魔法少女いろは☆マギカ 第2部 RE:Ms.Pain Planter(休載中 第二章一部完結済)   作:hidon

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FILE-2 #27 謝ったその先へ

 

 

 

 

 

「……死んでいます」

 

 入ってきた担当刑務官が、恐る恐る山吹の首筋と手首に指を当てて、静かにそう告げた。

 脈拍は止まっていた。

 テーブルに突っ伏す山吹は瞳孔も口もかっ開いた状態で、硬直していた。死ぬ間際に浮かべた醜悪で不気味な笑みを浮かべたまま――

 

「!? ……どういうことだっ?」

 

 いつも冷徹な春川係長も、この時ばかりは混乱に声を荒げざるを得なかった。

 ももこの呼びかけに応じ、扉から飛び出した彼の両手には、銃が構えられている。

 山吹啓吾の射殺許可の承認は、捜査本部長の県警捜査一課長から得ていた。

 彼が“カマキリ男”としての本性を表し、襲い掛かってこようものなら、迷わず撃て、と。

 当然、魔法少女達にも同様に指示が下されている。

 

 しかし、結末は、この場にいる全員の予想外に終わった――

 

「わ、わかりません! 自分がカマキリ男だと白状したら、すぐにこうなって……!?」

 

 何か知ってるんじゃないか―と言いたげな春川係長の睨みに、ももこは首を振りながらそう否定した。

 その隣でフェリシアが、山吹の遺体を冷静に見据えている。

 

「口封じか……。奴ら、とことんイカれてやがるな……」

 

 溜め息の後に、呟かれたそのボヤキに、春川係長も担当刑務官も頷いた。

 想像を絶する技術力だった。

 四六時中警察の管理下に置かれている囚人を、誰にも気取られずに外に連れ出して、魔女に匹敵する“力”を与えた――“万が一”を見越して、山吹の身体に“何か”を仕込んでいても不思議ではない。

 遺体はすぐに、司法解剖に回し、原因究明するのが最善だろう――

 

「いや……」

 

 だが、唯一ももこだけは、違う事を考えたようだった。

 何かが、おかしい。山吹が死んだ瞬間に感じた、強烈な違和感――

 

 

『土地神の“祟り”とは、それだけ凄まじく恐ろしいものよ。つまり、私達その土地に住む民が誠意を持って崇めれば、土地に活気と繁栄を呼び、無礼を働けば、土地に破壊と死を招く……』

 

『ただの都市伝説だろ。裏付けも何も無い……』

 

『平将門の怨霊伝説は、そういうものに命を掛けている人たちが居ることが裏付けになるわ、ひなの』

 

 

「祟りは……“怨霊”……? まさかっ!!」

 

 ももこの頭に電流が走った。

 突然驚いたように立ち上がる彼女に、他の全員の目が皿のようになる。

 

「どうした十咎っ?!」

 

「レナとかえでが危ない!! 春川係長、この場を頼みますっ! フェリシア行くぞっ!!」

 

「待て、それはどういう――」

 

「お、おいちょっ――ああ、クソッ!!」

 

 春川係長も静止も聞かず、変身も解かぬままももこは面会室を飛び出していく。その後ろを変身したままのフェリシアが慌てて追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういうことだよっ!?」

 

 格好は変身したままだがお構い無しだ。

 二人して、出口に向かう通路を駆けながら、フェリシアはももこに問う。

 

「平 将門の怨霊伝説だ……!」

 

「はあ!?」

 

「部長の話を思い出したんだ……! 平 将門は()()ことで、強力な祟りが使えるようになった……多分、山吹もそれと同じなんだ!」

 

「意味わっかんねーよ!? どーいうことだよ!?」

 

 気でも狂ったか。

 突拍子も無い話にフェリシアはそう喚きそうになるが、振り返らず答えるももこの声色は真剣そのものだ。

 

「嵌められたんだよッ!! アタシらが面会に来た時点で、山吹は死ぬつもりだったんだ!! 」

 

 怒鳴り返しながら、ももこの頭にはある推測が浮かんでいた。

 違和感の正体。

 山吹啓吾とカマキリ男。人間と怪人。法に縛られる者と縛られない者。片や24時間監視対象の身。片や自由に行動し、首を吹き飛ばされても死なず、雲の上に結界を陣取る。

 考えれば考える程、両者が同一人物の線は低くなる。

 

 しかし、()()だった。

 

 つまり。

 山吹啓吾の魂は、最初から“2つ”に分かれていたのでは無いか。

 昔、読んだあるマンガの事を思い出した。

 人間の主人公が、分身である自分の生霊を使って、敵の生霊と戦う、という内容だ。

 その中で、人間が死ぬことで、生霊をパワーアップさせる、という描写があった。

 人間は死ねば肉体は亡骸となり、魂だけとなる。

 それが、生霊と融合すれば、凶悪な“怨霊”と化し、強力な災害を発生させる、というものだ。

 恐らく、山吹啓吾も、それと同じなのではないか。

 

 ――チンプンカンプンな事を考えてるのは百も承知だ。

 フェリシアも聞いてて、呆れ返っているだろう。

 だが、今はそんな自分の勘を信じるより選択肢は無かった。

 

「このままだと奴は無敵になるぞ!! 早く奴の結界に行かないと、食い止めてくれてるレナが危ない……!!」

 

「……分かったけど、どーやってそいつの所へ行くんだよ?! “雲の上”だろ!!」

 

「それを今考えてる! レナが教えてくれた方法を実行できさえすれば……っ!」

 

 言いながら二人は外に出ると、一台の黒いセダンが待ち構えていた。

 運転席のウィンドウが開き、“租界”のボス・カミハマヴィレッジ代表の三笠カエレが顔を覗かせる。

 

「モモ、乗りな」

 

 ギョッと一瞬目を見開くももこ。

 

「カエレさん!? ……いや、情報提供は有り難かったけど、今アンタとドライブしてる暇は……」

 

「ももこさん、フェリシアちゃん!」

 

 と、後部座席のウィンドウも開き、今度はいろはが現れた!

 

「いろはちゃん!?」

 

「いろは?!」

 

 驚く二人に、いろはは窓から身を乗り出し、鬼気迫る表情で訴える。 

 

「三笠さん、カマキリ男の結界に行けるって!!」

 

「「!!」」

 

「早く乗りな!」

 

 カエレの催促に二人は迷わず頷くと、セレナに飛び乗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――水名中央団地。

 

「ここって、祟りが最初に起きた場所、ですよね……」

 

「……」

 

 いろはの問いに、カエレは無言で頷く。

 ももこ、フェリシア、いろは、カエレの四人は、未だ侵入禁止のロープが張り巡らされている公園の中の滑り台の前に集まっていた。最初の犠牲者・田中寛治の首狩り遺体が発見された場所だ。

 その階段には、未だに黒い血痕がベッタリと張り付いている。

 

「そして……山吹啓吾にとって、最も思い出深い場所だ」

 

「それってどういう……」

 

 言いながら、カエレは、滑り台の階段を昇っていく。

 怪訝な表情を浮かべるももこに、背中で答える。

 

「あいつは昔、ここで山岸深雪と出会った。恐らく、ここがヤツに一番近い場所なんだ……」

 

 登りきる直前で、カエレは振り向いた。

 そして、ももこに告げる。

 

「……モモ、謝罪の気持ちがあるなら……今すぐ私の手を取って、謝れ!」

 

「え……」

 

 ももこは大きく目を見開いた。

 

「お前と私は『絶交』した仲。ここにいる全員で手を繋いで、お前が私に謝れば、一斉に祟られる……つまり、みんなで奴の結界に行ける筈!」

 

「な、何いってんだよ……! アタシはカエレさんに、謝っただろ!?」

 

 

 ――――『カエレさん!』

 

 ――――『モモ?』

 

 ――――『さっきは悪かった!』

 

 

 カマキリ男と始めて遭った日。

 ももこはカエレに、確かな謝罪をしている。

 その時、ももこは拐われなかったのだから、つまり祟りの対象ではない、という訳だ。

 

「でも、あれは……私と絶交した事に対して、じゃないよね?」

 

「うっ……!」

 

 ギクリとももこがたじろぐ。

 口をムッと結び、あからさまに表情を険しくした。

 あれは、カエレが“無差別殺人を犯したという勘違い”に対しての謝罪である。

 

「それに、モモが謝った瞬間を、奴は、()()()()()

 

「ううっ……!?」

 

 また、ももこが謝ったのは、カマキリ男が消え去った直後のタイミングだ。

 つまり、カマキリ男はその事実を知らない筈だ。

 

「おい! 迷ってるヒマはねーぞ!!」

 

「お願いします、ももこさん……! 早くしないとかえでちゃんとレナちゃんが……!」

 

「わ、わかったよ……カエレさん!」

 

「ん……」

 

 ももこは、差し出されたカエレの手をギュッと握りしめる。

 

「…………っ!!」

 

 大きく息を吸い込んで、思いっきり吐き出す。

 深呼吸で気持ちを整えてから、カエレの顔をしっかりと見上げる。

 

「カエレさん……アンタのことは、今でも恨んでる……ッ!!」

 

「そっか……」

 

「アンタが全部ほっぽり出したせいで、アタシがどれだけ大変な思いして、傷ついたか……考えた事あるか!? 無いだろっ!?」

 

「…………」

 

 カエレは黙って、その怒りを受け止めた。

 

「アタシだけじゃあない、後から来たかえでとレナにも苦労かけっぱなしだ。リーダーとして不甲斐ないって、いつも悔やんでばっかりだ。……カエレさんが今もイザナミのリーダーでいたら、こんな思いしなくて良かった筈なんだよ……!!」

 

 カエレの手を握るももこの手は震えていた。

 激情が浮かんでくる顔を隠すように、ももこは俯きながら、声を震わす。

 

「うん……ごめん、モモ」

 

「またそれだ!! いつもそうだ!! アタシが怒って、カエレさんはすぐ謝る!! でも本当の事はちっともちーっともっ!! 答えちゃくれないっ!! ……あの時、傭兵になるって決めた時だって……本当は理由があったんだろ!? アタシに言えない理由がさ!?」

 

「……ごめん、モモ」

 

「……っ!! アンタのそういう所が、ずっと嫌いだった! 頼って欲しかったのに、一人で全部抱え込んで、澄ました顔してさあ!! そういうカッコつけてる所が、マジで苛つくんだよっ!! どーせアタシに頼る気が無いんなら、アンタなんか戻ってこなくてもいいように、全部完璧にやってやるって、ずっと必死に頑張ってきたんだ!!」

 

 ――けど。

 

 ももこは顔を上げる。

 両目の端に大粒の涙を溜めながら。

 

「……………………駄目、なんだ」

 

「…………」

 

 ももこが消え入りそうな声で、そう零した。

 カエレは何も返せずに、見つめている。

 

「レナとかえでがいなくなって、アタシはもう、一人ぼっちだ……。あいつらがいなきゃ、何もできない……! 不安で、不安で押しつぶされそうで……!」

 

 リーダーとして、みんなを引っ張らなきゃ。

 ももこはいつもその気持ちで、頑張ってきた。

 だが、その努力ができたのは、お節介で、細かいことに気がつくレナと、慎重に全体を見渡して、的確な意見をくれるかえでがいたからだ。

 気がつけば、三人はいつも一緒で、一心同体だった。

 二人のサポートがあってこそ、リーダーとしてのももこは成り立っていた。

 

 だが、その二人はもういない。

 半身同然を失ったその心には、ポッカリと大きな穴が空いたようで――

 

 ――だから、とカエレに精一杯の笑顔を見せて、訴える。

 

 

「“こんなとき、カエレさんがいてくれたら”って……思っちゃったんだ」

 

 

「……そうか」

 

「アタシ、嘘ついてた。本当はカエレさんに、ずっと戻ってきて欲しかったんだ」

 

「……そうか」

 

「頼むよ。カエレさん。戻ってきてくれよ。また、前みたいにアタシを引っ張ってくれよ。かえでとレナも助けてくれよ。()()()()()()、もう一度だけ、リーダーやってくれよ。今までアンタに言ったこと、全部謝るから……お願いだから……!」

 

「モモ……」

 

 ――――何でも。

 アタシが何度怒っても、どんなに酷い事言っても。

 黙って受け入れてくれるカエレさんのことが、好きだった。

 その気持は今も変わらない。

 だから――

 

 ももこは頭を下げて、腹の底から渾身の声を絞り出す。

 

 

 ――バカヤローなんて言っちゃって、ごめん!!

 

 

「……わかった」

 

 カエレが頷いた。

 

「……ありがとう、モモ。頼ってくれて」

 

「カエレさん……っ!」

 

 誠意が伝わった。

 謝罪と願いを、受け止めて貰えた。

 顔を上げると、昔のように、自分に微笑むカエレの顔が見えた。

 

 

 その刹那――

 

 

 ――――アイツのせいだ。

 

 ――――アイツのせいだ。

 

 全員の耳に誰かの呪詛が反響したのと、足元に影が集まってきたのは同時だった。

 無数の鴉の姿をした影が結合し、人の形となって、ももこ達を取り囲み、罵倒する。

 

 ――――アイツがすぐ謝っちゃうから。

 

 ――――アイツが何も言わずにいなくなるから。

 

 ――――カエレのせいで、苦労しっぱなし。

 

 ――――カエレさえ、いなくなれば……。

 

 人影の群れが次々と表面化した。

 地面から立ち上がり、ヨタヨタと覚束ない足取りで近づきながら、呼び出した者の心を代弁する。

 

「コイツラ……!」

 

「モモ、聞くな」

 

 ももこが大剣を構えるが、カエレが呼び止める。

 直感―これはカマキリ男の罠だ。声に反応したら、精神を乗っ取られる。

 

「来るぞ……!」

 

 周囲から迫りくる祟り神の使徒達。

 使い魔の如き異形の集団に、身構える四人の魔法少女。

 その中で、異様な魔力反応に勘づいたフェリシアが逸早く上空を見上げた。

 天から降り注いでくるのは、蛇がうねるように生物的な蠢きを見せる、巨大な鎖の群れ。

 

「………!!」

 

 いろはも、フェリシアの隣で覚悟を固める。

 巨大の鎖の蛇は、4人の頭上に降り注いだ。咄嗟にももこが叫ぶ!

 

「みんな、アタシに掴まれ!!」

 

 カエレはももこの手を握り締めたまま。

 いろはとフェリシアも彼女の身体に抱きついた。

 全員の全身が、次々と鎖に巻き付かれ、視界を真っ黒に染めていった。

 

 

 一瞬、意識が遠のき――そして、導かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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