紫電奔る。空は嘶く。
少年は、雷に打たれ、神と成る。
壱
青年”鹿紫雲一”は、奇妙な縁に誘われた。
2018年7月、東京都足立区にて記録的短時間大雨情報が発令された。
雷も鳴り、地面は足首を軽く飲み込むほどの豪雨であった。
上半身下半身共にびしょ濡れ、下着や靴下ですら水に浸され、体温は奪われていく。
重い体の中、歩を進めていき、家へと向かう。
ここで彼は、呪い呪われ廻り続ける戦いに巻き込まれることが宿命つけられた。
空が嘶く。閃光が瞼を焼いた。
身体が崩れ落ち、視界が暗転する。
雷に打たれたと気がつくのは、自分の焦げた身体を見てからであった。
それからだろうか、自分が奇妙なものを見る事が出来るようになったのは。
この、お爺ちゃんの意識が自分の中に入り込んだのはーーー。
「因果なものだな、小僧」
名を、”鹿紫雲一”。
青年と同じ名前を持つ、江戸時代の名前を残すこともなかった傑物であった。
目を覚ました青年は、真っ白な部屋の中で自分の両親と再会する。
どうやら、雷に打たれて死にかけたらしい。
医者が言うには、奇跡だと話すがどうやら内情は違うようだった。
「小僧、それは貴様の体質と取り込まれていた呪物による影響だろうな」
呪物。いつの間にやら自分の体には厄介な遺産が何者かに入れ込まれていたと老人は話す。
老人は四百年の時間をその呪物として過ごし、適合者として自分が選ばれたのだと言う。
自分の精神世界に居座った老人の願いは極々単純でそしてこの時代には似つかわしくないモノであった。
修羅
飽くなきまでの闘争心、渇望、そして
その為だけに老人は全てを投げ打ち、江戸で出会った呪術師の誘いに乗ったと口を歪ませた。
なるほど、合点した。
江戸時代にて彼に並ぶものはいなかった。
子もなすこともなく、唯々孤独に死んでいった。
それ故の渇き、それ故の欲求不満。
青年は、老人の願いを聞き入れた。
“縛り”という物がある。
縛りの種類は複数あるが、大まかには二つ存在する。
一つ目は、自分自身への縛り。
特定のデメリットを受け入れ、そのデメリットの分、メリットを得る事が出来る。
例えるならば、戦闘中以外に術式を扱わない代わりに、戦闘時にはその扱わなかった時間の分、出力や技術が向上する等、様々な種類がある。
もう一つは、他者間との縛り。
上述の縛りとは違い、破った場合のデメリットが破格だと言う。
老人が聞いた話では、術式の崩壊、呪力の消失、最悪の場合、絶命など、呪術師にとっては死に等しい
今回、彼らが結んだのは、二つ目の他者間の縛り。
1. 呪霊や呪詛師、呪術師との戦闘時、強者だと判断した場合の
呪術師の身体は売れるらしい。降霊術や身代わり、人身御供などに使用される。
それを狙う呪詛師や呪霊に対しての対抗策。江戸時代最強の呪術師が顔を出す。
また、自分の精神が
この案は老人からの提案であった。青年本人としても同級生やヤンキーと喧嘩くらいしかした事がなく、呪霊などの異形や、理外の術を扱う者たちとは戦闘経験が余りにも少なすぎる。
青年が死ねば、老人も死ぬ。両面宿儺と闘うまで死ぬわけにはいかないのだ。
その為、もう一つの縛りを青年の方から提案した。
2. 老人“鹿紫雲一”からの戦闘訓練
これは至って単純。縛りというには緩い縛りであった。
老人が青年を鍛えると言う話だ。これは
老人が言うには、青年には
また、呪物を取り込んだ影響と先日の雷により、呪力特性が老人と同じものになったらしい。
江戸時代最強の呪術師は弟子を取った事がないが、出来る限りの呪術の扱いは教えると約束した。
3.出来るだけ人を殺さないという縛り
緩い縛りだが無いよりはマシだろう。青年の許可が出た場合、殺害しても
そうして、ここに
雷に打たれ、二週間が経過した。
小便を済ませるためにトイレに入り、用を足してから洗面台で手を洗っている最中に青年は気がついた。
髪が青緑になっていた。
先日まで黒だったが、何があったのだろうかと青年は思考に耽ると、老人がその答えを出した。
どうやら、雷に打たれた後遺症と、呪力の変質によるものだと老人は言った。
髪に電気の呪力が通った為、色味が変質したのだろう。
髪は様々な呪術に使われる。
丑の刻参りにて、髪を使用して釘を打ちつけ、”穴”を開ける呪術などが一番有名な例だろう。
孫悟空の伝説にも、髪の毛を抜いて、分身を作り出したことがある。
老人が言うには、
呪術とは言葉遊びのものだとは、誰の言葉だったろうかと、老人は昔を思い出すように呟いた。
謎が解ければ、話は終わりだ。
両親と共に退院手続きを終わらせ、久々に外へと向かう。
今年はかなりの猛暑だと聞く。7月半ば、学校は夏休み直前の為、そのまま休暇に入ることにした。
「小僧、呪力に慣れておけ。儂が起きたと言うことは、彼奴の目的がそこまで来ていると言うことだ」
二週間の病院生活の間に、呪術の基本的な講習を頭に叩き込まれている中、老人は何度も彼奴ーーー羂索ーーーという呪術師の名前を出した。
江戸時代においても自身の実力が拮抗していると考え、勝負を挑んだが悉くを断られ、逃げられたと老人は話す。
老人を呪物にしたのも、その羂索という術師が関わっているらしかった。
早めに慣れておくに越したことはないと、青年は考えた。
「わかったよ、お爺ちゃん」
「老人扱いするな、
案外キレやすいな、この人と青年は思った。
弐
2018年7月23日 14:21
東京都奥多摩
老人の指導は、簡潔に言うならばスパルタであった。
しかし、青年もまた、そのスパルタ指導に反骨し、その実力を階段を二段飛ばしするように駆け上がっていく。
初めは、呪力操作、放出が主に指導が入った。
雷の呪力は強力だ。人は約50
雷の呪力の放出は、人の目に止まらぬ速さで、奥多摩の森の木を縦割りに破壊した。
老人は自分や青年のような雷の呪力の放出にはタメが必要だと話す。
電荷を溜める
取り回しがしやすいのは、テフロンだった。人体をプラスだと考え、テフロン製の武器をマイナスだとすれば、その間には、電気を走らせる事が出来る。
本来の科学じゃそこまでの電気は流れないだろうが、呪術とは言わば、現実を塗り潰す技術。異界律を押し付けることだ。
ホームセンターで数個購入したテフロン製フライパンに電荷を溜めながら辺りにばら撒く。
老人は言う。
「呪力は腹で回せ」
その助言と共に呪力を流す。
テフロン製のフライパンにマイナスの
プラスからマイナス、電流は、悉くを焼き尽くす閃光となる!
自分とフライパンの間にある木々は、まるで削り取られるように焼き切れていた。
バチバチと弾ける雷、紫電纏う男。
後に、呪術界に名前を残す事となる男”鹿紫雲一”が今、この現代に目覚める!!
化学わからんよ〜