【完結】何度やっても君が死ぬ   作:ほほほのほ

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4.華発・落実

『ねえねえ、この間貸した漫画読んでくれた?』

『ああ、呪術廻戦でしょ? もう全巻読んだから持ってきたよ』

『はやーっ! 気に入ったならあげるよ! 私もう1セット買い直す!』

『いや、流石にいいよ......また今度自分で買うよ』

 

 これは、夢だ。私がこの世界に来る前の。久しぶりに見たな。

 高専の机が4個しかない小さな教室じゃなくて、ちゃんと何十個も机と椅子が並べられた大きな教室。その窓側の席の前後に元の姿の私(・・・・・)と友達は座っていた。

 

 目の前の友達は顔がぼやけていて、よく見えない。声もくぐもっていて、こんな声だったっけ? こっちの世界に来た頃はもっとはっきり覚えていたのに。

 

 ぼーっとしている意識とは裏腹に、身体は勝手に動く。口から私の意に反して言葉が紡がれた。過去の焼き直しだ。それも今回は、私が別の世界に落とされる直前の。

 

『でさあ! 刹那は誰が好き? 虎杖? それとも五条先生? 伏黒?』

『んー......夏油かな』

『そうきたかぁー!! うん、ちょっと予想外』

 

 友達は予想が外れてちょっと悔しそうにしている。いつもコイツは漫画を進める度に私の気に入るキャラを予想するけど、毎回当たらないんだよね。見る目がないって認めたらいいのに。

 

『なんかさ......可哀想じゃん。親友と仲違いして死んじゃって、その後も羂索......だっけ? に利用されてさあ』

『うんうんうん、わかるわかる! 今度0も私のサブスクで見せてあげるよ!』

『ありがと。でもそれ最後に夏油死ぬよね? 救いが欲しいよ救いがー!』

『うーん......あ、そうだ! そんなに夏油好きならさ、生存ifの小説とか漫画見たらいいじゃん!』

『生存if?』

 

 友達はスカートのポッケからスマホを出して、両手で急いで操作する。そして私に画面をぐい、と押し付けるように見せてきた。

 そこに写っていたのは多分ファンが描いた絵。高専生じゃなくて大人の姿の夏油が大人の五条と一緒に楽しく話してる。

 

『何これ』

『二次創作ってやつだよ! このサイトとか、こっちのサイトも! 刹那は小説の方が好きだっけ? まあ調べたらいっぱい出てくるから。リンク送ったげるね』

『帰ったら見てみるわ。漁り尽くすぞ〜』

 

 ムーと振動するスマホを手に取って、メッセージアプリを開く。送信元の名前は文字化けしていて読めなかった。

 

『じゃあ帰ろっか!』

『うん』

 

 立ち上がったところで、友達の姿は少しずつ霞んでいく。

 

「待って」

 

 口から〝私〟の言葉が出たことで、やっと自発的に動けることに気付いた。自由になった身体で友達の腕を掴もうと腕を伸ばす。

 

「置いていかないで」

 

 でも駄目だ。手にはなんの感触も残らないまま、彼女は煙のようになって私の目の前から消えていく。私だけが夕日の差す教室に残された。

 

 呆然とする私を他所に、どんどん日は落ちて、真っ暗になる。月も、星の1つも見えないほどの暗闇。気付けば教室なんかじゃない、別の場所に立っていた。足元が泥のように粘ついている。

 

 べちゃり、と何かが落ちる音がする。振り向くと、落下して身体がひしゃげた私がいた。またべちゃりと音がした。片腕のない夏油がいた。

 ずっと、ずっと床へと何かが叩きつけられている。心臓は苦しくなるぐらい動いていたけど、頭は嫌に冷静だった。そして、影がさす。私の頭上から何かが近づいてきて──

 

「...い、......な。......刹那!」

「......ぁ」

 

 身体が揺さぶられる感覚で目が覚めた。眼前には五条。顔面の圧が強すぎる男が目と鼻の先にいて思わず飛び退く。

 

「刹那、大丈夫かい? 随分魘されていたけど......」

「へ、いき。うん、大丈夫だよ」

「居眠りなんて珍しいね」

 

 夏油と硝子が心配そうに私を見ている。心臓は未だに少しだけうるさいけど、それだけ。何も問題はない。

 

「なあ、刹那も起きたんだしさっさと校庭いこーぜ!」

「え? どういうこと?」

「悟が試したいことがあるらしい」

 

 ああ、五条の術式のお披露目か。

 

 ──あれから、早いもので1年が経った。

 五条が死に際に掴んだ呪力の核心。それによって術式の理解が深まったらしく、ずーっと術式を弄り回していた。それが身を結んだらしく、こうして見せてみようということだ。

 

「いっくよー」

 

 夏油が消しゴムを、硝子がペンを五条目掛けて投げる。先の鋭いペンは術式に阻まれて、当たっても痛くない消しゴムは五条の額にぶつかって跳ねた。

 

 私は五条の背後から筆箱の中身をランダムに投げつける。

 やっぱり危険度の高いものだけがピタリと止まり、他の物はポンポンと五条へ当たる。

 

「うん、いけるね」

「げ、何今の」

「術式対象の自動選択か?」

「そ!」

「よくやるわホント......」

 

 上手くいったからか、上機嫌なご様子で五条は話し始める。術式のオートマ化から掌印の省略、反転術式を活用した脳の焼切れ防止。その他諸々を1年でやって見せたのはやはり才能か。

 

「......じゃあさ、模擬戦しようよ」

「はぁ? 俺とお前で? 無理無理、勝てねえだろ」

「私じゃ無理だよ。夏油と五条でね」

「いや──」

 

 五条は一瞬何かを言おうとして、夏油を一瞥したあとすぐにやめた。かつて肩を並べた筈の夏油も、最早敵ではないみたいなこと言おうとしたんだろう。それを夏油の心情を慮って止めた。夏油の教育がちゃんと実を結んでるなあ......。

 

「先生から許可は取ってるから。もう少し広い場所にいこう」

 

 辺りには山ばかりで何も無い高専所有の修練所。そこで五条と夏油は向かい合っていた。私と硝子はちょっと離れたところで見学。まだ死にたくないからね。

 

「じゃ、無下限切るぞ」

「切らなくていい」

「え?」

「全力で頼む。君と並び立つためにこの1年、私が何もしていなかったわけじゃないんだ」

「......でも」

「悟」

 

 夏油の真剣な眼差しに気圧されて五条も渋々無下限呪術を使う。そして両者は拳を構えた。

 

 私が帳を下ろし終わるのが開始の合図だと言ってあるので準備を進める。1人だとどうしても範囲を広げるのが難しいので硝子にも協力してもらったし、呪符も使う。

 

「『闇より出てて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え』」

 

 広大な修練所の隅から隅まで、全てを包み込む暗闇が下りていく。帳が地に着いた瞬間、夏油は地面を蹴り、無数の呪霊を呼び出した。呪霊たちは五条に襲いかかるが、ただの有象無象だ、そう判断して夏油の方へ注力する。

 ──五条の六眼が、夏油を覆う呪力を詳らかにした。

 

「傑! これは──」

 

 夏油の振るう拳は無下限に阻まれたように見えた。しかし、拳はゴリ、と音を立ててその壁を無理矢理押し退けていく。

 

「どういうこと? 五条の無下限が......」

「ふふふ、これはね──」

 

 私と五条の声が重なる。

 

「『領域展延』!」

 

 ──時は1年前、護衛任務の直後に遡る。

 

「五条のやつ、浮かれてるね」

「無理もない、呪力の核心を掴んだんだろう。悟にとって初めてしてやられたからね、その分成長したんだ」

「そっか」

 

 夏油の顔色は暗い。親友と少しずつ力量が離れていくことに焦りを感じているのか、それともあの男に為す術もなくやられたことを気にしているのか。

 

「ま、あっちはあっちでやってんならさ、こっちで好き勝手やりましょー」

「はは、でも私に何が......」

「私は無下限を破る方法を知っている」

「......え?」

 

 夏油の目の色が変わる。今まであの術が破られたことは先日の『天逆鉾』以外ではなかったことだ。

 

「どう、やって? いや、刹那は何故それを? そもそもそれなら何故──」

 

 矢継ぎ早に質問を繰り返す夏油の口を指で塞ぐ。

 

「情報の出処は秘密だよ。そして今の私には出来ないし、出来ても活用は出来ない。だから夏油に習得してもらいたいの」

 

 領域展延は自身の身体に膜のように領域を展開する行為。

 あえて何の効果もない空っぽの領域に相手の術式を流し込ませて中和する。これなら五条の無下限を突破することが出来る。

 

 展延中は自由に動けるけど生得術式が使用できないから、攻撃は物理攻撃のみに限られてしまう。私は体術はそんなに強くないからあんまり意味が無い。

 でも夏油は違う。その恵まれた体躯、格闘技への造詣の深さ。五条にも匹敵するフィジカルで展延をフル活用出来る。

 

「待て、それじゃあ領域展開が前提じゃないのか。それなら最初から領域展開をすれば......」

「あんまりオススメ出来ないかな。御三家嫡男が領域対策してないとは考えにくいし。それに私たちがこうしている間に五条が領域展開を会得する可能性は大いにある。あの異常な呪力量の五条相手に領域の押し合いで勝てると思う?」

「うぐっ......そもそも! 私は領域展開出来ないから、無理じゃないか?」

「まあね。でもそこを頑張らないと五条に勝てないよ」

 

 ね? と挑発するように見れば、夏油は諦めたように笑った。

 

「......まさかここまで言っておいて君は領域展開出来ないなんてことはないよね?」

「無理だけど?」

「はぁ?」

 

 散々好き放題言っておいて何だが私は領域展開は出来ない。

 夏油の機嫌が急降下していく。なんなら青筋も立ってる。怖っ。

 

「でも教えることは出来るよ。私、そういうの意外と上手いからね」

 

 なんてったって元教師だよ。生徒からの評判も上々。

 

「で、その前に〝縛り〟を結んでもいい?」

「......内容は?」

「私がこれから話すことについて、『情報源を調べようとしないで』。そして『私が話したこと、その情報源が私であることを誰にも言わないで』。まあ別に私が協力してくれたんだ〜ぐらいならいいけどね」

「......『分かった』。それぐらいなら構わないよ」

 

 もしも上層部にこの情報が漏れると面倒なことになりそうだからね。縛りが成立したことを確認して、私は少しずつ話し始めた。

 

 領域展開が現代において希少な技術となっているのは『必中必殺』に拘っているからだ。『必中』だけに絞れば会得までのハードルは下がるはず。実際に私も前回の領域展開は必中だけだった。これもまあ五条程の才能があれば別だが。

 出来る限り領域展開を短期間で会得して、その後すぐに展延の操作に移りたい。難易度は下げれるだけ下げておこう。必殺効果がなくなった分展延の効果が落ちるかもしれないが、出来ないよりはマシだろう。

 

「なんでそんなことを知ってるんだ......」

「秘密だってば。それよりもまずやることを教えるよ」

「わかった、もう何も言わないよ。で、何をすればいい?」

「掌印を考えよう」

「......突っ込んだ方がいい?」

 

 いや、まるで漫画に出てきた技の自分版を考えるようなアホっぽい行為だけど、効果は実際あるのだ。私調べ。

 生得領域ってのは私たちが生まれながらに持つ心象風景。それをこの世界に呪力で具現化させるのが『領域展開』。それを補助する『掌印』。全部繋がってるわけだ。

 

 だから適当なポーズを取ってみても『あれ? なんかこれは違うな...』とか『これは近いかも』って言うのが感覚で分かるんだよね。自分の領域展開の掌印が分かれば領域展開に1歩近づくってワケだ。

 

「なるほど......うーん......こうか......? いや、違うな」

「頑張れ!」

 

 ああでもないこうでもないと腕をワサワサ動かす夏油。面白いのでこっそり動画を撮っておく。

 しばらくすればなんとなく固まったらしい。親指と人差し指で輪を作り、他の指は緩やかに伸ばす。片腕は上げ、もう片方は下げる。うん、上品下生の来迎印だ。

 

「すごくしっくりくる気がする......」

「じゃあそれがきっと夏油の領域展開の掌印だね」

 

 それから術式の理解を深めるために大呪霊大会を開催したり、領域持ちの呪霊と模擬戦したり、色々しているうちに半年が立った。

 

 そして夏油はやや歪つではあるが、領域展開を覚えたのだ。実質教え子の花開く瞬間、非常に感慨深かった。

 そこからはひたすら展延の練習。水のように領域を操らないといけない。夏油のキレキレの動きに領域を合わせるのが難しかったらしい。

 

 ──そして、今に至る......というわけだ。

 

「そういえばしょっちゅう2人で寮抜け出してたね」

「うん、どうしても広い場所を使った方がいいからさー」

 

 穏やかに話している私たちとは対照的に、戦場の方は苛烈であった。

 呪霊は直接攻撃はしないものの、五条の視界を遮ったり、動きを阻害するように動く。その隙間を縫って夏油の鋭い手刀やら蹴りが襲いかかってくる。

 領域展延中は生得術式が使えなくなるんだけど呪霊操術なら先に出しておけば自由に出来るとはねー......精密な制御は出来なくなるけど、簡単な命令なら先にしておけばいいし。

 

 五条もいい加減鬱陶しくなったのか、呪霊を蒼やら赫で薙ぎ払う。でもそうすれば夏油は距離を取って展延を解除、もう一度呪霊をばら撒く。ああ、周りの山が更地になっていく......。

 

「ああクソ!! チマチマやんのも面倒くせぇ!」

「私を狙えば良いんだよ? そう簡単には死んでやらないさ」

「言ったな?」

 

 サングラスをその辺に投げ捨てる五条。そしてニヤリと笑って腕を構えた。......あの構えは!

 

「死ぬんじゃねぇよ。──虚式『茈』」

 

 順転と反転、2つの無限を衝突させることで仮想の質量を生み出し、押し出す五条家の秘技! 流石にこれは展延でも防ぎきれない。一体どうするんだ夏油!

 

「いつまでも刹那に教えて貰ってる訳にはいかないからね。私だって自分で色々と考えたんだ」

 

 夏油は展延を解いた。そして、呪霊を出す。だが、ただの呪霊で茈が止められるわけない。

 呪霊たちが捻れ、圧縮され、ひとつの大きな塊へと再形成されていく。悍ましくも見えるその肉塊は、圧倒的な呪力を放っていた。

 

「呪霊操術 極ノ番『うずまき』」

「いつの間に......!」

 

 私が見ていない間にアイツ極ノ番習得していやがった! 私に教えろよ!!

 

 仮想の質量と呪霊の塊がぶつかり合い、爆ぜる。爆風によって土埃が舞い、現場の様子が見えなくなる。どうなったんだ?

 

 煙が晴れ、中の様子がやっと覗ける。そこには、夏油と五条が立っていた。

 夏油の拳が、五条に受け止められている。触れている。無下限を突破したのだ。

 

「悟。君に、届いただろう......」

 

 そうポツリと呟いて、夏油は地面に崩れ落ちる。呪力切れだなアレは。

 模擬戦は終わりだ。さっさと夏油を回収しないと。




戦闘描写ムズいっす。これが限界。
今回ガバい所多いと思います。一応単行本片手にやってるんですけど漏れありそう。
展延と呪霊操術が一緒に出来るのはかなり希望的観測です。

■虚枝 刹那
教えるのが上手いのは出来ない自分と出来る自分を比較できるから。
何が足りないのかが分かりやすい。

■夏油 傑&五条 悟
一皮剥けた。
掌印はどうしようかと思ったけど70話の扉絵採用。
名前は考えてません!

■家入 硝子
なんかコイツらコソコソやってんなあとは思ってた。
別に深堀しなくてもいつか教えてくれるでしょ、なスタンス。

■夜蛾 正道
訓練の許可は出したが更地にしていいとは言ってない。

毎日更新そろそろ無理そう。
なんか勝手に文字数が増えていく...

那由多の明日はどっちだ

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