【完結】何度やっても君が死ぬ   作:ほほほのほ

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呪詛師堕ち編。


*狂濤

 夏油傑が村の非術師を皆殺しにし、呪詛師に認定された。

 私は珍しく、硝子から煙草を1本貰って東京の喫煙所で吸っていた。そうでもしないと心が落ち着かなかったのだ。

 

 村の任務に同行するつもりだったのに、何故か嫌がらせのように立て続けに別の任務が入った。クソッタレ。別に私が同行してても呪詛師になる時間が少し遅かっただけかもしれないと分かっていても歯痒い。

 

 硝子のためにいつも懐に入れてるライターで火を付けて、煙草を口に含む。この身体では吸い慣れてないから、煙が肺に入ってくる感覚で思い切り咳き込んでしまった。周りからは未成年の癖にいきがって慣れない煙草を始めた図に見えるのだろう。心做しか視線が冷たい。

 

 涙目になった目をハンカチで抑える。ほとんど長さが変わってない煙草を携帯灰皿に押し付けて、もう帰ろうと踵を返す。

 

「や、刹那」

 

 丁度振り返った目の前。黒いスウェットを来た夏油が立っていた。

 

「おお、犯罪者だ。元気?」

「見ての通りだよ」

「あっそ」

 

 呪詛師になる直前に瞼にくっきり染み付いていた隈が少し薄くなっている。元気そうでなによりです。

 夏油は薄い笑いを浮かべながら、私の手にあるソレを指差した。

 

「煙草なんて珍しいね。似合ってないよ」

「うるさい。で、何の用?」

「運試しってとこかな」

「アンタそれ硝子にもやったんでしょ? 好きだね。ギャンブル中毒なのかな?」

「好き勝手言ってくれるじゃないか」

 

 夏油はクックッと笑いを漏らす。こうしていると非術師を100人も呪殺したようには到底見えない。唯の気の良さそうな兄ちゃんだ。

 

「あのさあ、戻ってくる気はないの?」

 

 駄目元で聞いてみた。夏油は首を横に振る。

 

「もう私は、非術師(さる)のためには動けないよ。寧ろ、刹那こそこっちに来たら?」

「......そうだね」

「え?」

 

 慌てて口を抑える。今、私なんて言った? 提案者の夏油ですら驚いて呆けている。

 

「私も、非術師なんて好きじゃない」

 

 口にした言葉は、まるで劇薬のように私の身体に染み渡る。今まで受けてきた数々の仕打ち。何度も見た盤星教の拍手の音。何度やっても呪詛師になる夏油。

 私、きっと疲れてるんだ。だからこんな、馬鹿なことを口走っちゃってるんだよ。

 

「何でアイツらのために私たちが戦わなくちゃいけないの?」

 

 ドロリとした感情が、私にしがみついて離れない。違う、こんなことが言いたいんじゃない。夏油を説得しないと、呪詛師のままだったら夏油が死んじゃう。

 

 ──今まで真面目にやってきたんだからさ、少しぐらいいいじゃん。もしかしたら、この方法でも夏油は生き残るかもしれないよ?

 悪魔の囁き。私の耳元で、私が囁いた。

 

「夏油、私も連れて行ってよ」

 

 ──────

 

 2007年 ■月■日

 些眇 刹那(さびょう せつな) 準1級術師が失踪。

 捜索中、些眇刹那の両親の死亡を確認。残穢より些眇刹那による犯行と断定。

 呪術規定9条に基づき呪詛師として処刑対象に認定。

 夏油傑との関係も現在調査中。

 

「クソ、クソ! どいつもこいつも......!」

 

 五条は苛立ちのままに頭を掻き毟る。

 

 五条は硝子から『夏油がいた』と連絡があって、急いで新宿へ向かった。そこに、彼の親友はいた。級友を連れ立って歩いていた。

 

『あ、五条だ』

『説明しろ、傑。あと刹那、オマエもなんでそっちにいる?』

『私の話は硝子から聞いただろ? それ以上でもそれ以下でもないさ』

『私はね、夏油について行ってあげようと思って』

 

 ほら、そっちが五条と硝子、こっちが夏油と私で丁度いいでしょ、なんておどけてみせる刹那に、五条は怒りを露わにする。

 

『ふざけんなよ......遊びじゃねえんだぞ』

『うん、遊びじゃないよ』

『術師以外殺すってか!? 親も!?』

『親だけ特別ってわけにはいかないだろ。それに私の家族はあの人達だけじゃない』

『あとで紹介してよ』

『うん、後でね』

 

 五条の頭はもうぐちゃぐちゃだった。それから問答を続けても、何も得るものはなかった。〝呪詛師〟を始末しようとして、掌印を結ぶ。

 

『殺したければ殺せ。それには意味がある』

 

 振り返って無防備に背中を見せる夏油。軽く手を振ってそれについて行く刹那。そこに術式をぶつけるのは簡単だった。

 しかし、五条は手を下ろす。いつの間にか、2人の姿は雑踏の中に消えていた。

 

 項垂れる五条に夜蛾は声をかける。なぜ追わなかったのか、なんて自分が聞きたいくらいだと五条は不機嫌を露わにする。2人の呪詛師落ちは、五条の精神に多大なる影響を及ぼした。

 

 

「わー! かわいい! 何歳だろう? まだ若いよね! ねえ、お菓子とか好き?」

「刹那、そんなに矢継ぎ早に話しては駄目だろう。美々子と菜々子が怯えてる」

「あ、ごめんごめん! 急に来たから怖いよね!」

 

 夏油の新しい家族とやらを紹介してもらった。小さな双子は、私がグイグイ行き過ぎて怖くなってしまったらしい。夏油の陰に隠れてじっとこちらを見つめている。

 

 あ、そうだ。ポッケを漁ると非常食のキャラメルが入っていた。2人にあげるよーっと差し出すと、小さな手をこっちに向けてくれた。

 

「ねえ、私は些眇刹那。あなたたちは?」

「美々子......」

「菜々子」

「うん。よろしくね」

 

 小さな手を握った。まだ、暖かい。かわいそうに。非術師たちに迫害されてきたんだよね。

 

 

 

「ねえ、本当にその格好で行くの?」

「静かに、外に聞こえるよ」

 

 いや、漫画で読んでわかってたけどさ。やっぱりわざわざ親友の名前がつく袈裟を着るのって重いよね。私は直綴と袴だけだ。袈裟は着けない。

 夏油は美々子と菜々子の頭を優しく撫でる。

 

「よく見てなさい」

 

 そして壇上へ向かっていった。私は別に興味ないのでその辺にいた孔に話しかける。

 

「アンタよくもまあ平然と夏油と話せるね。伏黒甚爾のこと、私は忘れてないよ」

「ん? ああ。俺は忘れたよ」

「都合のいい男」

「だから夏油も俺を使うのさ」

 

 全く持って食えない男だ。1ミリも信用出来ない。でも仕事ぶりは確かなので夏油もコイツを使うんだろうなあ。

 あ、園田が死んだ。後片付け誰がするんだろう。孔かな。孔に押し付けよう。

 

「私に従え、猿共」

 

 私は舞台裏で、小さな拍手をした。すぐに不愉快になったのでやめた。

 

 あれから十年ぐらい経った。夏油が言うには『家族』、要は呪詛師たち。夏油の勧誘で増えていった仲間。

 この人たちは非術師を滅したいんじゃなくて、ただ夏油についてきただけ。この人たらしめ。

 

 この組織は夏油のカリスマだけで結束している。だから私の言うことなんて誰も聞きやしない。美々子と菜々子は反抗期が来てしまったのか、前みたいに『刹那お姉ちゃん』って言わなくなってしまった。夏油のことはずっと夏油様呼びなのに!

 

「流石にアラサーにお姉ちゃんは厳しいと思ったのでは?」

「うるさいな......菅田さんは私より年上じゃん」

「今、この会話においてそれは関係ないですよ?」

 

 どっちもそう変わんないだろ、小さく呟かれた祢木の言葉を私たちは聞き逃さない。小僧め! 舐めんなよ! ベシベシと背中を叩いてると謝罪の声が聞こえた。ちっさくて聞こえないよ。もっと大きな声で!

 

 あ、夏油帰って来た。写真? 撮ろう撮ろう! 皆が全然揃わなかったのって夏油がしょっちゅう出掛けるせいだからね。ほら、菅田さんとツーチェキ撮ってないで皆並んで。

 はい、チーズ。

 あ、祢木。そこのゴミ片しといて。

 

 

「夏油、まだ起きてる?」

「......ん? 刹那か」

「計画のことだけどさ、やっぱり東京と京都に分散しない方がいいよ。まずは高専──乙骨だけに注力すべき」

「またその話かい?」

 

 私は再三、夏油に同じことを告げている。彼の答えも毎回同じ。『それは出来ない』。2箇所に分散して、そこに呪術師を集めることで高専の乙骨に目を向けさせない作戦だからだ。

 でも、それだと夏油は負ける。私なんて特級同士の戦闘じゃ正直戦力にならない。あーやだ! 本当にやだ! なんで皆私の言うことを聞いてくれないの?

 

 何も変わらないまま、百鬼夜行の宣戦布告の日になった。

 私たちは夏油の呪霊に運んでもらう。ミチミチでちょっと気持ち悪い。あ、なんか、揺れてて吐き、あっ......。

 

「ちょっと! 刹那! 今吐いたら駄目だからね!」

「やめてね......」

 

 血も涙もない双子。誰が育てたと思ってるんだ。いやほとんど夏油だったわ。

 やっとかつての学び舎──高専に着いて、懐古感に襲われる前に私は一目散に草むらへ走ってゲロをぶち撒けた。え、帰りもあれで帰るの?

 

「なあ、なんかゲロ吐いてるぞ」

「大丈夫かな、ねえ、真希さん。お水持ってった方が......」

「馬鹿、相手は呪詛師だぞ!」

 

 乙骨憂太、なんて優しいんだ。でも私は自分で水持ってるから平気だよ。

 辺りを見回す。あ、冥さんだ。顔ぶれは結構変わってるけど、見知った顔も何人か。あれ伊地知だ、ヤッホー!

 

「ひぃ、手を振られています......」

 

 ズカズカと伊地知へ近付く。怯えてるけど力量の差は分かっているのか抵抗はしない。その肩にポンと手を置く。わ、分かりやすいほどにビクってした。

 

「久しぶりだねー、硝子いないの?」

「いえ、いません......」

 

 そうか。回復役だから表には出られないよね。久しぶりに会いたかったんだけど。元気かな。

 夏油がイカれた思想を声高に語っていると、五条がやってきた。なんか君雰囲気違くない? いや、変わるのは分かってたけど実際見ると結構面白いな。

 

「僕!? 五条が僕なんて言ってるよ、ねえ! 伊地知!! めちゃくちゃ面白い!」

「わ、私に振らないでください......!」

「伊地知、後でマジビンタね」

「そんな!!」

 

 あ、意外と中身変わってないかも。

 今年の1年生は乙骨憂太、パンダ、狗巻棘、禪院真希。夏油は真希ちゃんのことを落ちこぼれなんて言って蔑んでる。いや、あの男の片鱗を感じるから嫌悪しているんだろう。

 私は真希ちゃんに近づいて、その手を取る。

 

「真希ちゃん、夏油がゴメンね」

「は?」

「私の名前は聞いてる? 些眇刹那。刹那って呼んでね」

「いや、ちょ」

「夏油はあんなこと言ってるけどね、私はあなたの事を落ちこぼれなんて思ってないよ。だってその眼鏡がないと戦えないのにあなたはわざわざ高専に来て、呪霊と戦うことを選んだ。それってとっても素敵な心構えだよ。ちゃんと呪術師って呼ぶべきだよね。あなたみたいな立派な人が、上に立つ器なんだと思うな。それに──」

「刹那、僕の生徒に近付くな」

「刹那、君はどっちの味方なんだい」

 

 2人から同時に止められた。だって、美々子も菜々子もろくにお喋りしてくれないんだもん。お姉さん、寂しくて。泣き真似をしたら、周りの空気が何度が下がった気がした。

 

 真希ちゃんは私の言葉に喜べばいいのか、怒ればいいのか、決め兼ねているようだった。連れて帰りたい。美々子と菜々子も昔は可愛かったのに。

 

「来たる12月24日!! 日没と同時に!! 我々は百鬼夜行を行う!!」

 

 私が落ち込んだふりをしている間に、宣戦布告は始まっていた。

 

「場所は呪いの坩堝、東京──新宿!! 呪術の聖地、京都!! 各地に千の呪いを放つ。下す命令は勿論〝鏖殺〟だ。地獄絵図を描きたくなければ死力を尽くして止めにこい」

 

 夏油は思い切り顔を歪ませる。せっかくの塩顔イケメンなのに勿体ない。

 

「思う存分、呪い合おうじゃないか」

 

 なんてカッコつけたはいいものの、美々子と菜々子のクレープ食べたい発言で台無しだ。困った子達。

 急ぐ2人にペリカン型呪霊の喉袋へ引っ張られつつ、高専の方を見る。硝子、本当にいないの? 私寂しいんだけど。

 

 

「あの、五条さん。些眇さんってあんなに剽軽な方でしたっけ?」

「まあ10年は経つからね。少しは変わるでしょ」

 

 後ろから聞こえた会話は聞こえないふり。

 

 お台場でクレープを食べた。美々子と菜々子は夏油には1口あげたのに私にはくれなかった。意地悪。イラついたのでやけ食い。いちごチョコクレープ、ホイップ多めで。

 

 

 百鬼夜行が始まった。私は他の子と同じように東京で呪術師狩りの予定だったけど、そんなの当然バックれて高専へ向かう。

 あーあ、思ったより足止めを食らっちゃった。一目散に高専に行こうと思ってたのに。私の足元にはたくさんの死体。邪魔するんだから仕方がない。

 

 やっと高専が見えてきた。なのに、また人が私の前に立つ。邪魔しないでよ。私の好きにさせてよ。イライラしてきた。 呪力が漲る。感情に左右されすぎだってわかってるけど、この気持ちを抑えきれない。

 早く、早く! 夏油のところへ!

 道を凍らせて、滑る。普通に走るよりは断然早い。

 

 ──いた! 乙骨と夏油だ。

 もう純愛砲とうずまきの準備終わってる、あとはぶつかるだけだ! 駄目だ、どうしたらいい。いや、あれがぶつかり合っても夏油は死なない。私はここで見ていて、片腕の失った夏油を連れて帰ればいい。

 

 ──本当に?

 

 私は思わず夏油の前に飛び出した。

 

「なんでわざわざ私を庇ったんだい?」

「うるさい、別に、なんでもないし」

 

 片腕と片足を失った私は、夏油におぶわれていた。身体が勝手に動いたから仕方ない。

 

「てかさ、早く私の事なんか置いてってくれない?」

「なんてこと言うんだ」

「手負いの私を連れてたら逃げるのが遅れる。アンタさえ生き残ってればまた同じことが出来る。私と夏油、どっちが大事なのかなんて明白でしょ」

「君を見捨てるなんて出来ないよ」

「やめて、やめてよ......」

「......刹那?」

 

 私の調子がおかしいと思ったのか、夏油の歩みが止まる。その隙に、私は夏油の背中から飛び降りた。片足だけだからちょっと不格好だけど。

 

「私の命を捨ててまで生きて欲しいって、我儘なの? 貴方が生きてなきゃ何の意味もないの。ここでモタモタしてたら五条が来て、私も貴方も殺される。だから早く行ってよ、逃げてよ!」

「刹那、落ち着い──」

「正解っ」

 

 私たち以外の足音がした。声と呪力で分かる。五条だ。

 

「氷凝呪ほ......げほ、っ!」

 

 口からビチャビチャと暖かい液体がせり上がってきて、吐き出してしまう。

 駄目だ、呪力も練れない。

 

「なあ、刹那。オマエ自分でも気付いてるんだろ。死ぬぞ」

「え......?」

「うるさい、だから、逃げろって言ったのに……!」

 

 自分の体調ぐらい自分で分かる。目もほとんど見えないし、もう長くない。それならせめて、夏油だけでも逃がそうと思ったのに。

 

「やい、バカ目隠し」

「ハイハイ」

 

 いつの間にかそんなに大人になっちゃって。私は、逆かも。

 なんだが無性に腹立たしいので、最期に1つ残していこう。

 

「五条、私と夏油の死体は絶対硝子に見せてよ。最後に会いたいから!」

「…………」

「五条! 約束して!」

 

 声を張り上げたせいで、また血が漏れる。見えないから分かんないけど、多分血。

 

「分かった。お前らの遺体はちゃんと硝子にも見せて弔う。それでいいんだろ」

「うむ」

 

 これできっと、私たちが死んだあとも大丈夫だ、多分。

 どうせ死んだら別の世界線だからどうでもいいけど。

 

「最後に言い残してあげる」

「それそっち側から言うことあるんだ」

「……ごめんなさい。硝子にも言っておいて」

「…………自分で言えよな」

 

 返事も出来ずに、私は魂が遊離していくのを感じ取っていた。

 うん、呪詛師もたまには悪くないかな。あはは。

 




■些眇 刹那
テンションがおかしいのはストレスで情緒不安定だから。
性根は呪術師も呪詛師も向いてないので。

■夏油 傑
まさかマジで着いてくるとは思わなかった。
他の家族は逃げられたのに刹那だけ道連れにしてちょっと申し訳ない。

■五条 悟&家入 硝子
この後ちゃんと弔った。
メロンパン、焦る。

■ミミナナ
幼い頃はなんとも思ってなかったけど大きくなってよく考えたら夏油の1番親しい女は刹那だ、と思って反抗期。
薄々そういう雰囲気ではないことは感じ取っていたけど素直になれなかった。

■夏油ファミリー
ほぼ全員「夏油の元同級生だからって調子乗んなよ」と思っている。
精神的にもちょっとヤバそうなので関わりたくない。

■1年生
真希さんは褒められた...のか!?とちょっとホクホク。
乙骨は真希さんを褒めてくれた!もしかしていい人かも!と思っている。最後純愛砲が当たったのが若干気がかり。
それ以外は無。

アンケート設置したので回答よければお願いします。
あと更新ってお昼と夜どっちの方が良いのか悩んでます。

那由多の明日はどっちだ

  • しめりけ
  • だいばくはつ
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