紫電奔る   作:浜騎士

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中々やるね。現代の術師にしては

21:56

 渋谷駅地下五階副都心線ホーム

 

四階の改造呪霊、羂索の妨害と一級呪霊を祓いながら階段を駆け降りる。

彼らは夏油傑(羂索)と再度の邂逅を果たし、目の前の男が口を開いた。

 

「まさか、悪路王大嶽を祓うとは、中々やるね。現代の術師にしては…」

 

袈裟を着込んだ塩顔の青年がにこやかに笑う。その笑いには、薄らとした殺意が滲んでいた。

鹿紫雲、日下部は即座に防御の構えを取る。

羂索から放たれた無数の呪霊が彼らの身体を圧殺せんと波を作る。

 

「私としては君たちの命をあまり奪いたくないんだよね。死滅回游の事もある。鹿紫雲()には結界(コロニー)で目覚めてもらう予定だったんだが…、予定が狂うね、全く」

 

そう呟きながらも更に呪霊を召喚する。

三級から二級の雑魚が波として押し寄せる。この程度の雑魚ならば、鹿紫雲の電光で薙ぎ払えるはずであった。

『雷吼』を槍を投げるように羂索へ放つ。音速を超えた如意を、羂索は不可視の呪霊により防御し、後ろの壁へと流す。

 

「一級呪霊『星の吸血鬼(スターバンパイア)』。術式は不可視、私はコイツを盾として扱ってるよ。攻撃性能はまあまあでね、でも、君の一撃なら一発は耐えれる」

 

だが、鹿紫雲の狙いはもう一つあった。雷鳴が轟いた。

如意に付与したマイナス電荷と鹿紫雲が持つプラス電荷が弾ける。間に挟まれた呪霊たちを焼き払う。当然、羂索も巻き込まれるが、依然、無傷。星の吸血鬼の皮膚は、絶縁体に近いものだった。

日下部が波を切り裂く。シン・陰流により剣閃が放たれ、呪霊たちを祓う。パンダもまた、姉へと異形化し、羂索へと突進する。

 

「あのさ、君呪骸だろ?もう何度か見たよ。想像の域を超えないんだよね」

 

パンダの身体を相撲で相手を受け止めるように両腕で受け止め、抱き抱える。羂索の呪力は現代の術師と比べると、総量出力共に高度である。

パンダの身体を投げ、その体制を崩す。瞬間、パンダの身体に想像を絶する重量が飛来した。

 

「一級呪霊『重し蟹』。術式は体重操作、神様としても崇められたことがあってね、まぁ、術式はそこまでだけど呪力は申し分ないよ」

 

パンダの身体がひしゃげ、潰れる。パンダが叫び声を上げる暇もなかった。

 

「君はいらない」

 

羂索は無表情で鹿紫雲たちへと向き直る。

パンダにかかったその重量、アフリカゾウの平均の六倍ーーー約、42tが地面を揺らした。

地震が発生する。プレードが滑ったものではなく、まさに今落ちてきた蟹によるもの、蟹はパンダからのっそりと立ち上がり、鹿紫雲と日下部にその術式を行使する。

 

⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎・⬛︎⬛︎(体重操作・八倍)

 

ズンッと両足が折れるような感覚と全身が地面へと引き寄せられるような感覚に襲われる。いや、これは感覚ではない。事実、自分たちは地面へとその身体を預けそうになっていた。

 

「(体重操作の術式…!だが、即死圏内には出来ないみたいだな…)」

 

日下部は足に呪力を纏わせ、立ち上がる。鹿紫雲も同じように、立ち上がっていた。

鬱陶しそうに羂索は顔を歪めた。

 

「まだ立つの?怠いよマジで」

 

そう呟いた瞬間、ザフッと蟹が吹き飛び、消滅する。術式の効果が消失した。

羂索は後ろを振り返ると、パンダのその巨碗が蟹がいた場所を貫いていた。『激震掌(ドラミングビート)』による内部破壊で蟹の体内を破壊したのだ。

蟹の術式は自身以外にも対象に取れるが、デメリットが存在していた。重量を操作する場合、自身の体重を分け与える必要があるのだ。その分、自分の密度は薄れ、防御力もガクッと低下する。

そこを突かれた。

 

「キッショ、なんで生きてんだよ」

 

パンダ(呪骸)、だからな!」

 

正確には、パンダは一度死んでいる。姉の魂が消失した。残った魂は自分(パンダ)と、(ゴリラ)、しかもこれまでの激戦により呪力は風前の灯であった。必然的に今の一撃が最後の一撃となる。

ギュルリと呪霊を槍状に変化させ、パンダの身体を貫き、破裂さした。パンダは今度こそ倒れる。

 

「成程、魂を三つ作りそれぞれを干渉させて成り立っているのか。確かに三という数字はあらゆる言葉で使われる。孤独な数字だし、その言葉自体もいい意味がある。『満つ』とも『充つ』とも読めるからね。それに安定を意味する数字でもある。だから、三位一体とかそういう言葉がある。いいね、君の作者は頭がいい。褒めておいてあげるよ」

 

羂索の蘊蓄がパンダを褒めちぎる。

まさか重し蟹が祓われるとは羂索も想定していなかった。ここまで削り切った体力、呪力、精神は確実にこの(パーティ)の能力値を蝕んでいるはずだったからだ。

中々にやる。鹿紫雲を除いた現代の術師としては、だが。

羂索は更なる呪霊を降臨させる。

 

「まだいるのかよ!一年でどんだけ集めやがったんだ…!」

 

「そりゃ集めるさ、呪霊操術の強みはその手札の数にある。私はそれを活かすために海外にも飛んだんだからね」

 

降ろされるのは、特級呪霊。名もなき妄執が刀を構えた。

 

「戦国の亡霊さ、刀持ち同士、仲良くしなよ」

 

領域が展開される。対象は日下部のみ、その領域の効果は、立ち会いの空間。一対一(タイマン)を強制させる領域であった。

極限まで削ぎ落とされたこの領域は、必殺の領域ではない。そのため、領域の競り合いで有利に立つことができるという利点があった。

それは、簡易領域相手にも言える事だった。簡易領域が解体され、日下部が領域に飲み込まれる。

 

「残りは君だよ、鹿紫雲。出来るなら帰って欲しいんだけどね〜」

 

「ぬかせ、今の身体は戦えるんだろ」

 

戦闘狂、未だ健在。拳を構え、目の前の敵を見据える。

だが、全力というわけでもなかった。鹿紫雲の呪力総量は膨大だが、それでも先程までの激戦で残り二割をきっていた。

このままでは呪力切れが起きる。日下部やパンダの連携も期待できない。

だが、ここで彼らが足止めした時間は、新たなる闖入者を招き入れる。

 

「お久しぶりです。冥さん」

 

「まさか生きてたとはね、夏油くん」

 

大斧を肩に担いだナイスバディが、少年を連れてこの空間に乱入する。

 

冥冥、憂憂が夏油傑(羂索)と邂逅する。

第二ラウンドのゴングが鳴った。




まだまだ続くよ
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