魔法少女いろは☆マギカ 第2部 RE:Ms.Pain Planter(休載中 第二章一部完結済) 作:hidon
刹那。
白い光に視力が奪われたのと同時に、爆音が耳を劈く。
白煙が明けた先に見えたのは、宙を舞う大量の鮮血――その中に混じる人の腕と足、肉片、臓物。
「ひっ……」
その光景を目の当たりにした、いろはの瞳が恐怖に揺れる。
突然、フェリシアの足元が光り出したように見えた直後の出来事だった。
地面に倒れ伏していた筈のカラスAによる、自爆攻撃。
そんなことを、いろはが知る由も無い。
ただ、目の前のグロテスクな光景に、唖然としていた。
今、敵と攻防を繰り広げていて。
フェリシアを助ける為にクロスボウを敵に向けた覚悟など、忘れてしまう程に。
思考が空白。
今、何が起きたの。
一体、
いや、それよりも――フェリシアちゃんは……!?
「ァァア……ッ!! がっ……、クソッ……!!」
「!? フェリシアちゃんっ!!」
絞り上げる掠れ声、そして聞き慣れた悪態が聞こえてきて、いろはは我に帰る。
声の方を見ると、フェリシアが地面に倒れ伏していた。
慌てて、駆け寄ろうとするが、
「あ……!」
その惨上に、足が竦んだ。
フェリシアの顔左半分は、今の爆発を諸に浴びてケロイド状に赤く焼け爛れていた。身体の左半分も同様だ。夥しい量の血液が背中の下で水溜りを形成し、皮膚が吹き飛ばされた箇所からは焼けた肉が露出していた。
だが、何よりいろはを震えさせたのは――左腕と左足が、無い。
発光と爆音。同時に宙を舞っていたもの。まさか、アレが……?
「そんな……!」
「いろはっ……逃げっ……」
【カラスC、負傷軽微。作戦行動継続】
「ァァアアアアアアアア!!!」
信じられない――そんな目で呆然と眺めている余裕など無かった。
敵は未だ健在だ。
カラスCの容赦ない刺突が、ケロイド状の腹部へと突き刺さる。炸裂する激痛に、悲鳴を挙げるフェリシア。
「やめてっっ!!!」
咄嗟にいろはが吠える。反射的にクロスボウをカラスCに向けて構えた。
黒剣を突き刺したまま、カラスCはゆっくりといろはの方を向く。
【撃つのか?】
「……っ!」
【同じ魔法少女をお前は撃つのか?】
「…………」
それは、先程カラスBにも問われた言葉だ。
いろははギリッと奥歯を噛み締める。
【仲間を、傷つけたいのか?】
「仲間じゃない!!」
答えは、とっくに決まっていた。
「私の仲間を傷つける貴女を、絶対に許さない!!」
【私は、お前と同じ、魔法少女】
「黙って……!」
【お前と同じ。仲間、同胞、同種。人間。人間。人間。人間。人間。人間。人間。人間……】
「黙ってよ!」
【それでも、お前は私を撃つのか。人殺しだ。人殺し。人殺し。人殺し。人殺し。人殺し。人殺し。人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し……】
「黙れって言ってんでしょっ!!」
迷いを振り切るかのごとく、いろはは声を張り上げた。
「私の仲間をこんなに傷つけて……! 自分の命さえ平気で犠牲にして……! そんな貴女たちに、人を名乗る資格なんてないっ!!」
【では、私を撃つのか?】
「撃つ……撃つよ!!」
グッとクロスボウを引き絞る指に力を込める。
「……っ!?」
悪寒が、全身を虫唾のように走る感覚。
覚悟を決めたのに、震えが止まらない……!?
それでも――フェリシアちゃんを助けないと。救わないと。
私は、一生後悔する。
そうしたら、私はこれから、一生何とも向き合う資格が無くなる!
撃て、撃つんだ――環 いろは!!
「…………くっ」
――――いい加減、覚悟を決めろ!!
「うぅ…………!!」
――――分かっているだろ。間違っているのは
「うぅぅぅ…………!!」
――――あれは人ではない、化け物だ。環いろは、お前の敵だ。撃て。仲間を見殺しにする気か。早く撃て。
「うぅぅぅぅう…………ァア、くそっ!!!」
弦を引き絞る手が、離れてくれない。
人を撃とうとする行為に、本能が恐れをなしてしまった。
ビビってしまう。怖気づいてしまう。
駄目だ、私には出来ない。
撃てない。
撃てないよ……!!
相手がどんな悪人であっても、人を撃つことは、絶対に……!!
ごめん、フェリシアちゃん……。
ごめんなさい……!!
「くそっ、くそっ!! ……どうして撃てないんだよぉ……どうして……っ!?」
心底自分が情けなかった。
止めどなく涙が溢れてきて、嗚咽が漏れる。
手が震えてしまって、照準が合わせられない。弦を引く力さえ、ままならない。
「いろはぁ……!! 逃げろぉ……!」
「っ、フェリシアちゃん!?」
咽び泣くいろはを、見かねたのか。
フェリシアがゆっくりと上体を起こし、血反吐を地面に吐き捨てた。
「ぐっ、最初から、オレだけで十分なんだよ……こんな奴、オレ一人でブッ殺してやるっ……!」
「やめてフェリシアちゃんっ!!」
「昔っから慣れっこなんだよ、こういうのにはさぁ……! ほら、じっと見てねぇでとっととヤれよ糞虫がァ!! 今すぐブッ殺してやるよっ!! オラァ!!」
フェリシアは果敢に叫び、カラスCを挑発する。
黒剣を腹にざっくりと突き刺さり、激痛が意識を惑わせているにも関わらず。
……いや、寧ろ逆。
恐らく、フェリシアは正気を失っている。
激痛と憤怒による過剰なアドレナリン他脳内麻薬の分泌で、極度の興奮状態に陥っていた。つまり、自分のことも、相手のことも、今の状況も、何も見えていないのだ。
【…………】
カラスCは冷徹のまま、右手に力を込めた。
刃をぐっと押し込まれ、ぐあああっ、と聞くにも絶えない悲鳴が挙がる。
だが、
「ッ……死ね!」
フェリシアの戦意は失われていなかった。
ヒュッと、その右手がカラスCに向かって、伸びる。
【……!!】
ドッと、鈍い音がした。
途端、カラスCの瞳が揺れる。
彼女の腹に、鋭利な刃物が、根本まで突き刺さっていた。
血塗れのドス――右腕の袖口に隠しておいた、仕込み刃。
力を失ったカラスCの身体が、半壊したフェリシアに凭れかかった。
「へへ……ざまあみろ……!」
「フェリシアちゃん……っ」
勝ち誇るフェリシア。
亡骸から溢れる血に濡れながら、狂気的に口元を歪めた。
結局、いろはは、呆然と見つめるしかできなかった。
刹那。
【ツバメA。標的A・B、環 いろはと深月フェリシアを視認】
【ツバメB。標的A・B、環 いろはと深月フェリシアを視認】
【ツバメC。標的A・B、環 いろはと深月フェリシアを視認】
両サイドの高層物から、次々と黒い影が飛来していく。
【スズメA。標的A・B、環 いろはと深月フェリシアを視認】
【スズメB。標的A・B、環 いろはと深月フェリシアを視認】
【スズメC。標的A・B、環 いろはと深月フェリシアを視認】
そして彼女達は、満身創痍の二人の前に次々と舞い降りていく。
「「!?!?!?」」
まさかの増援、しかも多数。
驚愕の余り目を見開くいろはとフェリシア。
【カラスBより応援要請有り。チーム:ツバメ、チーム:カラスより作戦行動継続。標的A・Bは我らに反抗した。これより排除する】
【カラスBより応援要請有り。チーム:スズメ、チーム:カラスより作戦行動継続。標的A・Bは我らに反抗した。これより排除する】
「ちくしょう……!!」
「くっ……」
もう、絶望しか残されていない。
二人が諦めかけた――――
その時だった。
「アステリオスともあろうものが、随分無様だねぇ」
「!? ……オメーは……ッ!」
――その声の主を、フェリシアはよく知っていた。