【完結】エヴァンゲリオンANIMA-1.0   作:サルオ

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【q.輪舞】

 

「国連より通達!『ユーロ空軍による戦闘介入を開始。戦略自衛隊は即刻後退せよ』!」

 

「なんだと⁉」

 

 戦自の夏月司令官に信じがたい通達が届く。

 

「馬鹿な、領空侵犯ではないのか⁉」

 

「内閣府より通達!『戦闘指揮権を国連、及びユーロ空軍に譲渡。戦略自衛隊全隊は指示に従い戦闘領域より離脱せよ』!」

 

「そんな馬鹿な話があるかッ‼」

 

 司令官は持っていた双眼鏡を地面に叩きつけた。その手が無意識に、家族写真の入った胸ポケットを強く握りしめる。

 

「ここは俺たちの国だぞ⁉俺たちで解決しなければ、今後の情勢はどうなる!一度でも侵犯を許せば、世界各国から軍隊が押し寄せるぞ⁉」

「しかし、どうしようもありません!我々の戦力ではあの赤いヤツすら止められません!」

 

 副官が司令官に詰め寄る。

 

 もちろん司令官とて、そんな事は百も承知だ。こうしている間にも、現場では多くの仲間が死んでいっている。撤退するのがベストなのだろう。

 

 だがそれは短期的な戦局を見ればの話だ。中長期的に戦局を判断するならば、ここでの戦自撤退は早すぎる。追加戦力の投入なりなんなりした上での判断なら従う気持ちも生まれようが、それすら議論されずに撤退など納得できなかった。

 

(何を焦っている?上の奴らは何を考えている…?)

 

 いくら考えてもわからない。

 

「司令‼」

 

 副官が耳元でやかましく叫ぶ。命令違反は軍事犯罪だ。自衛隊に軍法会議は存在しないが、戦略自衛隊は日本よりも国連側に近い組織であるがために軍法が適用される。命令違反は重罪。ましてや内閣府、つまり総理大臣からの決定事項に対する違反ならば死刑もあり得る。それを危惧しての副官の進言。

 

 夏月司令官は怒りと悔しさで歯噛みした。それこそ奥歯を噛み砕くほどの力を込めて。

 

「…全隊に通達!ジオフロントを離脱せよ!撤退戦だ‼」

 

 司令官の苦渋の決断。

 

「だが離脱後は戦闘態勢のまま待機し、その場で監視態勢を継続!万が一があれば打って出るぞ!」

 

(何かあれば友軍援護の名目で無理矢理にでも介入してやる…!)

 

 司令官は睨みつける。未だ暴れ続ける赤い巨人、エヴァンゲリオン弐号機を、憎しみを込めて。

 

 

 ◇

 

 

「総理、戦自が撤退を開始しました」

 

「……そうか」

 

「よろしかったので?」

 

「漁夫の利を得るためだ。戦力はできるだけ温存しておきたい」

 

(しかし…)

 

 総理に一つの懸念が生まれる。

 

(得られるのか?戦自だけで。いや、我が国の戦力だけで…)

 

 たった一機のエヴァンゲリオンに、戦自は撤退を余儀なくされた。

 そして、そのエヴァンゲリオンを備えたネルフを殲滅せんとする、ゼーレ。

 そのゼーレが投入する戦力が、エヴァンゲリオンを下回る事など考えづらい。

 

 ネルフを殲滅し、ゼーレよりも早く人類補完計画の鍵を奪い取る。それが総理の策であり、最善の策である事は今も変わりはない。

 

 ただし、『()()()()()()()』の話だが。

 

(リスクを見誤ったか・・・)

 

 彼我兵力が違いすぎる。

 

 総理の背を冷たい汗が流れた。

 

 

 ◇

 

 

 そして…。

 

『……忌むべき存在のエヴァ。またも我々の妨げとなるか』

 

 ゼーレのモノリスが暗闇に浮かび上がる。

 

『やはり、毒は同じ毒を持って制すべきだな』

 

 

 ◇

 

 

「ジオフロント上空に複数の未確認飛行物体が出現‼」

 

 第二発令所内で日向が報告を上げる。

 

「遂に来たか…!」

 

 冬月の顔が険しくなり、その場の全員に緊張が走る。

 

 先程まで攻防を繰り広げていた戦自隊員たちはもう居ない。通信で何かのやり取りをした後、全隊員が第二発令所から撤退していった。

 

 その様子を上から見ていたネルフの面々は、全員が胸中に同じ思いを抱く。

 

 何かが起こる。それは恐らく、未だに姿を現さない戦力の投入。

 

 つまり、ゼーレの攻撃が開始されるのだ。

 

「数は⁉」

 

「全部で9機!ユーロ空軍の物と推定!」

 

「映像、出ます!」

 

 ミサトを中心に全員が慌ただしく動き出す。

 

 青葉の報告の通り、発令所のメインモニターに映像が映し出された。

 

「なによ…これ…?」

 

 

 

 

 

 ジオフロントの遥か上空を、9機のユーロ空軍輸送機が編隊を組んで飛行している。

 

 その全ての輸送機の底に、白いナニかが一体ずつ埋まっていた。

 

 ソレらは人の形に似ており、輸送機にしがみついている様にも、頭を抱えてうずくまっている様にも見えた。

 

 頭だと推測できる部分が、輸送機からずるりと引き抜かれる。

 

 その顔には目がなく、ただ巨大な口だけがあった。深海で目が退化した魚のような、細長い顔。

 

 その顔が、口が、ニタリと笑った。

 

 その背に突き刺さっているのは『KAWORU』と刻印された赤いエントリープラグ。それがギュルリと回転しながら白い巨人の体内に収まると、各々が巨大な諸刃の剣を手に、次々とジオフロントに落下していく。

 

 白い巨人たちが一斉に翼を広げた。

 

 弧を描きながら降下してくるソレらは、まるで天使のようで。

 

 ジオフロントに差し込む陽光がソレらを照らす様は、一枚の荘厳な宗教画を彷彿とさせた。

 

「エヴァシリーズ…?」

 

 見上げたアスカが、ソレらの正体を口にする。

 

「完成していたの……?」

 

 

 

 

 

「S2機関搭載型を9体全機投入とは…大げさすぎるな」

 

 第二発令所のモニターを見ていた冬月が呟く。

 

「なんですって…⁉」

 

 その呟きを聞き逃さなかった加持が、驚いて冬月の顔を見る。冬月も加持も、ゼーレが総力を上げてくるとは考えていたが、まさかここまでの戦力を用意できているとは予想できなかったのだ。

 

「S2機関って…」

 

 マヤがあまりの事に口元を抑える。恐怖で歯がカチカチと音を立てて震え始める。

 

「奴ら、無限に動けるってことかよ…」

 

 青葉もモニターを見つめたまま動かない。いや、動けない。目の前にある悪夢のような現実に、体がすくみ上がっていた。

 

「それが、9体…」

 

 ミサトと共にゼーレの内情を探っていた日向だけは、S2機関搭載型のエヴァンゲリオンが開発途中であることを突き止めてはいた。だが、完成しているとは聞いていない。それも9体も。

 

 今まで対峙してきた使徒は、基本的に一体ずつで行動していた。唯一、第七の使徒イスラフェルだけが二体に分裂した事はあったが、それでもネルフのエヴァの総数を超える事はなかった。だからこそ、ネルフは使徒に対してエヴァ複数機での作戦を取る事ができた。アンビリカブルケーブルと、それを失った際の内部電源による活動限界というハンデを、数のアドバンテージで補っていたのだ。

 

 だから、ネルフにとって、数の優位性を失った戦闘は初体験。それも戦時のような既存の兵器ではなく、エヴァと同等の戦力を備え、かつ、エヴァンゲリオンのハンデであった活動時間を克服した敵との戦闘。

 

 それは例えるなら、9体の使徒と一度に闘うのに等しい。

 

「…加持くん!さっき言ってたF型装備ってのはどこにあるの⁉」

 

 ミサトが絶望を振り払うように加持に問う。この状況での頼みの綱は、対ゼーレを想定して作られたF型装備を置いて他にない。

 

 しかし加持はモニターを見つめて青い顔をしたまま何も答えない。

 

「出し惜しみしてる場合⁉時間が無いのよ、さっさと教えなさいよ‼」

 

「…すまん」

 

 加持がモニターを凝視しながら口にした言葉は謝罪。

 

「知らないんだ、俺は…。手元に資料は入手できたが、どこにあるのか、何が使えるのか、どの様に使うのか、そこまで俺は知らないんだ…」

 

「ふざけんじゃないわよッ!散々勿体ぶっておいて今更それ⁉……冬月副司令!」

 

「済まないが、私も把握していない。いや、碇ですら知らないだろう。F型装備の開発中止を命じたのは他ならぬ碇自身だ。開発を続けていたのは、恐らく赤木博士の独断だろう」

 

「そんな…‼」

 

「そもそもF型装備は『使えない』と判断したから開発中止にしたのだ。仮に開発済みだとしても、実戦でいきなり投入できるとは思えん」

 

「〜〜〜〜〜ッッ!」

 

 ミサトが渾身の力で拳をコンソールに叩きつける。

 

「リョウジッ!さっきリツコと連絡取ってたんでしょ⁉さっさと繋ぎなさいよ!」

 

「さっきからやってる!だけど繋がらないんだ!もう最深部に着いてるのか電波が届いていない!」

 

「ふざけんなぁァァアア‼」

 

 とうとうミサトは加持に殴りかかった。それを日向と青葉が必死で羽交い締めにして止める。今は身内で争ってる場合ではないのだ。

 

「館内放送は⁉それならターミナルドグマの最深部にも届くんじゃあ…!」

 

 マヤが一縷の望みを懸けて提案するが、冬月は首を振って否定した。

 

「無駄だ。あそこはネルフの最高機密が眠る場所。碇や私を含めた極々一部の人間しか入ることはできん。極秘事項だから、当然、外部と連絡を取るような設備など無い。連絡手段を設置する事は、イコール、情報漏洩の危険性が増すという事だ。あの碇がそんなものを用意するわけが無い」

 

「そんなぁ…」

 

 マヤが顔を覆って泣き崩れる。

 

「リョウジ!アンタの責任よ、なんとかしなさいよ‼」

 

「勘弁してやれ」

 

 ミサトが射殺さんばかりに加持を睨みつけるが、冬月がそれを手で制す。

 

「自分の生存を完璧に偽造し、あまつさえ拘束中の赤木博士とコンタクトを取るなど、私も碇も予想だにできなかった事だ。相当慎重に動いたのだろう?取れる手段も限られていたハズだ。逆に私は、そんな状況でよくF型装備の事まで嗅ぎつけたものだと感心するよ」

 

「ですが副司令!」

 

「それに、ゼーレがここまでの戦力を投入してきたのも完全に予想外だ。彼を責めても仕方あるまい」

 

「でも…‼」

 

『な〜にビビっちゃってんのよ、ミサト。要はコイツら全員、アタシがぶちのめせば済む話じゃない』

 

 ミサトの猛抗議に、アスカの通信が割って入った。

 

「アスカ…」

 

『対複数想定の対人戦闘訓練なんて空軍時代に飽きるほどやったわ。使徒みたいにわけわかんない形状でもないし、ヨユーよヨユー』

 

 アスカが操縦席でバキバキと拳を鳴らす。

 

『それにコイツら9体もいるじゃない。ちょうどいいわ。バカシンジにキルスコアで負けてるの、地味にムカついてたのよね』

 

「でもアスカ!」

 

『アンビリカブルケーブルの予備もまだまだあるんだし。F型装備だかなんだか知らないけど、そんなもん無くったってアタシ一人でお茶の子さいさいよ!それにね……もうお客さまはご到着みたいよ』

 

 ミサトがハッと視線をモニターに戻す。

 

 モニターにはエヴァ弐号機を取り囲むようにエヴァシリーズ、量産型が地面に降り立つ瞬間が映し出されていた。

 

 着地した量産型エヴァが広げていた翼を収納し、手にした諸刃の剣を構えながらニタニタと笑う。

 

「せめて、シンジ君がターミナルドグマに着いてくれれば連絡も取れるんだが…」

 

『そんなの要らないわ、加持さん』

 

 加持の案を、アスカはスッパリと切って捨てた。

 

『バカシンジの助けなんてあてにできないわよ。アイツだって、自分のパパとケンカするの初めてなんでしょ?アイツの事だから、他の事を気にかけるヨユーなんてないわよ。だったら、アイツにはそっちに集中してもらったほうがよっぽど助かるわ』

 

「アスカ…」

 

 加持は驚いていた。優秀であるが故に他者を見下していた傲岸不遜とも言えた少女が、彼女の中のカースト最下層と見下し、敵意すら抱いていたシンジに対して気を遣ったのだ。

 

(子供の成長、と喜ぶべきなのか…)

 

『さっ!そんな事よりミサト、バックアップは任せたわよ?いくらアタシでも素手でやり続けるのは少ししんどいわ』

 

「…わかったわ。思う存分やっちゃって」

 

 ミサトは思考を切り替える。

 

 まだ負けると決まったわけではない。アスカのモチベーションは最高潮。エヴァのアンビリカブルケーブル問題も冬月副司令の案が功を奏して解決。であれば、重要なのはエヴァへのサポート。

 

 つまり、いつも通りだ。

 

「エヴァンゲリオン専用武装の全てを展開!生き残ってるヤツだけでいいわ、あるだけ出して!!」

 

「「「了解!」」」

 

 ミサトの指示に従い、オペレーターたちが地下に格納された兵装を次々に地上へと展開する。

 

 ただ、残念な事にエヴァ弐号機の近くに展開できた兵装はなかった。

 

「これだけ⁉」

 

「戦自の侵攻で施設内電源の幾つかが分断されてます。今出せるのは、これだけです…」

 

パレットライフルが一丁、ソニック・グレイブ、スマッシュホーク、それにハンドガンが一丁。

 

 たった四つの兵装が、弐号機を取り囲む量産型の輪の外に展開されている。

 

『十分十分♪』

 

「アスカ、エヴァシリーズは何をしてくるか分からないわ、慎重に行って。周辺に展開してあるケーブル設備はあと7つ。それらを破壊されずに殲滅できれば私たちの勝ちよ。……シンジくんも後で必ず上げるわ、それまで頑張って」

 

 ミサトは祈るように、アスカの乗るエヴァ弐号機を見つめていた。

 

 

 ◇

 

 

「随分と優しいじゃない?待っててくれたのかしら?」

 

 アスカが周囲の量産型を見回しながら、話しかける。当然、返事など期待していない。エヴァシリーズは相変わらずニタニタとイヤらしい笑みを浮かべるだけだ。

 

「…その薄気味悪い顔、全部叩き潰してやるわッ!」

 

 弐号機が大地を蹴る。

 

「うおおりゃあああああああーーッ‼」

 

 飛びかかった弐号機が勢いを乗せて両手を突き出し、繰り出した掌底が宣言通りエヴァ量産型の一体の頭を叩き潰す。

 

 しかしアスカの攻撃は終わらない。崩れ落ちそうになる量産型を肩に担ぎ、両手で量産型を持ち上げた。

 

 ミシミシッと嫌な音が聞こえる。まるで見せつけるように。恐怖を刻みつけるように。

 

 弐号機は既に動かない量産型の体をへし折り、敵の目の前で2つに引きちぎる。

 

 滝のように溢れでた量産型の体液が、赤い巨人の体をさらに真紅に染め上げた。

 

Erste(エーステ)(ひとつめ)‼」

 

 

 

つづく

 

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