11月11日 未明
禪院家
「術式解放『焦眉之赳』ッ!」
炎が刃から噴き出す。その温度は数百度を超えて、赤熱していた。
更にはその炎の刃というリーチが、扇の術式の使いやすさでもある。
目の前にいる白い髪の女性とも青年ともいえる端正な顔立ちをした和服の術師を睨みつけ、刀を振るう。
「ここが禪院家のお膝元であることを知っての狼藉か!賊め!」
「黙れ、この場所は『浴』の最適な場所だ。立ち退け、ゴミが」
炎の一閃が和服の術師ーーー裏梅へと襲いかかる。
練り上げられた呪力、放出される炎、誰も一級術師に遜色はなかったはずだった。
裏梅という規格外は、この時代ではトップ層の術師でもある。
「『霜凪』」
息を吹きつける。瞬間、禪院扇が刀を振るった姿勢のまま完全凍結した。意識は未だ健在、どうにか頭部を守り、生きてはいられたが、裏梅がそれを許すほど今の心は揺らいでいた。
「宿儺様の為の礎になれ、現代の術師共」
拳打が一発炸裂する。ガラスが割れる音と共に、氷と鮮血が辺りを散らした。
「なんなん?お前、誰に断って俺の家氷像にしてくれてんの?」
崩れ落ち、凍結した屋敷からボロボロの状態で、これまた端正な顔立ちをした書生姿の男性が現れる。
禪院家当主『禪院直毘人』の息子、禪院直哉が立ち上がる。
「私を待たせるな、さっさと去ね!」
「それはこっちのセリフや、アバズレ。どっちかわからんが気が立ってんのは確かやろがボケ」
新時代と古代の呪術が、ぶつかり合う。
「(氷の呪術、氷凝呪法やろな。それも高レベルや、アッチ側の術師ッ!)」
「(早いな、だがそれだけだ。確かに速さは随一、加速の術式か?まあいい、そういう輩の対処は)」
裏梅が地面に手を当てる。氷がバキバキと地面に展開されていく。
範囲殲滅、相手は近接型だと裏梅は確信し、この場所全体を覆い尽くす吹雪の空間を作り出す。
卓越した結界術、裏梅という怪物は直哉の確信通り、領域展開すらも出来るあちら側なのだ。
「(アカン!吹雪の空間に突っ込めば全身氷像や!術式を解いたら1秒フリーズする!ならこうするしかない!)」
「(凍らせる。領域展開もできんなら、展延なぞ不可能だろう)」
投射呪法を一度解除し、吹雪の空間へと足を踏み入れる。
極寒、-100°を超える絶対零度には至らないが人の命を奪い去る世界が直哉を蝕む。
が、未だ直哉は死んではいない。それは、直哉がいた禪院家に残されていた、領域対策技術『落下の情』によるオートカウンターが発動されていたからだ。
しかし、それでもジワジワと直哉の皮膚を凍らせていく術式は、直哉に焦りを与える。ジリ貧とはこの事だろう。冷や汗すらも氷となり、地面に積雪する。
「その程度か、早いだけの小蠅が…」
「分からんで、頭使えや、カス。俺がそっち側行くんや、驚くべきやろがい!!!」
死にかけの魂、絶望、怒り、怒り、怒り!
禪院直哉という男の本性、上への渇望が彼の世界を形作る。
女のような奴に負けるという屈辱は、直哉の魂をへし折るに十分であった。
その怒りによって齎されるインスピレーション!世界は、書き換わる!
組み合わされた印相は伎芸天!
「領域展開『時胞月宮殿』!!!」
時胞月宮殿ーーー投射呪法の効果を拡張し、相手に与えるデバフ空間が世界を覆い隠す。
裏梅へと、その術式が迫っていた。
しかし、直哉は知らない。目の前の術師が、呪術全盛期の平安の術師であることを、そして、その平安の術師の中でも上澄であることを!!!
「領域展延」
「動いたら死ぬで、お前。あとはゆっくり爪先から微塵切りにしてーーー」
練り上げられた呪力、裏梅のトップスピードによる肘打ちが直哉の顎を文字通り、撃ち抜いた。
「ゴッ!?な、なんでや!?領域展開しとんやろ!俺のルールに従うべきやろが!?どうなっとんや!?」
「言う必要も義理もないだろうが、さっさと去ね!ドブカス!!!」
「なんでなん、アッチ側やぞ、この俺は!」
裏梅の掌打、裏拳、張り手に手刀、貫手、凡ゆる武芸が直哉に叩き込まれる。
どれだけバフを重ねても、その差は明らかであった。
首から嫌な音が響いた。直哉がその場に崩れ、領域が崩壊する。
禪院家、壊滅ーーー!
同日、仙台
鹿紫雲は、ため息を吐いていた。四つ巴という最高の
点数は既に195点、覚醒型も受肉型も悉くを葬り去り、覇者としてこの場所に君臨し、早10日が経過していた。
「弱すぎる…、やっぱアイツらが別格だっただけかよ。面白い術式持ってる覚醒型はいたがそれだけだ。クソ」
目の前の術師を雷鳴と共に殺し、更に点数を獲得する。
「5
「今200か…、まだか高専の奴ら?そろそろ十日だぞ」
「ルールを追加しますか?」
「…嫌、まだいい」
鹿紫雲の苛立ちが募る。そろそろ歯ごたえのある奴が来るはずだ…。
そう願いながら、鹿紫雲は歩いていた。
「もっと俺の術式は拡張できるはずだ。そのためには、イメージを固めるべきだな。宿儺に勝つにはあのままじゃダメだ」
三ヶ月前、まだ青年が健在だった頃、彼は様々な本を買い漁っていた。
オカルト本、技術のテキスト、知らない博士の論文に昔の手記、それに加えて似非科学や思考実験なども。
そこから溢れたインスピレーションを術式に落としこみ、試行錯誤を繰り返しながら、この十日間は過ごしてきた。
その中で、鹿紫雲の目を引いたのは、思考実験のテーマの一つ
「『スワンプマン』…、ね」
新たなるインスピレーションが、鹿紫雲の脳に刻まれた。
箸休めの伏線置き場
入ったら別コロニー行けないから雑魚狩りするしかないかしーも