貞操観念逆転世界へ変わっていく一般人たちの反応 作:ねこ次郎
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一話
「やった! ついに完成した!」
それは日本の何処かの研究所から始まった。
1人の馬鹿な男の夢と欲望を叶えるための必死の努力。人類を、世界を変えたいと願い続けて、出口の見えない真っ暗な闇の中を歩き続けた男は、とうとう自身の欲望を叶える第一歩を完成させた。
彼の目の前には、三匹のマウスが机いっぱいのゲージの中で一箇所に集まっていた。三匹のうち、一匹がオスのマウス。残り二匹はメスのマウスである。
メスのマウスたちは、牙と爪を使って互いを傷つけ合っていた。
きー、きー! と互いが互いに威嚇する様子は、まるで目の前のオスを取り合っているようだった。
「これで、この薬で、俺は世界を変える」
くつくつと男は興奮を隠しきれずひとり嗤う。
しばらくして、体が大きい方のメスのマウスが、もう一匹のメスのマウスを退け、負けたマウスはゲージの端っこまで逃げ走っていく。
「俺がモテなかった、このクソッタレな世界は、俺がメチャクチャに変えてやるんだ!」
勝ったメスのマウスは、すぐ側にいたオスのマウスに視線を向けると勢いよく襲いかかり、オスのマウスを仰向けに倒し、そのままメス主導の交尾を始めてしまった。
負けて端っこまで逃げてきたメスのマウスは、独り隅っこで両手を股間に這わせて、モゾモゾとしている。
異様な光景。それを繰り広げているゲージの外には、怪しげな色をした液体が入っている注射器があった。
その薬は、彼の夢を実現するための道の原型
彼の夢、それは………
貞操観念逆転世界
「そんな世界でなら、俺も………ククッ、はははっ!」
彼が生み出した薬が、世界の、人類の在り方を大きく変えてしまった。
…………
……………
………………
『続いてのニュースです。都内の……』
朝、つけっぱなしのテレビからいつも通りのたわいもないニュース番組を流し見しながら、俺、
俺は1Kの狭いアパートで一人暮らしをしている。仕事場から近いことと家賃が手頃なのが決め手の狭いアパートだ。
寝て起きて、仕事に行って、くたくたになって帰ってきては、スーパーで買った半額の惣菜を夕飯にしてから寝るだけの日々。当然、女っ気なんてない。
そんな日々のルーティンをこなすだけの日々には不満しかないが、かと言って自ら行動するだけの気力が湧くこともなく、『つまらない』と思うだけの日々を過ごしていた。
はぁ……何か面白いことが起きないかな……
『……先日、認可されたばかりの………薬が今日から一般販売されることになりました。今朝から全国の薬局にて販売するようです』
テレビは、俺が愚痴を溢そうとも、つまらないニュースをいつまでも流し続けていた。
『………薬は女性の………の解消に効果があると………法人が公表しており、臨床実験も問題なく進んだことから、…………の一般販売に踏み切ったようです。世間からは戸惑いの声も相次いでいますが、一方で喜びの声も相次いでいるそうで』ブツッ
テレビを消した。そろそろ通勤時間だ。
俺は、最後に家の前にある鏡で服装の乱れがないかを確認してから、家を出て行った。
……………
俺が勤めている会社は、アパートから歩いて15分くらいにある4階建のビルの2階にあるオフィスだ。毎日、パソコンに向かってカチカチとキーボードを叩くのが業務。いわゆるIT土木ってやつだ。
技能なんか殆ど要らない。精々ブラインドタッチが出来ることと、多少のプログラミングが出来る程度なら務まる職業だが、この業種は競争相手が多すぎて、数だけが膨大なくせに薄給で酷使される酷い会社だった。
今日も、俺は目の前の液晶パネルに目を痛めながら作業を進めていると、バンッと扉が乱暴に開く音がした。
「おう、お前ら! 今日も仕事を取ってきたぞ!」
扉からは、恰幅の良い中年の男が意気揚々と声を上げながら現れた。彼は俺が働いている会社の上司だ。上司はドカドカと狭いオフィスの中を闊歩しながら、自身の功績を自慢するように、自分が取ってきた仕事を誇らしげに語った。
「今回はエンダーテール社からの重要な案件だ! 我が社の社運を賭けた案件だからな、絶対に失敗するんじゃない……ぞッと!」
俺の机の上に書類の束がドサッと置かれた。驚いてキーボードを叩いていた手が止まる。
「ちょっ!? 俺今、別の案件でてんてこ舞いなのに、なんで俺に!?」
「うるせぇ、つべこべ言わずに働け! もちろん、これは今日中に仕上げろよな!」
「はぁ!?」
俺は書類の束に目を向け、すぐさま、このクソ上司が持ってきた案件の内容に目を通した。内容はさして深いものではない。というか、これ、大して重要なモノでもなさそうな感じがするんだが、それを今日中にだと? これ絶対、相手方に舐められてるよな、このクソ上司がッ!!
「俺だって今日中に仕上げなきゃいけない仕事があるのに」
「知るかッ!? 口を動かす暇があれば手を動かせ! ったく、誰のおかげで給料が貰えていると思ってるんだが……」
俺の抗議を物ともせず、クソ上司はドカドカと不機嫌な様子でオフィスの外へと出て行った。そっちこそ、何様のつもりだよ。
「………はぁ」
文句を言っても仕事は減らない。
ともかく、少しでも早く今やってる案件にケリをつけて、上司からの仕事は、出来なかった言い訳が立つ程度には済ませてしまおう。
今日も残業が確定したことに頭を抱えながら、俺はまたキーボードを叩き続けるのであった。
……………
俺の仕事が終わったのは夜の9時頃だった。
空はもう真っ暗で、道を照らす街灯が俺の帰路を明るく照らしていた。
クソ上司はいつのまにか退勤していたし、一緒に働いていた同僚たちも、仕事を続けている俺に申し訳なさそうにしながらも、さっさと退勤してしまっていた。
「こういう時に家が近いのは、便利というべきか、便利に使われているというべきか……」
俺の通勤時間が徒歩15分ということもあって、上司も俺に仕事を押し付けてくるし、同僚もクソ上司に目をつけられたくないのか、手伝ってくれそうな素振りすら見せない。
そのため、俺は都合よくオフィスの戸締りを任されることになったのだが
「こうも、夜が遅くなると、いつものスーパーは閉まってるよな」
半額惣菜狙いのスーパーは夜8時で店仕舞いだ。いつもは、閉店ギリギリくらいまでには帰れるので、そこの常連になっているのだが、今日はそうともいかない。
だが、まだこの時間なら大型薬局店が空いているので、上手く行けば半額の菓子パンくらいなら手に入るだろう。そう当たりを付けて、俺は寄り道を選んで近所の大型薬局店へと足を向けた。
寄り道を始めて数分。偶に来る薬局なのだが、今日は何故か様子がおかしかった。
「む? 珍しく人が多いな」
夜遅いのに珍しいと思いつつも、そのほとんどが女性であることに気がついたが、入店してすぐに目の前の物が原因だと分かった……のだが、俺は目の前で山のように陳列されている品物を見て眉を顰めた。
「生理解消薬?」
テレビでも一度は見たことのある女優が爽やかな笑顔を浮かべている写真の横には『生理痛にお悩みのアナタに』と書かれていて、なるほど女性ウケしそうな宣伝文句だった。
ふと、目の前を通った20代半ばくらいのOLがトコトコと、山のように積まれた商品の所へ向かうと、3つ4つと手に取り、レジ籠の中へ入れていた。その女性は、俺の視線に気づいて、不機嫌そうに眉を顰めてそそくさと会計レジへと向かっていく。
この歳にもなれば、流石の俺も『生理』が女性にとってデリケートな問題だと理解している。気まずい空気から逃げるように俺は、さっさと今晩と翌朝の食パンを確保するため、菓子パンコーナーへと足を向けるのであった。
結局、半額の食パンが無くて、俺は落胆しながら3割引の甘い菓子パンが入った袋を片手に家へ帰っていく。
そうして、俺のいつも通りの今日が終わっていく。
変わらない、変わることのない日々を俺は、ただ惰性で生きていた。
登場人物紹介
坂上 昌 さかがみ あきら
何処にでもいる一般男性26歳
しがないIT企業に勤めているが、やりがいも夢も特になく、ただ惰性に毎日を生きている仕事人間。この作品の主人公ではないながらも、彼の目線で物語が進むことが多い登場人物。
謎の男
とある研究所で、自身の夢のために生理解消薬を開発した天才。その製法を、製薬系の中小企業に売り渡したため、お金は結構持っているが、それで媚びてくる女は範囲外なので、金持ちを見せびらかす事はない。
でも、モテたい気持ちは人一倍持っている。