魔法少女いろは☆マギカ 第2部 RE:Ms.Pain Planter(休載中 第二章一部完結済)   作:hidon

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FILE-2 #12 人を殺す覚悟

 

 

 

 

 

 

 

 

 刹那。

 

 白い光に視力が奪われたのと同時に、爆音が耳を劈く。

 白煙が明けた先に見えたのは、宙を舞う大量の鮮血――その中に混じる人の腕と足、肉片、臓物。

 

「ひっ……」

 

 その光景を目の当たりにした、いろはの瞳が恐怖に揺れる。

 突然、フェリシアの足元が光り出したように見えた直後の出来事だった。

 地面に倒れ伏していた筈のカラスAによる、自爆攻撃。

 そんなことを、いろはが知る由も無い。

 ただ、目の前のグロテスクな光景に、唖然としていた。

 今、敵と攻防を繰り広げていて。

 フェリシアを助ける為にクロスボウを敵に向けた覚悟など、忘れてしまう程に。

 思考が空白。

 

 今、何が起きたの。

 一体、()()は、何……?

 いや、それよりも――フェリシアちゃんは……!?

 

 

「ァァア……ッ!! がっ……、クソッ……!!」

 

「!? フェリシアちゃんっ!!」

 

 絞り上げる掠れ声、そして聞き慣れた悪態が聞こえてきて、いろはは我に帰る。

 声の方を見ると、フェリシアが地面に倒れ伏していた。

 慌てて、駆け寄ろうとするが、

 

「あ……!」

 

 その惨上に、足が竦んだ。

 フェリシアの顔左半分は、今の爆発を諸に浴びてケロイド状に赤く焼け爛れていた。身体の左半分も同様だ。夥しい量の血液が背中の下で水溜りを形成し、皮膚が吹き飛ばされた箇所からは焼けた肉が露出していた。

 だが、何よりいろはを震えさせたのは――左腕と左足が、無い。

 発光と爆音。同時に宙を舞っていたもの。まさか、アレが……?

 

「そんな……!」

 

「いろはっ……逃げっ……」

 

【カラスC、負傷軽微。作戦行動継続】

 

「ァァアアアアアアアア!!!」

 

 信じられない――そんな目で呆然と眺めている余裕など無かった。

 敵は未だ健在だ。

 カラスCの容赦ない刺突が、ケロイド状の腹部へと突き刺さる。炸裂する激痛に、悲鳴を挙げるフェリシア。

 

「やめてっっ!!!」

 

 咄嗟にいろはが吠える。反射的にクロスボウをカラスCに向けて構えた。

 黒剣を突き刺したまま、カラスCはゆっくりといろはの方を向く。

 

【撃つのか?】

 

「……っ!」

 

【同じ魔法少女をお前は撃つのか?】

 

「…………」

 

 それは、先程カラスBにも問われた言葉だ。

 いろははギリッと奥歯を噛み締める。

 

【仲間を、傷つけたいのか?】

 

「仲間じゃない!!」

 

 答えは、とっくに決まっていた。

 

「私の仲間を傷つける貴女を、絶対に許さない!!」

 

【私は、お前と同じ、魔法少女】

 

「黙って……!」

 

【お前と同じ。仲間、同胞、同種。人間。人間。人間。人間。人間。人間。人間。人間……】

 

「黙ってよ!」

 

【それでも、お前は私を撃つのか。人殺しだ。人殺し。人殺し。人殺し。人殺し。人殺し。人殺し。人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し……】

 

「黙れって言ってんでしょっ!!」

 

 迷いを振り切るかのごとく、いろはは声を張り上げた。

 

「私の仲間をこんなに傷つけて……! 自分の命さえ平気で犠牲にして……! そんな貴女たちに、人を名乗る資格なんてないっ!!」

 

【では、私を撃つのか?】

 

「撃つ……撃つよ!!」

 

 グッとクロスボウを引き絞る指に力を込める。

 

「……っ!?」

 

 悪寒が、全身を虫唾のように走る感覚。

 覚悟を決めたのに、震えが止まらない……!?

 それでも――フェリシアちゃんを助けないと。救わないと。

 私は、一生後悔する。

 そうしたら、私はこれから、一生何とも向き合う資格が無くなる!

 

 撃て、撃つんだ――環 いろは!!

 

「…………くっ」

 

 ――――いい加減、覚悟を決めろ!!

 

「うぅ…………!!」

 

 ――――分かっているだろ。間違っているのはアイツ(黒羽根)だ!!

 

「うぅぅぅ…………!!」

 

 ――――あれは人ではない、化け物だ。環いろは、お前の敵だ。撃て。仲間を見殺しにする気か。早く撃て。

 

「うぅぅぅぅう…………ァア、くそっ!!!」 

 

 

 弦を引き絞る手が、離れてくれない。

 人を撃とうとする行為に、本能が恐れをなしてしまった。

 ビビってしまう。怖気づいてしまう。

 駄目だ、私には出来ない。

 

 撃てない。

 撃てないよ……!!

 相手がどんな悪人であっても、人を撃つことは、絶対に……!!

 

 ごめん、フェリシアちゃん……。

 ごめんなさい……!!

 

 

「くそっ、くそっ!! ……どうして撃てないんだよぉ……どうして……っ!?」

 

 心底自分が情けなかった。

 止めどなく涙が溢れてきて、嗚咽が漏れる。

 手が震えてしまって、照準が合わせられない。弦を引く力さえ、ままならない。

 

「いろはぁ……!! 逃げろぉ……!」

 

「っ、フェリシアちゃん!?」

 

 咽び泣くいろはを、見かねたのか。

 フェリシアがゆっくりと上体を起こし、血反吐を地面に吐き捨てた。

 

「ぐっ、最初から、オレだけで十分なんだよ……こんな奴、オレ一人でブッ殺してやるっ……!」

 

「やめてフェリシアちゃんっ!!」

 

「昔っから慣れっこなんだよ、こういうのにはさぁ……! ほら、じっと見てねぇでとっととヤれよ糞虫がァ!! 今すぐブッ殺してやるよっ!! オラァ!!」

 

 フェリシアは果敢に叫び、カラスCを挑発する。

 黒剣を腹にざっくりと突き刺さり、激痛が意識を惑わせているにも関わらず。

 ……いや、寧ろ逆。

 恐らく、フェリシアは正気を失っている。

 激痛と憤怒による過剰なアドレナリン他脳内麻薬の分泌で、極度の興奮状態に陥っていた。つまり、自分のことも、相手のことも、今の状況も、何も見えていないのだ。

 

【…………】

 

 カラスCは冷徹のまま、右手に力を込めた。

 刃をぐっと押し込まれ、ぐあああっ、と聞くにも絶えない悲鳴が挙がる。

 だが、

 

「ッ……死ね!」

 

 フェリシアの戦意は失われていなかった。

 ヒュッと、その右手がカラスCに向かって、伸びる。

 

【……!!】

 

 ドッと、鈍い音がした。

 途端、カラスCの瞳が揺れる。

 彼女の腹に、鋭利な刃物が、根本まで突き刺さっていた。

 血塗れのドス――右腕の袖口に隠しておいた、仕込み刃。

 

 機能停止(即死)

 力を失ったカラスCの身体が、半壊したフェリシアに凭れかかった。

 

「へへ……ざまあみろ……!」

 

「フェリシアちゃん……っ」

 

 勝ち誇るフェリシア。

 亡骸から溢れる血に濡れながら、狂気的に口元を歪めた。

 結局、いろはは、呆然と見つめるしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 刹那。

 

 

 

 

 

 

【ツバメA。標的A・B、環 いろはと深月フェリシアを視認】

 

【ツバメB。標的A・B、環 いろはと深月フェリシアを視認】

 

【ツバメC。標的A・B、環 いろはと深月フェリシアを視認】

 

 

 両サイドの高層物から、次々と黒い影が飛来していく。

 

 

【スズメA。標的A・B、環 いろはと深月フェリシアを視認】

 

【スズメB。標的A・B、環 いろはと深月フェリシアを視認】

 

【スズメC。標的A・B、環 いろはと深月フェリシアを視認】

 

 

 そして彼女達は、満身創痍の二人の前に次々と舞い降りていく。

 

 

「「!?!?!?」」

 

 まさかの増援、しかも多数。

 驚愕の余り目を見開くいろはとフェリシア。

 

【カラスBより応援要請有り。チーム:ツバメ、チーム:カラスより作戦行動継続。標的A・Bは我らに反抗した。これより排除する】

 

【カラスBより応援要請有り。チーム:スズメ、チーム:カラスより作戦行動継続。標的A・Bは我らに反抗した。これより排除する】

 

「ちくしょう……!!」

 

「くっ……」

 

 もう、絶望しか残されていない。

 二人が諦めかけた――――

 

 

 

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

「アステリオスともあろうものが、随分無様だねぇ」

 

 

 

「!? ……オメーは……ッ!」

 

 ――その声の主を、フェリシアはよく知っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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