのに……」

「いいよ別に。そんな気にしないでよ」

「いや......」

 

 夏油はやけに食い下がる。五条は何があったか知らないから首を傾げた。

 私は立ち上がって服に着いた埃を手で叩く。

 

「もう疲れたしさっさと帰ろうよ」

「俺全然疲れてねえよ。寧ろもうちょっと動きたい気分」

「なんかハイになってんな…… ……」

 

 高専に戻って硝子の元へ行くと、黒井さんが治療を受けていた。良かった、生きてたんだ。

 伏黒甚爾に殺されかけたけど、ギリギリの所で治療が間に合ったらしい。これで死んでたら限りなく目覚めが悪いので本当に良かった。今回は私反転アウトプット使えないし。

 

 私も硝子に腕を繋げてもらう。本当に綺麗に切れているからあっさりくっついた。まだ違和感はあるし、傷跡は残るらしいけど。別にどうでもいいや。

 夏油はずっと私の腕を気に病んでいるようだった。面倒なので『今後高専在籍中は私のパシリになること』って言ったら苦笑いしながら頷いていた。

 

 星漿体任務は失敗。

 理子ちゃんと黒井さんは監視付きだが元の生活に戻れることになった。他でもない天元様の命だから、誰も表立って文句は言わなかった。

 盤星教は解体。当然だ、流石にやったことがデカすぎた。

 

 うん。理子ちゃんは生き残って元の暮らしに戻れたし、めでたしめでたし。

 

「刹那。──そこに座れ」

 

 待ってください夜蛾先生。私は呪力を使ってません。呪術規定には反してないから何も説教される謂れはないですよ。

 

「そういう問題でもない。……それに盤星教の元まで行く時に呪霊で移動しただろう」

「あっ」

 

 私の頭には大きなタンコブが増え、長時間のお説教で足は使い物にならなくなった。何でこうなるんだよ。

 でも後悔はしていない。天内理子の生存は、夏油生存への第一歩だからね。




■虚枝 刹那
安いもんだ 腕の1本くらい……
欠損させようと思ったけど乗っ取る時不利なのでやめました。
ターニングポイント1つ通過。
頑張ってオリジナル技生み出したけどあれ別にあんま強くない。

■天内 理子 &黒井美里
かわいい。変顔下手そう。
元の生活に戻れてよかったね。

■夏油 傑
傷跡残るのはちょっと申し訳ない。
暫く気まずそうにしてるけどパシリの頻度多すぎてキレてからそういう素振りは見せなくなった。

■五条 悟
最高にハイってやつだ。
天上天下唯我独尊。
刹那の腕が切れたのも割とどうでもいい。くっついたんだから良くねー?

評価、感想、お気に入りありがとうございます。
色々とガバガバなのでご指摘いただけると幸いです。

那由多の明日はどっちだ

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  • だいばくはつ
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