貞操観念逆転世界へ変わっていく一般人たちの反応   作:ねこ次郎

22 / 49
二十二話 生理解消薬の謎に迫るスレ

 

俺、中里 武雄(なかさと たけお)が貞操観念逆転世界に憧れを抱いたのは高校生の頃、隠キャ非モテの俺は、二次創作物にある貞操観念逆転世界、通称あべこべ世界に深く感銘を受けて、俺もその世界に行きたいと強い憧憬を持った。

 

その時、同じ非モテの仲間だった、田中、中村、山中も俺と同じ憧憬を抱き、どうすれば、あべこべ世界に行けるのか、あべこべ世界になったら何をしたいか、日々熱い議論を交わしていた。

 

田中は持ち前の熱意で様々な噂話をかき集めて、あべこべ世界へ転生できる方法を探した。でも命を投げ出すのは怖い、と転生での方法は諦めた。

 

理論派の中村はどうなればあべこべ世界だと言えるのか模索した。男性よりも女性が積極的になるには、まずは生理が邪魔だと結論付けた。それで俺たちの方向性が決まった。

 

頭が良い山中は薬剤師の親の影響か、薬学への可能性を見出した。体の構造、遺伝子にまで作用させて、生理を無くしても性機能が衰えない。そんな夢のような薬であっても薬学を極めれば、作れる可能性はゼロじゃない。俺はそう、彼から教わった。

 

俺たちは高校を卒業して、大学生になっても、その夢を諦めなかった。

 

しかし、大学も卒業間近になれば事情は変わってくる。

妄想や幻想よりも強い。確たる現実が俺たちに牙を向いた。

 

あべこべ世界に異様な情熱を持っていた田中は夢を諦め、今では車工場の職長にまでなっている。家庭も持ったようで今は3児のパパらしい。未だ無職の俺に「さっさと働いたら?」と小言がうるさかった。

 

あべこべ世界への道筋を見つけた中村も夢を諦め、今は市役所の職員に成り果てた。美人な妻を迎えて1人娘と過ごす日々は、毎日幸せなようだ。「結婚はいいぞ〜」と毎回のように惚気ている。

 

また、あべこべ世界への可能性を見出した山中は、人見知りを拗らせて長距離トラックドライバーになった。忙しなく全国を飛び回っているようで、今はどこにいるのか知らない。

 

皆が皆、己に襲いかかる『現実』に目を逸らせなかった。

彼らは言った。馬鹿みたいな妄想に浸っていては人は生きていけない、と。そう言って、俺の仲間は夢を諦めてしまった。

 

 

 

………だが、俺だけは違った。

 

俺はそんな馬鹿みたいな妄想でも、絶対に現実にしてみせると誓っていた。現実に負けた仲間たちも、俺を止めることはせず、むしろ、なんやかんや言いつつも協力を惜しまなかった。

 

数多の研究、数多の実験。何度も何度も失敗した。失敗の数は万を超えている。俺はその全てを覚えていた。

 

失敗、失敗、失敗、失敗、成功……に見えたが失敗、失敗、失敗……でも次の道が見えた。失敗、失敗、やっぱりこの方法はダメだ。違う道を探そう。失敗、成功……かに思えたが失敗。

 

回り道、迷走、何度も失敗して、時は流れ、俺はいつのまにか30代後半になっていた。

 

それでも、若かりし頃の情熱は衰えを知らない。

俺の半生を賭けた研究の果て。その執念が。ついに俺の願いに指を掛けた。

 

 

「やった………、やったぞ!!」

 

 

そうして、俺は貞操観念逆転への第一歩となる薬。『生理解消薬』を完成させた。

 

 

 

 

そんなこんなで、野望を叶えた俺は、生理解消薬が普及することを待っていた。その間、何をしていたのかと言うと、有り余るお金で、かねてより気になっていた名作美少女ゲームに手を出して、その楽しさにドップリ浸っていた。

 

いや……。言い訳をさせてほしい。

 

そもそも、俺は女性と目を合わせて話したことがない非モテ陰キャの男だ。そんな状態で外に出てしまっても、そこにいるのは怪しい挙動をする中年男性だ。

 

そうなれば、最悪通報される。お縄になってしまえば前科を抱えることになり、余計に、あべこべ世界でモテたい計画の障害になってしまう。

 

だから、俺は女性への耐性を高めるために、可愛い美少女がたくさん出てきて、楽しそうにおしゃべりしている美少女ゲームをプレイし始めた。

 

 

…………結果。めちゃくちゃハマった。

 

 

元来、オタク趣味だった俺がハマらない訳がなかった。

俺は就寝と食事と風呂以外の時間の殆どを美少女ゲームに費やした。あとは、たまに世界の変革を覗き見るためにネットサーフィンをして掲示板などを覗いているくらいだ。たまにスレに書き込んだりもしている。

 

 

だが、そろそろ生理解消薬が普及し始めて一年が経つ頃合いだ。

俺も外に出て活動すべきだろう。1年間も引きこもっていれば、さすがの俺も、ネットの中でしか見ていなかった世界の変わり様を、この目で確かめたい気持ちが徐々に昂っていた。

 

 

でも……。

 

「それは、ゆうかたんを攻略してからだな。ぶひひ……」

 

ぬるめの風呂でサッパリした後、俺はまたパソコンに向かってゲームを起動させる。中断していた場面からゲームを再開した、その時。

 

 

♪〜〜♪〜〜

 

 

外の来客を知らせるチャイムが鳴った。

 

「ん? 誰だよ。こんな良い時に……」

 

渋々とパソコンの画面を操作してゲームを中断すると、俺はのそのそと玄関に向かって歩き出した。

 

普段はユーザーイーツで出前を取っているが、今はまだ頼んでいない。もしかしたら、予約していた新作ゲームが届いたのかもしれないな。この前、4つくらいセールの勢いに任せてポチったが……、果たして、届いたのはどのゲームか。

 

「はーい。どちらさまで……」

 

鍵を開けて玄関扉を押し開けると、そこには、俺よりも若干背が低い女性が立っていた。呼び出し鈴の相手が女性だと知って俺は言葉を詰まらせた。

 

そんな俺に構うことなく、まだ肌寒い季節故のふわふわのコートに身を包んだ女は、ぺこりと礼儀正しい仕草で頭を下げた。

 

「こんにちは。ここは、ナカサトタケオの家でよろしかったですか?」

 

「ッ……、は、………うぅ」

 

俺は返事をしようとした。けれども、いつ以来か分からないほどに女性との関わりを持っていなかった俺は、喉奥に引っかかった何かのせいで声が出なかった。

 

俺の肯定とも否定とも取れない返事を聞いても、目の前の女は微笑を浮かべたまま、言葉を続ける。

 

「初めまして、(わたくし)はイブ教会のミヤコと言います。今日はお話があって参りました」

 

「ッ!?」

 

イブ教会!? それはまずいッ!

 

俺は咄嗟に玄関扉を勢いよく閉めた。しかし、扉は途中で止まり、ガツンと何かを打った音が響いた。玄関扉の隙間に硬そうな靴が挟み込まれている。開いている隙間から、ミヤコがニコニコと頬を吊り上げて笑っていた。

 

「あら? あらあら? いかがしましたか? ナカサトタケオ」

 

「ッ!? な、何だよ! お前ぇ!」

 

「私はただ、あなたに用があって来ただけなのに、こんな対応は悲しいです。現に、足が挟まって痛いので、早く開けていただけませんか?」

 

「ふ、ふざけるな! そんなゴツイ靴履いといて! も、元から侵入するつもりなんだろ!? この犯罪者ッ!」

 

「まぁ! 私のことを犯罪者呼ばわりするのですか? 私のやってきたことなんて、あなたの悪行に比べたら全然ですよ。ねぇ、あなたがナカサトタケオ本人なんですよね?」

 

「だ、だったら何だよ……。宗教の勧誘はお断りなんだから、さっさと帰ってくれ」

 

「勧誘だなんて、そんなことある訳ないじゃないですか。むしろ私たちは、あなたのような悪魔を懲らしめに来たのです。だって」

 

 

 

 

ーーー生理解消薬の開発者は、あなたですよね?

 

 

 

 

 

目の前の女は頬を吊り上げて微笑んでいるが、瞳は鋭さを増していた。

 

「……。ふ、ふん。知らないな。そんな薬」

 

「嘘です。そんな分かりやすい嘘をつかなくても証拠はいくらでもあります。一から説明してあげましょうか? あの薬の製造販売元は円丸製薬会社ですが、開発者は秘匿されていました。そして、円丸製薬会社も薬に関した論文はあっても、深い部分はブラックボックスのまま。つまり開発者は外部の者だと推測出来ます。

その後、薬に関したお金の動きを見れば、あなたの口座に薬の売上の一部が流れていると分かりました。ここで、あなたが薬の開発者である可能性が濃厚になったと言えます。

証拠ですか? たとえ0.1%であってもハッキリと記録に残っていますよ。あとは、あなたの個人情報と、ついでにクレジットカードの使用履歴も把握しました。随分とエッチな物がお好みのようで……」

 

「……あ、あぁ……」

 

ミヤコは早口に捲し立ててきた。

 

俺は、生理解消薬の開発者だ、と知られたことよりも、俺が通販で買ったエロゲたちを把握されてる方が恥ずかしかった。でも、目の前の女の頬が若干赤くなってたのには、少し萌えた。

 

それにしても、かなりの情報をこの女に握られているようだ。いずれ薬の開発者として有名になるつもりではあるものの、知られた相手が生理解消薬のアンチ筆頭の『イブ教会』の人間となれば、いったい何をされるのか分かったものじゃない。

 

俺は、玄関扉に挟まれた靴に伸びる彼女の足を蹴った。

 

「痛ッ! もう! 暴力反対ですよ!」

 

「うっさい! 勝手に人のプライバシーを覗いといて、しかもいきなり家に押しかけてくる奴があるか!? さっさと帰れ! 2度と来んな!」

 

「いいえ、帰りません! 私たちは必ず、あなたを断罪します。この世界を歪ませた罪。思い知ってください。………皆さん、お願いします!」

 

ゲシゲシと何度も足を蹴りつけるが、ミヤコは玄関扉の隙間から足を抜かなかった。足の痛みに耐えていた彼女が誰かを呼びつけると、玄関扉に何本もの人の手が掛かる。「せぇ〜のッ!」と掛け声が聞こえた時には、もう遅かった。

 

「うわぁ!?」

 

掴み引っ張っていた玄関扉ごと、俺は家の外に追い出された。そこには10人くらいの男女がいて、一斉に俺を囲んできた。全員が俺に敵意に塗れた視線を向けてくる。

 

「……あぁ……」

 

久しく感じてない複数の人の視線が、俺に突き刺さってくる。それも、全員が確実に俺を害そうとしている目だった。そんな悪意に晒されてしまえば、研究一筋の半引きこもりだった俺に、何かができる訳がなかった。

 

「大人しくしてください」

 

「んむぅッ!?」

 

背後からミヤコに抱きつかれた。そう感じた瞬間に口元に布を押し付けられる。鼻と口を完全に塞がれてしまい、苦し紛れに呼吸をすると意識が朦朧としてきた。

 

「大人しくしてください。大丈夫です、痛いことはしません」

 

「んむむッ………むむぅ………」

 

俺が懸命にもがいてもミヤコは離れることはない。こんな状況なのに、俺は背中に当たる僅かな膨らみに意識が行った。

 

呼吸を止めることもままならず、俺は布越しに睡眠薬を吸わせられた。

 

「む……んむぅ……」

 

「安心してください。痛いことは決してしません」

 

ミヤコの優しくて甘い声が頭の中に響く。背中に当たる確かな膨らみを感じながら、俺は意識を失った。

 

「痛いことは……ね」

 

 

 

 

 

 

【衝撃の真実】生理解消薬の謎に迫るスレ

 

1.名無しの名探偵

俺、気づいちゃったんだわ。生理解消薬は、俺たち非モテを見兼ねた異世界の上位存在が、俺たちを救うために用意された薬なんだって。

そうじゃなきゃ説明できない事実が多すぎるわ。

 

2.名無しの助手

ほう……妄想だろうけど一応聞いてやる。

 

詳しく説明してクレメンス

 

3.名無しの名探偵

俺がその事実に気づいた理由はこれだ。

① 人間の体の構造を変えるレベルの薬が唐突に現れたこと

② そんな危険な薬が政府の認可をすんなり越えて、即一般販売されたこと

③ 開発者の名前が完全に秘匿されていること

④ 女の子が皆んなエッチになってるって、それなんてエロゲ?

 

異論があれば聞くぞ。

 

4.名無しの助手

>>3 そんな、誰でも当たり前に感じる疑問で、なんで異世界の上位存在が何で入ってくるのか意味不明すぎるw

 

5.名無しの助手

>>3 あの……名探偵名乗るの辞めてもらってもいいですか?

 

6.名無しの名探偵

>>4 ④が俺たちにあまりにもご都合主義すぎるだろ。だから、もしかすると上位存在さんはサキュバスさんで、人類の女をエチエチにして俺たちが住む世界を乗っ取ろうと画策しているかもしれない。

 

7.名無しの助手

>>6 妄想乙w

 

あっ。ここは妄想を語るスレでしたか……。当たり前の事言って、ごめ〜〜んねw

 

8.名無しの助手

>>7 キショキショの実の能力者。全身キショキショ人間で、能力は、うざいレスばかり垂れ流す。

 

9.名無しの名探偵

>>7 お前、今の渋谷を見ても同じこと言えんの?

おっぱいどーーんッ! おしりどーーんッ! の女が明らかに誘ってる格好で彷徨いてるんだぞ。あれは間違いなくサキュバスだね。うっ、搾り取られる……

 

10.名無しの助手

たとえサキュバスでも、お前みたいな童貞キモオタはお断りだろ?

 

11.名無しの助手

>>9 君、『淫夢ちゃんねる』とか良く見る人?

 

12.名無しの名探偵

>>11 同士よ! あの名作を知っていたか!

 

13.名無しの助手

>>11 何それ?

 

14.名無しの助手

>>13 人間よりも上位存在の淫魔などの人外と、その世界に住む人間たちのすれ違いラブコメディだよ。身体能力も知能も圧倒的に強くて魔法も使える上位存在たちが、弱々ペットのような人間さんを徹底的に甘やかす所だったり、無意識に人間さんが、上位存在さんにクリティカル当てて上位存在さんがその人間さんを分からせる所とかが見どころだな!

 

15.名無しの助手

>>14 つまり…………どういうことだってばよ?

 

16.名無しの名探偵

つまりだ。この世界にも上位存在さんが実在したんだ!

あの生理解消薬は、上位存在さんたちが与えた俺たちへの施しなんだ!

 

17. 名無しの助手

>>16 他作品の世界観設定を持ってこないでください。

 

18.名無しの助手

>>17 待て。パロディってことなら使えるか?

 

これは……行けるッ!

 

19.名無しの助手

>>18 そも、この掲示板回だって『淫夢ちゃんねる』に影響されたものだって、ばっちゃんが言ってた。

 

20.名無しの助手

メタ発言は、そのくらいにしてもらおうか。

 

21.名無しの名探偵

はー。俺も上位存在さんたちに、人生めちゃくちゃになるまで愛されたい………。

 

22.名無しの助手

>>21 それよりも、生理解消薬で変わった女の子からモテる方が何倍もリアルなんで、そっちの方が先かと。

 

ちな、ワイは4人の嫁を相手にして毎日干からびるまで搾り取られてます。

 

23.名無しの助手

>>22 嫌味か! 貴様ぁ!!

 

24.名無しの助手

>>22 重婚は犯罪なんですよ! 通報しました。

 

25.名無しの助手

>>22 毎日4人相手とか羨ましい……。こっちは右手が恋人なんだけど……。

 

26.名無しの助手

居るかどうかも分からない薬の製作者なんて気にしても仕方ないでしょ! それよりも、変わってしまった世の中でセックスライフを楽しもうじゃないか!

 

27.名無しの名探偵

薬の製作者は未だ謎のまま……か……。

まぁ、今が楽しめればそれでいいっか!

 

28.名無しの助手

>>27 あの……推理板で妄想スレ建てるの辞めてもらってもいいですか?

 

 







登場人物


中里 武雄 (なかさと たけお)

謎の男の正体。生理解消薬の開発者。子供の頃から二次元やネット小説に触れていたことから重度のオタク。中学生の頃にネット小説の『貞操観念逆転世界』のジャンルを読んで、その世界に憧れを持ってしまった。頭の出来が良すぎたせいで、自身が強く望んで行動すれば、大抵の望みが叶うと疑っておらず、同じ性癖をオープンしていた仲間たちと共に、世界を変えるための計画を建てていた。
全ては自分たちがモテるために。その誓いを、彼は努力と執念で叶えた。だが、その結末を、彼は知らなかった。


ミヤコ

生理解消薬に対して、並々ならぬ敵意を抱いている謎の女。イブ教会の信徒であるが、仲間を引き連れて元凶の元にやってきたのだから、かなりの地位があると予想される。
情報収集の際に見た、元凶がプレイしていた少しエッチなゲームに内心興味があった模様。でも、それを表に出すことに羞恥心を感じるくらいの年頃の娘。




いつも読んでいただき、ありがとうございます。感想、評価、ここすき、などの反応をいただければ、創作のモチベーションになります。

また、作者は、だいこんおろし先生作の『淫魔ちゃんねる』や、他それに連なる作品たちを陰ながら応援しております。
作品URLはコチラ
https://syosetu.org/novel/268096/
興味を持った方はぜひ読んでみてください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。