魔法少女いろは☆マギカ 第2部 RE:Ms.Pain Planter(休載中 第二章一部完結済)   作:hidon

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2018/11/10(火)PM15:30


FILE-2 #19 宴の開幕

 

 

 

 ――それは、一本の電話から始まった。

 

「調整屋、どうしたんだ?」

 

 役場の専用執務室。

 退勤時間まで特にやることも無かったので、のんびり溜まった書類を片付けようと思っていた矢先だった。

 通話先のいずもの息遣いに、嫌な予感がした。

 なにやら只事では無さそうで、ももこの背筋に冷たい物が走る。

 

『春川係長からッス! 殺人事件が起きたから、すぐ現場に来て欲しいと』

 

「……ッ!」

 

 一瞬、ももこの脳裏にカマキリ男の醜悪な笑みが過った。

 まさか――奴が?

 しかし、それにしても……、

 

「この段階で、魔法少女に? ……どういうことだよ?」

 

 今までに無いケースだった。

 警察が治安維持部に協力要請を申し出るのは、最終手段だ。

 事件発生の段階で呼ばれることなど、普通有り得ない。

 

 そう、“普通”は……。

 

 ももこは眉間に皺を寄せた顔で、通話先のいずもに問う。

 だが、彼女も要領を得ない様子だった。

 

『さあ……? とにかく、急ぎましょ!』

 

「わ、わかった!」

 

 疑念は強まるが、ひとまずは、現場の警察から情報収集が最優先。

 ももこは勢いよく席を立ち、走るように執務室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『水名中央団地』

 高度経済成長期に計画された富裕層向けの大きな団地である。

 その敷地内には公園をはじめ診療所や保育施設まで、暮らしに必要なものはおおかた揃っている。そして、その施設の中にはプールもあった。

 古くからの住民によれば、当時の神浜市内における水名区民のカースト最上位ぶりを証明する地帯でもあるという。

 

「すみません! 遅くなりました!!」

 

「待っていたぞ、こっちだ」

 

 今にも雨が降りそうな、薄暗い灰色の曇天の下。

 体育会系特有の快活なハスキーボイスを腹から出して、ももこは現場に到着した。

 その後ろには、いずもも着いてきている。

 二人は、待機していた水名署の春川捜査課係長によって、遺体の場所に案内された。

 

 芝生が敷き詰められ、一通りの遊具が揃う公園の塀には、既に『KEEP AUTO』のテープが張り巡らされており、中では多数の刑事と鑑識がうろついていた。

 刑事達は、園内に居る目撃者達に聞き込み調査をしており、鑑識は遺体やその周辺にALSライトを照射して、血液反応や、指紋・足紋を調べている最中だ。

 

「うっ……」

 

 その遺体を見た途端、ももこの顔が青褪めた。

 胃酸がこみ上げてきて、嘔気づく口を抑える。

 脳に届く酸素の量が急激に減少し、視界がぐらりと揺れる。

 

「……大丈夫ッスか?」

 

 崩れそうになる体をいずもが後ろから支えた。

 本来なら高校に通っていた筈の少女が見るには、ショックが強すぎる。

 その為のメンタル的補助を担うのが“大人”であり保護者役の調整員の役割だった。

 

「ああ……。一体誰が、こんな酷いことを……!」

 

 顔を上げて、ももこはその遺体を強く睨んだ。

 スーツを来た男性、ということは分かる。

 

 だが、首から上が無かった。

 

 鎌や包丁のような刃物で切られたのとは次元が違う。

 まるで、中世の断頭台で、スッパリと切り落とされたかのような、水平の断面図。そこからピンク色の筋肉の繊維と真っ白な骨が露出していた。

 時間が経過しているのか、そこから吹き出す血液量は少ない。

 だが……

 

(なんで、滑り台の階段の上に……?)

 

 ももこが一番不可解に思ったのは、その“場所”だった。

 『昇っている途中、背後から襲われて、首を斬られた』ような状態で、遺体は仰向けに斃れていた。

 だが、スーツ姿ということは、仕事中の筈だ。皮膚から伺える年齢も中年程――昼休み中だったとしても、公園の滑り台で遊ぼうと考えるだろうか。

 

「被害者は、田中寛治43歳。神奈川新聞、社会部の記者です。財布やノートパソコンが手つかずのまま、残されていましたので、金目当ての強盗による犯行とは……思えないですね、どう見ても……」

 

 不審に思うももこの横で、苦い顔を浮かべた鑑識課の金井朋子巡査が、被害者の社員証を掲示して、そう説明した。

 遺体の脇の地面にはバッグや衣類等から回収した遺留品が、白い布の上に並べられている。

 金井巡査曰く、何れも、被害者以外の指紋は見当たらなかったそうだ。

 

「シリアルキラーの犯行みたいッスね~……」

 

「ああ……って、春川係長。どうしてこの段階でウチらに要請を?」

 

「…………」

 

 流石ベテラン刑事。

 首無し遺体を見ても、眉一つ動かすことなく冷徹を保ったままの春川係長は、その鋭い瞳をももこ達に向けて言った。

 

「人間業で無いことが明白だからだ」

 

「っ!?」

 

 顔を顰めるももこ。

 確かに、首の断面は、綺麗過ぎる。

 不意に襲われたとしても、防衛本能が働くから、首の筋肉は無意識に硬直する筈だ。それだけでなく、中心の太い骨ごと、寸分狂うことなく真っ平らに切り落とすなど、人間の力では無理かもしれない。

 魔女か、魔法少女の仕業と考えるのが、妥当かもしれない。

 

 ……だとしても、今回の要請は早すぎる。

 

「今一度聞くが、魔女ではないな?」

 

「ええ、市内で魔女が出たら、アタシらはすぐに分かりますから」

 

 春川係長の問いに答えるいずも。

 調整課は、市内で魔女が出現した場合、直ちに結界を張って封じ込めると同時に、所轄の警察署へ周辺住民の避難要請を申し出る決まりとなっている。

 慶治町の担当は八重いずもだが、魔女を感知していないため、水名署には連絡していなかった。

 

「魔女は出現していなかった……。魔女の仕業じゃないってことは、魔法少女か……!?」

 

 首無し遺体を見つめながら、ももこがそう呟いた瞬間だった。

 

 

「魔法少女の仕業じゃないよ!」

 

 

「「ッ!!?」」

 

 突然聞こえてきた少女の言葉に、ももこといずもがギョッとなる。

 振り向いた先にいたのは、ももこと同年代程の、やや茶色がかった黒髪ロングの少女であった。

 ももこと同じ慶治町役場所属・秘書課の美凪ささらである。

 

「ささら! 何でここに?」

 

「遺体の第一発見者だからだ」

 

「「っ!!」」

 

「君たちを呼び出したのは、彼女の証言が理由だ」

 

 春川係長の言葉に、ももこといずもが目を見開く。

 首無し遺体を目の当たりにして未だ困惑しているのだろう、呼吸が荒いささらは、一度深呼吸して気持ちを整えると。

 ももこの顔を真剣に見据えながら、なるべく意識して、ゆっくりと喋りだした。

 

「もっさん、これは魔法少女がやった事だと、私には思えない。だって、この遺体は――」

 

 

  ――“空”から降ってきたんだから。

 

 

「え……?」

 

「は?」

 

 一瞬、何を言ったのかわからなかった。

 ももこといずもは、呆気に取られてお互いに顔を見合わせる。

 

「“空”って、あの空からッスかっ?」

 

 厚い灰色の雲に覆われた上空を指さしながら、いずもが混乱気味に尋ねると、ささらはうんと頷き、天を仰ぐ。

 

「そう、あの空から。あの雲よりも更に高い所から、ゆっくりと降ってきたんだ……!」

 

「……!?」

 

 狐に抓まれた―魔法少女でいうなら魔女の口づけを受けた―ような気分だった。

 ささらの言ってることは、ももこにはやはり理解できない。しかし、冗談を言っているとも思えない。

 

「……どうなんスか? 春川係長」

 

「現在、事情聴取中だが、他の目撃者達も全く同じ証言をしているそうだ。真実と見て間違いないだろう」

 

 いずもの問いに、端末に映る部下からの報告を確認しながら、春川係長は答える。

 ささらは呼吸を整えて、続ける。

 

「魔法少女が超人といっても、雲の上までは飛べない筈だよ。仮に飛べたとしても、その様子を誰にも見られてないのはおかしいし。何より、わざわざ雲の上から死体を落とす理由が分からない……。……念の為、明日香にこの辺りを探らせてるけど……あ、来た!」

 

 気配を感じてささらが後ろを向くと、紺色のショートカットヘアの少女が慌てた様子でこちらに走り寄って来ていた。

 同じく、秘書課の竜城明日香である。 

 

「ももこさん、いずもさん!」

 

「明日香、どうだった?!」

 

「駄目です……。 魔女の反応はありませんし、怪しげな魔法少女も見つかりませんでした~……」

 

 餌を貰えず落ち込んだ飼い犬のように、深く項垂れて残念がる明日香。

 有事において、高い観察眼を発揮する彼女が言うのだから、間違いないだろう。

 

「……そちらは?」

 

 明日香に目配せされた春川係長は頷く。

 

「近辺の魔法少女達にも尋ねているが、疑わしい者はいなさそうだ」

 

「もしかしたら、とっくに逃げられた後だったのかも……なんという不覚! くぅ~、自害」

 

「いや待て。まだ監視カメラの映像記録が残っている。自害するかしないかは、それらを確認してから判断しても遅くはない筈だ」

 

「自害……しません、今は」

 

「でも、“人間でも、魔女でも、魔法少女でも無い”犯人だとしたら、一体何なんスかねぇ……?」

 

 天空を舞い、雲の上に潜む首刈り魔。

 経験上、多種多様な魔法少女や魔女を見てきたいずもでさえ、想像つかない。

 

「やはり、これもマギウスの翼という連中の仕業か……?」

 

 彼女が渋面を浮かべるその隣で、春川係長は、ももこに目を配りつつそう零した。

 こういう時、彼は魔法少女の“勘”を頼りにしている。

 彼女達は見た目は少女だが、実戦経験の方は警察より遥かに豊富だ。命のやりとりを日常的に行っているだけに、自分達凡人の目には見えない物を、既に感じ取っている筈。

 ももこは再び遺体を見つめながら、苦虫を噛み潰した表情で、彼の問いに答えた。

 

「多分、あいつです……!」

 

 

『俺は仕掛け人だぜ。初っ端からネタバラシすると思うか?』

 

『これから楽しいパーティが始まる。参加者はお前ら魔法少女と、慶治町に住んでいる誰かだ』

 

『お嬢ちゃん、犯人が俺だと決めつけるのは早とちりだぜ? ただ、もしかしたら……そのパーティに、ヒントがあるかもしれない。みんなで頑張って、協力して、俺の正体を明かしてみな? 豪華なプレゼントが貰えるかもよ?? クックック……』

 

 ――アーッハッハッハッハッハッ!!

 

 

 ふつふつと脳裏に蘇ってくる奴の狂気に彩られた言葉。

 首無し遺体を見た時から、ももこの頭にこびりついて離れなかった。

 

「あいつがやったんだ……! そうとしか思えない……ッ!!」

 

 故の、確信。

 ギリッと奥歯を噛み締めて、唸るようにその名を口に出す。

 

 

「カマキリ男……パブロ・ディエゴ……ッ!!」

 

 

 

 

 

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