【完結】エヴァンゲリオンANIMA-1.0   作:サルオ

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【v.核心】

 

 剣戟の音が激しく響く。

 

 鉄と鉄とがぶつかり合う音が辺りを満たす。

 

 血と肉と土埃が舞い踊り、ざらざらと大気を汚す。

 

 決して美しくはない、その光景。

 

 泥臭い殺し合いと言ってしまえば、それで終わり。

 

 しかし生命のぶつかり合いは、見る者の目を縛って離さない。

 

 この戦いのあと、どちらかは立っていて、どちらかは地に伏しているだろう。

 

 龍神八部禽獣鳥類に至るまで、天に仰ぎて泣き、地に伏して叫ぶ。

 

 その様は無様の一言。

 

 されどその叫びは、聞く者の心を縛り付けて離さない。

 

 この世界で常に行われる生命のやり取り。

 

 生命の散る様は、生命の最後の輝きは、この世で最も尊く美しい。

 

 たとえそれがどのような悲劇であっても、舞台上での出来事であれば、観客の目は釘付けになるだろう。

 

 観客は舞台に上がれない。だからこそ、その光景を目に焼き付ける。

 

 そして終わった後にこう言うのだ。

 「ああ、とても良かったね」と。

 

 だがこれは舞台ではない。

 

 思いさえあれば、

 

 どうしようもないほどの衝動があるならば、

 

 誰が舞台に上がってもいいのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シンジィィ‼」

 

 アスカの声が聞こえる。

 

『シンちゃん、ダメ!それ以上は…』

 

 ミサトさんの声が聞こえる。

 

『やめろシンジ君!その動きはダメだ!』

 

 加持さんの声が聞こえる。

 

 みんな、優しいなぁ。

 

 大丈夫、僕はまだ大丈夫だよ。

 

 だって、許せないじゃないか。

 

 アスカをこんなに酷い目に合わせて、

 

 世界中を巻き込んで、

 

 全ての人を不幸にして、誰かの願いが叶う?

 

 そんなムチャクチャな事が、あっていいのか?

 

 僕には何が正しいかなんてまだわからないけど、

 

 僕の勝手な思いなのかもしれないけど、

 

 それだけは、許せないんだ。

 

 

 

 

 

「ぶぶっ」

 

 シンジの目と鼻と耳と口から、血が溢れだす。

 

 傷を負ってのものではない。これはエヴァを操る代償。

 

「がぁあッ‼」

 

 シンジが、初号機が、量産型に向かって踏み込む。

 

 その瞬間、初号機の姿がかき消えた。

 

 同時に、対峙していた量産型の腰から上も消える。

 

 空高く舞い上がった、量産型の胴体。

 

 それが大きな音を立てて地に落ちる。

 

「ぶはぁっ!はあ、はあ、はあ……」

 

 量産型の背後に、刀を振り抜いたままの姿勢で、消えたはずの初号機が立っていた。

 

 初号機の彼方此方から血が吹き出す。それは余りにも無茶な動きの反動。限界を超えた動きに、エヴァの全身の筋組織は千切れ、身体中が悲鳴をあげていた。

 

 その反動が、シンクロシステムを通してそのままシンジにフィールドバックしていた。

 

「〜〜〜〜ッ!」

 

 想像を絶する痛みに耐えるシンジ。高いシンクロ率を維持し続けるシンジの体は、初号機以上にボロボロになっていた。

 

 シンジが身につけた、ATフィールド技術。それは、ATフィールドを足場とし、ATフィールドの斥力を使って機動力を得るというもの。先程ドグマを駆け登った技術を、シンジは『上』ではなく、今度は『横』に向かって使用した。

 

 本来、F型装備とはエヴァンゲリオンの重装備化である。S2機関という永久機関から得られる膨大な出力を前提に、最低限の機動力を確保した上で長大な武器を振り回すためのもの。兵器の近接、中遠距離は問わない。とにかく強力な火力を求めた兵装を操れることこそがF型装備のコンセプトだった。

 

 汎用型人型兵器として開発されたエヴァンゲリオンを持ってしても扱いが難しいほどの重装備。当然、重装備化すれば機体の機動力は大きく落ちる。

 

 それを補強するのがATフィールド技術。ATフィールドの斥力を応用し、瞬間的な機動力を確保する。それを連続使用することによって、重装備でありながら高機動力を兼ね備えた強力なエヴァンゲリオンが生まれるというのが、F型装備運用の重要なコンセプトであった。

 

 だがシンジは、いや、今の初号機は、F型装備に換装されていない状態でそれを行なっている。

 

 重量化した状態で、重装備化の補助があってこその高機動力。そのATフィールド技術を、エヴァの機体が比較的軽い通常の装備のまま使用している。

 

 それが齎す恩恵は、エヴァンゲリオンの巨体がかき消えて見えるほどの瞬間移動。支払われる代償は、全身の筋組織の断裂。

 

 この技術はエヴァが加速する時だけでなく、停止する際にも使用されている。エヴァの加速した体を止めるのに、エヴァ本来の脚力だけでは全く足りないからだ。停止する際にもATフィールドを展開し、その斥力を使ってようやくエヴァの巨体は止まる。しかしそれも、やはり重装備化されているF型装備であるからこそ耐えられるのであって、通常装備で行えば、ただ自らATフィールドに激突しているのと何も変わらない。

 

 加えて、初号機は移動と同時に攻撃を繰り出してもいる。重装備化してやっと取り扱えるマゴロク・E・ソードを、無理矢理振り抜いている。

 

 初号機のダメージは自然、両足と、刀を振り回す右腕に集中していた。

 

「ハァッ‼」

 

 初号機の姿がまた消える。

 

 気付いた瞬間には両断されている量産型。

 

 初号機のATフィールド技術を使用した動きは、9体いるエヴァシリーズを完全に圧倒していた。

 

 だが、

 

「くそ、またか…!」

 

 額から血を流しながら、シンジが切り捨てたハズの量産型に振り返る。そこには、斬ったそばから傷を修復し始めるエヴァシリーズの姿があった。

 

「くそっ、くそっ、くそぉっ!」

 

 どれだけ斬ってもキリがない。既にエヴァシリーズを全部まとめて3回程は殲滅できているハズなのに、エヴァシリーズの復活が止まることはない。

 

(何か、何かあるハズなんだ。コイツらを仕留められる、何かが…あ…?)

 

 血の流しすぎか、シンジの意識が一瞬途切れた。それに合わせて初号機がフラつく。

 

 その晒した隙を見逃さず、エヴァシリーズは一斉に初号機に襲いかかった。

 

「ッッッ!」

 

 間髪入れず、その場から消える初号機。例えエヴァシリーズに包囲されても抜け出せるだけの瞬発力を発揮する。

 

 しかし、多対一。そして信じられないほどの学習能力を持ったエヴァシリーズは、だんだんと初号機の動きに対応し始めていた。

 

 逃げた初号機の先に、すでに回り込んでいた量産型の姿。

 

「うぉあああっ‼」

 

 驚愕と共に交差する初号機と量産型。それはまるで時代劇の刹那の斬り合いのよう。逆袈裟に斬り上げた初号機、袈裟斬りの量産型。そして、吹き上がる量産型の血飛沫。

 

 だが初号機も無傷ではない。左肩から胸にかけて薄く切り傷を刻まれた。

 

「シンジッ!もういい、もうやめて!」

 

 アスカがシンジを止めようと必死で呼びかける。その目の前で、初号機はとうとう膝をついた。

 

「ダメだよ…アスカ…」

 

 初号機と弐号機の通信が繋がる。エントリープラグ内に現れたウィンドウ。そこに映し出されたシンジの姿に、アスカは息を呑んだ。

 

「シンジ、あんた…」

 

「アスカをそんなにされて、酷い事されて、許せるわけないよ……」

 

 全身から血を流し、ズタボロになったシンジがアスカに微笑みかける。

 

「あんた……、バカぁ………?」

 

 口元を抑え、アスカは涙を流した。

 

「シンジのくせに…、そんなザマで、なに似合わないこと言ってんのよ…」

 

「ひどいなぁ、アスカ」

 

 シンジが苦笑する。傷だらけで。

 

「アスカのほうが、よっぽどひどい有様じゃないか…」

 

 シンジの言う通り、確かにアスカも酷い有様だ。高いシンクロ率のせいで、刺し貫かれた額から血を流している。プラグスーツの下も、エヴァシリーズの拷問で傷だらけだろう。

 

 だが、シンジほどじゃない。アスカの外傷とは違い、シンジの場合は体の中で起こった傷だ。体中の筋肉が裂けて、体が耐えきれずに皮膚まで破れ、血を流しているのだ。その痛みは尋常じゃない。アスカの比ではないハズだ。加えて戦闘によって負った外傷もある。

 

「バカシンジ!これ以上やると本当に死ぬわよ⁉」

 

「わかってる。でも嫌なんだ…アスカもみんなも、守りたいんだよ」

 

 アスカに微笑みかけたシンジは通信を切ると、初号機が再び立ち上がり、エヴァシリーズに雄たけびを上げて立ち向かって行った。

 

「うおおおおおおおおおッ‼」

 

「もうやめてぇ、バカシンジぃーッ‼」

 

 

 ◇

 

 

 もう、これで何度目だろうか。ミサトがぱし、ぱしと力無くコンソールを叩いた。

 

「…ねぇ、加持くん」

 

 加持は振り向かず、横目でチラリとミサトを見遣る。ミサトの、余りにも痛ましい背中を。

 

「…なんだ?」

 

「私、本当に何もできないのね…」

 

 ミサトは打ちのめされていた。目の前で行われたアスカへの拷問。傷だらけで戦い続けるシンジ。それらを目の前にして全く介入することができず、ただ見ている事しかできない自分。

 

「父さんが死んだときもそうだったわ。セカンドインパクトが起こるのを、ただ見ているだけ。使徒と戦っているときもそうよ。私は作戦は考えるけど、実行するのはあの子たち。それも成功率の少ない作戦で、あの子たちを傷つける事もたくさんあったわ」

 

 もはや精魂尽きたというように項垂れるミサト。

 

「人類を守る。そんな大義名分で誤魔化してたけど、私は結局、セカンドインパクトを起こした使徒たちに復讐したかっただけ。……いや、違うわね。使徒に復讐することで、父さんに復讐したかっただけ。でも、それだって、加持くんの残したデータがなかったら、ずっと使徒が起こしたものだって勘違いしてたわ。ゼーレっていう黒幕を知ることはできたけど、結局、私はそいつらの顔も見ていない。色々足掻いたつもりだったけど、全部空回り……」

 

 ミサトがモニターを見上げる。

 

「そんな事にあの子たちを巻き込んでおいて、あんな目に合わせて。なんなのかしらね、本当……」

 

「葛城…」

 

 加持は静かに目を伏せた。なぜなら加持も今、全く同じ思いを抱いていたからだ。

 

 総理に直談判して失敗した後、なんとかリツコと連絡を取るところまで漕ぎ着け、人類補完計画の阻止に向けて準備を進める事はできた。だが、それだけだ。シンジを救出することはできたが、人類補完計画の阻止自体は結局エヴァ頼み。

 

 仕方がないとはいえ、大人の自分が何もできないのは、辛い。

 

「お前の指示がなきゃ、シンジ君は立ち上がることはできなかったさ。アスカを最初に逃すことを考えたのもお前だろ?そこは自信を持てよ」

 

「やめてよ、そんなの…慰めがほしいわけじゃないの」

 

「……すまん」

 

 加持はミサトの隣に、寄り添うように立った。モニターには限界を超えて尚、戦い続ける初号機の姿が映っている。

 

「俺も辛い…」

 

「……そうね」

 

 

 

「……信じるしか、ないんじゃないですか?」

 

 二人の間に流れた沈黙に、青葉が口を出した。

 

「俺は諦めてませんよ。さっきシンジ君と約束したんだから。絶対にシンジ君に俺のギターを見せてやるんです。最高のライブにするって約束したんだ。勝手に諦めて、勝手に落ち込んで、そんなの、俺たち大人のする事じゃねーよッ!」

 

 ミサトと加持が驚いて青葉を見る。青葉の目には涙が浮かんでいた。

 

「見てることしかできねーよ!もう俺たちにやれる事なんて何もないかもしれないけどさぁ!それでも俺たちが勝手に諦めてるんじゃ、シンジ君やアスカがあんまりじゃねーかよ!」

 

「青葉くん・・・」

 

「私も、そう思います」

 

 マヤからも声が上がる。

 

「私、さっきアスカが殺されそうになったとき、怖くて、目を逸らしました…でも!葛城三佐が『神経接続を切れ』って言ってくれて、それでやってみたら、うまくいって!それしかできなかったけど、その後も何もできてないけど、それでも少しはあの子たちの役に立ったんだって思えました!だから…!」

 

 マヤが俯く。

 

「何もできないなんて、言わないでください。葛城三佐……」

 

「マヤ…」

 

「葛城さんがいなかったら、俺たちとっくにここで死んでましたよ」

 

「日向くん…」

 

「そもそも、今までの作戦だってそうですよ。使徒をやっつける作戦なんて、俺たちじゃ思い浮かばなかったですし。葛城さんがいつも作戦のあと、苦しんでたのは知ってます。シンジ君たちや、ネルフの仲間。誰かが傷ついたり、誰かが死ぬたんびに悲しんでたのを知ってます」

 

 日向がミサトに、優しく笑顔を向ける。

 

「そんな葛城さんだったから、みんな付いてきたんですよ。人の痛みや死をなんとも思わないヒトデナシなんかじゃない、貴女だから。少なくとも、俺はそうでしたよ」

 

「……なによ、みんなして。慰めなんかいらないって言ったじゃない」

 

「これは慰めではない。『叱咤激励(しったげきれい)』と言うのだよ、葛城三佐」

 

 声の震えたミサトに、今度は冬月が語りかける。他の者とは違い、冬月は厳しい表情をしていたが──、

 

「葛城三佐。君の仕事はなんだね?ここで己の愚かさを嘆くことか。自分の無力に打ちのめされ、悲壮感に酔うことか」

 

 冬月の鋭い目つきが、フッと和らぐ。

 

「違うだろう?君はネルフ戦術作戦部作戦局第一課課長。君の仕事は、『考える』ことだ」

 

「考える……」

 

 ミサトがその言葉を反芻する。

 

 そして、力の失った瞳を、もう一度だけモニターに向けた。

 

(シンジ君、アスカ……)

 

 心の中で、モニタの向こうの少年少女に呼びかける。

 

 ミサトは目を閉じて大きく息を吸うと、頭を振り上げ、そのまま勢いよくコンソールに叩きつけた。

 

「「「「「⁉」」」」」

 

 ガゴンッ!という鈍い音が発令所に響く。皆がその光景に驚く中、ミサトの頭はようやく冷静さを取り戻しつつあった。

 

(そうよ、何やってんのよ葛城ミサト!アナタは作戦課長でしょ?エヴァを支援し、使徒を殲滅する作戦を考えるのが貴女の仕事でしょ⁉こんなところで、不貞腐れてる場合⁉)

 

 顔を上げたミサトが、再びモニターを睨みつける。

 

(考えるの、考えるのよ!エヴァシリーズだって人が作ったもの。どこかに何かの弱点があるハズなのよ!使徒じゃあるまいし、本当に不死身って訳じゃないハズ…!)

 

 そこまで考え、ミサトはハッと気付く。

 

(使徒……?そうよ、使徒よ‼)

 

 ミサトがみんなに向き直る。

 

「副司令。S2機関とは、使徒の不死性を模したものと捉えてよろしいのでしょうか?」

 

「う、うむ」

 

 額から血を流しながら睨みつけてくるミサトに気圧されつつも、冬月は首肯した。

 

「ありがとうございます。…みんな、分かったわ。エヴァシリーズは、使徒とエヴァの合いの子なのよ」

 

 ミサトの言葉に、冬月を除いた加持とオペレーター陣はポカンと口を開けた。エネルギー枯渇の問題を解決したエヴァ。それは確かに使徒のようなエヴァだ。そんな事は分かりきっている。

 

 ならばなぜ、ミサトは今更そんな事を言い出したのか。

 

「わからない?私たちが今まで相手してきたのは何?使徒でしょ?」

 

 ミサトがオペレーター3人と加持を見渡す。

 

「使徒は確かに、私たちの予想もつかない強さでもって人類に襲いかかってきた。でも、私たちはその全てを殲滅してきたわ。それはなぜ?どうしてできたの?」

 

 ミサトが、モニターを振り返る。

 

「使徒はコアを持っていた。私たちはそれを破壊する事で使徒たちを殲滅したわ。そして、エヴァ初号機にもコアがあった。第一の使徒アダムを元にエヴァが作られたなら、当然、エヴァシリーズにもコアがあるハズ」

 

「でも、すでにアスカもシンジ君も何度もエヴァシリーズをやっつけてます!コアだって何度も破壊してるハズです!」

 

 マヤが疑問を口にする。が、その疑問の答えに気付いたのは加持だった。

 

「ダミープラグか…!」

 

「そう。初号機が第14の使徒のS2機関を取り込んだとき、初号機は内部電源が切れていた。にもかかわらず、初号機は暴走を起こし、使徒を倒し、使徒の体を捕食した。あれは多分、シンジ君と初号機のコアがシンクロによって共鳴することで起きたのよ。シンジ君がエヴァの意識としての役割を担う脳、コアが心臓だと考えれば、その2つのうちどちらかが健在なら、少しの間なら電源が無くてもエヴァは動けるんだわ。シンクロ率400%っていう異常事態はあったけど、根本的な稼働理由は恐らくコレ」

 

 ミサトはモニターを睨み続けている。

 

「第14使徒を初号機が捕食したとき、初号機は別段、使徒のコアに執着する事はなかった。むしろコア以外の部分を積極的に取り込もうとしてたわ。推測ばかりだけど、使徒にとってのコアは脳と心臓を兼ね備えたモノ。そしてS2機関はコアを動力とする修復装置。それらが揃って初めて、使徒は圧倒的な生命力を得る事ができていた。だからコアを破壊すれば、心臓と脳の両方が破壊され、使徒は沈黙した」

 

「だが、エヴァは違う。コアとエントリープラグが別れている。そのどちらかが破壊されても、もう片方が残っていればS2機関が作動して傷が修復される」

 

 加持がミサトの言葉を継ぐ。

 

「だから、エヴァシリーズを黙らせるならエントリープラグとコアの両方を破壊しなければならない。それも、S2機関が破壊されたどちらかを修復する前に。それがエヴァシリーズの不死性の正体か!」

 

「多分、だけどね。賭けの要素はだいぶ強いけど」

 

「試す価値はあるな」

 

 ミサトと加持が頷き合う。それに対し、冬月は顎に手を当てて唸った。

 

「だが問題は初号機、いや、シンジ君にそれをやるだけの体力が残っているか、だな・・・」

 

「それこそ、信じるしかありません。大人としては情けない限りだけど、闇雲に戦い続けるより、1%でも勝ちの目がある作戦を伝える。それが少しでもあの子の助けになれば…!」

 

 ミサトは通信を初号機に繋いだ。

 

「シンジ君、聞こえる⁉」

 

『ミサトさ…ん……?』

 

 シンジの弱々しい声が返ってくる。ミサトはその声に一瞬心が折れかけたが、毅然とした態度で作戦を伝えた。

 

「シンジ君。エヴァシリーズはダミープラグとエヴァのコアで動いてる可能性があるわ。どちらかが残っていればS2機関が修復してしまうけど、もし両方を一度に失えば、奴らは復活しないかもしれない。やれる?」

 

『ミサトさん……』

 

 どんな逆境でも、指揮官は毅然とした態度を崩してはならない。まだ希望があると、勝ち目があると信じて戦わせるために。例え死ぬかもしれなくても、最期まで戦ってもらうために。

 

 それは恐らく、戦場において何より辛い役目。だからこそ、それを子供たちに任せるわけにはいかない。

 

 子供には、信頼できる大人が必要なのだから。

 

『ありがとう。ミサトさん』

 

 シンジの声に、少しだけ力が戻った。

 

「シンジ君。世界の命運、アナタに託すわ」

 

『はいッ!』

 

 モニターの向こうで、初号機が静かに太刀を上段に構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エヴァシリーズの一体が初号機に突貫する。その後ろにフォローとして2体が追随する。

 

 もはや航空部隊のような洗練された連携を取り始めたエヴァシリーズ。

 

 それを迎え撃つのは、太刀を上段に構えた初号機。

 

「ふっ‼」

 

 初号機の姿がかき消える。

 

「え⁉」

 

 しかして、初号機の太刀は空を斬る。

 

(躱された⁉)

 

 エヴァシリーズは初号機が斬りかかる寸前、その軌道を変えていた。不死身の体と高い学習能力を備えた量産型は、その身を切り刻まれながらもシンジの癖を見抜き、予備動作から瞬間移動するタイミングを見切っていた。

 

 空中で旋回した量産型が初号機の背後に迫る。諸刃の剣を突き出して襲い掛かってくる。

 

「うううううううッ!」

 

 シンジが初号機の両脚に力を込める。初号機の太ももから血が噴き出す。

 

「ああッ!」

 

 痛みに耐えながら、シンジがATフィールドを足元に展開する。斥力の反動によって初号機が高く飛び上がると同時、シンジは太刀を真下から斬りあげた。

 

『ギィ⁉』

 

 背後に迫っていた量産型が、股下から頭頂部にかけて両断される。正中線に位置するコアとエントリープラグがまとめて斬り裂かれる。

 

『⁉』

 

 それを見ていた他の量産型が慌てて距離を取った。

 

(⁉……動きが、変わった!)

 

 シンジは確信した。

 

 斬られた量産型と初号機が同時に着地する。

 

 量産型が立ち上がる様子はない。

 

「ミサトさん、当たりです!再生しない!」

 

 通信の向こうで、発令所が湧く声が聞こえた。

 

 ようやく一体。

 

 既に満身創痍の初号機とシンジであったが、エヴァシリーズの攻略の糸口を掴んだことで、体に力が戻ってきたのを感じていた。

 

 

 

 

 

『忌まわしきエヴァンゲリオン初号機。儀式の贄としては最適かと思ったが』

 

『ゲンドウの息子。心が折れる様子を見せぬな』

 

『エヴァシリーズが屠られたか』

 

『エヴァシリーズは儀式に必要な存在。これ以上失うわけにはいかぬ』

 

『ならば良い。替えを使うまでのこと』

 

『左様。絶望を刻んだ弐号機を、我らが神に捧げよう』

 

 

 

『さあ、我等の願いを始めよう』

 

 

 

 

 

つづく

 

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