何事においてもそうであるように、物事は後処理が一番面倒だ。
エヴァシリーズを殲滅し、人類補完計画を挫いたシンジ達ネルフは、自らの潔白を証明することに成功した。
しかしエヴァシリーズとの戦闘が終了し、戦場が一旦の落ち着きを見せると、シンジやアスカ、ミサトに加持、レイや第二発令所にいた面々、ネルフの生き残りの職員達のほとんどは、直ちに戦略自衛隊によって捕縛される事となった。
シンジとアスカは重傷者であったため、捕縛後、即刻病院に搬送された。
病院といっても一般の病院ではなく、当然、戦略自衛隊管轄の病院で、治療と監視を兼ねたものだった。
病院に収容されたアスカは当初「病院食じゃなくてフツーのご飯が食べたいの!」とワガママを言い、あっという間に看護師たちの悩みのタネとなったが、軍病院でそういったワガママが一切通じない事がわかると、夜な夜な病院を抜け出し、近くのコンビニで大量の夜食を購入するようになった。速攻で看護師たちにはバレたが、どこにでも抜け道というものはあるようだ。
軍隊直轄の病院では別段珍しい話でも無いらしいのだが、規律を尊ぶ軍隊であるが故に上からの命令は絶対という風習があるため、基本的に階位を持たない一般兵は軍医の言うことに絶対服従である。だがしかし、軍医以上の階位を持った隊員に対しては、逆に何をしようと『お咎め無し』という裏技が存在しており、酒を飲もうがタバコを吸おうが全く問題のない無法地帯も同時に存在していた。ドイツで軍隊に所属していた経験のあるアスカは、この病院にも似たような風習がある事を早期に察知した。結果、アスカは1週間も経たないうちに入院中の戦自隊員たち(当然、階位持ち)と仲良くなり、夜な夜な夜食パーティーを開催する関係にまで上り詰めたのだった。
シンジは全身の筋肉断裂に伴う後遺症が心配されたが、幸いなことに順調に回復していった。ネルフのメンバーを一箇所にまとめておきたいという戦自側としては当然の主張もあり、シンジはアスカと同室で入院生活を送る事になった。最初の頃は同室であることに断固反対していた両名であったが、「そこまで拒絶されると逆にアタシのプライドが傷付く」といったアスカの強引な主張により、結局、同室で過ごす事となった。ちなみに、アスカがコンビニに行く際、これは本当に大変珍しいことなのだが、シンジにおみやげを買ってくる事が幾度かあった。ただし、購入してきた大半が「絶対コレ、ゲテモノ枠だろ」というような謎フレーバーの新商品であり、アスカの毒見役、もとい、味見役に任命されたシンジ自身はあまり喜んでいなかったが。
アスカが戦自隊員たちと夜食パーティーに参加するようになった時、シンジは大いに心配した。それは相手がネルフと殺し合いをした戦自の人間ということもあったが、本音としては、真夜中にアスカが屈強な男性軍人たちの輪に入ることが貞操観念の点で不安だったからだ。一度、アスカにその事をそれとなく伝えてみたところ「なんでアタシがバカシンジの言うことを聞かなきゃなんないのよ!!」と割とガチの逆ギレをされたが、その夜からパーティーがシンジとアスカの病室で行われるようになったのはご愛嬌。これはこれでシンジ的には「夜中に騒がしくて眠れない」という悩みとして、彼の頭を痛ませる結果となった。
病院に収容されてから2週間が経過すると、同じく戦自の監視下にあったレイが2人を見舞いに来た。もちろん、戦自の監視付きであったが。その隊員は、病室の外で待機している。レイがシンジたちと気兼ねなく話せるように配慮してくれたのだ。
「碇くん、セカンド。調子はどう?」
「ありがとう、綾波。もうだいぶ良くなってきたよ」
「…ねぇ。もうそのセカンドって呼ぶの、やめにしない?」
「…?どうして?」
「はぁ…。あんた、アタシからファーストって呼ばれるのどうなのよ?自分の名前があるんだから、それで呼び合えば良いじゃない?」
「わたしは、わたしだから。それに…」
「「?」」
「わたしは『3人目』だから」
瞬間、室内に重い空気が流れた。
「……でも、綾波は綾波、だろ?」
シンジが恐る恐ると言った様子で聞いた。
「そう。でも、碇くんの知ってる『綾波レイ』じゃない。『2人目』の記憶は少しはあるけど、それだけ」
「……そう、か」
「…んんッ‼はい!この話は終わり‼とりあえず、呼び方はなんでもいいわ。で、今日は結局何しに来たのよ?」
「そうね。きょうは、近況報告。ネルフのみんながどうしているのか、伝えにきたの」
その後、ネルフ本部の戦いの後に起こったことを、レイは淡々と話し始めた。
まず、ネルフの一般の職員たちについてであるが、彼らへの取り調べは数日中に終わりそうで、少しずつではあるが釈放されるであろう事がわかった。
次にオペレーターの青葉、日向、マヤについてだが、彼らはエヴァンゲリオンによる使徒殲滅作戦の際の指示系統に直接関わっていたため、恐らく今後も根掘り葉掘り事情聴取に明け暮れるであろうということ。
当然、彼らの上官として在籍していた葛城ミサトは、彼らオペレーター3人組より厳しい取り調べを受けていた。下手をすれば一生を牢獄で過ごす事になるだろう。
「「ミサト(さん)が⁉」」
シンジとアスカが同時に反応する。
レイは無言で頷いた。
「……シンジ。ちょっと初号機に乗ってひと暴れしてきなさい」
「はあ⁉何言ってるんだよアスカ、そんな事できるわけないだろ⁉」
「なんでよ!あんたの初号機ならS2機関とかいうのでなんとかなるんじゃないの?」
「監視が付いてる僕たちがエヴァのところに行くのは無理だよ!それに僕の怪我だってまだ治りきってないんだよ⁉」
「なによバカシンジ!じゃああんたは、ミサトが一生臭い飯を食わされるのを黙って見てるってわけぇ⁉」
「そこまでは言ってないだろ!僕だってミサトさんは助けたいに決まってるじゃないか!」
「だったらッ‼」
「2人とも、おちついて。この話にはまだ、続きがあるわ」
目の前で喧嘩を始めたシンジとアスカを宥めつつ、レイは続きを話し始めた。
大枠の話になってしまうが、いま現在、日本という国が世界でどういう立ち位置にいるかを、まずは説明しなくてはならない。
ネルフ本部への強襲作戦後、内閣府はこの事件を公のものとし、その上で全世界に衝撃の事実を発表した。それは、人類補完計画の全貌と国連を陰で操る黒幕ゼーレの存在、そして、補完計画の阻止のために動いた戦略自衛隊たちの作戦内容だった。かつて加持が総理に提案した「作戦」を、そのまま起こった「事実」として政府は流用したのだ。この事件の公表により国連の信用は失墜。その信用を回復するため、国連は総力を上げてゼーレ構成員の捕縛に動き出したが、組織の下っ端を何人か捕まえることに成功はしたものの、主要メンバーである12人のゼーレは忽然と姿を消した。その消息は、今も総力を上げて捜査中である。
「あー、その話ならテレビで見たわ。暇だったし」
アスカが相槌を打ちながら手にしたアイスキャンディーの袋をバリバリと破り、パクっとアイスを口にくわえた。
「なんか、一躍時の人よね〜、あの総理大臣」
「……アスカ。どうでもいいけどベッドの上で病衣でアグラかくのやめなよ。ハシタナイよ」
「覗いたら殺す」
「見るわけないだろ」
と、口では言いつつ横のアスカが気になる少年シンジと、その反応は反応でムカつく難しい年頃の少女アスカであった。
さて、そういった経緯もあり、この事件をきっかけに日本は世界に対して強い発言力を持つに至った。人類補完計画を阻止した総理大臣は世界各国から英雄と呼ばれ、また作戦に参加した戦略自衛隊にも惜しみない賛辞が送られた。これを機に、国連の援助によって成立していた戦略自衛隊は、その国連がゼーレに操られていたという事実も相まって、国連寄りの組織であったところを正式に日本の軍組織として返還、再編成された。
では、ネルフはどうなったのか。
それをレイが説明しようとした時だった。
「そっから先は、俺が説明するよ」
「「加持さん!」」
病室に、加持リョウジがふらりと入ってきた。
「よぉ、シンジ君。調子はどうだ?」
「あはは…だいぶ良くなってきましたけど、まだ歩き回るのは辛いですね…」
「無理する必要はないさ。ゆっくり休んでくれよ?それと、アスカはすっかり元通りだな」
「あ〜。まあ、ね…」
アスカのその曖昧な物言いに、シンジは少し違和感を覚えた。
(せっかく加持さんが見舞いに来てくれたってのに、なんだかアスカ、元気ないな…)
だが加持は、そんな事はお構いなく話を続けた。
「まあ結論から言っちまうが、現在のネルフは解体されることになった」
「「ええ⁉」」
「…君たち、息ピッタリだな」
加持はアスカとシンジの2人をからかいながらも、真面目なトーンで続きを話した。
ネルフ解体の最大の理由は当然、ゼーレに連なる組織であること。しかも厄介なことに、ネルフはエヴァンゲリオンという世界最強の戦力を持っている。今回の事件をキッカケとして、世界の恒久的な平和と安全を求める声が、まるでガソリンに火を点けたようなスピードで世界中に燃え広がった。特に日本国内は自国で起こった事件であったため、その声が異常に強かった。国連から戦略自衛隊が返還された今となっては、国家の戦力的にも問題はない。危険な人類補完計画を実行できるネルフという組織を残しておくわけにはいかないと、政府は結論付けた。
「そこで、俺の出番ってわけさ」
加持が悪戯っぽく笑った。
加持は曲がりなりにも内閣府の人間である。あのネルフ本部決戦においてはネルフ側に立って共闘したが、現在の世界情勢を見る限り、加持がネルフの側に残るのは得策では無いと考えたのだ。
だが、加持の真意は今も変わらず「ネルフのみんなを助けたい」というものだ。このまま「ハイさようなら」とはいかない。加持はネルフ決戦後、その足で総理大臣のところに向かったのだ。加持は総理に会うなり『俺の出した作戦を使ったと言えば全てうまくいきますよ』とお願いという名前の脅迫を実施し、ミサトを含めたネルフ主要メンバーの解放を求めた。流石に総理も諦めたのか、ロクな交渉もしないまま、今度は加持が勝利をもぎ取る形となった。
…余談だが、その際、加持と総理の間でこんな会話があった。
総理は部屋を後にしようとした加持に対して言った。
『政治に興味はあるかね?』
『ありません』
加持は即答して、その場を後にした。
さて、そこからの加持は大忙しだった。捕縛されたネルフのメンバーの解放については総理との約束を取り付けたが、世論に対しては建前というものが必要なのだ。ネルフのメンバーの解放に向けて動き出した加持は、ある人物の知恵を借りることにした。
「ちょうどさっき、冬月副司令と面会できてな。今後の話を詰めてきたところさ」
冬月は加持に言った。「そう言う名目であるならば、誰かが犠牲になるしかあるまい」と。そして「その役目は、自分を置いて他にない」と。
「冬月副司令は、ネルフの中心人物の1人だった。彼が今回の事件の責任を負えば、日本政府も世界各国や世論に対して一応の言い訳が立つから、ってな・・・」
加持がタバコを取り出そうとしたが、アスカが壁に張られた「禁煙」の文字を指差す。加持は苦笑しながらタバコを仕舞った。
「加持さん、冬月先生はどうなるんですか?もしかして死刑なんて事には・・・」
「シンジ君。ハッキリ言うとその可能性はかなり高い。だが、心配するな。あの人はああ見えて、直にゼーレとやり合えた数少ない人物だからな。『どうせ老い先短いんだ。老人の心配などするもんじゃないぞ』って釘を刺されたよ」
「…………あれ?碇司令は?」
ふと湧きあがったアスカの何気ない疑問。
だがその疑問を口にした瞬間、加持と、レイの雰囲気が一気に重くなった。
「碇司令は、行方不明だ」
「え……」
シンジとアスカにとっては予想外の回答。
「と、父さんが…?」
「行方不明…?」
「ええ……」
シンジとアスカの疑問に、レイが答えた。
「碇司令は、消えてしまったわ。黒い玉に飲み込まれて……」
「黒い、玉…?」
レイの要領を得ない回答に、シンジが訝しげに顔をしかめた。
「ああ、彼女の言う通りだ。黒い玉と言うしかない。アレは、そうとしか形容できないからな…」
加持が天井を見上げながら、シンジとアスカに説明を始めた。
ネルフ本部の決戦のあと、ネルフの地下より生まれたモノがあった。
黒い球体。
まるで、世界に穴でも開けたような黒。
本部ビルのある場所には、真っ黒な球面が不気味に、建物も空間も呑み込んで座っていた。
後に調査に入った戦略自衛隊の調査隊、およびネルフ職員によって編成された調査隊によって存在を確認されたモノ。周囲をライトで囲っても全く反射せず、影すら出来ない異様な黒体空間。それは崩壊したネルフ本部内において周囲施設を飲み込んだ球状の形態をしていたが、光を反射しないために立体であるという事を認識しづらく、まるで、空間に突如として開いた黒い穴のように見えた。
先だってのネルフ本部決戦において、シンジが初号機と共にセフィロトの樹を切断し、人類補完計画を阻止した直後、ネルフ本部の地下深く、セントラルドグマにて磔にされていた人類の生みの親である『リリス』は、自分を中心に異常な空間を押し広げ、その内部を見通せないほどの闇で持って包み込んだ。
その空間は、第二発令所よりも地下にいたネルフ職員約150名と、当時侵攻に参加していた戦略自衛隊員数十名を飲み込んで、みるみるうちに固まった。これは、後に被害を免れたネルフ職員の目撃証言と、その後の行方不明者の数、そして、『リリス』が存在した場所が黒い玉の中心部であったことから推測された、事実である。
その中には、当時セントラルドグマ内に残っていたと推測される、碇ゲンドウ司令と、赤木リツコ博士も含まれていた。
「……………ウソだ」
シンジが呆然と、力無く呟いた。
ネルフの地下、セントラルドグマにて、シンジは初めて自身の父親と真っ向から対峙した。それは結果としてお互いの和解をもたらすことにはならなかったが、シンジにとっては大きな一歩。これから少しずつでも、お互いの事がわかっていければいいと思えた出来事だった。
だが、加持とレイの話では、なんの理由もなく、ただ突然に、碇ゲンドウは居なくなってしまったのだ。
和解の機会が、今後訪れるかどうかもわからないまま。
「シンジ……」
アスカはそんなシンジを心配そうに見つめる。
シンジと違い、アスカはあの戦いで自分の母親と再会し、母親の本当の想いを理解する事ができた。だがそれは逆に、それが為されなかった時の苦しみを、シンジが今感じている苦しみを、アスカは理解する事ができてしまう、という事。
あの苦しみは、自分一人でどうにかできるものではない。
(シンジとアタシは、似てるのかもね…)
アスカが自分のベッドに視線を落とす。
(アタシは、なんだかんだいってシンジに感謝している。あの時シンジが助けてくれなかったら、アタシはきっとあそこで死んでた)
アスカが再びシンジに視線を戻す。
(アタシは、シンジに何かしてあげられないのかな……)
重たい空気が病室に流れた。
シンジは呆然と俯いたまま、衝撃の事実に打ちのめされている。
──あの時のシンジは、カッコよかったのに。
──アタシはそれに救われたのに。
そのシンジが、意気消沈している。
それを見てると、なんだか無性にイライラして。
気付けばアスカは、本気の蹴りをシンジに見舞っていた。
「痛っ!いったぁ‼」
アスカの蹴りで1回目。ベッドから転げ落ちて2回目。
ついでに塞がっていない傷の痛みで、シンジは病室の床の上で悶絶していた。
「なっさけないわね、バカシンジ!またそうやってウジウジするつもり⁉」
「あ、アスカ…?」
「まだなんにも終わってないでしょ!あんたのパパが死んだかどうかもわかんないでしょ!それを確かめもしないうちから諦めて、バッカみたい‼」
シンジのベッドの上、アスカが仁王立ちでシンジを見下ろしていた。
「そんだけ傷ついても戦い続けたくせに。アタシが止めても戦い続けたくせに!自分のお父さんの事になると途端に弱気になんのね、あんたは!もっと根性見せなさいよ!あんときのあんたはどこ行ったのよこのバカ‼」
怒っていた。アスカ自身にも理由がわからないくらい、本気で腹が立っていた。
それをベッドの下から見上げていたシンジは、少し心が軽くなった気がした。
アスカが怒っている明確な理由はシンジにもわからない。ただ、アスカがシンジのために本気で怒ってくれている事だけはわかって。
「ありがとう、アスカ」
シンジはアスカに、心からの感謝を伝えた。
そのシンジの顔が、みるみるうちに赤くなる。
「?」
アスカが怪訝な顔をする。
シンジがアスカから目を逸らす。その耳まで真っ赤になったシンジを見ていて、
アスカはようやく、自分が病衣(パンツが丸見え)である事を理解した。
「ぶふぅ⁉」
シンジの顔に全力で枕が叩きつけられた。
「死ね!このヘンタイ‼」
アスカが自分のベッドに戻る。
「…アスカ。シンジ君は怪我人なんだから、少しは手加減してやれよ」
「見物料よ‼」
アスカは皆に背を向けて、ドカッと胡座をかいて座った。
「少し、真面目な話に戻っていいか?」
加持が神妙な面持ちで、この場にいる3人のエヴァパイロットに向き合う。
「人類補完計画は、まだ終わっていないのかもしれない」
弾かれたように、3人のチルドレンが加持に向き直った。
「どういう事なんですか、加持さん…」
シンジが加持に問い詰める。
「さっき話した黒い玉の事だ。君達のおかげで、確かに碇司令やゼーレの人類補完計画は阻止できた。だが、あの戦いが終わった後でも謎が残ったままのモノが1つだけある」
「……リリス」
レイが、震える声で答えを口にした。
「そうだ。俺たち人類を生み出したリリス。あれが結局、人類補完計画にどのように関わってくるのか、俺たちにはわからなかった。だが確かなのは、リリスはまだネルフの地下に存在しているということ。そして、俺たちには理解不能な黒い球体を生み出したということだ」
「ちょっと待ってよ、加持さん。じゃあその黒い玉は、新しい人類補完計画に関係している、ってことなの?」
「わからない。わからないが、リリスは何かをしようとしているのかもしれない。でなきゃ、あんな黒い玉を作り出す意味がない」
「でも!それはリリスが作ったものかもわからないんじゃないんですか⁉」
シンジが堪らずに叫んだ。だが、
「碇司令は、補完計画にリリスを使おうとしてた」
レイが考察材料を提示する。
「碇司令はあのとき、あの場所で、わたしと、アダムと、リリスを使って補完計画を行おうとしてた。リリスの魂は、わたしのなかにある。でも、もし、リリスの中に少しでも意思のようなものがあるとしたら・・・」
「ま、待って待って!ファースト、あんたの中にリリスの魂があるって一体どういうこと⁉」
「それは後で僕から説明するよ、アスカ。でも…、綾波の言う通り、もしリリスに何かしらの意志があるとしたら、たしかにこのまま終わるとは思えない…」
シンジたちの間に沈黙が降りる。
「もう一つ、懸念材料がある」
沈黙を破ったのは加持。
「エヴァシリーズの死体が消えた」
「!?」
シンジたちは一斉に立ち上がった。
「アイツら、生きてたの・・・っ!?」
「わからない。だが9体の量産型エヴァのうち、6体の死体が忽然と消えた。搬送していた戦自の部隊とともに忽然と、な」
「そんな・・・・・・」
「消えたエヴァシリーズ。黒い玉を生み出したリリス。そして、未だ消息の掴めない12人のゼーレ。考えたくはないが、もしこれらが1つの糸で繋がっているとしたら、最悪の場合も考えなけりゃならない・・・」
加持が自分の口に手を当てる。
「さっき言ったな。現在のネルフは解体されるって。だがそれは、ゼーレの実行機関として設立されたネルフのことだ。使徒は殲滅できたが、エヴァシリーズがこの世界のどこかにいるかもしれないとなると、必ずそれに対抗する戦力が必要になってくるハズだ」
「エヴァンゲリオン・・・・・・」
誰ともなく、その名を口にした。
「俺が総理大臣を説得した際、当然、この事実を叩きつけた。この先、エヴァンゲリオンの力が必要になるかもしれない。奇しくも先の戦いで、戦略自衛隊がエヴァンゲリオンに通用しない事が証明されてしまった。となれば、世論が何を言おうが関係ない。世界を守るため、どうしてもエヴァンゲリオンとそれを運営するための新しい組織が必要になってくる。全人類の危機という最大のリスクを、総理は見過ごす事ができなかった」
加持がタバコを取り出し、火をつける。それを咎める者は、今この場にはいない。
ゆっくりと煙が立ち上っていく。
「近日中に、葛城たちは釈放されるだろう。そしてその後、葛城たちは新しいネルフを作るために奔走することになる。エヴァンゲリオンの運営方法を知っているのは、ネルフだけだからな。そこは総理も了承済みだ。戦自の監視は付くだろうがな」
だが、と加持は続ける。
「恐らく、戦自のご機嫌を伺いながらエヴァの運用なんてできる訳がない。戦力的にネルフより劣っている戦自が、ネルフの上に立つ事自体がナンセンスだからだ。協力体制は続けるだろうがな。葛城とも少し話したが、世界のどこに現れるかわからないエヴァシリーズを監視するための体制作りと、今回実力が証明されたF型装備の正式配備を主軸とした、全く新しいネルフを1から作ることになると思う」
加持がタバコを吸って、ふぅーっと煙を吐き出した。
「俺はこれから地下に潜って、ゼーレの痕跡を探す。奴らの目的がわかれば、こっちも対策を取れる」
ここまで喋った加持が、3人の子供たちを見回す。
どこか怯えのある表情。
だがそれ以上に、決意のこもった表情。
「加持さん」
シンジが口を開く。
「教えてください。僕らは、何をすればいいんですか?」
『人類補完計画は潰えた』
『我らの願いは』
『我らの救いは』
『次の世界にて完遂すべし』
『この世界は失敗した』
『我らが約定は、エデンの地にて成就されるだろう』
つづく