私はナイフを見た   作:色龍一刻

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やはり設定考えるのが楽しい。
戦闘は、ないです。
辛く苦しいことはまず土台作りから。高い塔を立てるのも一苦労。


私は彼女を見た

 

 

ふと振り返れば、必ず思い出す光景がある。

 

漂白された壁にぶちまかれた血色の泉。

耳鳴りのようなサイレンとランプ。

溢れる薬液と止まらない血液。

 

ああ。

 

痛みに呻く間もなく、滲むものがそこにはあって。

届かないものを、ただ眺めるだけの虚しさを抱いて。

そこに異なるもの(完全)は無く、

されど、祕められたのはまるで嘆きのような熱だった。

 

あの日、あの部屋を脱出した彼女は全てを破壊し尽くし。

残るものは、烙印の私達のみである。

 

 

 

 

 

2017:07/19:PM4:00

第40学区・接続部

低価値商業区域・雑居ビル/地下10階・収容室

気温 20℃ 屋内

含光基子濃度 +0.03

 

 

 

弱く発光する青紫の枷が揺れる。

バチンと痛い音を立てた瞬間、少女は首を掴んでしゃがみ込む。

器具による強制的な能力抑制機能だ。首の神経から頭部及び脊髄にかけて.....あーうん、猛烈にイタイものを与える。無理矢理能力を発動させようとすれば下手すれば植物人間或いは死。

 

含光基子によって齎される物質変換、現象誘発、物理干渉能力は厳重な警戒に値するものだ。この処置も有り触れたものとはいえ少女(ヒト)の形をしたものに行うのは目に毒である。

 

 

「無理するな、その必要は無いだろうに。」

 

......うるさい。

 

改めて〘情報屋〙から提供された少女の詳細情報を確認する。

名前はコードネームのみ。女性。推定10歳。能力は不明。身体構造、異常:重度改造体。

 

.....度し難い。登録された技術認証から根幹企業ゲブラの専属実行組織の生体兵器研究部門の産物なのだろう。この前、関連営業所を()()したことへの報復だろうな。〘掃除屋〙の後始末をすり抜けて情報が漏れたか、態と〘情報屋〙が流して釣ったか、どちらにしろあちらさんはこちらに銃口を向けたということであり、これ自体が社長の戦略なのだろう。.....まあそこん所は私の考える分野じゃないし放置放置。

 

さてここからどうする?

これをずっとここに置いとくのは費用が嵩む。

スパッと解体しても良いが、例の『〘解体屋〙代行案』が気になる。まだ完全決定したことではないのだろうし死んだら死んだで白紙になる程度のものなのだろうが私にも見せるくらいなんだ。よく考えろってことなんだろう。〘情報屋〙もややこしいことをする。『()()()()()()()』なんて私感を入れてきてやがる。好きにしろって言われてもねぇ...困るんですよそういうの。

社長にメールを送ってもいつものこと(完全無視)。個別対応しろってか? 放任主義もいい加減にしろと言いたい。仮にも社員だぞこちとら。

 

置いとくも面倒。置いとかないのも後で面倒。

どっちにしろ先行き不明のまま面倒なことだけがわかっている状況。

ならば.....あとは命の問題か。

 

「なあ、お前さんは、生きたいか? 死にたいか?」

 

全くもって考えたくないがこれを物体ではなく命と置く。

含光基子に体の6割を持ってかれている人間とする。

意思があり、感情があり、契約できる存在と見る。

さすればこの産業廃棄物もまた一つの生命体である。

 

抑制機能による痛みに呻いたあと、体を抱えたまま沈黙していた少女が震えた。

 

 「は.....?」

 

伸び切ってしわくちゃな髪の隙間から覗く、蒼い瞳。

困惑と警戒。無意の恐怖、そして殺意。

うーん綺麗だ。しっかり解体すればそこらのマニアには売れるな。

少女を生かすなら少なくない資金が必要だ。言葉通り体で払えるのは若さの特権である。

 

「私はどちらでもいい。決める動機が無い。どうせどちらにしろ面倒が起きる。ならば、決めたい人が決めるべきだと思ってね。どうだ、どちらがキミにとって都合が良い?」

 

返事は無い。

瞳は震えず、呼気に情動が見えない。

凍りついた思考から覘めるのはこの先の展望の推測か。

本能と衝動と直接的な感情の天秤が揺れている。

壊れそうな程の脳活動、能力が意図せず漏れて枷によって封じられる。

 

白の少女は、枷から齎される痛みに呻きながら必死に考える。

考える必要がある事実を、私は受け止める。

あれはもう人間と同等ではないことは知っている。

けれど、最期を決める選択くらいは。

私にも与えられたものくらいは差し出さなくてはやっていられない。

 

一息を吐いて、ナイフを取り出す。

この前彼女を仕留めようとした少女のそれではなく、トランクに仕舞ってあった私の仕事道具(ナイフ)。銘は無い。数ある能力操作媒体だ。

 

ケースから引き抜いて_________

振りきる前に聞こえた微かな声。

 

 

 

「どちらもいや。」

 

 

嫌悪と反発。

未来への希望と過去からの絶望。

投げ出したい衝動とそれでもすがり付きたい願い。

 

それに基づく確かな意思表示に、少し、安心した。

 

 

「上等。」

 

 

私は彼女を見た。

 

 

抜黎()________

 

 

抜剣。

 

煌めくは忌々しき含光基子の光。

含光基子に基づく固有反応現象、つまりは"異能"。

 

自然体の状態、その影から振り抜かれるブレード部分に、異様な揺らぎを携えて空気を割く。

 

時として元来の物理法則を疑わせた不相応な力の波紋。

この世界を、大地を、社会を、生活を、彼女を、目茶苦茶にしてなお忍び寄る破滅の輝きを、私はここに行使する。

 

少し、泣き微笑んだままの彼女にナイフが通るその瞬間、

 

 

_________百々薙()

 

 

枝分かれた見えざる刃が、九十と六に破断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2017:07/19:PM10:00

第40学区・接続部

低価値商業区域・雑居ビル/地下6階

気温 23℃ 屋内

含光基子濃度 +0.006

 

 

 

 

「というわけで処置(解体)は完了した。汚染部位や感染源、埋め込まれてた情報収集装置やナノマシンの必要最低限の除去を済ませた。いつも通り〘情報屋〙に機器類のデータサルベージと、〘掃除屋〙に廃棄依頼を出しておいた。」

 

「お、おう....」

 

「第三段階実証実験体仮称νに関しては処置後に消毒、各肉体部位の接着、臓器移植と輸血、含光基子汚染の拡散防護処置、再度の記憶処理と異能抑制デバイスの内蔵を医療班に依頼した。」

 

「うん。」

 

「〘情報屋〙には殺すべきとは言われたんだが、見せられた『〘解体屋〙代行案』が気になってな....まあ上手くやれば役に立つんじゃないかと思うんだが、建前上他の社員が首を縦に振りづらいと思うから説得を手伝ってくれ。判明している能力的に使い勝手は良いと思う。最低有機デバイス扱いでもまあ殺すよりマシな処置だろ。」

 

「まあそれは手伝ってやれるけどさ、ところでその密閉パック...目ん玉かよ。またなんか買ってきたん?」

 

()()()のやつ。汚染が酷かったし見えてなさそうだからもらってきた。流石に目の色を揃える余裕までは無いらしいが眼球ぐらいは医療班に付け替えるストックあるってさ。視覚については問題ないだろ。融合率80%超えの異能発生部位だ。上手く加工すれば高値で売れると思うぜ。色も形も良いからマニア向けにすれば価値は跳ね上がるだろ。」

 

「魔眼のなり損ないか....そんなものも売れる時代とはお兄さんついてけないよ。できた金はどうする予定で? ぱーっと使っちゃうか。この前コクマ製のレールジャベリンの新カスタム出てたぞ。含光基子中和装置の予備でもいいな。今話題沸騰のヒト型機動兵器は.....置き場所がないか。」

 

「ばかいえ、新社員が入社するとなればやることは一つだろ。」

 

「........ああ、久方ぶり過ぎて忘れてたわ。」

 

「「歓迎会。」」

 

「どうせ無視だろうけど社長に連絡しておく。」

 

「説得用の資料はどうするか....態々集会にするか? 一人づついく?」

 

「そこら辺は任せたい。顔が広いらしい〘運送屋〙にね。」

 

「ま、ある程度はな。任せとけ相棒。」

 

「頼んだ相棒。」

 

 

 

 

 

 

 

2017:07/21:AM7:00

第29学区・臨央部外縁

医療提供区域・医療研究企業アルカ/地上2階

気温 18℃ 屋内

含光基子濃度 皆無

 

 

 

 

「お待たせしてすいません、カイさん。」

 

「いえいえ、こちらこそ緊急での依頼でしたのに受け入れてくれて感謝しています。.....彼女は。」

 

「はい。搬入の際に申し上げた通り、体組織の60%以上が含光基子と癒着、融合しており生命維持に重大な問題が生じていました。カイさんによって殆どが分離、切除されていましたが体重のほぼ4割が消失し、早急な体組織の置換及び輸血が必要な状況でした。」

 

「含光基子専属部門に依頼するには時間が足りなさそうでしたので、こちら(医療部)に運ぶために彼女には無理をさせてしまいました。申し訳ない。」

 

「おっしゃる通りこちらに派遣されているイルミネクサイト専門....特殊医療部の手に余裕は無く、恥ずかしながら有難い配慮でした。担当医も驚かれていましたよ。"全く素晴らしいまでの切断精度だなこりゃ、どんな能力を持ってたらいったいこうなる?"、と。入念な汚染除去と残留検査もしましたがこちらで対応できる濃度ギリギリだったのも含めて、多分誉め言葉だと思います。」

 

「ハハハハ、これでも〘解体屋〙ですので。メスはともかく、ナイフの腕で稼いでる身としては嬉しい言葉ですね。私の解体による含光基子の除去行為を重ねればその分彼女の命に関わります。我ながら中々のリスクを冒しました。まあ医療部の皆さんの腕を買っていたからこそベットできたとも言いますが。」

 

「ふふ、光栄に思います。担当にも伝えておきますね。よし、ええと、彼女の部屋の認証キーはこちらです。退館の際に窓口に返却してください。一応能力保持患者とのことで監視と抑制処置、中和領域を敷いています。カイさんの能力も制限されますのでご注意を。今回の手術及び入院費用に関しては....

 

 

 

 

 

 

 

一通りの手続きを終わらせ、社員と別れて彼女の部屋に向かう。

まだまだ起きないだろうとのことだが、彼女はいつ掃除部隊がよこされてもおかしくない身分だ。命を残した責任と義務が私にはあるし、このように半分表に出したならその間は付き添う必要がある。偽装を〘情報屋〙に何枚か頼んだとはいえ、それだけじゃ心許ないしな。

 

エレベーターに乗り、上へ。

患者やら看護師やらを避けながら奥へと進む。

対能力の警備が彷徨く能力保持患者入院棟のゲートに辿り着いたら挨拶を交わしつつキーを照合、警備一人に付き添われつつ部屋まで案内される。厳重だなホント。

部屋一つに警備二人が常駐しているらしい。三人の視線を受けつつ部屋のロック解除。緊急事態における避難通路やら対処方法やら推奨行動やらを脳裏に反芻しつつ部屋に入る。

 

そうすれば______すやすやな眠り姫の登場である。

 

一通りに部屋____カメラの死角とか盗聴器とか諸々____をそれとなく確認しつつ彼女の状態をみる。指輪型の仕事道具を接触させ薄く"解体"。うーん大丈夫そう。まだまだ体の内は脆い部分が多いけど再生も早い。このペースなら覚醒も近いだろう。

急遽部屋から逃亡することになっても抱えた衝撃で死亡とかならなそうで安心である。

 

適当にポットから紅茶を注ぎ、簡易椅子で本を開く。

至福の休息である。静かで寒暖も無いいい空間だ。

 

ふと、左腕を見る。

手首にはめられた中和装置の効果の保証を示すメーターがこの前の解体で一気に8割まで上昇していることに改めて溜息を漏らす。買い替えるにも馬鹿にならない価格だというのに、見栄張って解体したことに今度は自制しようと誓いつつ、いやでもあのままだった場合の治療費...延命費と比べた場合...こっちのほうが安上がりだったと思う、思いたい。

 

そういう意味で私の異能は少々値が張る。

殆どが能力行使における安全性担保による出費なのだから、やはり人間は能力に頼らず古典的に己の肉体と元来科学のみで生きていくべきだと考えるのだ。含光基子....能力を取り込んだ新科学とそれを利用した製品は少々危なっかしい。そりゃあ元来科学で動く製品もどう動いているかなんて細かく理解していないことは承知だが、人間が、生物が、大地が、こうも含光基子に書き換えられていく様子を見ていれば、危機感を持つのも当たり前だろう。

 

我々は、いつか訪れる含光基子の第三次膨張拡散(サードインフレーション)に怯えながら、それでも含光基子を利用して生きている。あの隕石衝突と同時に発生し全てを焼き尽くした第一次膨張拡散(ファーストインフレーション)、通称アース・スパークによって生きていくための余裕は奪い去られ、含光基子という悪夢的なエネルギーを利用して今を生きる選択しか生き残る道は無かったからだ。

まるで世紀末。昔流行ったアクションゲームのような世界。悲劇は尽きること無く、世界以上に人は強く、それでいて脆く醜い。

その一端がこれだろう。

 

第三段階実証実験体仮称ν。

推測ではあるが、含光基子に肉体の何割を意図的に侵食、制御し、含光基子汚染耐性上昇と能力開発を主目的とした改造体。

 

本当に、嫌になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________意識が繋がる。

 

 

ゼロから急速なイチへと起動する。

持ち上がる思考。

水面へと上がる情動。

火花。明暗。然るにぼやけた白。

耳元で反響する、頭痛を伴う電子音。

手首のチューブ。口を覆う透明な呼吸器。

体の痺れ。その奥の軋み。上手くは動けない。けれどここがどこの実験室なのかぐらいは.....私はどうなるのかぐらいは.....

無意識な能力発動が制限され、フィードバックの痛みに神経が跳ねて、呻いた。

 

「ん、起きたか。」

 

声。顔は鮮明に見えない。けれどその声には聞き覚えがあって、

聞き覚えがあるってことは......

 

「先、生?」

 

「.....まだ意識がはっきりしないみたいだな。まだ眠ってていいぞ。体の再生も済んでいないしな。」

 

頭を撫でられる。

先生じゃない知らない匂い。知らない気配。

けれど少し安心する。

緩んだ緊張の隙間に睡魔が滲みていく。

溶けていく視界の中で白が弾ける。黒に染まる。

私は、微睡みに落ちていく。

 

私は、ゆっくりと目を閉じた。

 

 

 








"解体"
基本として仕事道具を介して発揮される能力現象。
単純な切断能力かと思われる。
前回の襲撃では空気中の含光基子濃度が高いわ仕事道具の入ったアタッシュケースを手放すわで出番が無かった。
勿論仕事道具を介さなくても発揮できるが、リスクは高い。そこまで使い勝手はよろしく無いらしい。

第三段階実証実験体仮称ν
実験体にしては珍しく精神が壊れていないタイプ。
鋼のメンタルと強固な意思表示に〘解体屋〙はニッコリ。
丁寧に解体された。
綺麗なお目々はお金にしてこの世界における身分証明、戸籍を買う予定。そこから改めて就職となる。

医療研究企業アルカ
医療班はその内の一グループ。民間向けの愛称に近い。表向きの顔のメンバー。
主人公が所属する"会社"との提携企業であり協力関係にあたる。
医療に特化した研究機関。

根幹企業ゲブラ
兵器開発の代名詞的大企業。
ありとあらゆる抗争にはこの刻印の入った武器が必ずある。
火種であり死神とも称され忌み嫌う人が多い。

根幹企業コクマ
兵器開発の珍企業
仮にも根幹企業なのにその全容は知れない。
よくわからない武装を生産し、なぜかそれが大ヒットすることが繰り返されいつの間にか根幹企業に成り上がっていた。
兵器市場のイレギュラー。ゲブラの目の上のたんこぶ。
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