紫電奔る   作:浜騎士

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生涯貴様らを忘れることはないだろう

遥か先での僅か19秒の領域内部での攻防の10分前、五条悟、鹿紫雲一、両面宿儺による三者の領域展開が行われた。彼らの領域展開の競り合いは、非常に奇妙で卓越した技術者のみが扱うことが可能な、特異な世界を押し付けあっていた。

鹿紫雲一の領域展開「碧輝殺風景」の心象風景は快晴なのに雷が轟く自己の世界が広がる。碧い輝きを放ち、雷の特性が付随する呪力が地面を焦がす。

対するは五条悟による「無量空処」が虚空なる宇宙を世界に反映させ、無限に広がると誤認するほどの空間が浸蝕する。

その全ての世界を切り刻むが如き、領域すらまな板に載せ、出刃包丁のように領域の繊維を断ち切り始める両面宿儺の領域展開「伏魔御廚子」が領域外部で展開される。現在の領域は混沌を極めている。一番内側に「碧輝殺風景」が展開されており、その外側に内殻の強度を下げることを条件に外殻の強度を増す縛りを経た「無量空処」により、一番外部にある「伏魔御廚子」から世界を守ることが条件の世界である。

しかし、本来であれば「碧輝殺風景」の使用者である鹿紫雲の結界術は五条悟、両面宿儺という呪術界で天井を叩き出す怪物からは一歩どころか数歩下がる。ものの数秒で破壊され、怪物二柱の領域に蹂躙されてしまうはずであった。

だが、拮抗する。拮抗している。

前回までの領域展開では自分の基礎ステータスの上昇程度の付け焼刃にしかなっていなかったが、彼は2度の黒い火花による導きにより、呪力の核心を掴んだ。

日車寛見や秤金次の術式には領域展開がデフォルトで備わっている。彼らの領域は必中ではあるが必殺ではない。それが領域の押し合いに有利になっている。

鹿紫雲は領域に縛りを複数設けた。

そのうちの一つは必中の除去。

多くの術師は鼻で笑うかもしれないが、鹿紫雲にとっては選択の一つとなる。鹿紫雲の雷の呪力は、光と同等であり、回避することは未来予知者でない限りは不可能に近い。呪力による防御も、並行世界で無限の呪力を放つ無敵状態ともいえる秤を一撃で穿つほどの雷のエネルギーは、実質的に必殺だ。ゆえに、不要と考えた。

「(だが、おかしい)」

宿儺は顎を撫で、逡巡する。既に鹿紫雲の呪力は乙骨憂太の半分以下…、黒閃により少量は回復しているが明らかに満身創痍。二度目の領域展開は不可能であったはずだ。自死の縛りでもなければ、割に合わない。何を捨てた?

「(ああ、なるほどね。確かに、その『解釈(屁理屈)』は通じるけど…マジ?)」

幾度の黒閃が飛び交う場所で、呪力をどう消費したかを確認するのは六眼を持つ五条悟以外は不可能である。弾速(バレットスピード)での戦闘ならばなおのこと。

この極限状態でこそ、その「感情(愛憎)」は増す。

「(愛ほど歪んだ呪いはないね。それが恋愛感情でも…)」

閃光、この「死滅回游」から68年後の2086年に起こる宇宙からの侵略者が片足を踏み入れた領域に。

「(家族愛であったとしても)」

雷神が、光速で舞う。

 

「術式解放『幻獣琥珀』!!」

 

Q.遥か彼方から来たシムリアの人々の中で最強のデスクンテ族の男ですら、光のスピードに身体が耐えられなかったのに、鹿紫雲が渋谷で身体が崩壊しなかったのは何故か?

A.「幻獣琥珀」は電気と同じ特性を持つ呪力から変換できるあらゆる現象を実現するために肉体を作り変える術式であるから。

宿儺が無限に見える。音すら追い抜き、空気の壁すら突破する。そのエネルギーにより内部の領域が砕け始める。

領域が砕けるまで、4分11秒。それまでに仕留められなければ、即死!

「まあ、それが何だっていうんだ」

鹿紫雲は枯れた大樹に背を預けて呟く。その大樹の反対側は、大きな桜が舞い散っていた。彼もまた、大樹に背を預ける。

「おじいちゃん。これは多分、神様がくれたちっぽけな幸運なんだ」

「幸運?死んだ後に出会えることがか?」

老けた男が返す。青年は頷く。

「だってさ、僕は普通に退屈してたから。まあまあの人生で、まあまあの会社に勤めて、まあまの最期を迎える。でも別に、そんな「妥協(まあまあ)」は欲しくない。僕は太く短く生きていたい。どうやって生きたかじゃなくてさ、どう生きたかだと、「僕」は思う」

青年は、この平和な日本では確かに生きづらかったのかもしれない。今の価値観とはどこかで歯車がかみ合わなかっただろう。

「そう生きたか…か。フン、クソガキの孫…これは老人からの忠告だ」

パリ と紫電が静電気のように音を立て、青年の両目の目元の皮膚を焼いた。

「いッッッッた!」

「それでも、俺の孤独を癒したのはお前だ。小僧」

向き合う。大樹を挟みながらも、何故か顔は見えるような気がした。

「小僧、お前は生きろ。生きて学べ。俺は戦いしかなかった。何もかもが土くれにしか見えなかった。だが、他の生き方はあった。俺が盲目なだけだった」

かつて、女性とひと時を過ごした時もある。いう必要がなかったし、なによりもそこに愛はなかった。一時の気の迷いだった。戦闘という道を突き進み、戦場という場所に身を置いて、戦争に見放された。何も残せなかったのが、鹿紫雲一という老骨であった。

「ま、なんだ。これは爺…、もう何世代も前の老害からの静電気だ。お前が来るには、地獄はまだ早ぇんだよ、(クソガキ)!」

捧げたものは、この(・・)肉体と、術式。泥人形は大樹の裏で涙を零す。

「最後に言うには、元気すぎるよ。お爺ちゃん」

 

鹿紫雲一は、二人いた。拡張術式である「天命泥寧体」は自身の泥人形に呪力を与え、半永久的に偽りの命を与える術式である。勿論、いつ呪力がなくなり泥になるかは本人にもわからない。ただ、この泥人形は自分の分身としても扱われる。魂の情報は肉体に付随する解釈もある。掟破りの術式運用を可能にしたのは、文字通り全てを託したから。

かくして、老人は神と鳴る。

紫電、奔る。

4分11秒の領域は4秒足らずで粉々に砕け散り、仙台から轟いた閃光と過剰エネルギーは遥か彼方の国まで暴風を噴き荒らした。

両面宿儺の身体が消し飛び、中に昏睡していた伏黒恵がどちゃりと地面に投げ出された。その身体に粘性のスライムのような身体を持つ呪いが吐き出される。

「まさか、領域を展開していたのは小僧の方だったか。もう死んだと思っていたが…、ここまでとはな」

白い煙が上がる。ケヒと笑い、空を見上げる。

「天晴だ、江戸最強(鹿紫雲一)現代最強(五条悟)…生涯、貴様らを忘れることはないだろう」

曇天であった空が、晴れていた。それに焼かれた吸血鬼のように両面宿儺はこの世を去った。

「馬鹿だな。(現代最強)はあんま活躍なかったでしょー?」

「いや、五条さんの領域の外殻がなければ領域の維持はできませんでした。わずか数秒で勝負はついていた。その数秒を稼いだのは貴方です」

「…ま、残念だけどね。本気でやりあえる奴が消えたのは」

「…いや、やりませんからね?光速で数回殴ってこの被害なんですから、やるなら宇宙ですよ。宇宙人と戦ってください」

「ドラゴンボールZかよ」

戦いは終わる。それは、もう一つの戦場も同じように。




実質的には紫電奔るは終了。あとは再誕真人と覚醒虎杖+@戦。この戦いの裏側ですので天井は参戦しません。
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