魔法少女いろは☆マギカ 第2部 RE:Ms.Pain Planter(休載中 第二章一部完結済)   作:hidon

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FILE-2 #14 邂逅する勇者たち

 

 

 

 ――嵐が過ぎ去り、静寂が訪れた。

 

 

 その後。

 フェリシアの身体的ダメージはかなり深刻で、治癒に手間取るいろはだったが。

 現れたもう一人の傭兵―蜂貴院優花が手伝ったことで、無事完治した。

 ケロイド状に焼け爛れた左半身の皮膚は、綺麗な色白の肌に戻り、失われた左腕と左足も生えてきて、すっかり元通りだ。

 

「大丈夫、フェリシアちゃん?」

 

「ああ、大丈夫、大じょ……ばないっ!?」

 

「ああ、もうっ! しっかりして!! ……っ!?」

 

 とはいえ、まだ左半身の感覚が鈍かった。

 いろはの介助を得てよろよろと立ち上がるフェリシアだが、足をズルッと滑らせる。

 慌てていろはが、身体を寄せて脇を支えた。

 

 その時、いろはは見てしまう。

 周りの光景を。

 

 フェリシアの治療に夢中で全く気付けなかった。

 周囲に群がる血塗れの死骸の群れ。

 そこから流れ出る夥しい量の鮮血が路面一帯を真紅に染めている。

 青白く、瞳孔が開いた相貌の生首の数々が流血に浸っていて。

 すぐ近くには太った豚のように、ブヨブヨに膨らんだ―人の原型すら留めていない―グロテスクな水死体が、異臭を漂わせていた。

 

「……うっ」 

 

 一気に顔から血の気が引き、嘔気付くいろは。

 それは、今、この場で起きた戦闘の凄惨さを、むざむざと現していた。

 死体の数は8。

 フェリシアが2人を刺殺し、1人は自爆。3人はカエレが斬首。残る3人の内1人は優花に首を落とされ、後の2人は、溺死させられた。

 

 殺し合いが起きた。

 今、ここで。間違いなく……!

 黒羽根――彼女達が、生きていないのは、分かってる。

 だけど、死んだんだ。

 私達を殺そうとして、私の仲間達が殺した。

 でも、そうしなければ、私達は生き延びる事ができなかった。

 それは、分かってる……だけど……。

 

 さっきまで動いて、しゃべっていた彼女達“だった”ものが。

 一人の自爆とともにぶち撒けられた臓物が。千切れ飛んだ腕と脚が。そして、見回す限り広がる血の池が……!

 

「おい、大丈夫か?!」

 

「……おぇっ」

 

 今度はいろはが心配された。

 ――キツイ。生理的にキツイ。もう限界。駄目だ。ヤバイ。もう無理……!!

 

「大丈夫。だいじょ、ばない……えええええろろろろろっ!!

 

「しっかりしろー!?」

 

 跪き、思いっきり胃酸をぶち撒けるその背中を、優しく撫でるフェリシア。

 彼女の身体と同様に、いろはもまた、深刻なメンタルダメージを負っていた。

 

「オムライス、特盛、食べるんじゃ、なっ……ええええええろろろろろろろろっっ!!

 

「おいおい……」

 

 ……これじゃあ、胃の中のものを全て吐ききるまで、動くのも無理そうだ。

 仕方ない。しばらくの間、いろはは、そのまま放置する事にして。

 フェリシアは、カエレ達の方に振り向いた。

 

「よお。デケー借りができちまったな」

 

 左足を引きずりながら、二人の方へ、ヨタヨタと歩み寄るフェリシア。

 

「別に、通りがかりさ」

 

「うふふ♪」

 

 カエレがフッと笑い、その後ろで優花も朗らかに微笑んでいる。

 この三人は元々“傭兵”―つまり“ヤクザ”―だ。

 浴びる程血の臭いは嗅いだし、バラバラの死体だって飽きるほど見てきた。

 だから今回の戦いも、ある意味、日常的なものだった。

 

「そういや、峯は? まだ、頭トンでんのか?」

 

「いや、あいつは死んだ」

 

「え、マジ?」

 

 カエレの素っ気ない返答に、フェリシアが目を丸くした。

 

「自殺だよ。ウチらが見ていない間に、MDMAに手を出して……ハイになった勢いでナイフを腹にブッ刺して、そのままコロリと逝っちまった」

 

「ふーん、何か意外。あの頭スッカラカンのアホがねえ……?」

 

 どんだけ頭がアッパラパーになっても、死ぬことだけは絶対に考えそうになかった。

 寧ろ、死にたくないから、シンナーとかクスリやってる、と豪語してたぐらいだった。

 

 そんな知り合いの、呆気ない幕切れ。

 

 これも、傭兵の世界では日常茶飯事であるため、特に深い感慨も湧かなかった。

 “悲しむ”なんて以ての他だと、フェリシアは思ってる。

 

「あいつは、ウチらの世界でやっていくのは繊細すぎたのさ。……寧ろ、アンタが異常なんだ、フェリー。15のガキの癖に、立派に傭兵やれちまうアンタの方が……」

 

「まあ、オレの場合は鍛え方が違うからなっ」

 

 ふふん、と得意気に笑うフェリシアに、カエレは鼻で笑った。

 

「その割には、随分コテンパンにやられたみたいだけど?」

 

「チッ……ちょっと前までコミュ障だったのが、随分減らず口叩けるようになりやがって……」

 

 ブスッと不機嫌になるフェリシア。

 直後だった。

 

 

「大丈夫かーっ!!」

 

 

 突如響くハスキーボイスの大声に、全員が振り向いた。

 遠くから金髪のポニーテールを揺らして魔法少女が一人、走り寄ってきていた。

 衣装はフェリシアのそれよりも更に身軽そうで、両手には身の丈程のバスターソードを構えている。

 体格はやや大柄だが、顔立ちはフェリシアとそう変わらない、少女のものだ。

 彼女は、4人の前に立つなり、その惨状に絶句した。

 

「……なんだよこれ……!?」

 

 路面を広範囲に赤く染める鮮血。

 そこら中に転がる黒装束の骸と、少女たちの生首。

 だが、金髪の魔法少女―十咎ももこに何よりの衝撃を与えたのは――

 

「っ!!! …………っ」

 

 知り合いの顔が、そこにあった。

 

 ショックを受けた時。

 相対的にみて、世の中には二種類の人間が存在するという。

 失意のどん底に突き落とされ、何もする事ができなくなる者。

 自棄を起こし、何かに当たり散らす者。

 

 十咎ももこが、いったいどちらのタイプの人間か。

 

「……こんのおおおおおおおおおおお!!!

 

 腹の底から絞り上げるような雄叫び。

 青褪めた形相が見る見る内に血走り、鬼へと豹変。

 バスターソードを思いっきり振り被り、全力疾走!! ()()に向かって振り下ろした!

 

「モモ……!?」

 

「くっ!?」

 

 ガキィン、と金属の衝撃音!

 驚きながらも、反射的に片手のバトルアックスで受け止め、弾き返すカエレ。

 ももこの身体が後方に吹き飛ぶが、宙で体勢を直して着地する。

 

「一体何してんだよアンタはッ!?」

 

 ももこが凝視するのは、カエレのバトルアックス。

 自分を弾いたその刃先は、少女達の血に塗れ――疑念が強まるのは当然だった。

 

「モモ、これは」

 

「ここまでやる人だとは、思わなかった……!! どこまで堕ちる気だよ、()()()()に!!」

 

 弁明しようとするカエレだが、ももこは憤激の余り聞く耳を持たない。

 

「モモ?」

 

「答えろ! どうしてこの子達を殺した!? この子達がアンタに何したっていうんだ!?」

 

「モモっ」

 

「馴れ馴れしく渾名で呼ぶな!! アンタとアタシはもう……」

 

「モモ……すまなかった」

 

「謝れば人殺しが許されると思ってるのか!! 絶対に許さない……!」

 

「モモ……本当に、申し訳なかった」

 

「本当に……人殺しをその程度にしか認識していないのか……? アンタどこまで……」

 

「あのー、もしもし?」

 

 微妙に噛み合わない会話を繰り広げる二人。

 このままではいけないと、優花が慌てて間に割って入る。

 

 

 ちなみに。

 フェリシアは背中を向けて、笑いをこらえるのに必死で。

 いろはは相変わらず、うずくまって、げえげえ吐いている。

 正にカオスな状況であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどね……話は分かったよ」

 

「安心しましたわ」

 

「モモ……」

 

「でも、カエレさん。アンタの事は、絶対に許さない……」

 

 その後。

 優花はももこをどうどうと宥めつつ、かくかくしかじかと事情を説明した。

 納得してくれた様子だが、カエレに向ける目は、強い疑念と苛立ちが拭えない。

 

「モモ……本当にすまなかった」

 

「だから謝るんじゃなくって詳しい事情を話してくれって言ってるだろ!! ……ああ! そういうところがアンタはもう!?」

 

「モモ。いや、その……モモ、ごめん」

 

「さっきからモモモモうるさい! 何だよ、また謝るのか?! 今更っ! アンタのせいでこっちはどれだけ苦労したと思ってるんだよ?!」

 

「モモ、私は……モモ」

 

 さっきまで、フェリシアを鼻で笑い、飄々とやり返した姿はどこへ行ったのか。

 ももこ相手だと、何故か、コミュ障全開である。

 というか、完全に「モモbot」と化したカエレ。

 ももこより一回り大柄な癖に、怒られてシュンと俯く姿は、どこか微笑ましい。

 

 後ろで「ぶはっ!」と吹き出すフェリシア。

 おのれフェリー、後でシメる……! そう心に誓うカエレ。

 

「言い訳はいいよ、聞きたくもない……! それよりも今は、この惨状をどうするか、だろ?」

 

 と、いいながらもももこの中で、ある程度の算段はついていた。

 ひとまず所轄の警察に通報して、遺体を引き取ってもらい調査をお願いしようと考えていた。

 顔なじみの巡査部長と、鑑識の巡査ならよくやってくれる筈だ。

 

「アタシが知りたいのは……カエレさん、アンタが殺したのは、本当に“人”なのか……?」

 

「モモ……」

 

「アタシが見てるものが、全部、()()なのか……?」

 

 鼻が曲がる程の異臭と、グロテスクな光景に顔を顰めながら。

 ももこは、少女達の生首をじっと見据えて、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……期待外れですね」

 

「それは、黒羽根共の事か? それとも、環いろはと深月フェリシア(あのガキども)の事か……?」

 

「両方です」

 

「ふーん……」

 

 高層物の屋上。

 そこで、いろは達の様子を終始眺めている二人組がいた。

 一人は、真紅の外套で全身を覆った魔法少女。

 マギウスの翼・実働部隊「羽根」隊長・紅羽根こと、双樹ルカ。

 

 そして、もう一人は――――

 

「……じゃあ、そろそろ行くとするか。お前は?」

 

「まだ、しばらく様子を見ています」

 

「寂しいこというなよ……。一緒に名乗ろうぜ?」

 

「性に合いません。それに、貴方は私の趣味ではありません」

 

「つれないねえ。ま、()()()じゃあ、仕方ないか……」

 

 タキシードを纏った長身の“彼”は、そう呟き、シルクハットをぐっと深く被った。

 そして、眼下の魔法少女達、骸となった黒羽根達をじっと睨みつけて、言い放つ。

 

 

 

「貴様ら、悪党どもの亡霊に災いあれ――――」

 

 

 

 イタリアの詩人、ダンテ作・神曲『地獄篇』。

 三途の川の番人、カロンのセリフを引用しながら、“彼”は屋上から飛び降りた。

 

 

 

 

 

 

 




○オリジナルキャラクター紹介。


・三笠カエレ(読み:みかさ かえれ)

 24歳。身長172cm。
 フェリシアの友人の魔法少女。
 元傭兵であり、『首狩り(ヘッドハンター)』の異名を持つ稼ぎ頭(メカニック)だった。
 あぶれもの達の集落(租界)・カミハマヴィレッジの経営者。

 黒いクールショートヘアで、モノトーンコーデを好む。
 魔法少女衣装は、黒を貴重としたドレスで、黒いフードを纏う。
 武器は両手持ちのバトルアックス。
 その容姿と鋭い目付きから、“死神”とも呼ばれる。

 一人称は「アタイ」で、姉御口調で喋る。
 性格はクールで、必要な事意外はめったに喋らないが、フェリシアや優花に対しては軽口を叩き合える仲である。
 フェリシア曰く、「前はコミュ障だった」。

 十咎ももことは旧知の中らしく、
 彼女に対しては、頭が上がらない様子である。理由は不明。
 また、ももこを前にすると、途端にコミュ障になり、一人称も「私」になる。

 固有魔法は【錯視】。

 ※キャラクターイメージ(カスタムキャストで作成)
 →
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・蜂貴院 優花(読み:ほうきいん ゆうか)

 25歳。身長157cm。
 フェリシアの友人の魔法少女。
 三笠カエレの相棒であり、カミハマヴィレッジの副経営者。

 スカイブルーのシャープバングフロントと腰まで垂らした大きな二本のお下げが特徴の、色白の美人。
 元傭兵だが、「~~ですわ」「ごめんあそばせ」等のお嬢様口調で話し、物腰も上品かつ優雅であることから、とてもそうは見えない。異名不明。
 「(諺or四字熟語)、ですわ!」と言うのが口癖。

 魔法少女衣装は、創作物の姫騎士が着る鎧ドレス的なもの。
 気品に満ちたその姿から“プリンセス”と呼ばれる事も。
 武器はハルバード(槍)。
 七海やちよや、劉 蓮穏のように、両手で振り回すより、片手で投げ飛ばして攻撃する。その威力は抜群。
 属性は水であり、自由に操れる。

 実は、大企業・関東電工メカティクスの会長令嬢。
 優花は経営者一族の中でも突出した才能の持ち主で、特に機械工学に秀でていた。
 論文を提出して、聖リリアンヌ学園に入学し、在学中に魔法少女になった。

 卒業後に、父親から関連企業を一つ任される予定だったが、その前に、会社が倒産。
 優花自身も無一文になり、傭兵堕ちした。
 その後の経歴は不明だが、水商売や風俗関係で働きつつ生計を立てていたらしい。
 カエレと出会ってからは、共に租界の経営に精を出している。 
 
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