紫電奔る   作:浜騎士

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目が合った奴はみんな照れ殺しだぜ

悪路王大嶽

この呪霊は、悪路王や大嶽丸などといった鬼の概念への畏怖である。

言わば、恐怖の象徴として君臨する存在である。

圧倒的な存在感は、妖としての格そのものであった。

鬼とは(おぬ)から来た言葉だと伝えられている。

姿の見えないなにか、漠然とした恐怖こそが、この呪霊の本質であった。

詰まるところ、この呪霊の術式とは何か?

 

理解不能(分からない)

 

羂索がこの場所を去って既に数十分が経過した。

それもご丁寧に悪路王大嶽の情報の一端を開示し、その力を増幅してから、この場所から消えたのだ。

 

「(殴っても切っても、全部が透けやがる!)」

 

一閃。必殺の間合い、頸を確実に落としたと日下部は確信した。

その落とした回数、合計六回。だが、目の前の存在はビクともしない。

パンダのゴリラモードでの激震掌(ドラミングビート)での内部破壊も効いていない!

鹿紫雲も追従するように、自身の如意を使い、人間にとっての急所を何百回も貫き、乱打した。

雷鳴が轟き、激震が悪路王大嶽の身体を揺らす。

 

「(仕掛けはなんだ?悪路王大嶽、伝承では東北の…)」

 

死が迫る。その巨碗は日下部の身体を潰さんと振り下ろされた。

思考の渦と共に刀を鞘に納める。納刀状態に戻し、再度、居合の構えを取る。

『シン・陰流』を習得し、師範に免許皆伝として扱われている日下部の簡易領域は、他の使い手よりも遥かに高い練度を見せる。

シン・陰流抜刀術、その中での後の先(カウンター)技巧。

 

「『抜討』!」

 

抜刀とは別の技巧。相手のパワーを利用し、一撃を返した!

悪路王大嶽の斧目掛けて振り抜かれる。

重い斧を呪力で強化した刀での一閃。その破壊力は、悪路王大嶽の体を大きく揺らし、その斧を落とす。

が、両腕がフリーとなったその存在が、掌印を結ぶ。

 

⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(領域展開)

 

その姿が揺らめく。もう一体の悪路王大嶽が数十、その空間に現れた。

大嶽丸は伝承では神通力の達人であり、無数の分身を作り出すほどと伝えられていた。

動きは緩慢でありながら、それに反比例するかのように凄まじい膂力。

呪力でブーストされた一撃は、まさに天地を砕くが如し。

 

「シン・陰流『簡易領域』ッ!」

 

「『彌虚葛籠』ッ!」

 

必中の領域を中和する。

抜刀、貫手、張り手に肘打ち、悪路王大嶽の分身体に応戦する。

防戦一方だ。

徐々に日下部やパンダ、そして鹿紫雲にもダメージが蓄積していく。

日下部の簡易領域や鹿紫雲の彌虚葛籠が剥がされるのが先か、活路を見出すのが先か…。

 

小僧(ガキ)ィ!」

 

「わかってるよお爺ちゃん!」

 

老人は、中の精神に問いかける。その言葉を聞かずとも、青年は思考を回転させていた。

悪路王とは、かつて存在したと言われている蝦夷の賊首であり、悪来王が訛ったのが語源と言われている。

悪路王もまた、伝承によっては鬼として扱われたことがある存在だ。

大嶽丸もまた、日本では、三大鬼神と畏怖されてきた存在であり、呪霊としての格は計り知れないだろう。

彼らは同一存在説が提唱されているが、関係があるのかは青年にとってはわからなかった。

この存在たちの共通点は二つある。一つは鬼であること、もう一つは逆賊であることだ。

朝廷にとって逆賊が妖怪として扱われたという伝承はあらゆる文献に散見される。

鬼もまた、術師であり、それが死後に強まる呪いとして目覚めたのだろうか…。

頭を回す。知恵を絞る。自分(青年)ができるのは、自分の知っている知識で対応することだけだ。

鬼の弱点で攻めるか?

鬼は豆で祓うなどと言われているが、存在していないし、なんだったら伝承的には眉唾だ。

鰯でも焼くか?それとも柊でも立てかけて見るか?

術式の把握が第一、倒すのは後で考える!

青年はさらに思考を加速させていく。

悪路王大嶽は、刀でも拳でもダメージを受けない。というより、透かされる。

まるで幽霊である。

日下部班(我々)は、その本質を見極めなければならない。

青年は、思い出す。

鬼とは、(おぬ)、妖怪とは物怪、只々漠然とした恐怖こそが、呪いとして具現化する。

恐怖こそがこの呪霊だ。

呪術とは、言葉遊び。

 

「お爺ちゃん、怖い?」

 

以前の鹿紫雲なら簡単に祓えている。

一度の敗北、その一度での敗走が、鹿紫雲という強者に取り憑く。最強であった精神性が崩れていたのだ。

負けへの恐怖が、今の鹿紫雲という老人を蝕んでいた。

日下部とパンダもこの悪路王大嶽によって齎される死への恐怖が、その悪路王大嶽(存在)の力となっていたのだ。

 

「負けないよ。お爺ちゃんはさ」

 

青年は笑う。今までこの三ヶ月という短い日々を、青年と老人は文字通り、一心一体で生きてきた。

老人がパスタを食うのが下手なことも、欲というものが全て戦闘へ向いていることも、孤独であることも。

生前から現在(イマ)まで知っているのは、青年だけだ。それは羂索すらも知らない。

 

「最強、なるんでしょ」

 

青年の背中を押すような言葉、鹿紫雲は今、本格的に孤独ではなくなった!

 

「⬛︎」

 

術式の行使、鹿紫雲、動じず。

仁王立ちでその一撃を待つ。

無数の分身が鹿紫雲の身体を殴り抜いた。

 

「おい、鹿紫雲!死ぬ気か!?」

 

日下部が自身を簡易領域で護りながら、分身体を切り裂き続ける。

パンダもまた、その巨体を大きく振り回し、日下部の援護にまわっていた。

助けられない!二人は確信した。

 

「違え、生きるんだよ!」

 

その分身達の一撃は、透かされた。

 

「「!?」」

 

パンダ、日下部両者とも、その事象に困惑と驚愕する。

 

「コイツは存在してて存在しない。矛盾だ。この矛盾は俺たちの精神性に作用される」

 

バチリと閃光が走る。

雷が、悪路王大嶽の体勢を崩した。

『恐怖を克服する』こと、それこそがこの呪霊への対抗策。

呪いとは、心の持ちようである。

 

「カッコいいところ、魅せてやるよ。鹿紫雲(ガキ)!」

 

雷神、再臨!

その雷撃の乱打が悪路王大嶽を攻め続ける。

拳の獣が、鬼を噛み殺さんと喰らい続ける!

閃光が体内で炸裂する。鹿紫雲の『打雷』が何度も何度も炸裂する。

 

日下部、パンダもまたその言葉を独自での解釈を行う。

一瞬での納刀、思考の没入。

日下部はその精神を、漆黒へと浸していく。

恐怖を捨てるならば、これが一番いい。世界が停止する感覚、自分だけが見つめられる真の世界。

 

「刀を振り抜くだけだ…。俺は、ソレだけでいい」

 

シン・陰流抜刀術簡易領域の極地、弱者の領域と呼ばれたそれは、術式を持たぬ男こそ相応しい。

剣禅一如、究極の後の先。

 

「『空』」

 

抜刀、悪路王大嶽の胴体が斜めに線が走る。

悪路王大嶽はその身体を呪力で急速に回復しようとしていく。

だが、悪路王の四つの目玉にはかつて無い存在が映し出されていた。

 

「あんまり見つめんなよ、俺の姉ちゃんはシャイガールなんだよ」

 

「目が合ったやつは、皆んな、照れ”殺し”なんだぜ…!」

 

パンダの身体が異形へと変貌する。恐竜が叫ぶ。

突進、ただそれだけで悪路王大嶽の身体は爆散した。

無数の打雷での消耗、日下部の斜め一閃、そしてパンダの一撃。

悪路王大嶽が崩れ落ちる。

恐怖を克服したものは、新たなるステージへと立つことが許される。

 

「…、死ぬかと思ったぜ…」

 

日下部が疲れから崩れる。

パンダもまた、その身体を収縮させる。

鹿紫雲は如意をくるりと回し、肩に乗せた。

 

視点は変わる。

 

「やるね、彼ら」

 

首謀者は、箱を手で遊びながら、地下五階で微笑んだ。

 

「や、悟」

 

ゴトリと、箱が転がる。箱の先には、現代最強。

事態は、更なる混沌へと誘われる。

 

「獄門疆、『開門』」




パンダを活躍させたかったのだ。

悪路王大嶽の術式
「恐怖の再現」
怖いな〜って思ったやつにさらに特攻がついたりします。
それに加えて、分身術だったり結界術だったりで攻めてきます。

こんなビッグネームがあんな…

 <あぶなーい!
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