魔法少女いろは☆マギカ 第2部 RE:Ms.Pain Planter(休載中 第二章一部完結済) 作:hidon
素直じゃない自分が嫌で、恥ずかしかった――
「かえで――ッ!! 絶交するなんて言ってごめん!!」
――だけど。
かえでとももこの3人のチームに戻りたい、だから謝らせて。
レナ、ちゃんと気づいてたから、怒ってるの分かってたから。
ずっと、謝りたかった。
向井さんの事だけじゃなく。今まで、酷いこと言った全部に対して。
でも、いつも喧嘩をする度に、かえでの方が先に謝っちゃうから、タイミングを逃してしまって……。
じゃあ、明日謝ろう。その明日になったらまた明日にしようって思ってる内に、時間ばかり過ぎていって。
気がつけば、ももこはリーダー業務で町中を走り回ってるし、レナもカミハマンで同じ。かえでも、おもちゃ診療所で子供達との交流が手一杯――みんな、同じチームの筈なのに、別々の道を歩んでしまって、三人一緒に遊ぶ機会もめっきり減っちゃった。
かえでは、ずっと覚えててくれたのに、“あの事”。だから楽しみにしてるの、気づいてたのにね。
かえで、ごめんね。
喧嘩の原因はいつだってレナなのに。
レナ、自分が悪いってわかってたのに、意固地になって……何だかもうひっこみがつかなくなってしまって。
「全部、後悔してるから……」
空から振ってきた、鎖のバケモノに導かれながら、レナは向井さんの言葉を思い出す。
『レナちゃん、俺はカミハマンを創る為に、色んな人から学んできた』
『その過程で様々な霊能力者や武術家と出会ってきた。特に驚いたのが、仙人と呼ばれる人たちだった。彼らは霊山の奥にひっそりと住む高僧で、70歳以上の高齢者だが、今まで霊山特有の祟りに遭ったことも無ければ、魔法少女に負けた事も無かったというんだ。認識操作、記憶改竄、幻覚、洗脳、時間操作……魔法少女の中でも特に強力と言われるそれらの魔法が、全く効かないというんだ』
『最初はインチキだと思ったが……どうしてもその理由が気になった俺は、その人達に頼み込んで、半年間生活を共にしたんだ。毎日、山を駆け巡り、素手で獣を狩った。山の霊気に意識が奪われそうになる事が何度もあった。一日生き延びるだけでも正に命がけだ。非常に過酷な生活だったが……結果的に、分かったんだ』
『それは――……』
向井さんはレナに、強さの秘訣を説明した後、こう言ってくれた。
『今のレナちゃんなら、それが出来るって信じてる。舞台で見る君は、120%カミハマンだからねっ! きっと、祟りにも打ち勝てる筈だ!!』
『ハアッ!』
絶交階段のウワサの結界中枢。
バリトンボイスの気合いと同時に放たれるローキックが、カマキリ男の膝裏に決まる。
「くっ……!」
ガクリと体勢が崩れる――が、膝が落ちるには至らなかった。負の感情エネルギーをたっぷり吸収した事で、肉体を強化しているのだ。易々とは倒されまい。
カウンターとして、右腕の鎌を横薙ぎに払うが、姿勢が崩れてるせいで、斜め上に狙いが逸れた。仮面の男は、屈んで避ける。
『フッ……トアッ!!』
その反動で高く飛翔する仮面の男。天を翔けるその姿は、白銀の衣装と相俟って、伝説のペガサスか神話のイカロスの如く。
天空でひらりと一回転し、過酷な鍛錬の結晶たる剛脚を、カマキリ男に向け――
『カミハマン・キーック!!』
水流を纏い突進。
全ての魔法少女を救う為に人々の願いから生み出された英雄・カミハマンの必殺技が、亜音速の勢いでカマキリ男の胸部に突き刺さる。
「ぐぅ……!!」
凄まじく重い衝撃が全身を揺るがす。
その威力に強化された肉体も流石にたじろいだ。
「クソッ! なんなんだお前は!? 水波レナじゃないのか!?」
弾き飛ばされるように、後方に着地するカミハマンが、カマキリ男を仮面越しに睨む。
『
アスファルトを蹴り、カマキリ男の懐に飛び出す。
『カマキリ男っ!! これ以上貴様の欲望の為に、神浜の民を犠牲にはさせん!!』
「ぐうう!!」
『このカミハマンが成敗してくれる!! 今!! ここでっ!!』
自らを鼓舞と同時に、猛ラッシュを掛ける。
疾風怒濤の如く放たれる連続突きを、カマキリ男の全身に見舞う。見切れる事すらできず、大鎌で全身を護るので精一杯だ。
「俺を悪役と断ずるかカミハマン。何も知らない癖に、傲慢だな!」
『!? 傲慢なのは貴様の方だ!!』
「じゃあ、悪役らしくいくぞ……!」
ガバリと大顎が開き、悍ましい笑みを見せる。
企みを阻止せんと、間髪入れずに飛び込んだカミハマンが再び膝裏に向けてローキックを見舞う。だが、寸前でカマキリ男は後方に飛翔した。
彼が飛びついた先は――十字架。
絶望に昏れた女性が磔にされたそこの頂きに立つカマキリ男の大鎌が、首に突き付けられる。
「カミハマン、お前の心を折ってやる」
大鎌が白く細い首筋に触れて、すうっと鮮血が流れ出す。
「嫌あああああああああ!!! 助けてっ助けてえええぇぇえええ!!!」
死を目前にして、緊張が弾け飛んだ。
狂った様に金切り声を張り上げる女性に、カマキリ男はくつくつと醜悪に嗤う。
「嗚呼……良い悲鳴だ……! もっと喚け。もっともっと叫べよ。お前らの絶望こそが俺の原動力となるのだから……」
がばりと大顎を開いた。
泣きわめく女性の全身から黒いアトモスフィアが噴出し、カマキリ男の口に吸い込まれていく。
『やめろ!! カマキリ男!!』
「正体を見せろ、カミハマン。さもないと、この女の首を切り落とすぞ」
「くっ……!!」
苦悶と同時に、カミハマンの全身を水流が包む。
一瞬後に出現したのは、水色のショートツインテールの小さな少女。バリトンボイスの剛直な白銀の騎士とは対極をなす、ふわりとしたアイドル衣装風の魔法少女。
奥歯を噛み、苦々しい顔でカマキリ男を睨み上げている。
「そうだ。それでいい……」
元の姿に戻った水波レナに、カマキリ男は満足そうに嗤うと――
「いい子だ!!」
――首筋に突き付けた鎌を、一気に引いた!!
女性の頭部が宙を舞った。
「なっ……!?」
瞠目。
驚愕するレナの耳に、カマキリ男の哄笑が響く。
「アーハッハッハッハ!! 残念だったなあ!」
「……っ!」
鮮血を撒き散らし、生首がぼとりとアスファルトに落ちた。
人が殺される瞬間を目の当たりにして、レナは絶句する。ショックの余り、その一部始終を呆然と見つめることしかできなかった。
「やっぱり傲慢なのはそっちじゃないか……」
女性だったものの頸部から噴き出す大量の鮮血。
タキシードを真紅に染め、大鎌に付いた血を舌で拭いながら、カマキリ男はレナを嘲る。
「俺は祟りを司る神だ。禁忌を犯したこいつらを、呪い苦しめて殺すのは当然の摂理なんだよ」
「…………」
「こいつらの運命は最初から決まってたんだよ。この土地に生まれながら、
黙って俯くレナの頭上に、カマキリ男は容赦なく非難を浴びせる。
水波レナは、無力感を打ちひしがれてる筈だ。
自己評価が低い少女だと聞いていた。
ヒーローに変身すれば多少自信が付くと考えたのだろうが、甘すぎる。
それでも、一人で乗り込んできた勇気と、自分を多少手こずらせた実力は褒めてやるが、所詮は“仮面”だ。虚勢は、心ごと叩き折ってやるに限る。
――さあ、絶望しろ。
――そして、畏れ崇めろ。このパブロ・ディエゴを。
「き……」
「んー?」
恐怖に支配されたか。
レナは俯いたまま、ワナワナと震え始める両肩を抱いて、何かをボヤいた。
これは――脅えているな。なら、悲鳴を挙げろ。もっと。もっともっと――
「き……」
「……っ!?」
――刹那、レナの魔力が膨張していくのをカマキリ男は感じ取った。
ビリビリと肌で感じるこの迫力。もしや……レナの感情を支配しているのは恐怖ではなく――
「ッッ!!」
――怒り。
ギンッとレナの眼光が紅く輝く!!
「キサマアアアアアアアアア!!!! 許さあああああああああん!!!」
カミハマンの全身から爆発した絶大な魔力が、巨大な水柱となって天を貫いた。
足元のアスファルトに大きなクレーターが生じるのと同時に、カミハマンが弾け飛んだ。巨大な水流となって、カマキリ男を飲み込まんとする姿はさながら水の竜だ。
「何ぃ……!?」
これには、カマキリ男も驚愕せざるを得なかった。
そのせいで、回避行動が遅れた。水竜に全身を飲み込まれるカマキリ男。
「ガポ……ッ」
『ウオオオオオオオオオオ!!!』
そのまま水中でカミハマンと交戦。
拙い――これでは息ができない。
昆虫である彼は、水との相性は最悪だ。そして水波レナの属性は水――水中では彼女の方に圧倒的な分がある。
咆哮と同時にカミハマンが急接近! まさに水を得た魚!
大鎌を振るい抵抗する――が、地上では切れ味抜群のそれも、水中では動作が緩慢になる為勢いは半減。カミハマンはイルカさながらのクイックターンで回避し――
『カミハマン・アッパー!!』
――必殺技が顎に炸裂!!
「ぐっ!」
『喰らえ!! 必殺!! カミハマン――ッ!?』
技を使う際の口上が大きな隙となった。
カマキリ男に顔面を蹴り飛ばされ、カミハマンが大きく仰け反る。
蹴った反動を利用して、水中から抜け出すカマキリ男。
「チイッ……!」
苦々しく舌打ちしながら。
カミハマンが生み出した巨大な水柱から飛び出し、アスファルトに着地するカマキリ男。
(なぜ絶望しない? こいつは水波レナの筈だ。負の感情が存在し無いなんてありえない……!?)
対処法を考え――てる暇など無かった。
『トオッ!!』
「何いいいッ!?」
水柱から勢いよく飛び出してきたカミハマンが、カマキリ男の眼前に着地!
仰天に瞠目するカマキリ男に、必殺の正拳突きが炸裂――が、大鎌によって防御される。
『カミハマン必殺……ウォータードラゴニックスプラッシュ!!』
「!? あああああああああああああああ!!!?」
足元に魔法陣が出現し、水柱がカマキリ男を飲み込んだのは一瞬だった。
顔の穴中から入り込む水が器官を満たし、水圧が全身をメタメタに押し潰していく。
「がはッ、がほっ!! ……くうっ!」
数拍して、水柱が収まる。
あと少しで窒息死するところだった。
カマキリ男は体内に取り込んだ水を大量に吐き出しながら、ガクリと膝を付いた。強力な水圧による摩擦のせいでタキシードもボロボロだ。背中の羽根もひしゃげている。
「バケモノが……!!」
四つん這いになりながらも、ギッと憎悪の複眼を向けるカマキリ男に、歩み寄るカミハマン。
『私は……、俺は、“カミハマン”だ……! “カミハマン”なんだっ!!』
どこか自分に言い聞かせるように呟くと、『トドメだ』と拳を振り上げる。
(なるほど、“自己暗示”か……。自分を無敵のヒーローそのものだと信じ込ませているんだな)
この結界の中では、有効だ。
究極のポジティブシンキングによる、マイナス思考の徹底的排除――負の感情エネルギーが回収できないのも頷ける。
ならば――
「ごめんな……」
突然の謝罪。
頭上に振り下ろされた拳が、直撃寸前で止まった。
『!? 謝っても遅いぞ!!』
「切り札を一枚、使わせてもらうよ……!」
『何……!?』
「来い、俺の忠実な下僕――」
という訳で第一章・ボス戦の開幕です。
大体5~6話ぐらいになるかもです。