22:28
渋谷駅地下五階 副都心線ホーム
この空間は、超重力に包まれているにも関わらず、この四者は立ち上がっていた。
一人は自分が行使した領域の為、自分を対象に含まない者、もう一人は簡易領域による領域の必中効果の消失、更に一人は領域展延による術式の中和、最後の一人は、まずその術式の対象に含まれていない。
互いに睨み合い、動きを牽制し合う。
先手を取るものは誰かを見極め、誰を攻撃するかを目に焼き付ける。
初手に動いたのは、天与の暴君だった。
跳躍、ただそれだけでその存在が羂索の目の前に現れる。
彼が手に持つ三節棍、それはかつて羂索の肉体が持っていた特級呪具『游雲』。その呪具に特別な術式効果は一切ない。純粋な力の塊、それ故にその威力は持つ者の膂力に左右される。
その男の膂力は、並の術師を遥かに超えていた。
風すらも置き去りにした一撃が羂索の身体に命中する。
ガードに回したあらゆる呪霊が消滅反応を叫びながら、その威力を相殺せんと挟み込んだ。
その数、三級呪霊二百六十三体、二級呪霊百八十四体、一級呪霊六体、全てがその理外の膂力に貫かれ、軽減されたはずの三節棍の一撃で羂索の腕がぐちゃぐちゃに潰れた。
血飛沫が飛び散り、骨が砕け、肉から飛び出す。筋肉もまた、同じようにあらゆる方向から剥き出しになっていた。
「化け物が!!」
反転術式での治癒、それを許す日下部ではない。
居合による一閃が更に傷をつかんと振り抜かれる。
だが、ただの骨法術で日下部を羂索が圧倒する。発勁、太極拳による震脚からの崩拳がその刀を根本からへし折った。
呪力をブーストし、なおかつ現代の名刀として名を残すほどの呪具が日下部の手から失われる。
だが折られた刃先は空中に浮いている。その刀を掴み、青年が羂索の頭に振り下ろす。
領域展延による術式の中和現象により、羂索のガードすら貫き、掌をその刀の刃先が貫いた。
更にもう一発と呪力で強化した拳で殴りかかろうとした瞬間、暴君による裏拳が青年の顎を打ち抜いた。
瞬時に顎を逸らし、なおかつ展延で全身を防御していた。それなのにその暴君の拳はそのような盾は知らんと言わんばかりの一撃で意識を揺らす。
だが、自分の身体に雷を落とし、その電気ショックで目を覚ます。
羂索がアクロバティックな蹴りで青年を壁に叩きつけ、呪霊を召喚する。
召喚されたのは、猿たち。だがその猿たちはあらゆる拷問器具をその手に持ち、三者に襲いかかる。
「猿夢って知ってるかな?その呪霊さ。電車の中で人を殺すただそれだけの怪異だけど、その特異性はこの電車という空間で発揮される」
簡易領域が展開される。三者が皆、電車の席に座らされていた。甚爾、青年、日下部の順で席に座らされている。
ガラリと電車の扉が開き、数十の駅員の服を着た猿たちが現れる。
「次は〜、活け造り〜、活け造り〜」
無数の拷問器具が展開される。だが、理外の怪物は領域の効果を受けない。本来の必中の範囲は、拷問による精神的苦痛までだ。だが、男はいきなり席を立ち、その拷問器具を持った存在たちの首を掴みへし折る。
ボキリと枝を折る音と共にその猿を窓へと叩きつける。ガラスが割れる音と共に背景が鮮明と映る。
「夢を見せ、拷問による精神的苦痛を与えていわゆるプラシーボ…、この場合ノセボかな?その状況に陥らせ、心臓麻痺で命を奪うんだが…どうなってんだよ君は」
暴君、未だ衰えず。游雲を振り回し、羂索を天井へと叩きつける。
天井が崩れ、三階へと飛び上がる両者、宙に浮いた甚爾を羂索は睨めつけ、その手を下へと向ける。
「拡張術式『
呪霊が変形し、尖った形状となり地面へと突き刺さる。
それぞれが術式を解放し、結界を作り出す。作り出された結界は領域展開の押し合いのように拮抗しあい、呪力が溜まっていく。展開されるのはそれによるもつれであった。
膨らんだ風船が破裂するように、その空間に爆風が吹き荒れた。
「拡張術式『羅穿』」とは、結界術と呪霊操術の混合技、羂索によって片手間に生み出された技術である。
それが、どれほど高度の術かは呪霊操術師の存在しか知ることはできないだろう。
駅のホームが崩れだす。四階、三階と先程の戦闘により柱が折れたのだ。
日下部は既に限界であった。簡易領域を展開し、その瓦礫をなけなしの呪力で全身の強化を行う。生き埋めにはなるが、潰されて死ぬよりは生還する可能性がある。
青年は日下部の脱落を把握し、足に呪力を付与し、飛び上がる。失われた指によりバランスを崩しかけるが、なんとか上層へと這い上がっていく。
そこは地獄であった。
先程の戦闘にて、既に12分が経過し、22:40、伏黒恵により宿儺に対して切り札を使用し、18秒が経過していた。
羂索の呪霊が亡霊を襲い、亡霊がそれを叩き伏せ更なる暴力で地面を揺らす。
遠目に白い異形の巨人が虎杖悠仁と戦闘しているのを横目に、自分の出来ることを彼は使い切る。
「縛りの追加、寿命20年」
魂を縛りつける感覚、呪力が溢れ出る感覚
「更に追加、右腕をベット」
このままでは、自分は愚か、自分の家族や友人すら呪いという螺旋に殺されるだろう。
「更に追加、右足もベット」
半身を捧げた限定呪力解放、死への挑戦が青年の覚悟だった。
「術式解放、『幻獣琥珀』ッ!」
青年は神と成る。
なんだこのボスラッシュ…、かしーもはやく目覚めないと孫が死んじゃうよ!
時系列が変わってる理由は、まぁかしーものせいですね