貞操観念逆転世界へ変わっていく一般人たちの反応   作:ねこ次郎

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四十話 男の子の日って………

 

あの『陸くんトラウマイベント(命名私)』を無事に乗り越えてから、数週間がたったある日のこと。今日の私はご機嫌だった。

 

それもそのはず。愛しの陸くんと一緒の仕事が待っていると考えれば、大学教授の詰まらない話も笑って聞き流せられるくらいには上機嫌な私であった。

 

「こんにちは〜! ってあれ? 今日は店長1人ですか?」

 

今の時刻は開店1時間前。建て付けの悪い扉を開けた先に陸くんの姿が無く、厨房で今日の仕込みをしている店長しかいなかった。

 

「陸は今日、休みだ」

 

「え? でも今日シフト入ってましたよね?」

 

「熱が出たらしい。学校も休んで、今は家で寝ている」

 

グツグツと鍋が煮える音を背景に淡々と答える店長。

そっか……陸くんは今日休みかぁ……。

私のやる気がガクッと下がった。絶好調だったのが普通にまで落ち込む。

 

「……陸が心配か?」

 

「そりゃ、もちろんですよ」

 

「………そうか」

 

即答する私に店長が一瞬だけ黙ってからしみじみと呟いた。それから、店長は背後にあったコンロの火を止めて、何かを準備し始める。

私が横から覗くと、火に掛かっていたのは、1人分の小さな土鍋。

私が、あれ? と思いつつも店長はどこにあったのか、出前で良く見る籠を取り出し、中身をフキンで軽く拭いてから土鍋を中に入れて、私に差し出してきた。

 

「これは?」

 

「陸の夕食だ。家の住所は今から教えるから、お前が届けてこい」

 

「………はぇ?」

 

「すまないが頼まれてくれ。弟から妻も共働きで遅くなると聞いてな。簡単なおじやだが、冷たい物を食うよりはマシだろう」

 

「…………………えぇぇぇぇぇ!!!??」

 

客がいない居酒屋で、私は絶叫した。

 

 

………

 

…………

 

……………

 

陸くんの家は店長の居酒屋から徒歩15分の距離にあった。

 

「えぇ……っと、ここかな?」

 

私の目の前にあるのは、濃い茶色の屋根と少しくすんだ白色の壁面。家の前には車が2台置けるくらいの駐車場があって今は一台も置いてない。ここは極々普通の二階建ての一軒家だった。

 

石材の表札には『鳴海』と書かれていて、間違いないことを確認してからインターホンを押す。キーンコーンと音が鳴ったが陸くんが出てくる気配はなく、私は店長から預かっていた陸くんの家の鍵を取り出した。

 

「……おじゃましま〜す。」

 

私は寝ているかもしれない陸くんを思って、小さく挨拶してから陸くんの家に入った。よく整理された玄関には、幼い頃の笑顔の陸くんとその両親の写真が飾ってある。かわ………

 

「……は!」

 

危うく私は尊死しかけた。手元に陸くんの夕飯が入った鍋が無かったら耐えられなかっただろう。

 

「っと、そうだった。」

 

私は、スマホを取り出しメッセージを送る。ここへ来る前にも、陸くんへメッセージを送っていて「分かりました」の一言だけ返信があった。普段ならもう少し文面が多いのだが、それくらいに余裕がないのだと私は推測した。

 

「……さてと。」

 

返信はまだ無い。熱々の土鍋を出前カゴに入れたからか鍋はまだ温かく、食べるためのスプーンも一緒に入れているため、このまま陸くんの部屋を探そうと、私は靴を脱いで玄関を上がって気がついた。

 

「陸くん?」

 

ガサゴソ。音のない一軒家で、誰かが身じろぎする音が聞こえた。その音は2階の方から。私は2階に陸くんの部屋があると当たりをつけて、手摺りがある階段を登った。

 

コツ、コツと足音を立てながら階段を登っていけば、ガサゴソと物音が鮮明になって聞こえてくる。

 

物音の出所を探すように2階へ上がれば、母親の趣味か、木製のドアプレートに『RIKU』と書かれた扉を見つけた。物音はそこから聞こえていた。

 

それに、物音だけじゃない。荒い息遣いと、うわ言のように誰かを呼んでいる声が聞こえる。その声は確かに陸くんの声で、でも今まで聞いた事がないくらいに苦しげで、切なげで……。

 

「………。」

 

私はふらふらと誘蛾灯に引き寄せられるように、陸くんの部屋の扉へ近づき、彼の声を聞こうと扉に耳を当てた。陸くんはとても苦しそうだ。大きく乱れた息遣い、熱にうなされていて可哀想に思うはずなのに、その息遣いは風邪だけとは思えない『熱』を帯びていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、っ、はぁ」

 

陸くんの熱に当てられて、私の心臓が早鐘を打つ。緊張で喉がカラカラに渇いてくる中、陸くんは1人っきりの部屋でモゾモゾと物音を立てながら、誰かの名前を……

 

 

 

 

「赤坂さん、赤坂さんっ♡ はぁ、ふぅ♡ 赤坂さんっ、はぁ♡」

 

 

 

私の名前を呼んでいた。

 

「…………ふぇ?」

 

私は耳どころか顔まで真っ赤になって、素っ頓狂な声を上げていた。

 

 

 

 

 

【雑談スレ】 男の子の日って………

 

1.イッチがお送りします。

なんか、えっちだ!

 

2.名無しがお送りします。

男の子の日……5月5日の子供の日だね。端午の節句ともいう。

 

つまり! ショタっ子の季節!

 

3.名無しがお送りします。

端午の節句……たんごのせっく……男子(だんこ)のセック……

 

とってもえっちだ!!(確信!)

 

4.名無しがお送りします。

ということは、5月5日は激カワショタっ子と鯉のぼりを上げながらセック◯すればいいんですね!

小さな幟(こども)いっぱい作ろうね、パンパン♡

 

5.イッチがお送りします。

男の子の日はえっちだ。古事記にもそう書かれている。

 

けど、このスレは5月5日について語ろうのスレじゃないんだよ!

そもそも、今は冬だし!! 気が早いよ!

 

6.名無しがお送りします。

>>5 早くないよ。今から関係を作って犯……おかないと、5月にパンパン♡出来ないじゃないか。

 

取り敢えず、鬼ごっこで遊ぶの。わる〜いお姉さんに捕まったら、おっきなふわとろおっぱい♡で冷たい体を温め合おうね♡ それから、お姉さんじゃなきゃヌケないカラダにしてあ・げ・る♡

 

7.名無しがお送りします。

>>6 欲望を隠せて……いや、隠す気なかったわコイツ

 

8.イッチがお送りします。

もう、話が進まないから強引に行くね。

 

男の子の日っていうのはね。私たちニューレディになる前にあった『女の子の日』と同じ意味の日だよ!

男の子にもあったんだ!『男の子の日』が!!!

 

9.名無しがお送りします。

>>8 えっ……

 

10.名無しがお送りします。

>>8 うそ……

 

11.名無しがお送りします。

>>8 うっ……昔の苦痛が……

 

12.名無しがお送りします。

>>8 ま、まさか……ち◯ちんから血が出るんじゃ……? 怖……

 

13.名無しがお送りします。

>>12 何それホラーかよ。エロどころかグロじゃん

 

14.名無しがお送りします。

おいイッチ……。これのどこがエッチだって言うんだ?

私たちだって、最悪な思いをしたから薬を飲んで解消されたのに、次は男の子が苦痛に悩ませることになったら、本末転倒じゃないか?

 

15.イッチがお送りします。

皆んな、早とちりし過ぎて草

おまいらネット民なら絶対知ってると思ってたけど、これはちゃんと説明しなきゃいけないね。

 

16.名無しがお送りします。

>>15 早く説明して、やくめでしょ?

 

17.イッチがお送りします。

まぁ、ワイより詳しく説明しているスレがあるから、ここに載せとくね。

 

リンク先:【感度】おまいらニューレディたちに物申す【3000倍】

 

18.名無しがお送りします。

>>17 あぁ、あのスレね。

 

19.名無しがお送りします。

>>17 長いから3行に纏めてクレメンス

 

20.名無しがお送りします。

>>17 リンク恐怖症のワイ。貼り付けキボンヌ

 

21.イッチがお送りします。

注目のレスから↓

 

 59.保健の先生

 >>58 いい質問だね。

 

 ニューボーイたちはエッチが嫌いだけど、別にエッチが出来ない訳じゃないんだ。それに、繁殖行為が出来なければ、種の保存の観点では欠陥すぎる。だからこそ、彼らニューボーイには『ある事情』があるんだ。

 

 それは、動物的な表現をするならば『発情期』ってところかな。

 

 :

 

 65.保健の先生

 >>64 落ち着け、おまいら。

 確かに俺は発情期と言ったが、彼らは無闇矢鱈に発情している訳じゃない。発情期に入る条件や発生する日時なんかは要研究だが、要点を話せば、彼らニューボーイは1日2日くらいの間、高熱に苛まれる。その間は彼らの生殖器の感度は著しく低下するんだ。

 具体的には一般の男性並か若干高いくらいの感度まで下がる。その間は彼らも性的快感を覚える傾向にあることから、ニューボーイとのセックスは、彼らが発情期である時を狙うことを俺は推奨したい。

 

 :

 

 72.保健の先生

 >>70 『男の子の日』か。言い当て妙だね。およそ一月か二月ごとに来るから、その点は生理と似てる感覚かもしれない。

 

 また、これは海外からの論文だけど、ニューボーイの精子はかなり強力で、一般男性の精子は女性の膣内で2日程度で活動を停止するが、ニューボーイたちの精子は同条件で3倍もの期間を活動できるらしい。故に、一回の性行為で女性を妊娠させる可能性が高まるようだ。

 

 73.名無しの先生

 >>72 あれれ? でも、私たちニューレディって『浄化』すると膣液が出てくるんでしょ? なら一緒に精子も洗われるんじゃ?

 

 74.保健の先生

 >>73 ザッツライト。ニューレディがセックスしても妊娠しにくい原因は、その『洗浄』や『浄化』にもある。膣内に溢れた膣液は胎内に入った精子ごと洗い流してしまうから、セックス中に絶頂してしまうと、妊娠の確率は大きく下がってしまう。……それを良いか悪いか捉えるのは君たち次第だが。

 

 :

 :

 

22.名無しがお送りします。

>>21 貼り付け乙

 

23.名無しがお送りします。

>>21 あたしぃ〜、バカだからぁ〜、長文読めなぁ〜い。3行で纏めて〜

 

24.名無しがお送りします。

>>23

性に過敏なニューボーイたちには『発情期』があった!

その間、彼らはエッチ大好きな男の子に。

わっしょいするなら、『男の子の日』の内に。

 

25.名無しがお送りします。

>>24 有能

 

26.名無しがお送りします。

>>24 わっしょいするなら、今のうち。

おにぎり体操はじまるよぉー……

 

27.名無しがお送りします。

>>26 わっしょい♡ わっしょい♡

 

28.名無しがお送りします。

ってか、男の子の日って、そういう事か!!

 

29.名無しがお送りします。

唯一、ニューボーイたちをエッチしても良い日、だなんて……

 

 

すごく! すごいエッチです!(語彙力喪失)

 

30.イッチがお送りします。

でも私、今まで『男の子の日』になったイケメンくんと出会ったことないんだよね〜。実はフェイクだったり………

 

31.名無しがお送りします。

>>30 人はね。信じたいものを信じる生き物なんだよ。

 

32.名無しがお送りします。

>>30 男の子の日は、ありまぁぁすぅ!!!

 

33.名無しがお送りします。

>>30 男の子の日って、かなり高熱が出るんでしょ?

だったら、普通に病欠しているだけじゃないのかな? お見舞いにも行けない関係しか作れないなら、仕方ないよね。

 

34.名無しがお送りします。

ワイ、看護師。

高熱で病院に入院してきた男の子を、献身に看病して翌日には高熱が治って、その翌日には退院しました。おち◯ちんの膿、たくさん吐き出せて偉いねぇ〜♡

 

 

これだから看護師は辞められないねぇ!!!ニチァ♡

 

35.名無しがお送りします。

>>34 草

 

36.名無しがお送りします。

>>34 吐き出せて偉いねぇ〜♡ じゃねぇんだよ!羨ましいなぁ!!

 

37.名無しがお送りします。

>>34 こんなの、タダのどすけべナースじゃん……

 

38.イッチがお送りします。

そうだ! 私も看護師になれば、発情期男の子とセックスし放題!?

 

39.名無しがお送りします。

>>38 そのお役目、拙者が果たさせてもらうで候。

 

40.名無しがお送りします。

>>38 なお、看護師と言っても就職先によってはジジババしか相手に出来ない所も………うう……。

 

41.名無しがお送りします。

>>40 涙拭けよ。

 

42.名無しがお送りします。

『男の子の日』って、本当にあったんだ!!

 

 

 

私は、あまりの出来事に顔を真っ赤にして狼狽える。

扉の奥から聞こえる音は、あまりにも淫靡で切なげで……。普段の陸くんからは想像できないほどに淫らだった。恥ずかしさやら気まずさからか、私は自然と一歩二歩、後退って。 

 

ゴトっ

 

「あっ! やば! ……っ」

 

足に当たった硬い鉄の感触に気づいた時、反射的に声を上げてしまった。咄嗟に口を抑えて声を止めるも手遅れだった。扉の向こうからあった物音がピタリと静止する。

 

♪〜〜 ♪〜〜〜

 

私のポケットに仕舞っていたスマホから着信音が聞こえてきた。ブーッブーッと振動して上着のポケットから電話に出ることを催促してくる。

 

私は促されるままにポケットからスマホを取り出し、通話ボタンをタップした。通話相手は当然、『鳴海 陸』くんだ。

 

「も、もしもし」

 

『はぁ、はぁ、も、もしもし……』

 

「り、陸くん、大丈夫? 店長に頼まれて、おじやを持ってきたけど……食べられそう?」

 

『あ、ありがとう、ございます……。ふぅ、食べられる、と思いますけど、ちょっと1人じゃ不安で……んっ♡』

 

「えっ? で、でも、わたし、お邪魔じゃ……」

 

『お願い、します……、赤坂さん……、僕、赤坂さんに、一緒にいてほしいんです……はぁはぁ』

 

電話越しでも熱く感じる吐息と切なげに懇願する陸くんの声が、何というか、とてもえっちだ。私の友達が言ってたASMRは、多分こういう物のことだろう。私は聞いた事ないけど。

 

『お願い、します……、だから、中に入ってください……っ♡』

 

頭がくらくらする。電話越しとはいえ、推しの『お願い♡』に、一般女性の私に抵抗する手段はなかった。

 

「分かったよ。ちょっと待っててね、陸くん」

 

私は電話を切り、側に置いてあった出前カゴを持って、扉の取手を掴んだ。しかし回せない。手が動かなかった。たぶん、ここが私と陸くんの関係が大きく変わってしまう分岐点になるだろうと、私は直感で理解してしまったからだった。

 

「……っ!」

 

私は意を決して取手をひねる。鍵は当然掛かっておらず、押せば部屋は簡単に私を招いた。

 

 







登場人物

赤坂めぐみ
店長に頼まれて、推しの家に土鍋をウーバーイーツしたら自分がウーバーイーツされたことに気がついた一般古女。白めの地味な下着を履いてきたことに、とても後悔している。

鳴海 陸
現在、初めての『男の子の日』真っ盛り中。
けれども、ち◯ちんイジイジするには、過去のトラウマが邪魔をしていて、ひとりベッドの上で胸の内の熱を悶々と抱え込んでいた。

店長
(陸のことは心配だが、赤坂に任せたのなら大丈夫だろう)
当然、彼は『男の子の日』なんて知らないし、現在2人が貞操の危機の真っ只中だということは全く想定外だった。



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