【完結】何度やっても君が死ぬ   作:ほほほのほ

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パパ黒に殺された回。せっかくなので護衛任務に指名されたバージョンも書きたかった。


*夭殤・落果

「え、私もですか?」

「ああ。天元様のご指名だ」

 

 原作では五条と夏油の2人が指名された星漿体護衛任務。それに私も入っていた。

 今まで私は呪霊に殺されたり、片田舎に生まれて非術師の親に殺されたり、男尊女卑の術師家系に生まれて家の中で一生を終えたりと散々だったので、高専に来れたのは初めてだ。

 やっと夏油たちと関わりを持てて安心していた。そしてこの任務に抜擢されたということは──神は言っている! 私に伏黒甚爾の凶弾から理子ちゃんを助けろと!

 

 ──あとから思えば私は随分と調子に乗っていたんだろう。夏油生存のための1歩を漸く踏み出せて、その重要な分岐路である護衛任務に関われて。

 過去編では伏黒甚爾による死者は理子ちゃんと恐らく黒井さんだけ。五条は反転で生き残ったし、夏油は呪霊操術のおかげで殺されずにすんだ。だから私は見誤っていたんだ。あの天与の暴君のことを、舐めていた。

 

 

 

 呪詛師をボコボコにして、五条たちが理子ちゃんを雑巾絞りにしているさまを私はついボーッとしながら見ていた。理子ちゃんの悲鳴と黒井さんの制止で正気を取り戻し、慌てて2人を止める。

 ちゃんと地面に立った理子ちゃんたちに、私は頭を下げた。

 

「私は末葉刹那(すえばせつな)、よろしくね! 理子ちゃん、黒井さん」

「よろしくなのじゃ!」

「よろしくお願いします」

 

 理子ちゃんは尊大な態度をとっているけど年頃の女の子って感じで可愛いし、黒井さんも実際に見るととても30代とは思えないほど若く見える。

 漫画で見たキャラが3次元にいる物珍しさに私は慣れていなくて、ミーハー心がウズウズしていた。五条たちと初めて会った日もそんな感じで、不審者を見る目で見られたのはよく覚えている。

 

 理子ちゃんが学校へ行き、私たち4人は学校の敷地内で待機。五条は文句を言ってるけど、それを夏油が諌める。いいコンビだよね、本当に。

 

「悟、刹那。急いで理子ちゃんの所へ」

「あ?」

「2体祓われた」

 

 ピリ、と緊張が走る。呪霊が祓われたってことは、呪詛師が学内に侵入したってことだ。えっと、この後どうなるんだっけ? あんまり覚えてないな......。

 

 私たちは黒井さんに案内されながら廊下を走る。五条と黒井さんと別れて私たちは別の道へ。途中でやってきた呪詛師は夏油があっさり倒した。近接も強いのってズルくない?

 その後は黒井さんとも合流。五条は理子ちゃんと一緒に逃げてるみたい。あの人の戦い方は色々と巻き込むからなあ...。

 

「万が一ということもあります!! お2人が先にお嬢様の所へ!!」

「はい!」

「分かりました」

 

 黒井さんの言葉に従って夏油と来たけど、何か忘れている気がする。......あっ! この後黒井さん誘拐されるんだった!

 

「夏油、ゴメン。やっぱ嫌な予感がするから黒井さんの所に戻るね!」

「刹那!?」

 

 引き返して黒井さんの元まで走る。背後から夏油の焦ったような声が聞こえてくるけど気にしない。

 私は自分に出来る最高速で帰ってきたけどその場にはもう誰もいなかった。しまった、何で忘れてたんだろう。暫く読んでないから記憶が薄れてきちゃってるのかな。

 

 仕方ないので夏油たちの元へ行く。そしたらもう縛られた黒井さんのメールが届いていた。

 

「すまない、私のミスだ」

「いや、私のせいだよ。引き返すのが遅かった......!」

 

 私が、いや私が、なんてやり取りをしていると五条から『無駄なやり取りしてんじゃねーよ』と突っ込みが入った。確かに起きてしまったことは仕方が無いので、さっさと切り替えて助けにいこう。

 

 ──────

 

『めんそーれー!』

 

 私たちは無事に黒井さんを救出して、沖縄の海を楽しんでいた。水着を買うなんてこの世界に生まれ落ちてからは初めてだったので、理子ちゃんと黒井さんに一緒に考えてもらった。......すごく楽しい。

 

「ブハハハハハ!! ナマコ!! ナマコ!!」

「キモッ!! キモなのじゃー!!」

「ふっふっふ。実はナマコって美味しいんだよ。食べたことある」

「刹那こんなの食べんの? お前もキモいじゃーん!!」

「キモ刹那じゃー!!」

「何だとコラァ!」

 

 揶揄ってくる2人に海水を思い切りかける。五条は無下限のせいでかかんなかったけど、理子ちゃんの顔面にはクリーンヒット。お返しとばかりにヒトデを投げつけてきた。やめんかい!

 

 五条の提案もあって、私たちは沖縄にもう少し滞在できるようになった。空港で頑張ってる七海や灰原には悪いけど、思う存分楽しませてもらおう。

 カヌーを漕いで、ソーキそばを食べて、水族館にも行った。大きな水槽で泳ぐ魚は生き生きとしていて美しい。理子ちゃんもその迫力にすっかり見入っていた。

 

 ああ、本当に楽しい。この世界に生まれて、初めてかも。こんなに楽しかったの。じわりと出てきた涙が零れないように目をかっぴらいて乾かした。泣いてるのバレたら恥ずかしいし。

 

 飛行機に乗って、私たちは東京への帰路へつく。理子ちゃんは遊び疲れて座席でスヤスヤと寝息を立てていた。黒井さんはそれを慈悲深い眼差しで見守っている。

 私は理子ちゃんに会う前にした、五条達との話し合いを思い出す。

 

『え? 星漿体が拒んだら同化はなし?』

『うん。私と悟で決めたから』

『私は!?』

『お前は弱いから別にどうでもいいだろ』

『ひど......』

 

 原作を読んでいたから理子ちゃんがどちらを選ぶのかは分かっている。私も、この数日ですっかり情が湧いてしまった。ヘアバンドを付けた理子ちゃんの頭を優しく撫でる。どうか、この命を守りきることが出来ますように。

 

 高専に戻ってきてすぐ、五条が刺された。でも大丈夫。このあと五条は反転術式を会得して復活するから。

 私たちは天元様の元へと急ぐ。黒井さんと別れて、薨星宮まで辿り着いた。

 夏油は選択肢を示した。このまま同化するのか、それとも引き返して家へ帰るのか。

 

「もっと皆と......一緒にいたい。もっと皆と色んな所に行って、色んな物を見て......もっと!!」

 

 理子ちゃんの目から大粒の涙が零れる。鼻水も流れて、せっかくの可愛い顔が台無しだ。

 私もそれに釣られて、涙が溢れる。

 

「私も、理子ちゃんともっと一緒に遊びたいよ!!」

「刹那ぁ......!」

 

 鼻が詰まって変な声になってたかも。私たちは顔面がグチャグチャのまま泣き喚く。落ち着くまで、夏油はそれを暖かく見ていてくれていた。

 

「帰ろう、理子ちゃん」

「......うん!」

 

 理子ちゃんが夏油の手を取ろうとした瞬間。理子ちゃんの頭目掛けて放たれた弾丸を、私は呪力を込めた掌で受け止める。

 

「......無粋だよ!」

「よく分かったな。中々やる奴もいるもんだ」

 

 いや、別に私は伏黒甚爾の気配を察知出来たわけじゃない。頭の側面に来るって分かってたから受け止めきれただけだ。なんだか勘違いされてる気がする。

 

「刹那! 理子ちゃんを頼む!」

「分かった! 理子ちゃん、早く逃げよう!」

「え、でも......!」

 

 夏油の方を見る理子ちゃん。ここに伏黒甚爾がいるってことは五条が敗れたということ。夏油を残していくのは不安らしい。

 

「大丈夫だよ! 夏油は強いもん!」

 

 私は平然とした顔で嘘をつく。夏油も伏黒甚爾に負ける。でも、なるべく不安にさせないように取り繕った。

 理子ちゃんを担いで急いでエレベーターまで行く。その道中に、何かが倒れていた。

 

「黒井......!?」

「まだ、生きてる! 大丈夫だよ理子ちゃん!」

 

 血塗れになった黒井さんだ。いや、でもまだ息がある。最低限の止血をして、私は2人をエレベーターに押し込んだ。

 

「ボブカットの女の人......家入硝子って子がいるからその人を呼んで。治療してくれるはずだから!」

「刹那は!?」

「私は夏油に加勢する!」

「分かった! 絶対無事で帰ってきてね!!」

「うん!」

 

 上昇していくエレベーターに背を向けて、私はさっきの場所へとまた走る。夏油、まだ無事かな...!

 私は戻った時、夏油は伏黒甚爾の武器庫呪霊に手を伸ばしていた。取り込もうとしている!

 

「夏油、駄目!」

「なっ......!」

 

 何かに弾かれたように夏油の腕は激しく反る。その隙を見逃すほど敵も馬鹿じゃない。武器庫呪霊が吐き出した刀を握って、夏油を切りつけようとした。

 私は地面を蹴って夏油の懐へと飛び込む。私と夏油は揉みくちゃになってゴロゴロと転がった。背中が少し切られて少し熱いけど、傷は浅い。まだ戦える。

 

「すまない、まさか取り込めないとは思わなかった」

「いや、全然大丈夫!」

 

 共同戦線を張るために、瓦礫に呪力を込める。まるで私の手足のようにスイスイと動かして、伏黒甚爾へとぶつけた。あっさり全部砕かれてしまった。

 

「そっちのガキは呪霊操術じゃねえな?」

「うん、私の術式は『念動操術』。その辺の非生物を自由に動かせるんだよ」

 

 術式開示で効果を高める。相手は天与の暴君だ、油断は出来ないぞ。

 ──傀儡操術に比べて精密に動かすことは出来ないし、範囲もかなり狭いけど、わざわざ傀儡や呪骸を準備する必要がないのはこの術式の利点だ。この辺には動かせそうな瓦礫がさっきの戦闘の余波で大量にあるし、最悪床を叩き割って作ろう。

 

 夏油が呪霊で、私が瓦礫で。物量で攻めれば伏黒甚爾はきっと劣勢になるはずだ。そのうち庇い切れずに怪我をして、そのまま倒し切れるはず。

 呪霊を切った瞬間を狙って、瓦礫の山で押し潰した。

 

 ──いける!

 なんて、甘っちょろいことを考えていた私の目の前に、牙を向いた猛獣は現れた。

 

「......あ」

「油断しすぎだろ」

「刹那っ!」

 

 私の喉に、冷たい刃が突き立てられる。息をしようとして、ブクブクと血が泡立った。上手く、呼吸が出来ない。

 

「ガぼ、ぁ、......え゛?」

「じゃあな」

 

 私は痛みに支配されて、頭が真っ白になる。喉から抜かれた刃が何度も私の胴体を貫いて、身体が熱くなった。急所となる肝臓も的確にやられてる。たすかんないかも、なんて、ちょっとひとごとみたいにかんがえちゃった。

 

 私のからだがグラりと揺れて、床にべちゃりと倒れ込む。あ、夏油もやられちゃった。りこちゃん、ちゃんと逃げられたかな、大丈夫かな。

 なんだか身体が冷たくなってきた。え、私死ぬの?

 

「ゃ、あ゛......じに、だく......かハッ゛......」

 

 だって、やっと高専に来れたのに。やっと、やっと五条と、夏油と、硝子と、夜蛾先生と、七海と、灰原と、歌姫先輩と、冥さんと。そして、理子ちゃんと黒井さんと仲良くなれたのに。こんなの、あんまりだ。ゲポッと嫌な音がして、大量の血液が口から吐き出される。

 

 立ち上がろうと地面に爪を立てる。力を込めすぎたのか、生爪が剥がれた。いたい、いたいよ。

 次第に力も抜けて、身体が上手く動かなくなっていく。だれか、たすけ────

 

 

「............は、......ッ!」

 

 私は、目を覚ました。ループしたんだ。視界に映る手のひらが記憶より小さい。

 

「あ、あぁぁぁ......!! う、ぐ......っ!」

 

 ......ってことは私は死んだんだ。身体の震えが止まらない。呪霊に殺されるのとも、ただの人間に殺されるのともまた違う恐怖を味わった。猛獣に生きたまま頭を噛み砕かれるようなおぞましさ。

 怖い、怖いよ......私、もうあの人と会いたくない!

 急に泣き出し始めた娘を心配して、母親と思しき女性が私を抱き寄せる。その胸に縋り付いて、散々泣き喚き続けた。

 

 

 

 

 高専の手術室で、台に横たえられた女性の遺体。その顔は苦悶に塗れていて、未練を感じさせる。家入硝子はそっとその瞼を閉じさせ、白い布をかけた。

 遺体を囲むようにして、何人かが暗い顔で立っていた。その中でも夏油はより一層暗い顔をしている。

 

「刹那......」

 

 自分があの男に殺されなかったのは術式のおかげだ。天内理子も、黒井美里も、末葉刹那も殺された。もう少し、自分に力があれば、この命たちを救えたかもしれない。無力感で握りしめていた手の力が増す。

 

 ──何が、最強だ。

 五条悟は死に際で呪力の核心を掴み、〝最強〟になった。なのに、自分は。

 そして、あの日から。天内理子の遺体を前に拍手する醜い非術師たちの姿が頭から離れない。

 そして、あの日から。夏油はずっと夢を見る。死ぬ直前の姿の刹那が、自分を責め立てる夢を。

 

『どうして、助けてくれなかったの? 夏油は、私なんかより強いのに』

 

 自分の弱さへの絶望。そして非術師への嫌悪感が芽を出して、少しずつ育っていく。立て続けに嫌なことは起きる。

 後輩の死、知ってしまった呪霊発生の仕組み。

 

 任務で赴いた村での双子への迫害を見て──夏油の何かが音を立てて切れた。もう、呪術師ではいられない。制服についていたボタンを毟り取って、手で握りつぶす。

 

 ──夏油傑は呪詛師になった。




■末葉 刹那
パパ黒が暫くトラウマになった。
まだ経験が浅いので心なしか若々しい。
浮かれているとも言う。

■夏油 傑
本編より精神状態が悪化してる気がする。


閑話のネタが本編終わるまでに尽きる気がするよ。
評価や感想も、待ってるで......

那由多の明日はどっちだ

  • しめりけ
  • だいばくはつ
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