紫電奔る   作:浜騎士

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抑えろ!!抑えるんだ!!

21:38

 渋谷駅地下四階にて、日下部班は特級呪霊『陀艮』と呼ばれる呪胎との接触。

 

空気を飲み込み、吐くことで風船が膨らみ、また萎むようなミニチュアのような蛸が柱に隠れていた。

見敵必殺(サーチアンドデストロイ)、鹿紫雲は地面を踏み砕き、神速で柱ごと殴りつけた。

 

「邪魔だ」

 

雷掌、陀艮の腹を出会い頭に一閃する。

雷が横に広がり、まるでゴムボールのように四方八方へとその肉体が弾む。

七回を超え、その動きが止まり、地面へと蹲る。

ゲロを吐くように陀艮の口から出てきたのは、数百の人骨であった。陀艮により食い殺された亡骸が駅のホームで山を作る。

その呪霊を踏みつけ、如意を突きつける鹿紫雲。

陀艮はその鹿紫雲の顔を見て、ボソボソと呟き始めた。

 

「じょうごぉ…まひと…、はなみぃ…」

 

そんな言葉など聞こえていないように、鹿紫雲は如意を陀艮へ向け、呪力(エネルギー)を放射する。

が、その呪力が陀艮の命を奪う事はなかった。

抜け殻を脱ぎ、空中へと浮かぶ赤い皮膚を持つ蛸の頭を持つ人型。

その身体は筋骨隆々であり、人と魚介が入り混じった嫌悪感と異物感を強調していた。

その存在は鹿紫雲たちを見下ろしながら、こう言った。

 

「よくも、よくも花御を殺したな、『鹿紫雲一』…!」

 

「誰だよソイツは」

 

鹿紫雲が如意を構える。その態度に激怒した陀艮は、怒りと共にその呪力を放出した。

放射された呪力はたちまち水となり、この駅を飲み込んでいく。

 

「お前が殺した私の友だ!」

 

陀艮を中心に凄まじい水が溢れかえる。

日下部はその水が呪力で作り出されたものであり、塩水である事を理解する。

同じように青年もまた、その水の正体を理解していた。

この呪霊は未だ幼体、戦闘経験も少ない事は把握できていた。

日下部は簡易領域を展開し、攻撃に備える。パンダは鹿紫雲に続くようにその拳を握った。

 

雷獣が海原となった廊下を、猿のように看板を手に掴み、足で蹴る。

鹿紫雲にとって、その塩水というものは天敵であった。

電気を通しやすい為、一度でも水の中へと落ちれば、呪力を全て使い切るか、海上に上がるまで呪力を絶つしかなくなる。

 

「知っているぞ、鹿紫雲。貴様を海に叩き落とせば、私の勝ちだ」

 

「へぇ、羂索にでも聞いたのか?」

 

返答は拳、その打撃を如意で受け流し、閃光を与える。

コンッと如意で壁を劈き、鉄棒のように片腕で自分の体を支え、両足でのドロップキックをかました。

呪力と膂力が陀艮を襲い、仰け反らせる。

仰け反った先は、シン・陰流の簡易領域であった。

 

「『抜刀』!」

 

一筋が走り、陀艮の腕を落とす。

日下部は自分が得ている情報から、特級呪霊たちは領域を展開する事を記憶していた。

目の前の存在もまた、領域の展開を行う可能性がある。その可能性をできるだけ摘んでおきたかった。

その勢いのまま、右から左へと袈裟斬りし、呪力でブーストした蹴りを放つ。

練り上げられた呪力は、鹿紫雲とまではいかずとも陀艮を後ろへと仰け反らせる。

それこそが日下部の狙いであった。

巨大な白黒の腕が陀艮の体を打ちつける。

 

「『激震掌(ドラミングビート)』!」

 

陀艮の内部が崩壊する。

呪力での再生で両腕、内臓その他諸々を回復させながら、自身の領域を展開せんと蠢く。

再生された腕を切断し、焼き切り、叩き潰す。

3人のそれぞれのスタンドプレーが、チームワークを生み出していた。

だが、目の前にいるのは呪胎から目覚めた特級呪霊。神の名を持つ蛸である。

両腕の再生を停止する。そして腹を中心に幾何学が書かれていく。

領域展開に必要な掌印の代わりに使うのは、その腹に刻まれた印であった。

 

「『領域展開』ーーー」

 

蕩蘊平線(たううんへいせん)

 

海が展開される。先程とは桁違いの海原がその世界を塗り潰した。

南国のような空間、青い空、青い海、そして真っ白な砂浜がそこにはあった。

ゾブと、身体を喰らう異形の魚がいきなり現れた。

魚介を模した式神を自在に召喚、攻撃を行う事ができる術式、更にこの領域では式神の攻撃が必中となっている。

日下部はダメージを抑え、防御に徹底するように簡易領域を展開し、パンダはその攻撃になす術もなく喰らわれていく。

鹿紫雲もまた、その手を組み合わせ、葛籠に呪力を満たしていく。

 

「『シン・陰流『簡易領域』』ッ!」

 

「『彌虚葛籠』!」

 

中和をしながら、異形の魚介を叩き潰す。

だが、バシャリと海水が鹿紫雲を襲った。

何故、必中(あた)る…!?と思考が停止する。

陀艮の水での一撃は、ただ単純な水飛沫を放った技でもない技であった。

 

「お爺ちゃん、前!」

 

青年の声にハッとし、両腕を呪力を流しガード体制を取る。そこに陀艮の拳が刺さる。その大きな体躯から溢れ出す膂力により大きく吹き飛ばされた。

吹き飛ばされるのは、青い海、生命のスープへと鹿紫雲は呑まれていく。

バチバチと海水から煙が上がる。

 

「(不味いッ!反射的に呪力でガードした!溢れる!抑えろ!!抑えるんだ!!)」

 

みるみる呪力が失われていく。垂れ流しの呪力は、抑まることがない。

 

「鹿紫雲、貴様の呪力が尽きてからゆっくりと海の子たちの餌にしてやる」

 

その勝利宣言と共に掌印を組み直し、無から式神が作り出されていく。海から作り出された数百の式神が鹿紫雲を襲う。水中で身を翻しながら式神を祓うが、多勢に無勢、鮫のような存在を雷で焼き切り、巨大ウツボをその如意で内部から吹き飛ばす。だが、式神の海は止まらない。

ならばと鹿紫雲はその呪力を発散させる。

ぶくぶくと海が熱湯になっていく。そして、爆発を引き起こした。

鹿紫雲が漏出を抑えていた呪力を一気に放出し、呪力が海水に伝わる前に熱エネルギーとなり、水蒸気爆発を引き起こした。

勝利宣言を上げた陀艮はその行動を想定していなかった。一瞬の隙が生まれる。その瞬間、体を横から吹き飛ばす存在がいた。

パンダの中に潜むシャイガールがその身を解放し、その巨体で陀艮に突進したのだ。

陀艮は転がりながら、空中へと避難する。

しかしその領域は、既に日下部の領域であった。

 

「『風断』!」

 

その神速の居合が、またも陀艮の体を切り裂いた。

鹿紫雲は呪力を足に纏わせ、ジェット機のように爆発させ、海から陸へと這い上がる。

失われた呪力は約三割、この渋谷での長期戦で更に四割は失っている。

だが、その程度で先程生まれ落ちた特級呪霊に負ける最強ではない。

海から陸へ飛び出した勢いのまま、その手を突き出す。

掌での張り手、スピードと呪力ブースト、膂力そして、才能が陀艮の身体に炸裂した。

 

黒閃

 

「馬鹿な…ッ!だがまだ終わりではーーー」

 

日下部の居合が一閃、パンダのハンマースローが振り下ろされ、如意を構えた鹿紫雲が貫く。

乱打。居合。貫通。

三方向から刀が、如意が、拳が陀艮のヒットポイントを削っていく。

 

その三者が、その潜在能力(ポテンシャル)を引き出すに至る!

花火が上がる。黒い火花は、何者にも祝福を与える。

 

黒閃

 

三者の火花が陀艮の身体を崩壊させる。




パパッと祓われてしまう陀艮
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