スワンプマンーーードナルド・デイヴィッドソンが考案した思考実験である。
ある男がハイキングに出かける道中に、男は不運にも沼のそばで、突然雷に打たれて死んでしまうことになる。
その時、もうひとつ別の雷が、すぐそばの沼へと落ちた。
偶然か必然か、この落雷は沼の汚泥と化学反応を引き起こし、死んだ男と全く同一、同質形状の生成物を生み出してしまう。
この落雷で生まれた存在を沼男ーーースワンプマンと呼称する。
彼は原子レベルで死ぬ直前の男と全く同一の構造を呈しており、見かけも同一であり、脳もまた死ぬ直前の状態である。
記憶も知識も差異はなく、死んだ男と同じ行動をして日常に帰るといった内容のものである。
この思考実験の意味は、沼男はその死んだ男と同一であるのかというものだ。
鹿紫雲はこう考えた。
ーーーどちらもありうる……。そんだけだ。
イメージを固定化するのはよくない。呪術とは、イメージの世界!
その沼男は自分でありながら自分ではない!
結論、この拡張術式は成った。
自分を無数に作り出す術式としてーーー!!!
「「「あんまりワクワクさせんなよ!!!」」」
形勢が覆される。数的不利が大きく反転した。
鹿紫雲たちは怒涛の攻めで宿儺を攻め始めた。
沼が雷に何度も穿たれ、世界が紫電に染まる。鹿紫雲の術式は、雷で再現できるものならばどのような再現も可能!
イメージできるならば、このような荒技も可能である。
魔虚羅が横薙ぎ一閃し、数体の鹿紫雲の体を引き裂く。しかし、この圧倒的な数は止まらない!
適応以前の問題であった。徐々に魔虚羅の動きも緩慢になっていく。
宿儺もまた同じであった。
「『解』」
切断。切断。切断。既に数百の『解』が使用され、鹿紫雲の生命を刈り取っている。
しかし、目の前の存在たちは殺した倍以上増えている。
「(なるほど、どういう理屈かわからんが、この領域では鹿紫雲一は無限に湧いてくるということか…、”面白い”!)」
ニヤリと彌虚葛籠の掌印を組みながら笑う。
呪力の波が変化する。宿儺のボルテージが上がり、その掌印を組み直した。
閻魔天印を組み、その言葉を唱えようとする。
「『領域展ーーー』」
「しゃらくせえ!」
三人の鹿紫雲が地面を駆け抜け、宿儺の腕を粉砕する。
領域の必中効果ーーー雷が宿儺の身体を貫き、閃光が仙台に輝いた。
「(この男ーーー!)」
三人から、六人、六人から十二人、まるで高速回転するメリーゴーランドのように宿儺の周りを旋回し、圧倒的なスピードでその身体を撃ち抜き続ける。
量が、質を圧倒する!!!
「(全てが自分だからこそーーーこの
圧倒的自我の最強の個ーーーそれこそが、両面宿儺という存在であり、その他は全て有象無象。
連携など考えたこともないその存在に、数百の言う同一人物の軍隊が首を取らんと世界を駆け巡る。
数に任せた打撃、その数が多ければ多いほど、ランダム性があるソレが引き起こされる…!
黒閃!!!
下手な鉄砲数撃ちゃ当たるとは、黒い火花も対象である!!!
両面宿儺に千年ぶりの緊張が奔るーーー!
「魅せてくれるなァ!鹿紫雲一ェ!!!」
黒い火花がこの領域をさらなる世界へと誘い始める。
互いのボルテージは、120%を超越し始めていたーーー!!!
◆
「宿儺と鹿紫雲が拮抗してる!?」
「鹿紫雲の領域展開で内部は見えないが未だ崩壊していないというのは、そういうことだろう」
刀を携えたやる気なさげな男と、目を髪で隠した美女が会話をしていた。
日下部と冥冥は、体育館のような場所で話し合っていた。
現在、死滅回游平定のために動く高専とその協力者たちは、他の地域の
乙骨憂太は愛知結界、禪院真希は桜島結界、虎杖悠仁、伏黒恵は東京第一結界、秤金次、パンダ、西宮桃は東京第二結界、他の術師達もまた、その結界の平定のために戦い、大まかに終わった乗っ取られた伏黒を除く術師達が体育館で集合していた。
既に羂索が九十九由基を殺害し、天元を奪われている状態ーーー、五条悟の解放が急務となっていたところに、この情報である。
「じゃあ今俺たちが向かえばーーー」
虎杖は拳を構えて言う。
「ダメだ!お前たちじゃ足手纏いになる!」
日下部はそれを拒否し、刀をトントンと叩きながら呟いた。
「俺たちがやるべきは五条の解放だ!後にも先にもアイツがいれば頼りになる!それにだ!鹿紫雲は半端なく強い!無駄に死ぬことはないはずだ!」
「それは俺も思う〜」
日下部とパンダは鹿紫雲の戦闘能力を目の当たりにしている。冥冥のその言葉に頷いた。
「じゃあ、やるぞ…!」
五条悟を、解放する!!!
彼らの思いが、一つの箱を貫いた。
現代最強が今復活するーーー!