魔法少女いろは☆マギカ 第2部 RE:Ms.Pain Planter(休載中 第二章一部完結済) 作:hidon
『レナ……かえでの作るチョコなら、なんだっていいわよ』
『え……?』
『何でも嬉しいってことだよ。なぁ、レナ?』
『……うん、わかった! 頑張って考えるね! 二人の好きなチョコで、美味しいって喜んでもらえるように!』
――レナちゃん……。
『これは……何?』
『えと……自分でね、初めて作った
『えっ? 本当に初めて? すっごくよく出来てるよ、これ』
『あ、ありがとう、ももこちゃん……っ』
『ま、レナの下僕としては、いい心がけじゃない? ……今度、3人で出掛ける時なら、つけてもいいわ』
『そうだな、3人でおそろいにしようか』
『…………うん……!』
――そうだ。
自分はまだ、あの時の約束を果たせてないや。
ごめんね、レナちゃん。
心にも無いこと言っちゃって。
今、謝りに行くからね!
今…………
―――――
―――――
――……
そこは一言で表すなら、空の迷宮の様な異界であった。
歩道橋の階段を昇った瞬間だった。
見たことも無い鎖のバケモノが上空から無数に出現した。
それは蛇の様に生物的なうねりを見せながら、かえでの全身に纏わりつく。
――――せっかく絶交してやったのに。
――――友達のふりして、好き勝手なことばっか。
――――アイツのせいで文句ばっかり言わされる。
――――アイツのせいでみんなに嫌われる。
誰かが言ったであろう、呪詛を繰り返しながら……。
そして、気がつけば、秋野かえではこの異界に辿り着いていた。
不意に顔を挙げると、無数に上空を舞う紙吹雪が、曇天を色鮮やかに染め上げていた。
自分の立っている場所を確認すると、無限に続く螺旋階段の途中であった。地上から天を貫くそれは、昇った先にも降りた先にも何があるか、検討もつかない。周囲には、同じ形状の螺旋階段が複数見えた。まるでとぐろを巻いた黒い竜のようで、群れを成してかえでを取り囲んでいるかのようなそれらは、眺めているだけで、圧倒される程の荘厳さだ。
――これは、魔女の結界?
だが、抱いたのは違和感。
正体はすぐに分かった。
紙吹雪と同時に空を舞う、“文字”の群体。
繋げれば、何かの文章になるのだろうか? だが、一文字・一文字がバラバラに点滅していて――
「階段……、絶交……、噂……!?」
――ひやりと背中が凍りつく。
点滅する文字を繋ぎ合わせて、かえでは自分が祟られた事実に気付き、愕然となる。
――ももこちゃんに、あれだけ言われてたのに……!?
“階段に気を付けろ”と。
つまり、ここは魔女の結界ではない。創られた世界だ。
どうりで違和が大きかった訳だ。生物の腹の中にいるような結界とは違う、無機質で固く、冷たい感覚。この目に映る世界は、“生きていない”。
「っ」
クッ、とかえでは忌々しく歯を食いしめて、自らの迂闊さを呪った。
――また、やってしまった。
あのカマキリ男に唆されて、自分の抱えていた気持ちを理解してくれたから、いい気持ちになって、調子に乗せられて……親友を傷つけてしまった。
――レナちゃんに、また謝らなくっちゃ。
謝る度にもうこれっきりにしようと、何度も心に誓った筈なのに。
結局、自分は彼女に迷惑を掛けてばっかりだ。
当然、向井 翔にも。
関係ないのに、かえでは彼を巻き込んでしまった。
レナちゃんに気づいて欲しかったから、利用したのだ。
――だって、私は。本当は、レナちゃんのこと――
自嘲の思考はそこで途切れた。
今、確かに人の声が聞こえた!
恐らく捕らわれた人達。恐怖と絶望に満ちた彼らの、自分に助けを求める悲痛な叫びが!
「っ!!」
この時、ももことレナなら――!!
答えを出すよりも先に身体が動いていた。
衝動的に変身したかえでが、無線階段を一心不乱で駆け上がる!
☆
――――辿り着いた先は、地獄だ。
恐らく、そんな気がした。
膨れ上がっていく不安から生じる冷たい汗が流れる度に、顔を拭い、全力で階段を駆け上がっていく。
強烈な魔力反応と、次第に大きくなっていく人々のうめき声に、かえでは覚悟を固めた。
――ももこちゃんも、レナちゃんもいない……。
いつも頼りにしていた二人はいない。
自分は神浜の魔女にすら勝てた経験があんまり無い。
……それでも、今は自分しかいない。だから、戦わなければ……助けを求めている人が、自分を待っているから。
階段を駆け上がると視えて来たのは、アスファルト製のフィールドだった。例えるなら体育館か校庭のような広大さで、壁と天井が存在しない。――“何か”が行われている筈だと、魔法少女の勘が察した。
あのカマキリ男が、捕らわれた人々に対して。
「…………?!」
こういう時、嫌な予感は大体的中するものだ。
最上段を上がり、そこで視えて来た光景に――かえでは絶句した。
「助けてぇ、助けてぇぇええええ!!!」
「ママぁ、さむいよぉ……」
「あああ……、あぁあ……もう駄目だ……、終わりだ……」
「誰かあああああああああ!!! 早くっきてくれえええええ!!!」
「嫌だあああああああああ!!! 嫌ああああああ!!! 死にたくないぃぃぃいいいいいいいいい!!!」
「限界だ……!! もう何も望みませんからぁぁ……殺してええええええ!!! 殺してくれよぉおおおおおおおお!!!」
「もう許して、十分謝ったから……許して!! 早くあの子の元に帰りたいいいいいいぃいぃいい!!」
磔にされた人々の懺悔と悔恨の叫びが異界に木霊する。
どれだけの時間拘束されていたのだろう。
早く苦しみから解放しろと発狂する姿は、まるで処刑が間近に迫った罪人のようだ
フィールドの両端で無数に並ぶ十字架に、捕らわれた人々が四肢を拘束されていた。
年齢は関係なかった。
全員、ただ普通に生活してただけで“祟り”の条件を満たしてしまった。その中には、かえでより小さな子供もいて、必死に親を呼び求める姿にかえでは不快感の余りこみ上げた胃酸が漏れそうになる。
――ウぅワサ ウワサ ないしょのウワサ
――誰にだけなら、教えてみよか。
――誰の手つないで 通ろうか。
「っ!!」
聞き覚えのある
遠くに見えたのは、くぐもった声で歌う、ジェントルマン風の影。
――ウぅワサ ウワサ
――ひとつ、秘密の友達の。
――ふたつ、2人の思い出の。
――みっつ、よければ家族となって。
――いつつ、いつなら救われる。
「カマキリ男……!!」
シルクハットを深く被った昆虫姿の狩人は、曲芸中のピエロのように朗らかに歌っている。
――ウぅワサ ウワサ わたしのウワサ
――あなたきりなら教えてあげる。
――ああ、本当の開放を。
――ああ、本当の開放を。
猟奇的な複眼が、不気味な色彩のグラデーションを瞬かせた。そして、一呼吸後に、張り上げた彼の声がフィールドに反響する。
「さあ、罪人共よ!! 何も知らずにのうのうと生き、神の怒りに触れた愚かな大罪人共ッ!! 今宵も処刑の時間が来た!!」
彼の影から黒いマントで全身を覆った二人組が出現し、一つの十字架を抱え上げる。
磔にされていたのは、小学生ぐらいの小さな子供だった。
「ひっ……!」
「……っ!?」
十字架ごとカマキリ男の方へ連れて行かれる少年を、かえでは呆然と見つめていた。
……一体、何をするつもりだろうか。
「…………」
黒羽根達は、十字架をカマキリ男の前に横たえた。
カマキリ男が、鎌を突き付ける。
彼の両腕から生えた、鉛色に輝く死神の如き巨大な鎌を目の前に、少年は息を飲んだ。
目に大粒の涙を溜めて、ガタガタと肩を震わす。
「良く聞け、全ての罪人共よ!! このガキは、友達だったクラスメイトを虐めた!! 自分が虐められたくないから、虐める側に回ったのだ!! 殴り蹴り教科書を破りゲームソフトを盗んだ!! ……にも拘わらず、謝罪しようとした!! 許される筈が無いのに……もう一度友達としてやり直そうと考えたのだ!! その関係を自分で破壊しておきながら!! 実に傲慢で愚かしく許しがたい行為だ!!」
よって――と、カマキリ男は、鎌を天高く振り上げる。
その残忍な瞳が見つめる標的は、少年の白く細い首。
「このガキを今から、処刑する!!」
目前の迫る“死”に、少年の緊張が弾け飛んだ
「ああああああああああああああああああ!! いやだああああああああああああああああああああああああああああああ!!! あああああああああああああああ!!!」
発狂。
喉が千切れる程の絶叫。
同時に少年の全身から、黒いアトモススフィアが浮き出し、曇天に吸い込まれていく。
「いいぞ!! 怯えろ!! 震えろ!! もっともっと恐怖を感じろ!! 絶望の限りを尽くせ!! お前らから得た“負”の感情エネルギーは、全て!! 我らが主、『ミス・ペインプランター』の元へ送られる!! 我らが解放の為に!! 我らをお救いなさる為に!!」
「っ!」
そこで、我に帰る。
一心不乱に、かえでが飛び出した!!
「やめてええええええええええええええ!!!」
全力で駆け出す。
だが、その間に少年からアトモスフィアが消失した。感情エネルギーを搾取され尽くし、虫の息と化したのだ。
瞳孔を開いたまま、ガクリと首が横たわる。
――用済みだ。
カマキリ男が冷酷な瞳を据えて、宣告する。
「貴様ら……悪党共の魂に……」
そして、振り下ろす!!
「災いあれ!!」
少年だったものが放物線を描いた。
白銀の一閃が、少年の首筋を縦一文字に貫く。
刹那噴き乱れる血飛沫。十字架の下のアスファルトを大きく染め上げる鮮紅。宙を舞った少年の頭部は、喪失の表情を映しながら、床にぼとりと落ちて、ごろごろと転がっていく。
投げ捨てられたゴミのように。
「見たか! 全ての罪人共よ!! これが貴様らが逝く末路だ!! 辿るべき未来だッ!! その時が来るまで……存分に後悔し! 懺悔し! 呪い、絶望するがいい!! 貴様ら自身の浅ましさを!!」
「っ…………」
――かえでがその光景を現実と認識するまで数拍、
「!!」
ハッと我に返り、少年の頭部に駆け寄った。
「あ……」
――間に合わなかった。
失意。
想像を絶する光景に、かえでの顔から一気に血の気が引いた。
膝がガクリと崩れ落ちて、蒼白となった少年の顔に向けて――
「ごめ……ごめん、なさい……」
懺悔の言葉を呻く。
この子は、母親の助けを求めていたのに。
助けられたのは、自分しかいなかったのに。
恐怖で躊躇った。脚が思うように運ばなかった。
どうして自分は。
いつも、こんな時でさえ……考えてしまうんだろう。
どうしても、悩んでしまう。
ももこのように、ただ目標に向かって真っ直ぐに突き進める気丈があれば、こんなことには――
「これはこれは、特別ゲストのご登場だ」
声が聞こえて、かえでが顔を上げる。
小さな頃からよく見知った昆虫の顔面が、残忍な笑みを浮かべて見下ろしていた。
「カマキリ男……っ!!」
「楽しんで頂けたかな? 秋野かえでさん……」
「酷いよ……。どうしてこんなことをするの……?」
何が可笑しいのだろう――そう睨みつけて、かえでは低い声で訴える。
カマキリ男は鼻で笑った。
「酷い? それは心外だ。君だって望んだじゃないか? “自分以外の人間なんてどうでもいい”って!」
「え……」
「ここは理想郷だよ」
カマキリ男は両腕を広げ、天を仰ぐ。
助けを求める人々の悲鳴をBGMに、恍惚の笑みを浮かべて高らかに言った。
「俺と君にとって、“都合の良い世界”を創造する為の!!」
そして、かえでの方へ向き直り、恭しく頭を下げる。
「ようこそ、『絶交階段のウワサ』へ。改めて自己紹介させて頂きます。私はマギウスの翼のメンバー・『ウワサの支配人』の一人、パブロ・ディエゴと申します。以後お見知りおきを、秋野かえでさん……。……我らが“夢の国”を、心ゆくまでお楽しみ下さいませ……!!」
「俺達……? 私が、望んだ……夢の、国……?!」
――正しいことを優先して、自分自身が壊れても構わないのか?
――いっそ、壊してみないか?
――大切な人が、自分の居場所になってくれないなら、壊してしまえばいい。そして、新しい居場所をまた作ればいい。
「私が……??」
確かに自分はあの時、彼の言葉に惹かれた。
甘美な誘惑に魅了された。虜になった。
胸を締め付ける“嫉妬"から開放されたらどれだけ清々しい気分を味わえるだろうか――そればかりを考えて。
「そう。君が望んだ結末だ。つまり、“同じ”なんだよ。
――違う。
カマキリ男の言葉を、反射的に心が否定した。
こんな残酷な世界は、望んでいない。
――違うよね? レナちゃん、ももこちゃん……。
――私は。秋野かえでは、“あいつ”と同じじゃないよね……?
死してなお苦痛に歪んだ少年の顔を見つめて、二人に問いかける。
……いつもならすぐに届く筈の答えは、返ってこなかった。
かえでの意識が、闇に飲まれていく。
すぶずぶと、泥沼に沈んでいくように――
先週は落としてしまい、申し訳ありませんでした。
最終局面に入っていますので、ペースを上げていければと思います。
※今回は『ウワサ数え唄』の楽曲コード(501-6626-3)を使用しております。