魔法少女いろは☆マギカ 第2部 RE:Ms.Pain Planter(休載中 第二章一部完結済)   作:hidon

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「チッ、峯のやついねーのか……」

(カエレの会社に引き抜かれて、どんだけマシになったのか、見てみたかったのに――)

 フェリシアはそんなことを思いながら、アパートの敷地から出ていった。
 役場周辺には高級住宅が並ぶ水名区も、郊外へ出れば()()()()()だ。
 都で一旗上げようとしたものの、上手く行かずに落ちぶれた者達が集うドヤ街寸前の集落が広がっている。

 先程、フェリシアが赴いたのは、昭和中期に立てられたぐらいの古い木造アパートだ。見るからにボロくて平屋だし、家賃も安そう……ギリ2万円ぐらい?(※フェリシア視点)
 そこの一室に、フェリシアの腐れ縁の傭兵が住んでいるのだが、生憎不在だった。

「頭がパーじゃねーのを知らねーぐらいシンナーやりまくってた奴だったからなー……魔法少女になったのだって永久にシンナー吸えるからとか言ってたぐらいだしなー……」

 で、シンナーすら身体が慣れて効かなくなって、より強力なMDMAに手を出そうとして……その前に、カエレに拾われて、租界入りした……それが、峯 結衣の経歴。
 いや、そんなモブキャラの詳細は、どうでもいい。
 フェリシアは、シンナー中毒から復帰した奴を見たことない。
 なので、興味本位で更生した()()()峯を見てみたかった、それだけ。

「ま、いっか……。そういや、いろはのヤツ、ちゃんと買えたのかな?」

 何か心配になってきた。
 アイツのことだし、トラブルに巻き込まれてるかもしれない。
 携帯端末を取り出し、LINEを確認するフェリシア。
 既読は付いてるが、返信は無し。
 来店の予約時間は過ぎているのに……あんにゃろう。

「連絡ぐらいよこせよな……。…………ん?!」

 刹那――――脳内に電流。
 いろはの魔力反応を感知。
 変身しているのか? 場所は近い。
 まさか……!

<あなた達、誰ですか!?>

 遠くから微かに聞こえてきたのは、いろはの声。
 怯えを隠すような、去勢の大声。

「クソッ! やっぱりそうかよ!?」

 フェリシアは、声の方へと全力で駆け出した。










FILE-2 #11 牙を剥く鴉

 

 

 

 

 

【我らは黒羽根】

 

【お前と同じ】

 

【魔法少女】

 

「え……?!」

 

 震えながらも強い声で問ういろはに、そう答えるのは、三人の黒装束。

 ――信じられない。

 だって、彼女達から魔力反応は一切感じられないのだから。

 

「いろは!!」

 

「っ!?」

 

 上空から大声。

 天を仰ぐと同時に、高層物から何者かが飛翔し、いろはの前に降り立つ。

 

「フェリシアちゃん!?」

 

 魔法少女衣装のフェリシアだ。

 ハンマーを背負い、露出が多い軽装の彼女はいろはの前で、身構える。

 人形のように直立不動する、三人の黒装束を睨み付けながら。

 

「気を付けろ、こいつらが『黒い虫』だ」

 

「えっ?」

 

【カラスA。標的B:深月フェリシアを視認】

 

【カラスB。標的B:深月フェリシアを視認】

 

【カラスC。標的B:深月フェリシアを視認】

 

「ハッ! ブンブン飛び回るしか能のない“ハエ”が、人間様に何のようだ?」

 

 ニタリと笑みながら放たれる皮肉。

 黒装束達は一切動じることなく、淡々と答える。

 

【我らは蝿ではない】

 

【我らは虫ではない】

 

【我らは魔法少女】

 

【お前たちと同じ。同類。同種。同族。同胞。仲間】

 

「仲間? オマエたちが?」

 

「……一体、何が目的なんですか!? あなた達は!?」

 

 歯を食いしばりながら、強く問ういろは。

 彼女もまたフェリシアの隣に立ち、臨戦態勢を取る。

 

【我らはマギウスの翼】

 

【我らが主、ミス・ペインプランターの為に】

 

【我らが魔法少女の開放の為に】

 

【我らは集った】

 

「開放……!?」

 

 またも淡々と答える黒装束達。

 その様子はまるで、携帯端末に搭載されているバーチャルアシスタント(AI)のようだ。

 感情がフラット過ぎて、不気味だった。

 

【環いろは、深月フェリシア】

 

【『紅羽根』の指示だ】

 

【お前たちの身柄を確保する】

 

【抵抗すれば、命は無い】

  

「っ!!」

 

 反射的にクロスボウを構えるいろは。

 どういうこと? 戦うしか無いってこと? でも、だけど――

 

「ハッ!! 蝿は蝿らしくっ」

 

「!? 待って、フェリシアちゃん!?」

 

「うんこにでもタカってろよっ!!」

 

 同じ人間と戦うことなんて――等と悩んでいる間は無かった。

 混乱するいろはに目もくれずにフェリシアは飛び出し、先制攻撃を仕掛ける。

 瞬時に、リーダー格のカラスAの懐に飛び込み、背負うハンマーの柄に手を掛ける。

 

【カラスA。標的Bと交戦開始】

 

 袖口から黒剣がジャキッと伸びた。下から振り上げたそれがフェリシアの露わな脇腹に迫る!

 

「ふっ!」

 

 鋭利な刃が肉に触れる瞬間――フェリシアがしゃがむように屈んだ。黒剣はフェリシアの髪を掠める。同時にハンマーの柄から放した右手を、カラスAの懐に向けてグッと押し込んだ。

 

 ずぶり。

 

 

【…………】

 

 カラスAの表情に変化は無い。

 だが、眼下にあるものを見て、暫し呆然とした様に見えた。

 フェリシアの右手が掴んでいるのは、鋭利な刃物。

 カラスAと同じく袖口に隠した、仕込み刃。“ドス”と呼ばれるそれが下腹に貫通し、溢れ出る血液が、黒装束を紅く染めて、足元に滴り落ちる。

 

 カラスAを見上げるフェリシアの口元は、残忍に釣り上がっていた。

 ――フェイントだ。

 ハンマーでの攻撃はどうしても隙が大きくなる。

 ハンマー自体が大きく、重いからだ。

 背中から抜いて、構えるまでの初動作ですら時間が掛かる。なので大体は、わざと構えるフリで隙を見せて、相手から攻撃を誘導させる為に利用する。

 予測通りだった。

  

「!? おっと!」

 

 が、即座に反撃に転じるカラスA。

 蹴りがフェリシアの腹に迫るが、飛び退いて回避する。

 

「ちっ、通じてねえか!」

 

「え……っ?!」

 

 大量出血に一切動じないカラスA。

 フェリシアは舌打ちを付きながら、引き抜いた血塗れのドスを再び袖口にしまう。

 いろはは戦慄した。

 どういうこと? 彼女は人間ではない? いや、でも――

 

【我らに痛みは無い】

 

「っ!?」

 

 変わらず淡々と発せられる声。その答えにぞっとなるいろは。

 カラスB、Cも仲間の負傷に目もくれず、淡々と言葉を紡ぐ。

 

【我らは黒羽根】

 

【我らの魂は大いなる殻に庇護されている】

 

【故に我らは苦しまない】

 

【故に我らは悩まない】

 

【故に我らは他者を意に介さない】

 

【故に我らに痛みはない】

 

「……?! ……!?」

 

 愕然、困惑、恐怖。

 血の気が引いた顔で、ただ黒装束の言葉を聞くしか無かった。

 そんないろはの横で、フェリシアが吠える。

 

「さっきから気持ち悪ぃんだよこのバケモンがっ!!」

 

「あ……っ」

 

「いろは、サポートしろ! できなきゃ死ぬぞ!!」

 

「ッ!! う、うんっ!」

 

 勇敢に飛び出していくフェリシアの指示で、我に帰った。

 クロスボウを構えるいろはだが、その右腕は震えている。

 殺し合い? 魔法少女同士で? どうしてそんなこと――――だけど、今は!

 

【カラスB、標的Aと交戦開始】

 

「っ!」

 

 困惑を頭に隅に追いやり、歯を食いしばって覚悟を決める。

 生きなきゃ! とにかく今は、生きてやるべきことを成し遂げなきゃ!!

 目の前にゆらりと迫る黒装束に、クロスボウをぐっと向ける。

 しかし――

 

 

【撃つのか?】

 

 

「え……?」

 

 その問いが、いろはの思考を止めた。

 

【同じ魔法少女を、お前は撃つのか?】

 

「……………!」

 

【仲間を、傷つけたいのか】

 

 ――違う。そうじゃない。

 

 クロスボウの構えを解き、右腕を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「邪魔だぁ!!」

 

【】

 

 ズガンッという炸裂音と同時にカラスAが倒れ伏す。

 背負ったハンマーを抜くのと同時に振り下ろす――ゲームで学んだ騎士の抜刀術で、カラスAの脳天に一撃を見舞うフェリシア。

 顔面を強かに地面に打ち付けたカラスAは、そのまま動かなくなる(機能停止)

 

【カラスC、標的Bと交戦開始】

 

 だが、真後ろに控えていたカラスCの振るう黒剣がフェリシアに迫る。

 

「っ!」

 

 がきん、と金属音。

 反射的に左手が動いたのは僥倖だった。右袖口から抜いた血塗れのドスで、振り下ろされた黒剣を受け止めるフェリシア。

 横に受け流してバックステップで距離を取り、カラスCと睨み合う。

 

「あっぶねー……。いろはは?!」

 

 横目で確認して――ギョッとなる。

 カラスBと対峙中の筈だが、なんと武器を下ろしているではないか!?

 

 

【我らはこの世の全ての痛苦から逃れた。故に我らに恐怖は無し。故に我らは無敵。故に我らは自由】

 

「……………」

 

【即ち、これこそが“開放”。我ら魔法少女の“到達点”。我ら魔法少女が一律に望みし“希望”……】

 

「……………」

 

【環いろは、受け入れよ。受け入れよ。受け入れよ。受け入れよ。受け入れよ……】

 

「……………っ!」

 

 無機質に言葉を繰り返しながら。

 じりじりと距離を詰めてくるカラスB。

 いろはは、動けなかった。

 武器を下ろし、ただ、恐怖に震えた眼差しで、迫り来る相手を見つめているだけ――

 

 

「おいっ! 何やってんだあのバカっ!?」

 

 フェリシアが焦るのも無理は無い。正に、殺してくださいと言ってるようなもの。

 咄嗟に大声で指示を飛ばす!

 

「いろは!! オレに向かって撃て!!」

 

「! ……えっ?」

 

「いいから早く!!」

 

「!? っ!」

 

 カラスBが背中に右腕を回した――猶予は一刻も無い。

 だが、フェリシアの怒声でいろはは我に帰った。急かされるまま、クロスボウをフェリシア向けて構え、矢を放つ!

 

「そらあ!!」

 

【受け入れよ。受け入れ……】

 

 フェリシアが力任せに振り抜き、ナイスヒット!

 飛んできた矢じりをハンマーの面で弾き飛ばし、カラスBの首筋を貫いた!!

 脈を貫いたのか血飛沫を撒き散らして倒れ伏すカラスB。

 

【カラスBより。当個体は深刻な失血状態にある。活動限界時間は残り10秒。直ちに応援要請を求める。応援要請。応援要請。応援要請。応援要請……】

 

「っ……!」

 

 致命傷を負いながらも、一切表情を変えることなく、尚も無機質に言葉を発し続けるカラスB。

 その様子と、背中にあるものを見て、ぞっと悪寒が走るいろは。

 隠された右腕の袖から黒い剣が伸びていた。つまり、フェリシアの指示があと少し遅れていたら……自分が何もせず、立ち尽くしていたままだったら……!

 

「いろは、もう一発だ!」

 

「っ!!」

 

 ――恐怖に竦んでいる暇など無かった。敵はまだいる。フェリシアは未だにカラスCと交戦中だ。

 歯を食いしばり震えを噛み殺しながら、いろはは再び矢を射る! 「そーら!」とフェリシアがハンマーを振り抜き、矢を弾き飛ばす。

 それは今まさに、フェリシアに向けて黒剣を振り下ろさんとするカラスCに命中した。だが……

 

【負傷軽微】

 

「チッ」

 

 当たりが浅かった。

 矢は肩に命中したが、カラスCの戦闘能力を奪うには至ってない。振り下ろされた黒剣を寸前で横に飛んで回避するフェリシア。

 

【カラスC。作戦行動続行】

 

「っ!」

 

 すかさずカラスCも真横に飛び、黒剣を振り上げて攻撃。

 痛みを感じ無いのは厄介だ。攻撃のモーションが早い!

 ハンマーで受け止めるには時間が無く隙も大きい、ならば――あえてハンマーを地面に落とし、袖口のドスに持ち替えて、刃を受け止める!

 

「ヤロウ……!!」

 

【深月フェリシア、受け入れよ。受け入れよ。受け入れよ。受け入れよ。受け入れよ……】

 

 鍔迫り合いになる二人。

 右肩には矢が刺さっているというのに、カラスCの膂力には全く衰えが無い。

 くそっ、と心中で吐き捨てるフェリシア。手段は残り一つしかない。

 

「いろは!! こいつを撃て!!」

 

「!? え……あ……!」

 

「オレを殺す気か!! とっとと()れー!!」

 

「っ…………!」

 

 ギリッと奥歯を噛んで、クロスボウを構えるいろはだが。

 その腕は震えていた。

 

 

 ――――撃つのか?

 

 ――――同じ魔法少女を、お前は撃つのか?

 

 

 違う。そうじゃない。

 傷つけたくない。殺したくなんてない。だけど、今はやらないと……フェリシアちゃんが死んでしまう。それは、嫌だ。

 

 ――――仲間を、傷つけたいのか?

 

 でも……私にできるの? 同じ魔法少女を、人間を傷つけることが、私にできるの?

 それは、やっていいことなの?

 いや、違う。今やらなきゃ駄目なんだ、それは分かってる。分かってるけど、人を傷つけたら、自分の中で何かが変わってしまう。嫌だ、恐い……人を傷つけたくない。でも、じゃあ……どうしたらいい?

 

 私は今、何をすればいいの?

 

 

 

 

<カラスAより、カラスBへ。当個体は出血多量と頚椎損傷により、身体動作不可。プログラム【Destruction】の解除を要請>

 

<カラスB、了解。解除コード入力。D4548398508308076047012328520883720572803438080……解除完了>

 

<カラスA。解除コード入力を確認。プログラム【Destruction】起動開始。当個体を破棄する>

 

 

 この時。

 いろはとフェリシアは、気づいていなかった。

 倒れ伏していたカラスAと、鍔迫り合い中のカラスBが。

 テレパシーで交信していた事に。

 

 

 

 

「何してんだよぉおおおッ!? いろはああああああ!!」

 

 相手を抑える腕は、もう限界だ。

 ドスも刃が血塗れの為、長くはもたない。 

 

「っ!!」

 

 腹の底から絞り出す悲鳴のような様な絶叫を聞いて、いろはは我に帰る。

 そうだ、悩んでる暇は無かった。私の仲間はフェリシアちゃんだ。黒装束の鴉(あいつら)じゃない! だから。

 

 ――早く、助けないと!!

 

 ようやく、現実を受け止める決心が付いた。

 クロスボウをカラスBに向けて矢を撃とうとした、その刹那――

 

「!? なっ……」

 

 突如、ぐっと足を掴まれる感覚に、フェリシアが目を見開いた。

 下を見ると、動けない筈のカラスAが、地面を這って自分の足元まで迫っていた。

 まずい。全く気づけなかった。

 彼女はフェリシアの左足首を鷲掴みにし、そして――

 

 

【起爆】

 

 

 満身創痍の全身から、()()が放たれる――――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※おまけ

 アパートの屋上でいろはと黒装束の様子を見下ろすフェリシア。
 鉛色に鈍く輝く、自分のソウルジェムに話しかける。

「みたま、聞こえるか?」

【ええ、どうしたの?】

「いろはがピンチだ! 黒いフードを被った三人に囲まれてる」

【黒いフード……まさか、マギウスの翼!? ……だけど、どうして】

「だーもう!? 黙って変身許可しろよっ!?」

 フェリシア視点では一刻を争うので、話し合ってる暇など無いのである。

【わ、分かったわよ!】

 フェリシアの要請に、みたまは承認。
 途端、フェリシアのソウルジェムがライトパープルに色づき、光輝き始める。

【変身可能時間は10分、それ以上になると自動的に変身が解除されるわ】

「OK、十分過ぎる!」

 即座にフェリシアは変身し、屋上から飛び降りた!



 ……以上が、承認式ソウルジェムの概要となります。
 戦闘中だと中々不便。
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