紫電奔る   作:浜騎士

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や、読者(サトル)


お前の父の額にも縫い目があっただろう

「君の母親、虎杖香織はこの私だ」

 

羂索がそう虎杖悠仁へと言った。

困惑と疑惑が虎杖を包み込むが、脹相が彼の肩を叩き正気に戻す。

 

「前に言っただろう。『お前の父の額にも縫い目があっただろう』と…、九十九と一緒に戦った時、奴を追い詰めた。奴は脳を死体に移行して操っている!」

 

「つまりそれって…」

 

「そうだ…、お前の母親の死体を乗っ取っていたんだろう…!どこまで俺たち兄弟を馬鹿にする…加茂憲倫ィ!」

 

脹相の激昂が呪力を更に活性化させる!両手を合わせ放たれた穿血は、どこに吹く風と呪霊で受け流す。

どちらにせよ攻める他に方法はない。七海の豪腕が倒壊しかけたビルに突き刺さる。

 

「十劃呪法…瓦落瓦落ッ!」

 

地震が起きる。七海による戦場の切り替えにより、バランスを崩した羂索へと日下部による簡易領域が迫る。日下部の卓越したこの弱者の領域は全自動(フルオート)での迎撃を行う。御三家直伝の「落花の情」と酷似したそれは、羂索の脳内速度よりも迅く彼の体を切り刻んだ。シン陰流の技巧の到達点である【空】に至った日下部が重点的に狙う部位は両腕と頸!前回の戦闘で経験した彼の奥義である閉じない領域を警戒していたからだ。しかし羂索も無策で対応するわけではなかった。

 

「術式解放」

 

反重力機構(アンチグラビティシステム)

 

反転ではない通常の術式により空中へ浮遊し、上半身を重点的に狙っていた日下部の連撃を脚を犠牲にすることで回避する。日下部の舌打ちと共に、日車がガベルを叩いた。

 

「領域展開」

 

誅伏賜死

 

裁判が行われる。秤金次同様、生得術式自体が領域展開をデフォルトで備えているこの世界は、まるで無数の処刑台が検察官席の日車と被告人席の羂索、傍聴席へ日下部、七海、脹相、乙骨、虎杖を包囲するように展開していた。

この領域では暴力行為の一切は禁止され、日車の式神「ジャッジマン」を裁判官として進んでいく。

 

「やっぱり面白いね、日車寛見。もしかしたら五条悟に並ぶ術者になれる」

 

「静粛に」

 

ジャッジマンが窘める。羂索は肩を竦ませ、ジャッジマンに続きを促す。

 

「被告人羂索は2018年11月1日未明に死滅回遊による未曽有の呪術テロを引き起こし、日本全土にて多くの死傷者を出した疑いがある」

 

「裁判を模した術式かな、下手なことは言えなさそうだ」

 

「ジャッジマンは領域内のものの全てを知っている。だが心配しなくてもいい。俺にその情報は共有されない。判決はあくまで我々の主張をもとに下される。この『証拠』を除いてな」

 

呪力の具現化による茶封筒が出現する。日車の説明である術式の開示を嚙み砕きながら羂索は軽薄な笑みを浮かべていた。証拠は必ずしも疑いを確定するものではないらしい。言い訳を述べて疑いを晴らさなければ『無罪』を勝ち取れないらしい。陳述のチャンスは1度きり、言い分の後に証拠を踏まえて反論が行われ、最後にジャッジマンが六法に基づいて判決が下される。

選択肢は3つ。『黙秘』『自白』『否認』…『否認』には虚偽陳述も含まれる。

日車の術式の開示(説明)が終わり、ジャッジマンへの言い分を待つ。日車は羂索の反論を待つ。どんなものが来ても問題はない。話術が巧みな検察官を多く説き伏せてきた。

 

「(だが、死刑は確実だ。『証拠』は揃っている。黙秘も否認も意味はない。『死刑』にできる)」

 

日車はガベルを具現化する。

 

「ジャッジマンの気は長くはない。言い訳をしろ」

 

「(だが、なんだ?この違和感は…、この違和感を、俺はどこがで)」

 

日車が顎を摩る。少し伸びた髭が指に引っかかる。死滅回遊へと参入してから身だしなみはあまり整えているとは言えなかった。全てが終わったら身支度をしなければならない。この違和感はきっと…

 

「そうだね、羂索(わたし)がやったことだ」

 

一番驚いたのは、日車であった。黙秘か否認をすると考えていたからだ。ガベルを空の面で叩き、音を鳴らす。

判決の結果は___

 

「『有罪(ギルティ)!』『没収(コンフィスケイション)!』『死刑(デスペナルティ)!』」

 

ガベルが輝く。『処刑忍の剣』の使用許諾!これで羂索の術式は封じた。あの大量の呪霊召喚を封じれたのならば、問題はない!このまま数で落とせる!

 

はずであった。

 

待ち受けるのは、特級呪霊『大僧正』、その呪詛が仙台を塗りつぶした。

違和感の正体…、確かに羂索の生得術式は剥奪された。脳の移転による肉体の奪取の術式は…!既に移行した脳は身体と結合している。彼の術式の発動の起点(タイミング)は脳の移動時のみ、それ以降は発動はしていない!

呪霊操術、反重力機構は健在であった。

 

「術式の理解を深めるべきだったね。呪霊操術は夏油傑の術式なんだから彼を対象に裁判しないと」

 

羂索の全体重と呪力を載せたエルボーが日車の鳩尾へ叩き込まれる。

 

「お疲れさまでした!」

 

1000年の研鑽を重ねた術者は未だ障害として立ち尽くしていた。

 

「ラウンド2かな?」

 

遠くで雷と轟音が聞こえる。決戦は未だ、半ばであった。

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