魔法少女いろは☆マギカ 第2部 RE:Ms.Pain Planter(休載中 第二章一部完結済)   作:hidon

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 2018/11/03(火)AM8:30――


 “何かあったら”。

 つまり、警察から協力要請が来るまで、魔法少女は大人しくしてろ、という意味だ。
 事件が起きて、誰かが死んで、刑事や鑑識、科捜研等が徹底的に調査しても、原因が不明と判断するまでは。
 よって、いろはもまた。
 当分の間、拠点となる慶治町役場で、一般公務員として仕事をする訳だが…… 

「こ、ここは……!?」

 “先輩”となる少女に案内された先で、目を見開くいろは。
 ここは役場に隣接する公民館。使わなくなった1Fの研修室を改造したもの。
 目に覚えがある工具と、特殊なネジ類。
 窓際の棚に積まれているのは、大量の使い古されたぬいぐるみと、新旧入り交じる人型ロボットやお人形の軍団が勢揃い――つまり、

「お、おもちゃ診療所……!?」

 そういうことである。
 職場が変わるので、てっきり別の仕事をやるものだとばかり思っていた。
 何をやるんだろう、うまくできるかな――等と思い、ドギマギしていたが……拍子抜けのあまり、肩の力ががっくりと落ちた。
 ……いや、慣れている仕事なので、ある意味、安心したのかもしれない。

「え? まさか他の仕事をやるとでも思ってたの?」

「ええ、まあ……」

「いろはちゃん、この仕事しかやったこと無いんでしょ? 最低一年間は、同じ仕事をきちんとやりきらないと、異動は無いって市長も言ってたよ!」

 そう強く指摘するのは、チーム・カグツチの魔法少女、秋野かえでである。
 名前の通り、秋を感じさせる紅葉色のショートツインテールの髪が特徴的で、大人しげな風貌に見えて、ズバズバ発言してくるタイプだったので、驚いた。
 
 ――ちなみに、青佐(市長)から見れば。
 いろはは、仕事をある程度こなせてきたとはいえ、技術力も、接客力もまだまだ未熟。
 その状態で、他の仕事を任せるなんて、危なっかしくて仕方がない。
 つまり、一つの仕事をマスターして、人間として成熟して欲しい、という意図だった。

「う~ん、青佐さ……市長のお考えも分かりますけど、ここ、ドクターが一人しかいなくないですか?」

 半開きの扉から中を覗き込み、不安になるいろは。
 神浜中央公民館のおもちゃ診療所には、5人のドクター(元工匠区の職人でシルバー人材)が常駐しており、玩具修理に活発だったが、ここには、一人しか見かけない。
 しかも、勤務時間中にも関わらず、パイプ椅子に腰掛けて、グースカ眠っているではないか。
 見た目もしわしわのヨボヨボで、どう若く見ても80代後半は言ってそう……。

「腕は確かだよ。入れ歯してないから、何喋ってるか全然分からないけど」

 しれっとヤバイ事を言うかえでに、ビックリ仰天!

「ええ!? それってダメじゃないですか!?」

「大丈夫! 私が通訳するし、難しいところがあったら手伝うから! 一緒にがんばろ、ね?」

「うっ……」

 かえでの眩しい笑顔が、いろはの母性をくすぐった!
 こういうのには、とことん弱い。
 かえでは、レナとももこにとっての“妹”分だというし、いろはより年下であり、加えて身長も小柄。
 喋り方もゆったりとしていて、見た目も可愛らしい。
 その雰囲気と、仕草が最愛の妹(うい)の面影を彷彿とさせるんであった。
 ああ、ダメだ……!! これはダメ……!!

「……うん、一緒に頑張ろうっ!! うiじゃなくってかえでちゃんっ!!」

「よろしくね! いろはちゃん!」

 結局、お姉ちゃん魂が萌えてしまったいろはは、かえでの術中に嵌り両手を握りしめて、力強く応えた。

 ――――この判断を、すぐ後悔する羽目になるとは思っていなかった。

 


FILE-2 #17 それぞれの日常①

 

 

「終わらない……」

 

 夜。

 役場から5分ほど離れた場所にある魔法少女専用職員寮に帰ったいろはは、テーブルの上でドライバーを手に、ボヤいていた。

 結局、玩具修理は仕事内で終わらず、多くの“宿題”を抱える羽目になった。

 ドクターとのコミュニケーションが難航(間にいちいちかえでを挟まなければならず、そのかえでも忙しそうで頼むに頼めない状況)し、満足に指導を受けられなかったのが原因だった。

 よって、一人で作業を進めねばならず、自分が抱えた仕事の分が業務内に終わらなかった、という訳だ。

 

 ちなみに、かえでの方はかなり手先が器用で、ぱっぱっぱっぱと治している印象だった。

 ちょっと悔しい。

 

「終わらない……っ!」

 

 カチャカチャと特別な工具で菱形のネジを回しながら、涙目でボヤくいろは。

 眼の前のテーブルには、未修理の玩具やらぬいぐるみやらが山になっていて、徹夜を覚悟で直している最中だった。

 ちなみに、かえでと連絡先を交換したため、リモートで教えを請うことはできるのだが、年下に聞くのは、どうも気が引けた。

 何か悪い気がしたのは確かだが、“お姉ちゃんは常に妹を助ける立場であって、助けられるべきじゃない”、というプライド故だった。

 

 環 いろは。

 面倒くさい上にチョロい上にトラブルメーカー(フェリシア談)で、シスコンの頑固者であった。

 

「……って、これじゃあまるで救いようが無い人間じゃん私っ!」

 

「お前なに、オモチャいじりながら一人で盛り上がってんだよ……?」

 

 突然喚くいろはに、フェリシアドン引き。

 パジャマの姿の彼女は、テレビに夢中だったのだが、いろはの奇行が気になって仕方ない。

 折角、バラエティを見てゲラゲラ笑ってたのに、水を刺された気分だ。

 

 ちなみに、フェリシアもいろはと同室だ。

 つまり、大賢者試験中は、()()()二人暮らし、という訳である。

 

「フェリシアちゃんっ、良かったら一緒に手伝っ……きゃあっ!」

 

 振り向いたフェリシアの顔を見てビックリ仰天するいろは。

 そこにいたのは、のっぺらぼう!?

 

「あ、いろはもやるか? パック」

 

 よく見ると、真っ白な顔面には小さな切れ込みがあり、アメジストの瞳が覗いていた。

 

「パックって……へえ、そういうのを気にするタイプだったんだ、意外」

 

 真っ白な顔面……。

 もとい、パックをペリペリと剥がし、生まれたてのツルツル卵肌なフェリシアが、呆れ顔で言う。

 

「オレだってこんなメンドクセーことやりたくねーよ。でも、“折角女に生まれたんだから顔はキレーにしとけ”って、うるさく言われてたからさー」

 

「お母さんに? 偉いね、フェリシアちゃん」

 

「母ちゃんだったらどれだけ良かったか……。世話になった組のアネゴだよ」

 

「あー……でも、その人、優しかったんだね」

 

 親に代わり、フェリシアのような利かん坊を育て上げたのだから、大したものだ。

 

「どーだか。西洋系の金髪白人(ハーフ)なんざ珍しいし、さぞ“売りモン”になると思われたんだろ……」

 

「ええ……」

 

「ほら、オレって、カワイーし、キレーじゃん?」

 

 自分の顔をずいっと近づけて、自慢するフェリシア。確かに、口さえ開かなければ、子役芸能人顔負けの白人美少女だ。

 ……クソッ! 否定できないのが悔しい!

 

「自分で言うかな……?! ってそんなことより、フェリシアちゃん、テレビ見てる暇があったら手伝ってもらえないっ?」

 

 おっ! こいつもようやくオレの真価が分かってきたか!

 フェリシアは得意げに、ニッと笑みを浮かべると、腕を回して言い放つ。

 

「いいぜー! オレも転売用のプラモ作ったり、襲撃先組み立てたことあるからよー! オモチャなんざチョチョイのチョイだ!」

 

「……やっぱやーめた……」

 

「お前、ほんとそーいうところだよなー……」

 

 背中を向けて拒絶するいろはに、呆れた顔でツッコミを入れるフェリシアだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日――おもちゃ診療所。

 

「え、徹夜したの!? ふゆぅ……大変なら手伝ったのに」

 

「でも、ういに苦労掛けちゃいけないし……」

 

「うい?」

 

「あ"あ"あ"あ"間違えた! かえでちゃんも大変そうだから悪いと思って……」

 

 一日経っても、かえでの術中(妹萌え)にハマったままの環いろはであった。

 その日も、ひいひい言いながら、どうにか昼休みまで頑張れた。

 そして……

 

「カエレさんとももこちゃんの関係?」

 

「うん、本人に聞くのも悪いと思って……」

 

 黒羽根襲撃時。

 十咎ももこの三笠カエレに対する怒りは尋常でなく、間に深い因縁があるのは確実だった。

 

 やちよに対しても、そうであったように。

 お世話になる人のことを深く知ろうと調べる姿勢は、いろはなりの義理であり、また、親交を深める為の手段でもあった。

 

「カエレさんは、ももこちゃんの前任者で、イザナミのリーダーだったんだよ。全然そうは見えないけど」

 

 相変わらず、ばっさり言うかえで。

 確かに魔法少女のカエレの見た目は、死神そのもので、お世辞にも正義の味方とは言い難い。

 

「チームといっても、カエレさんが在籍していた頃は、他のメンバーは、ももこちゃんしかいなかったんだ」

 

 今でこそ、治安維持部の役割は、警察と同じ。

 『事件発生時に、チームを編成して魔女・魔法少女犯罪者に対処する』ことだが。

 少し前は、「魔法少女達を取り仕切る」親分・カシラ的なものとして扱われていた。

 つまり、公務員となった魔法少女は「代表者」として、町の魔法少女達を統括する、という仕組みだ。

 魔法少女は、多種多様な魔法を使い、思考も思想もバラバラ。

 よって、魔法少女達を正しく管理し、法律や条例に沿った生活をしてもらうことが、治安維持に繋がると、神浜市政(=夕霧青佐)は考えた訳だ。

 

 ……が、当然激務なので、代表者にはそれぞれ、補佐となる魔法少女が必要となっていった。

 七海やちよには、梓みふゆがいたように。

 カエレに対するももこも、同様であった。

 

「でも、頭は切れたし、実力も相当だったみたい。やちよさんとも部長の座を争ったぐらいだったんだよ。……まあ、魔法少女っていうには年を取り過ぎてたのもあって、みんなはやちよさんを選んだけどね。……問題はその後」

 

 かえでは、ここで表情を引き締めて、語り出す。

 

 

 

 

『カエレさん……辞めるなんて嘘だろ!?』

 

『……モモ、やっぱり、私には正義の味方は性に会わない……』

 

『だから傭兵になるって、何考えてんだよ!! ヤクザじゃないか!?』

 

『色々考えたさ……けど、やっぱり私は、あっち側だ……』

 

『おい待てよ!! 行くな!! 行くなってば、カエレさんっ!!』

 

 ももこが必死で何度も呼び止めるも。

 カエレは一切振り向く事無く、夕日の沈むビル群と群衆の海へ去ってしまったという。

 

『七海やちよに部長の座を取られたのが、そんなに悔しかったのかよっ!?』

 

 小さくなる背中の影に向けて、ももこは涙声で吠えるのだった。

 

『カエレさんの、バッカヤローーーー!!!』

 

 

 

 

「……そんな訳で、何も引継ぎが無いまま、突然いなくなっちゃったもんだから、ももこちゃん、死ぬほど大変だったらしいよ……!」

 

「それは、辛かったよね……」

 

 当時のももこの心労は、いろはには計り知れない。

 だが、尊敬していた先輩の蒸発。そして、押し付けられたリーダー業務。書類の山――恐らく絶望に等しいダメージを負ったのは、想像に難くなかった。

 しかし、現在のももこは、凄く元気はつらつとしていて、腐ることなく、あそこまで持ち直したのだから凄いと思う。

 

「ももこちゃん、表向きはカエレさんのことメチャクチャ嫌ってるけど……本当は、戻ってきて、謝って欲しいって……」

 

「そうなんだ……。でも、そのカエレさんは、傭兵になって、今、何をしているの?」

 

 先のカエレの、ももこに対する態度を振り返ってみる。

 『七海やちよに部長選で負けたのが、悔しかったから』――とは思えなかった。

 治安維持部を辞めたのは、もっと別の……ももこに言えない事情があったのかもしれない。

 そう思ったからこそ、かえでに聞いてみた。

 

「……っ!」

 

 いきなり、周りをキョロキョロと見回すかえで。

 どうやら、ここから先の話はグレーゾーンらしい。

 ――職員が、ガーガー寝てるドクターしかいないのを確認して、カエレは静かに語り出す。

 

「いろはちゃん、“租界”って知ってる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




書きながら、おもしれー奴だなと思ういろは嬢。

次回は、フェリシア編。
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