魔法少女いろは☆マギカ 第2部 RE:Ms.Pain Planter(休載中 第二章一部完結済) 作:hidon
――その少女は突然、環いろはの前に現れた。
「アンタが、環いろはね」
「え……?」
ショッピングモール・1階にあるオーガニックスイーツカフェ・『木漏れ日の小屋』2号店。
そこで、フェリシアが予約してくれた、『自然食材で育てたニワトリの卵を使ったツンとまろやか高級焼きプリン』を購入して店を出た直後だった。
青いショートツインテールを桃色のシュシュで縛った、ワンピース姿の小柄で可愛らしい少女が、仁王立ちして待ち構えていた。
「レナはアンタの事、絶対認めないから」
「は?」
アイドルのような見た目とは不釣り合いに、随分剣呑とした雰囲気な少女。その目はキッと刃みたく鋭い。
何か怒らせるようなことしたかな――真面目ないろはは、記憶を探ってみるが……覚えがない。だって、目の前の少女とは初対面だから。
でも見たことがある顔。確か……これからお世話になる、『チーム・イザナミ』のメンバーの……
「アンタが、七海やちよに勝ったって話、レナは信じてないから」
「あ、あ~……」
やっぱりその話題から入ってくるかー……。
いろはは苦笑いしながらおずおずと答える。
「いや、まあ……あの、まぐれで勝ったみたいなもんですから……あはは」
自信なさげなに謙遜するいろは。
少女はプッ、と吹き出し、上から目線で罵ってくる。
「やっぱりそうよね。どーせ卑怯な手でも使ったんでしょう? じゃなきゃアンタみたいなボンクラでネクラそうなのが部長に勝つなんて、想像できないしっ」
「卑怯な手なんて使ってませんよっ」
「えっ?!」
突然むっとなるいろはに、ギョッとなる少女。
「私はちゃんと“勝って”やちよさんに認められたんですっ!」
「いや、どっち????」
顔をずいっと近づけ、怒り口調で反論するいろはに、びっくり仰天&困惑する少女。
環いろは、やっぱり面倒くさい女である。
これが、少女――
「もうちょっと、話聞かせてくれる?」
レナにそう言われて、再び『木漏れ日の小屋』に戻る羽目になったいろは。
間髪入れずにレナが、あんこパフェを二つ注文。
メニューを確認すると、人気商品ということもあり、値段は1050円!
(うっ……)
青くなるいろは。
流石高級店、高いんだな……と唖然とするが、表情を察したレナから「驕りだから」と言われたことでホッとする。
意外と気遣いができるいい人だな。俗にいうツンデレさんなのかもしれない、といろはは思った。
「あ~~、なるほど。そういう訳ね。アンタ、見た目によらず結構度胸あるじゃん」
かくかくじかじかと事情を説明すると、レナは納得がいった様子で頷いてくれた。
てっきり余計にキツイ事言われると覚悟していたが、褒めてくれたのは意外。
なるほど、これがツンデレさんですか――等と、呑気に思ってるいろはだったが、
「ってか、その後にお父さんが市長と知り合いとか、部長に気に入られて一緒に暮らすとか……何? アンタって、何者?」
「っ!?」
怪訝気味に放たれるレナのその質問に、ドキリとした。
「っ……、それは……ええと、あの、私自身も、よく分かって無いんです……。自分が誰なのか……?」
「“自分が誰”って、自分の事ぐらい分かるでしょ? 他でもない自分なんだしっ」
「……っ!」
くっと歯噛みするいろは。
レナはしれっと言ってくるが、自分にとっては重大な問題だ。
だって、今、自分が受けてる『大賢者試験』とは、
「それが、私は私だけど、環いろはじゃない気がするんです。ずっと前から……!」
「……?????」
ふざけてるの、とつい突っかかりそうになる口をレナは噤んだ。
俯くいろはの曇った表情から、相当シリアスな事情があるらしい。深い怒りや悲しみのようなものを、必死で抑え込んで、どうにか平静を保っているような――
恐らく、簡単に触れて良い話題では無い。
じゃあ、仕方ないか――
「……レナ、カミハマンなの」
「え!? えっ!?!?」
――話題を逸らそう。
突然、カミングアウトするレナ。
今度はいろはがビックリ仰天するターン。
「固有魔法の変身能力の応用。レナ、それを使ってヒーローやってるの、一応ね」
「へえ……! さっきのショー、見ましたけど、凄くカッコ良かったです! まるで本物のヒーローみたいでした」
曇り顔が一転、ぱあっと明るい笑顔で褒め称えるいろは。
「まあ、真似事だけどねっ」
ふふん、と得意気に笑うレナ。
謙遜している割りに、態度は上機嫌そう。
「? ……でも、どうして水波さんはカミハマンをやってるんですか?」
「ああ、それはね……」
「ちょっと、良いかい」
二人の会話に、バリトンボイスが割って入る。
「えっ、カミハマン?」
聞き覚えのある声に、ビクッとなるいろは。
振り向くと、逞しい上半身の―しかし、車椅子に乗った―青年が、こちらに近づいていた。
色黒の短髪で、筋骨隆々の上半身を纏う服装のデザインを見て、如何にも活発そうな印象を受ける。顔つきも昨今の若手人気俳優顔負けのイケメンだ。
「む、向井さんっ!」
レナは車椅子好青年・向井を見た途端、バッと椅子から立ち上がる!
先とは一転、随分慌ててる様子に注目するいろは。
(むむ……!?)
なんとなく、頬が紅潮しているように見える……これはもしや――
「やあ、レナちゃん。観客席から見てたよ。今日も完璧に、カミハマンそのものだったね!」
ボンッ!と、レナの頭から煙が吹いた。
「えっ!? いやいや! あの、それは……だって、あのっ!」
顔を真赤にして、わたわたと慌てる姿はかなり滑稽。
先程いろはに余裕綽々で悪態付いてた姿はどこに行ったのやら。
(ふ~ん……)
横目で見ながら、いろはも大体察した。つまり、
「っ…………向井さんの、脚本と演出が、良かったから……」
指をつんつんとしながら、ボソッと零すレナの姿は。
完全に恋する乙女が、愛の告白をしているようにしか見えない。(※いろは視点)
「あはは、レナちゃんからそう言ってもらえて、俺も頑張った甲斐があったよ」
そんなレナの心情を知ってか知らずか、向井は陽気に笑って返す。
「だって、向井さんが創らないと、生きた感じがしないもん、カミハマン……」
「そうだね……カミハマンはいつも全身全力で一生懸命なヒーローだから。あいつの強い正義の気持ちに応えなくちゃって、俺も、いつも思ってるよ……!」
「? ……ああ、うん、そうね……?」
遠い目で応える向井に、小さい声で頷き返すレナ。
違う、そうじゃない。(※いろは視点)
今のレナの言葉は、向井の御蔭で、自分の演技が、存在価値が昇華されるという意味なのだ。
だが、“カミハマンというキャラクターそのものに、並々ならぬ情熱を注ぐ”向井は全く別の方向に捉えてしまった。
つまり、【レナ→向井→カミハマン】という、奇妙な三角関係な訳である。
ああ……水波さん、大変そう……。(※いろは視点&勝手な解釈)
♪~♪~♪~♪~
と、そこで、向井の携帯端末から音楽が鳴る。
画面を見て、おっとなる向井。
「監督からだ! ごめんレナちゃん、また後でね! そこの君も、これからもカミハマンの応援よろしくっ!!」
車椅子を動かし、背中を向けて、広場の舞台の方へと向井は去ってしまう。
その後ろ姿を、どこか寂しそうに見送るレナの姿を横目で見て――――いろはが突っかかる!
「水波さんって……あのお兄さんの事、好きなんですか?」
「ッ!?!?」
刹那、レナの両肩がビクンと飛び跳ねる!!
「#(#~R#RO'KPRPSJRFJえpjpjf@あっじゃpじゃあぱ@rぱじょあ;~~~~~!?!?!?!?!?!?」
レナの奇怪な絶叫が数秒間、木漏れ日の小屋に響き渡った。
☆
「まったく、もう……。アンタのせいで恥かいちゃったじゃないっ!」
「ご、ごめんなさい……」
あの後、ダッシュでショッピングモールの外へ出た二人。
先程の恥態は周囲の人の注目を浴びて、レナは顔面真っ赤にしてご立腹。
いろははただ、平謝りを繰り返すのみ。
「しばらくあそこであんこパフェ食べられなくなったでしょ!? どーしてくれんのよ!?」
「ご、ごめんなさい……」
図星だったとはいえ、あんなに悲鳴を挙げるとは思わなかったのだが――
とはいえ、このまま黙っていれば、レナにずっと叱られっぱなしな気がする……。
それはちょっと嫌だ。
そんな訳で、いろはは、別の話題を振ってみることにした。
「ところで、話は戻しますけど……どうしてカミハマンに水波さんが?」
「あっ!? ……ああ、その件ね」
目論見は成功。
レナは剣を鞘に収めてくれた。
「カミハマンは向井さんの夢でもあるのよ……」
「あっ! そういえば、さっきのお兄さん、カミハマンと声がそっくりでした。もしかして……?」
「ええ、本当は向井さんが、カミハマンだったの……」
レナは、訥々と語り出した。
向井の背を見送る時にも浮かべた、寂しそうな表情で。
向井
市内の体育大学卒業後、俳優の道を進んだのだが、日本ではアクション映画そのものが数少なく、アクション俳優の需要は少なかった。なので、スタントマンになったのだが……。
熱心に仕事に打ち込んでいる最中に、知り合いの演出家(現・カミハマンショー監督)から連絡が来た。
神浜市政からの依頼で、ご当地ヒーローを企画していて、向井にも協力して欲しいというものだった。
その名は、『カミハマン』。
魔女と日夜戦い続けなければならない運命を背負う魔法少女。そんな彼女達を守りたいと願う、人々の祈りから生まれた正義の戦士。
自分の鍛え上げた身体が活かせる絶好の機会!
向井はその依頼に、二つ返事で応じた。
こうして、カミハマンの“
何せ、魔法少女を守る為に、魔女と戦う、という設定だ。ヒーローである以上、魔女に“常勝”しなくてはならない。
つまり、魔法少女を“超える”身体能力が無ければ、“リアリティは無い”と向井は考えた。
日夜壮絶なトレーニングに励むだけでなく、『魔法少女に負けたことが無い』、『魔女を倒したこともある』と噂の武術家、霊媒師などの下へ趣き、肉体と、精神力を極限にまで鍛え続けた。
全ては、『カミハマン』を自分の理想のヒーローとして、完成させる為に……。
しかし、そこで不幸が起きた。
向井の理想は高すぎた。
魔法少女を超える為に、無茶なスタントを続けている最中、高所から落ちてしまう。
……結果、脊椎損傷による、下半身不随。
当然、カミハマン役は断念。
向井は、自分がただの“凡人”に過ぎないことを思い知らされた。魔法少女との天と地の差を感じてしまった。
絶望の淵に立たされた彼が、自殺を考えた時――――一つの希望を見つけた。
それが、『水波レナ』という少女だったのだ。
「――そういう訳で、レナはあくまで代役。本当のヒーローじゃないのよ……」
「……っ!」
反射的に首を振るいろは。
「そんなことないです!」
「え?」
「私、ヒーローとか特撮のことはあまり詳しくないけど……カミハマンショーは何度見ても凄いと思います。だって、水波さんが演じるカミハマン、本物のヒーローみたいでしたから!」
「ふふ、ありがと。……けど、勘違いよ。アンタも分かってるでしょ? 本当のレナは……短気でウザくて、上から目線で、人が傷付くことも平気で言っちゃうような奴だから……ヒーロー役は不釣り合いなの……」
自嘲気味に微笑むレナの声は、段々小さくなっていく。
いろはは、確かにそうかもしれない、とは思う。“平気で傷付くこと”を言われたから。
けど、それはそれ、これはこれじゃないか。
レナの本来の性格が、どんなに卑小なものであろうとも。
今の彼女が、皆の期待を背負い、大真面目にヒーロー役に取り組む気骨の人物である事に変わりはない!
「そんなことは……!」
いろはが反論しようと、口を開いた。
瞬間――――
「…………
――自分以外の全ての時が、止まった気がした。