【完結】エヴァンゲリオンANIMA-1.0   作:サルオ

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【t.失敗】

 

 時はしばし遡る。

 

 2つに引き裂かれたエヴァ量産型が地に堕ちる。量産型の体液を浴びて更にその体を朱に染めた弐号機は、死体に鞭打つように千切れた量産型の体を踏み躙った。

 

 弐号機を取り囲むように展開していたエヴァシリーズだったが、その優位を活かすことなくアスカによって初めの一体が屠られた。

 

 アスカは闇雲に量産型に襲いかかったわけではない。最初に狙った量産型、その背後にはアスカの得意とする武器、薙刀状の武器であるソニックグレイブが配置されていた。アスカとしては量産型を倒せなくても良い。その背後にあった武器を入手することを前提とした動きであった。

 

 だが結果はどうだ?

 

 牽制でしかなかった攻撃で量産型の一体が屠られ、周りの量産型が援護に入る様子も無い。違和感を覚えたアスカは、わざと屠った量産型を高く持ち上げ、見せつけるようにその体を引き裂いた。その間、弐号機はアスカが警戒していたとはいえ、隙だらけの状態だった。それでもエヴァシリーズが動き出す様子はなかった。

 

 アスカの違和感は確信に変わる。

 

「ミサト。こいつら雑魚よ」

 

 エヴァシリーズに共通する、驚くべき反応の『遅さ』。弐号機の攻撃に対してもそう。そのあとのフォローもそう。この状況でも全くと言っていいほどの無警戒ぶり。この程度であれば、武器無しの弐号機でもあと2体くらいは破壊できそうだ。

 

 これがもし、アンビリカブルケーブルを失った状態であったなら、さすがにアスカも苦戦を強いられていただろう。だがその問題は、冬月の策によって既に解決している。量産型のように無尽蔵とは言えないが、電力の供給が叶い、なおかつ武器まである状況であれば、弐号機がエヴァシリーズに遅れを取ることなど無いと断言できた。

 

『油断しないで、アスカ。相手はゼーレの送り込んできた戦力よ。誰かのダミープラグを使っているみたいだけど、ダミープラグ自体の戦闘能力はホンモノだわ。第13の使徒を思い出して。あれをやっつけたのはダミープラグだったのよ?』

 

「…ちょっと。嫌な事を思い出させないでよ」

 

 第13使徒バルディエル。それはかつてエヴァ参号機を乗っ取り、シンジやアスカの友人であった鈴原トウジを取り込んだまま襲いかかってきた使徒。

 

 あの時の戦いではアスカは戦果を全く上げられず、成す術も無いまま使徒に敗れた。その使徒を圧倒して葬ったのが、ダミープラグによって乗っ取られていた初号機だった。

 

 当時のアスカを圧倒した使徒を、更に圧倒したダミープラグ。その事実は、エヴァンゲリオンのパイロットであることを誇りに思っていたアスカにとっては受け入れ難い事実だった。ダミープラグの採用は即ち、パイロットが不要という事実を証明するものだったからだ。

 

「…ふん。まあ、いいわ」

 

 弐号機がエヴァシリーズを視界に収めたまま後ろに跳ぶ。着地点にはソニックグレイブ。アスカは後ろ手にソニックグレイブを掴むと、具合を確かめるように振り回してから構えた。

 

「所詮、ダミーはダミー。弐号機の中にいるママと繋がれるのは、私だけよ」

 

 アスカにとって、エヴァのパイロットであることは自分の優秀さを他人に、ひいてはアスカの母親に認めてもらうための口実であった。

 

 だが今は、そんな事とは無関係に母が見守ってくれている。一緒に戦ってくれている。

 

 その事実が、アスカをいくらでも強くしてくれる。

 

 弐号機が腰を沈める。

 

「うおおおりゃあああああああ‼」

 

 気合一閃。

 

 ソニックグレイブを構えた弐号機が次の獲物に突撃する。

 

 緩慢な動きしか取らない量産型の一体が、突っ込んできた薙刀に呆気なく刺し貫かれた。

 

「ぬううううううう……あぁッ‼」

 

 量産型を貫いたまま、弐号機はソニックグレイブを振り回す。貫かれたまま振り回された量産型が遠心力によって薙刀から抜け飛び、そばにいた他の量産型に激突した。

 

 たたらを踏む量産型。そこに振り下ろされるソニックグレイブ。高震動粒子によって構成された刃は、量産型の頭を真っ二つに切り裂いた。

 

「はんっ!だれのダミーを使ってんのか知らないけど、大したことないわね!」

 

『アスカ、後ろ!』

 

 通信からミサトの警告が入る。

 

「気付いてないとでも…!」

 

 後ろを確認せずに、アスカは薙刀の石突を背面に向かって突き出した。諸刃の剣を振りかぶっていた量産型の腹に石突がめり込む。

 

「思ってんのぉっ⁉」

 

 振り向くと同時にソニックグレイブを横薙ぎに振り抜く。攻防一体の一連の動きによって、量産型の首があっけなく宙を舞った。

 

Vier(フィーア)(4つめ)!!」

 

 だが倒された量産型に続くように更に2体の量産型が迫る。振り下ろされる2本の諸刃の剣。武器で受ければ破損すると判断したアスカはすかさず後退する。

 

「ちっ、鬱陶しい・・・!」

 

 闇雲に後退したわけではない。弐号機の近くには配備されたハンドガン。それを毟り取るように左手で掴むと、そのまま2体の量産型に向けて乱射した。防御されることも回避されることもなく、銃弾は全て量産型に命中する。

 

「はっ!少しはディフェンスも覚えたら?」

 

 弾切れを起こしたハンドガンを投げつける。それは諸刃の剣によって弾かれるが、元より牽制、想定の内だ。2体まとめて薙ぎ払おうと弐号機が強く踏み込み、

 

「っ⁉」

 

 横から襲い掛かってきた諸刃の剣に妨害された。

 

「ちぃッ!」

 

 新手。

 

 その振り下ろされた諸刃の剣を、弐号機はすんでのところで受け止める。しかし、こちらは薙刀、相手は広刃の剣。もとより武器としての強度が違う。柄の部分で受けざるを得なかったアスカは、薙刀が折れるよりも先に、襲ってきた量産型を蹴り飛ばした。

 

「うっとおしいっつーのッッ!」

 

 蹴られた量産型が諸刃の剣を手放した。それを空中でキャッチしたアスカは、倒れ込むように目の前の敵に深々と突き刺す。刃は量産型を貫き、量産型を地に縫い付けた。

 

 しかし瞬間、背後に敵の気配。

 

 銃で撃たれた量産型の1体が、諸刃の剣を突き出してくる。その攻撃を弐号機は横に転がるようにして逃れた。

 

 ゴロゴロと転がりながらも体制を整えようと弐号機が顔を上げる。アスカの目が驚愕に見開かれた。目の前には、銃で撃たれたもう1体の量産型が迫ってきている。立ち上がる時間はない。

 

「ふうっ‼」

 

 アスカはしゃがんだままの姿勢で、弐号機の両腕にありったけの力を込める。全体重を両腕に乗せ両足を浮かし、体を大きく回転させ、水面蹴りの要領で量産型の足を払った。

 

 足を払われた量産型が大地に倒れ込む。それに馬乗りになった弐号機が肩のパイロンからプログレッシブナイフを抜き取り、量産型の首に突き立てた。

 

「これで6つ!次ッ!」

 

 苦しみ悶える量産型を踏みつけ、弐号機が駆け出す。目前に迫るのは銃で撃たれた量産型。

 

「どおおりゃああああああああ‼」

 

 弐号機が量産型に肩からぶつかっていく。ショルダータックルをまともに食らった量産型が勢いよく吹っ飛ばされた。

 

 だが逃がさない。無駄に距離を取らせるわけにはいかない。弐号機は吹っ飛ばされる量産型の腕を掴むと強く引き戻し、その勢いを利用してプログレッシブナイフで腕を切り落とした。

 

 追撃を加えようと更にプログレッシブナイフを振りかざしたアスカは、しかし今の攻撃でナイフが破損した事に気付く。

 

「チィッ!」

 

 別の攻撃手段を考えたアスカの逡巡。それが一瞬の隙となった。腕を切り落とされた量産型が残った片腕で弐号機の顔を鷲掴みにする。

 

「こん…のオオオオ!」

 

 弐号機は掴んできた腕を引き剥がそうともがくが、量産型は「死なば諸共」とばかりに掴んだ腕に更に力を込めた。

 

「離、せぇぇええええッ!」

 

 お互いの機体がギギギギ、と嫌な音を立てる。取っ組み合いになる弐号機と量産型。その2体の上に、不意に影が差した。

 

(ヤバい…ッ!)

 

 アスカはとっさに下になっている量産型の顎を膝でかち上げた。弐号機を掴んでいた腕が緩む。その隙を逃さず、弐号機は前方に逃げるように跳んだ。前回りの要領で受け身を取る弐号機の後ろで、弐号機ごと刺し貫かんと飛来してきた新手の量産型が、腕を失った量産型に諸刃の剣を突き立てていた。

 

 アスカはすぐに立ち上がらずに、勢いを利用して2回、3回と転がる。前方に逃げる寸前、新しい武器を目にしたからだ。

 

 転がった先には配置されたパレットライフル。右手で掴んだソレを無茶苦茶に乱射した。

 

「はぁっはぁっはぁっはぁっ……ふう」

 

 銃の乱射が牽制となり、残りの量産型が距離を取る。アスカも体制を立て直すようにジリジリと後退した。

 

『アンビリカブルケーブル切断!』

『アスカ、予備電源を使って!』

 

 アスカはハッとした。自分でも気付かぬうちにケーブルが切断されていたのだ。弐号機のモニターに内部電源のカウントダウンが表示されている。

 

(さっき上から降ってきたヤツか、味なマネを…)

 

 心の中で悪態をつきつつ、弐号機を更に後退させる。

 

 アスカは残りの量産型を確認した。既に合計7体を撃破している。残りは2体。

 

 対して、こちらの予備電源はまだあと6つ。パレットライフルの残弾もまだある。さらにスマッシュホークが未使用のままだ。まだまだ余裕があると言えよう。

 

 だが、アスカはこの戦いの中である事に気付いていた。

 

(コイツら、だんだん動きが良くなっている…)

 

 単体の攻撃のバリエーションが増えた。振り上げて切り掛かってくるだけだった量産型が突きを繰り出したり、飛び掛かってくるようになった。1体を囮にして波状攻撃を仕掛けるようになった。囮になった方も捨て身の覚悟で弐号機を掴み、個ではなく全体での勝利を意識するようになってきている。

 

「コイツら、学習してるってわけね…」

 

 戦闘において、相手を観察し、その癖を読み取る事は最重要課題である。癖を読み解けば、それは相手の動きの予測に繋がり、攻撃の回避、防御が容易くなる。さらには癖を読んで相手に隙を作らせ、そこを攻めることも容易となる。

 

 戦闘考察力、とでも呼ぶべきだろうか。事前情報の無い敵と不意に遭遇した際、この戦闘考察力の高さが勝敗を分けると言っても過言では無い。どれだけ早く、相手より先に相手の癖を見切れるか。それが何より重要となってくるのだ。

 

 その見切りのスピードが早い。アスカが最初に襲った量産型は確かに雑魚だった。しかし生き残っていた他の量産型は違う。味方がやられる度に、アスカの癖を学習していったのだ。そして、じわじわとアスカを追い詰め始めた。

 

『アスカ、落ち着いて。確かにアナタの言う通り相手の学習スピードは早いわ。でもまだ状況はアナタの味方よ』

 

「わかってるわよ、ミサト。でもね、あとたったの2体よ?」

 

 多対一。数の優位性は単純な戦力比に留まらず、相手を観察する目が多いというメリットもある。要は、癖を見抜くのが早くなるのだ。もしエヴァシリーズが互いに情報を共有できているのだとしたら、時間をかければかけるほど、戦局は相手に有利になっていく。

 

『焦らないで。無理に倒そうとしなくていいわ。もう少しすればシンジくんも上がってくるハズよ。そうすれば・・・』

 

「楽になるって?イヤよ、そんなの」

 

『アスカ!こんな時まで何を…』

 

「別に、バカシンジをアテにしてないわけじゃないわ」

 

 アスカが心の内をそっと呟く。

 

「来てくれたらな、って思うわよ。遅いわね、バカシンジ!って怒鳴りつけてやりたいくらい」

 

 アスカが操縦桿を握りなおす。

 

「でも、無理でしょ。アイツ、自分のパパに凄いコンプレックス抱えてたじゃない。それなのに、アイツは自分の意思でパパと向き合おうとしてる。碇司令は碇司令で面倒くさそうだし、絶対に、簡単には終わらないわ」

 

 弐号機が予備のケーブルに近付き、切断されたケーブルと交換する。内部電源のカウントが止まった。

 

「いつ来るのかわからないシンジが来るまで、私だけで時間を稼ぐのは無理。ていうかメンドい。だったら殲滅するくらいの気合でやった方が気持ちが楽なのよ」

 

『アスカ…』

 

 アスカの答えに対し、ミサトは不思議な感情を抱いていた。今のアスカはシンジを疎んでいるのではない。シンジの事を理解しようとした上で、自分にできる事を選択していっている。

 

 この前までの、シンジに嫉妬していた、ひねくれたお子ちゃまのようなアスカはもういない。今のアスカはエヴァのパイロットとして、任務の遂行と生き残る事を第一に考えている。

 

 成長していっているのだ。ミサトたちですらが、目を見張るようなスピードで。

 

「それにね、なんかアイツ、変に意気込んでたじゃない?…そういう時ね、大抵ヘマするのよアイツは」

 

 アスカが口の端を僅かに上げる。

  

──そう、アイツはそういうヤツだった。

 

──エヴァのシンクロ率とか使徒の撃破数とか、そんなところばかりに目が行ってたけど、アイツはそんな事を気にしてなかった。

 

──気にする余裕がなかった、って言った方がいいわね。だってアイツは本当に、ただ必死にやってただけなんだから。

 

──普段のアイツは、本当にショボいし、冴えない。バカで臆病で人の顔色ばかりうかがって。

 

──なんでそんなヤツがアタシより上なのよ!っていつも思ってた。

 

──違うわよね。

 

──どっちもホントのアイツ。私が勝手に苛立っていただけで。

  

──アイツは凄いところもあれば、そうでないときもある、フツーの男の子。

 

──ただ、それだけ。

 

──そんな事にも気付かなかったなんて、ね。

 

「まぁでも、意地があるんでしょ?オトコノコには、さ」

 

 とうとう堪えきれず、アスカはクスリと笑ってしまった。

 

 通信の向こう側がざわつく。

 

(失礼ね。そんなに私が笑ったのが可笑しいの?)

 

 アスカはそんな事を考えていた。

 

 だが、どうも様子がおかしい。ざわつき方が尋常じゃない。

 

「ちょっと、どーしたのよ…」

 

『アスカ、前ッッ‼』

 

 通信から聞こえてきたのは、マヤの悲鳴に近い警告。

 

 ハッとアスカが前方に意識を戻す。まずい、集中を欠いていた、と。この隙に攻め込まれる、とアスカの体に緊張が走る。

 

 だが違った。アスカの目に映ったのは全く別の光景。

 

 

 

 

 

 死体が、蘇っている。

 撃破したはずの、量産型の死体が。

 

 

 

 

 

「なによ、これ……」

 

 アスカは息を呑んだ。

 

 刺し貫いたモノ、首を落としたモノ、叩っ斬ったモノ、引き裂いたモノ。

 

 武器を構える残り2体の量産型の後ろで、合計7体の量産型の死体が、呻き声を上げながら徐々に傷を修復していく。

 

 蘇っていく。

 

『予備の武器、本当にもう無いの⁉』

『ありますが電源をやられています!上には上げられません!』

『自走式の兵器はどうだ⁉』

『ダメです、先程のN2兵器の影響で全滅しています!』

『何か方法は無いの⁉』

『予備電源はあと幾つだ⁉追加で出せるヤツはッ⁉』

『6つです!今出てるので全部です!』

『なんでアイツらは再生できるんだ⁉あんな状態じゃあ…』

『まさか、生命の実、S2機関か…。これほどとは…』

 

 通信の向こうから発令所のやり取りが聞こえてくる。

 

 だが、アスカの耳には、頭には入ってこない。

 

 蘇ったエヴァシリーズが各々の武器を手にし、改めて弐号機に向き合う。

 

 ニタニタと笑うエヴァシリーズの笑みが、更に深くなる。

 

 カチカチと、アスカの歯が鳴る。

 

 恐怖で。

 

「なんなのよ、コイツら……」

 

 エヴァシリーズがバサッと翼を広げる。

 

 翼をはためかせ、天高く舞い上がっていく。

 

 

 

「早く来なさいよ、バカシンジ……」

 

 

 

 諸刃の剣を携えたエヴァシリーズが、まるで獲物を見つけた鴉の群のように、アスカに一斉に襲いかかった。

 

 

 

 

 

つづく

 

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