【完結】エヴァンゲリオンANIMA-1.0   作:サルオ

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【m.切望】

 

 遠くで誰かの声が聞こえる。

 

 シンジの奥底に眠る、微かな記憶。

 

 誰かに手を引かれ、一生懸命に歩いている記憶。

 

 けれど、幼いシンジは疲れ切っていて。蝉の声がやけにうるさくて。

 

 手を引く人が何を言っていたのか、今でも思い出せない。

 

 

 ◇

 

 

 トンネル内。

 

 加持に背負われたシンジが、ゆっくりと目を開ける。

 

「ここ、は…?」

「気がついたかい?」

 

 シンジが目を覚ましたのに気付いた加持が、優しく声をかける。

 

「加持さん・・・、僕たち、どうなって…」

 

「まさに、九死に一生を得る、ってやつさ」

 

 加持がにやりと笑う。

 

「さっきVTOLから逃げ回っていた時に、トランクに何発かもらっただろう?あの傷がVTOLにぶつかったときの衝撃で広がったらしくてね。トランクから後ろの部分だけが切り離されてVTOLと大爆発。残った俺たちは回転したまま無事着地。映画でもなかなかお目にかかれないド派手なシーンの出来上がりってわけさ」

 

 俺の愛車はオシャカになったがな、と加持は苦笑しながら締めた。

 

「じゃあ、僕は……痛っ!」

 

「無理に動かなくていい。気を失ってたんだ。目には見えなくてもどこかケガをしているかもしれないからな」

 

 言いながら加持は手に持った携帯でミサトを呼び出す。この携帯電話も、壊れなかったのは奇跡だろう。

 

「葛城、いま大丈夫か」

 

『加持くん!よかった、シンジ君は無事⁉』

 

「ちょうど目を覚ましたところだ」

 

『そう…、よかった』

 

 電話越しに、ミサトが涙ぐんでいるのがわかる。

 

「本当は声を聞かせてやりたいところだがな。今は安静にしてたほうがよさそうだ」

 

『ええ、そうね。大丈夫。モニターで確認できてるわ』

 

 加持とミサトのやり取りをぼんやりと聞きながら、シンジは先ほどの出来事を思い出す。

 

 

 

 向けられた銃口。

 

 確かに感じた死の気配。

 

 

 

 「うぐぅ⁉」

 

 急激な吐き気がシンジを襲った。とっさに口を押えるが、胃の逆流は止められそうにない。

 

「シンジ君⁉」

 

 異常に気付いた加持が急いでシンジを降ろす。降ろされたシンジは限界を迎え、その場で胃の中のものを吐き出した。

 

「ぐううえっ、おぼあぅっ」

 

 胃液が逆流し、シンジの食道を焼く。痛みと苦しさに涙がにじむ。もう吐きたくないのに、内臓がシンジの意志とは無関係に動いてシンジの中にあるものを吐き出させようとする。無理にこらえれば苦しみは続き、かといって吐き出すときの痛みも味わいたくない。

 

「がふっ!ぐふ、うううう……」

 

 吐き続けるシンジの背中を、加持は優しくさすり続ける。

 

『シンジ君……』

 

 電話の向こうで、ミサトが心配している。

 

「葛城、シンジ君は俺が診てる。大丈夫だ。それより俺たちはどこに向かえばいい?」

 

『・・・ルート20よ。そこならまだ使えるわ』

 

「…わかった。ありがとう」

 

 ミサトと加持の両方に生まれた思い。

 

 こんな状態のシンジを、エヴァに乗せる?

 

 頭ではわかっている。シンジが生き残るためにはエヴァに乗らなければならない。そこが最も安全な場所だからだ。

 だが同時に、最も危険な場所でもある。なぜなら、人類補完計画を阻止するためにはエヴァの戦力が必要不可欠であり、同時に、人類補完計画の鍵としてもエヴァは必要であるからだ。ゼーレは補完計画の完遂のため、間違いなくエヴァを狙ってくるだろう。

 

 だからこそ、迷う。

 

「葛城、そっちで俺たちの音声は拾えてるか?」

 

『え?ええ、一応ね』

 

「わかった。すまないが一旦切るぞ。何かあればまた連絡してくれ」

 

『わかったわ。……加持くん、お願いね』

 

 そう言ってミサトは通話を切った。きっと、ミサト達のいる第二発令所も危険な状態にあるだろう。加持としてみれば、すぐにでも駆け出したいのが本音だ。しかしシンジを、この哀れな少年を置いて行くことなどできるはずもない。

 

「シンジ君。すまないが、また背中に乗ってくれるかい?」

 

「…………嫌です」

 

 静かに、きっぱりとシンジは拒否した。

 

「シンジ君……」

 

「加持さん…死ぬって、あんなに怖いものなんですね……」

 

 シンジの全身が小刻みに震えている。今までのエヴァに乗っての死闘ではなく、何の力もない少年として、初めて味わった死の感覚。その感覚を思い出しているのだろう。

 

「もう、嫌です。あんな怖い思いをするのは、もう、嫌です。…でも、生きていたくもない。我慢して生きて、苦しくて悲しい思いをするのも、もう嫌なんです。誰かに利用され続けて、エヴァに乗せられて、怖い思いをするのも、もう嫌なんですよ………」

 

 加持がそっとシンジの背中に触れる。シンジは叱られると思ったのか、ビクッと体を大きく震わせた。

 

「…楽に、なりたいのかい?」

 

 シンジは少し迷ったが、強く頷いた。

 

「もう、どうすればいいのか、わかりません……っ」

 

「そっか…そうだよなぁ……」

 

 渚カヲルが言っていた、シンジの幸せ。

 

 この状況から、何をどうすれば、シンジは幸せになれるのだろう。

 

 加持にもわからない。

 

(どうする…?どうすればいい…?)

 

 シンジのこの状態。間違いなく精神に異常をきたしているだろう。本来であればカウンセリングと、長い療養期間が必要なハズだ。その方がシンジのためにも良いのは一目瞭然。

 

 だが、時間がない。今の状況を脱するためには、圧倒的に時間が足りていない。

 

(俺に、何ができる…?)

 

 今の加持は、心の底からシンジ達を救いたいと思っている。そのために裸で敵に突貫しろと言われれば、迷わずに実行すると断言できる。

 

 だがそんなもの、今のシンジにとって何の意味があるのか。加持の心情など知ったことではない。加持が味わってきた理不尽の何倍もの理不尽が、今のシンジには押し寄せてきているのだから。

 

 シンジのこの後の行動が、まさに人類全体の命運を左右すると言ってもいいだろう。しかしそんな無茶苦茶な要求を、この少年に強要できるのか?

 

(俺にはできない……)

 

 ここにきて、加持はハッと気付く。

 

(この子は、何を望んでいる?シンジ君が今、どうしたいのか、俺はこの子にちゃんと聞いたか?)

 

 答えはNOだ。

 

(そこからじゃないのか?シンジ君が何を思い、何を望むのか。そこから始めないといけなかったんじゃないのか?)

 

 それに気付いた加持は、一切の迷いを捨てた。

 

 一度だけ天を仰ぎ、大きく息を吐く。

 

「シンジ君」

 

 シンジの震えが、恐怖が、絶望が、加持の手を伝わってくる。

 

「君はなにがしたい?」

 

「…………?」

 

 シンジが加持に振り向く。質問の意味がわからない、といった様子で。

 

「どうすればいい、とか、どうしなきゃいけない、とかは、この際全部捨てちゃってくれて構わない。今、この場にいるシンジ君は、なにをしたい?」

 

 シンジの虚な瞳が加持を捉える。

 

 

 

 長い沈黙。

 

 

 

 そして、

 

 

 

「……逃げちゃダメだ、って、ずっと考えてました」

 

 

 

 シンジがぽつりと、言葉を口にする。

 

「ずっと、ずっと考えてました。父さんがどんなに怖くても。使徒がどんなに怖くても。ミサトさんが怖くても、アスカが怖くても、綾波が怖くても、逃げちゃダメだって、ずっと、心のどこかで思ってました」

 

「うん」

 

 加持は優しく頷く。

 

「……加持さんが、怖かったときも」

 

「俺が?」

 

 加持の口を出た、素直な疑問。

 

 シンジは頷く。

 

「…………ずっと前、スイカ畑で」

 

「‼」

 

 加持の胸に、鋭い痛みが走る。

 

「あのとき、加持さんに言われた言葉。『誰も君に強要はしない。自分で考え、自分で決めろ』って…」

 

「それは…」

 

 

 

 

 

「あれって……『脅迫』……でした、よね?」

 

 

 

 

 

 胸の痛みが強くなる。

 

「それは…!」

 

「あの時、トウジが死にかけて。もう全部嫌になって、逃げようとしたときでした。加持さんに呼び止められて…」

 

『俺はここで水をまく事しかできない。だが君には、君にしかできない、君にならできることがあるハズだ』

 

 加持は確かにあの時、そう言った。

 

「怖かったです、すごく……。『お前にしかできない事なのに、逃げるのか』って。『お前がやらなきゃ、お前のせいで俺たちは死ぬぞ』って、言われたみたいで…。実際、目の前には使徒が迫っていて…」

 

 サードインパクトを引き起こしかねない状況のなか、14歳の中学生でしかないシンジは、世界中の人々の命の取捨選択を迫られたのだ。

 

 それも、待ったなしの状態で。

 

 

 

「僕は」

 

 

 

 シンジの涙が頬を伝う。

 

 

 

「もう、逃げられないんだって、思いました……」

 

 

 

 シンジの諦めたような笑顔が、加持の胸を貫いた。

 

 

 ◇

 

 

「シンちゃん……」

 

 ミサトはモニター越しに、二人の会話を聞いていた。

 

 ミサトだけではない。マイクが拾った音声は、第二発令所内に響いている。

 

 たとえ掠れるような小さな声でも、この場にいる全員が聞けるように。

 

 

 ◇

 

 

 加持は今、人生において最大の後悔を味わっていた。

 

 シンジは、

 

 この目の前の少年は、

 

 自分の本意を『正確に読み取っていた』のだ、と。

 

 加持の言葉は、額面通りに受け取れば「激励」に聞こえただろう。

 

 だが、違うのだ。あの時の加持は、

 

 『シンジの逃げ道を無くす』ために、あの言葉を投げつけたのだ。

 

 加持自身の目的のため、利用できるものはなんでも利用する。

 

 そのスタンスを貫き、逃げ出そうとしたシンジに楔を打った。

 

 あの場でもし使徒がリリスと接触してサードインパクトが起きたら、加持の追い求める真実に辿り着けないと考えたから。

 

 真実の追求こそがなによりも優先されるべき正義だと、愚かにも考えていたから。

 

 動ける戦力を減らさないために、シンジを引き止めた。

 

 目の前の少年の人生がどうなろうと知った事じゃない、と。

 

 それがどれほど残酷な事であったかなど、気にも留めなかったのだ。

 

「シンジ君、俺は…」

 

「もう、疲れました……」

 

 加持が何かを言おうとする前に、シンジが本音を口にする。

 

「どこか遠くへ行きたいです。誰もいない、もう誰にも縛られないくらい、遠くまで……」

 

 その言葉が、加持の心の最後の壁を叩き割る。

 

 加持はシンジを強く掻き寄せた。

 

 

 

「逃げろ‼シンジ君、逃げろッ‼」

 

 

 

 シンジを強く抱きしめて、加持は声の限り叫んだ。

 

「逃げちゃいけないことなんてないんだ!誰だって逃げていいんだ‼苦しみや悲しみから逃げるのは、いつだって自由なんだ、自由なハズなんだッ‼」

 

 後悔の渦に飲み込まれそうだ。

 

 自分の取ってきた行動、投げかけてきた言葉、その全てがこの子の人生を蝕んでいて。

 

「すまなかった…!本当にすまなかった‼」

 

 加持の目から涙が噴き出した。

 

 なんて独りよがりな涙だろう。自分がどれだけ後悔しようと、もう遅い。この少年はすでに戻れないところまで追い詰められてしまっていたのだから。

 

 だが止められない。ここまで傷ついた、この腕の中にいる子供を思えば思うほど、涙が止めどなく溢れてくる。

 

「……なんで、加持さんが泣いてるんですか?」

 

 シンジが抱きしめられながら、力無く聞いた。

 

 その疑問への答えを加持は持ち合わせていない。

 

 どんな綺麗事を並べたって、その言葉は、きっと偽善に塗れていそうだから。

 

「なんて馬鹿なんだ、俺は……!」

 

 これは呪い、そう、まさしく呪縛だ。

 

 エヴァと関わってしまった者への呪縛。

 

 普通に生きていれば、こんな思いを味わうことなど無かっただろう。

 

 加持がセカンドインパクトの真実を追おうとしなければ。

 

 シンジがゲンドウの呼び出しを無視していれば。

 

 こんな思いはせずに済んだハズだ。

 

 だが、シンジは来てしまった。

 碇ゲンドウと、碇ユイの息子として。

 

 そこから少しずつ、少しずつ、まるで呪いをかけられたようにシンジの心が蝕まれ、締め上げられていった。

 

 その一端に、加持自身も加わってしまった。加持もまたエヴァの呪縛に捕らえられた者の1人として。

 

 締め上げられたシンジは、最初は声を上げられたハズだ。

 

 苦しい、助けて、と叫べたハズだ。

 

 だが今のシンジにはそれができない。声を上げる事もできないくらいに縛り上げられてしまったから。

 

 ───加持の復讐の出発点はなんだったのだろうか。

 

 セカンドインパクトか。

 

 生まれた時代か。

 

 肉親の死か。

 

 恐らく、全てだろう。

 

 だがその奥底には、こんな願いがあったのではないか。

 

『これ以上、弟や俺のような、不幸な人生を歩む子供が現れないように』

 

「なのに…俺は、こんな…っ!すまないシンジ君…、本当にすまない……‼」

 

 人前で声を上げて泣く。

 加持にそんな経験が今まであっただろうか。

 

 弟と仲間が死んだ時、1人で泣いた。

 ミサトと別れたあの日、1人で泣いた。

 見知った顔が1人ずつこの世を去っていったとき、

 その度に人知れず泣いた。

 

 だからこんな時の涙の止め方を、加持は知らない。止めてくれる人は、もう誰一人いなくなっていたから。

 

 

 

 涙の止め方は、傷ついた少年が知っていた。

 

 

 

「加持さん、大丈夫です…。大丈夫」

 

 いつの間にか背中に回されていたシンジの手が、加持の背中を優しく叩く。

 

 ぽんぽん、ぽんぽん、と。

 

「シンジ君……」

 

「初めて見ました。大人の人でも泣くんですね…」

 

 腕の中のシンジが微笑みながら、泣きはらした目でこちらを見上げている。先程の諦めの笑みではなく、ただ優しさを込めた、普通の少年の笑顔で。

 

 許された、なんて思っていない。ただその笑顔が、加持には本当に眩しくて。

 

 ほんの少しだけ、加持の心は救われた気がした。

 

 加持が鼻をすする。

 

「…シンジ君、頼みがある」

 

 加持がシンジの両肩に手をかける。

 

「エヴァに乗ってくれ。そして、逃げ切ってくれ。誰の手も届かない、遠いところまで」

 

「……え?」

 

「戦わなくていい。何もしなくていい。ただ逃げてくれ」

 

「加持さん……?」

 

 シンジがキョトンと首を傾げる。

 

「今、世界中で一番安全なところはエヴァのエントリープラグの中だ。君の初号機は、S2機関を備えている。アンビリカブルケーブルに縛られることはない。どこまでも、自由に逃げられるハズだ」

 

「………いいんですか?」

 

 シンジが目を丸くして聞き返す。

 

「いいんだ。君は今まで、十分すぎる位に戦った。傷つきながら、命を懸けて俺たち人類を守ってくれた。だから、もういいんだ。今度こそ強要はしない。君は自由だ。君の望むまま、世界を駆け抜けてくれ」

 

「でも、それじゃあ、みんなが…」

 

「俺たちのことは気にするな。子供が大人の心配なんてするもんじゃない。と言っても、全く説得力がないが、な」

 

 加持が自分の鼻を擦る。その瞳は、どこか満足そうで。

 そんな表情の加持を、シンジは初めて見た。

 

「ただ、1つだけ、お願いがある。こんな事、本当は言いたくないんだが……」

 

 本当に、卑怯な要求だと、加持は心の中で唇を噛む。

 

「絶対に捕まらないと約束してくれないか?特に、碇司令からは」

 

 シンジの目が、再び見開かれる。唐突に出た父親の名前に驚いて。

 

「父さんから…?」

 

「ああ。碇司令は、君のお父さんは、ゼーレの思惑とは全く別の補完計画を実行するつもりだ。そして恐らく、その鍵は初号機にある」

 

 

 ◇

 

 

 第二発令所は静まり返っていた。

 

 シンジの声が、加持の叫びが、この場にいる全ての人間の動きを止めたのだ。必死にマギを守るネルフ側の人間はもちろんのこと、ネルフを悪魔と断じて殲滅しようとしていた戦自隊員たちの動きさえも。

 

「シンちゃん……」

 

 ミサトの頬を後悔の涙が濡らす。ミサトだけでなく、マヤや日向や青葉、冬月ですらが、強すぎる後悔の念に顔をしかめていた。

 

 前から、自覚はしていた。自分達は、碌ろくでもない大人であると。

 

 どこの世界に、中学生を無理矢理ロボットに乗せて、怪獣と戦わせる大人がいる?

 

 だが全人類の危機なのだ。人類が生き残るためには仕方のないことなんだ、と自分達に言い聞かせてここまでやってきた。良心の呵責も、そんな大義名分でごまかしてきた。なまじ、シンジもアスカもレイもエヴァに乗る事に強く反対をしなかったものだから、「あの子達もわかってくれている」と勝手に思い込んでいた。

 

 違った。少なくともシンジは、ずっと大きな不満と不安を抱えていたのだ。

 

 誰にも話せず、相談できず、たった1人で。

 

 「だったら早く言えばいいじゃない!」と、少し前までのミサトなら怒鳴っていただろう。

 

 そうじゃない。シンジは言えなかったのだ。共に戦い、寝食を共にしても、シンジは最後までミサトを信頼する事ができなかったのだ。

 

 ミサトが、シンジとの信頼関係を築き上げられなかったのだ。

 

 そうした関係のまま、ここまで来てしまった。シンジが本当に追い詰められ、壊れてしまう、その直前まで。

 

 ミサトは涙を流しながら、血が出るほど拳を握り締め、唇を噛んで耐えていた。自分のあまりの傲慢さに、無神経さに、死にたいと感じるほどの恥辱を感じながらも耐えていた。そうでもしないと、本当に自害してしまいそうだったから。

 

 その後ろで、冬月もまた、強い自責の念に駆られていた。

 

 加持の口からゲンドウの名前と初号機の名前が出たが、もはやどうでも良かった。ゲンドウの計画はバレていた。恐らく、補完計画は失敗するだろう。いや、失敗した方がいい。

 

 そんな事よりも、かつて想いを寄せていた女性、その子供にここまでの仕打ちをしてきた自分を殴り飛ばしたかった。

 

(これでいい。ユイ君、すまなかった・・・・・・)

 

 

 

 第二発令所に詰めかけた戦自隊員たちも動揺しきっていた。

 

「なぁ、まさか、あんな普通の子供があのバケモノに乗っていたのか?」

「いや、まさか…」

「だけど、どう見ても特殊な訓練を受けたようには……」

「事前資料では、エヴァンゲリオンのパイロットは神経接続をするって書いてあったよな…?」

「嘘だろ!?あんな子供が乗ってるのに!?顔やら腹やら何度も貫かれてたじゃないか!」

「そんな痛みを味わって、それでも使徒と戦ってくれてたのか、俺たちのために…?」

「隊長、我々はどうすれば…」

 

 我慢ができなくなった隊員の一人が、隊長に指示を仰ぐ。隊長はモニターに映っているシンジから目を離そうとしない。

 

「…我々の任務は人類滅亡を目論むネルフの殲滅だ。何も変わらない」

「ですが、隊長!」

「変わらない。これ以上の問答は命令違反で軍法会議ものだぞ」

 

 隊長が隊員を睨みつける。だが、ネルフの事情を一部とはいえ知ってしまった隊員たちの戦意は完全に削がれていた。

 

「任務を続行する。ネルフはやはり悪魔の巣窟だ。必ず殲滅しなければならない。既に仲間が何人も無惨に殺されている。それに…」

 

 隊長が言葉を切る。

 

「あんな子供までも利用しているのだからな…!」

 

 隊長の言葉に、隊員達が目を剥いた。

 

 隊長は大声で、上の階にいるミサトたちにも聞こえるように命令を下した。

 

「通信兵!」

「現在地!」

「紫のやつのところに待機してる奴らに通信!『ネルフ本部内、第二発令所にて死傷者多数!至急、応援求む!』送れ‼」

「り、了‼」

 

 隊長は一息で命令を下すと、隊員達に向き直った。

 

「これで俺は軍法会議だ。拘束するなりなんなり好きにしろ」

 

 隊員たちの顔に笑みが広がっていく。

 

 数時間に及ぶネルフ殲滅戦の流れが、少しずつ、変わろうとしていた。

 

 

 

つづく

 

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