魔法少女いろは☆マギカ 第2部 RE:Ms.Pain Planter(休載中 第二章一部完結済) 作:hidon
「やめて……。ディエゴさまに、酷いことしないで……!」
無事で良かった――そんな安堵は一瞬で終わった。
振り返ると、水波レナがよく知る秋色の髪の魔法少女が佇んでいた。
絶対にあり得ない言葉を、口ずさんで。
『かえで……!?』
「仮面のまま、仲間と向き合うつもりかぁ? ……それとも、素顔で向き合いたく無いのかな?」
「くっ……!?」
嘲り混じりのカマキリ男の指摘に、忌々しく思いながらも、レナはカミハマンの変身を解いた。
かえでがこの男に何かをされたのはすぐに勘づいた。
かえでの表情が“普段通り”だったから。
水波レナがよく知るかえでなら、絶対にこの地獄は許容しない筈だった。臆病だけど、自分より弱い者の為に、勇敢になれる子だと知ってる。だから――笑顔を浮かべてるなんて、あり得ない。
磔にされた老若男女の悲鳴がけたたましく鳴り響く、この異常な世界で。
異常な存在たる、カマキリ男の前で。
「かえで……何してんのよ! さっさと帰るわよ!」
「どこへ?」
微笑んだまま、首を傾げるかえで。
「どこへって……レナ達の下に決まってるでしょ! レナ達、友達じゃない!」
友達の言うことが聞けないの、とかえでの腕をぐっと掴むレナの手――
「違うよ」
が、払われた――
即答と同時に、無造作に。
「えっ……」
「だって、レナちゃん……」
――“友達”って呼んでくれたこと、一度も無かったよね?
暫くして――――
「かえで―――!! レナ――――!!」
腹の底から張り上げたハスキーボイスが、結界内に鳴り響いた。
十咎ももこを先頭に、三笠カエレ、深月フェリシア、環いろはが中心部であるアスファルトを走っている。
やがて、見えてきたのは、無数の十字架――そこに磔にされ、悲嘆に昏れ、泣き喚く人々。
「これは……!?」
「「……ッ!!」」
阿鼻叫喚の様相に愕然となるももこ達。
そして――
「遅かったなぁ?」
「カマキリ男っ!! ……っ!?」
ゆったりと歩み寄ってくる異質な二人組の影に、全員が身構える。
まず現れたのは、タキシードを来てシルクハットを深く被った長身のカマキリ顔の紳士。
だが、彼の隣に出現した人物に、ももこが目を見開いた。
「……かえでっ!? なんで……」
「秋野かえではもう俺の支配下にある。忠実な下僕だ……お前らの下にいるより、良いってよ。なあ?」
「うん。ディエゴさまは、私の理想の世界を創ってくれたんですから、ね!」
間違いない。洗脳されている。
カマキリ男に屈託ない笑顔で答えるかえでの異常な様子に、
「カマキリ男ッ!! てめぇー!!」
「モモ」
ももこがキレるのは当然だった。
激昂し、飛び出そうとする彼女の肩をカエレが抑える。
その隣で一歩踏み出したフェリシアが吠える。
「おい! カマキリ如きが人間様より偉くなってんじゃねー!! 大人しく畑でバッタでも喰ってろよ!!」
「生憎、俺の腹はそれだけじゃ膨れないのさ。体が大きいからなぁ」
「レナちゃんはどこにいるのっ!?」
「ああ、あいつなら……あそこだ」
いろはの問いに、白い手袋を嵌めた指で、一方を指し示すカマキリ男。
その方向には、十字架に磔にされた水波レナが見えた。
「!? レナ!! レナ――――!!!」
ももこが全力で呼びかけるも、顔は俯いたまま、反応は無し。
――くそっ、気を失ってるのか。
カマキリ男が、ももこに顔を向けて、
「お嬢ちゃん、約束どおり、豪華なプレゼントだ……」
大顎をガバリと開放し、醜悪な笑みをニタリと浮かべて、冷淡に言い放つ。
「なにっ!?」
「今からあいつを、処刑する……」
「……っ!!」
「首を切り落としてやる……お嬢ちゃんの眼の前でなぁ!! プレゼントは、大切な仲間の生首だ!! 一生大事にできるだろう? アーハッハッハッハッハ!!!」
「やらせるかぁ!!」
カマキリ男が動くよりも早く。
レナの十字架に向かって、ももこが全力で駆け出す。しかし――
「させないよ」
かえでが武器を構えてももこの前に立ちはだかる。
「かえでっ!? 退いてくれ!! 早くしないとレナがっ」
「どうして、あの“裏切り者”を助けるの?」
「なっ……!?」
「ディエゴさまの邪魔はさせない。私の理想の世界の為に」
刹那、飛び掛かり――ガキィン、と金属音!
容赦無く
「くううっ……みんな、レナを頼む!!」
「任せな」
かえでとは思えぬ凄まじい力量に大剣を通じて骨が軋み、筋肉が悲鳴を挙げた。
ももこの悲痛な叫びに、カエレが応える。フェリシアといろはも彼女に続いて駆け出した。
「あのカマキリ野郎、歩いてやがるぜ……!」
「随分な余裕だ……いろはちゃん、フェリー、気を付けろ」
「はい……!!」
「わーってるよ、どーせ……」
話しながら走ってる内に、レナの十字架は目前だ。
だが、
「! ほら来た」
十字架の背後から白い外套を全身に纏った二人組が現れた。
彼女達の手には、笛が握られている。それを見て、カエレが察した。
「やはり、双子ちゃんか……!」
「…………」
「っ! 人を殺してまで、どうしてカマキリ男なんかに従うんですかっ!?」
「…………」
いろはの問いに、白い二人組は微動だにしなかった。
ただ、冷徹な覚悟だけが、深く被ったフードの隙間から光る瞳から伺えた。
洗脳されてはいない――が、決して退く訳にはいかない様子だ。
カエレ達の前に立ちはだかると、二人揃って笛を口に据える。
「! カエレさん、来ます!?」
「フェリー」
「任せろ!」
焦るいろはの声――だが、元傭兵達は冷静に対応。
カエレの呼びかけと同時に、背負っている西洋棺の蓋が開く。
中に入っていた武器をフェリシアが掴み上げた。
「優花のハルバードだ。アイツの代わりに連れてきた……頼む」
「応よ!」
「「……っ!!」」
やり取りしてる内に、姉妹は呼吸を合わせて、演奏を開始した。
得意技の笛化共鳴だ! 魔法少女二人分の魔力を重ね合わせた強力な音の波動がカエレ達に迫る。
すかさずフェリシアは蒼穹のハルバードを、足元のアスファルトに突き刺した。
「息を止めろ!!」
「「っ!」」
カエレの号令に、いろはとフェリシアは口をぐっと噤む。
突き刺したハルバードを中心に魔法陣が出現。同時に“水のドーム”が出現し、カエレ達三人の全身を覆い尽くした。
<えっ!?>
<なっ!!>
乱れぬ演奏を続けながら、姉妹は脳内で驚愕する。
普通、音は防ぎようが無い。
魔法少女であれど体は人間のまま。耳には瞼が無い為、音を完全にシャットダウンすることはできない。
故にこの音波攻撃は、絶対に防がれる事は無い。だが――
<水の中では音波は弱まる……>
音波に触れた途端、水のドームに波紋が広がる。
音は水の中で分散され、三人には届かなかった。
<いろはちゃん、今だ>
<はいっ>
水のドームの中で呼吸を止めながら、カエレはテレパシーで指示を出す。
クロスボウを構えたいろはの右腕がドームから飛び出し、桃色に光る矢を連射する!!
「わわっ!?」
「ひいっ!?」
当てるつもりは無い。あくまで牽制だ。
だが、次々と真横や頭上を通り過ぎていく矢に、姉妹は慌てる。演奏を止めて、その場で頭を伏せた。
今が好機だ――カエレ達を覆う水のドームが消えて、
「フンッ」
「ぐっ……!?」
一瞬で背後に回ったカエレのバトルアックスの峰打ちが月咲の後頭部に炸裂!
「!! 月咲ちゃ……」
「よそ見してる暇あンのかッ!!」
「えっ」
「オラッ!!」
そして、同時に月夜の背後に回ったフェリシアもハルバードをブン回した。
「ぐはっ!?」
柄背が振り向いた彼女の顔面にブチ当たり、体を吹き飛ばした。
「チィッ……あの役立たずどもがッ!」
歩み寄りながら、様子を眺めていたカマキリ男。
天音姉妹は、呆気なくアスファルトに体を沈めており、水波レナもピンク頭―環いろはだったか―の矢に鎖を破壊され、救助されつつある。
「ふん、まあいい。奪われたなら奪い返せばいいだけのことだッ!」
ギッと睨みつけた複眼が血走り、怒りを顕にして足を早めた!
が、次の瞬間――
「もらったあああああ!!!」
背後から咆哮!! 同時に背中に風圧。何か巨大なものが真後ろから迫る感覚。
カマキリ男の複眼は既に捉えていた!! 手袋に覆われた右手が一瞬で大鎌に変化し、振り向くと同時にガキンッと金属音!
大剣を直撃寸前で受け止める!
「……秋野かえでを退けたか」
「くっ」
奇襲は、カマキリ男の余裕を崩すには至らなかった。
力任せに弾き飛ばされるももこだが、空中で一回転して着地。
そのまま睨み合う両者。
ももこが憎悪を込めた力強い瞳で睨みつけて、吠える!
「カマキリ男!! お前だけは絶対に許さない!!」
「せっかちだなあ。プレゼントは準備中だぜ……お嬢ちゃん?」
「うるさい!! レナはもう助けた! あとはお前さえ倒せば、かえでも……」
<モモ、落ち着け>
「っ!?」
突如、脳内に響いてきたテレパシーに、ももこはビックリして口を止めた。
<カエレさん、だけど……>
<モモ、こいつの力は魔法少女より遥かに上だ。お前じゃ相手にならない>
カマキリ男を睨んだまま、忌々しく歯噛みするももこ。
<なら、みんなで力を合わせれば……!>
<それでも勝てる見込みは無い。周りを見れば分かる筈。お前の妹分二人と、双子姉妹がどうなったか……>
<…………>
<4人の魔法少女が、ちっとも歯が絶たなかった。私らとは次元が違う>
<じゃあ、どうしろっていうんだよ!! このまま逃げろっていうのか!? かえでが奴に操られたまま!? 捕らわれた人たちも見殺しにしろってのか!?>
脳内で激しい怒りをぶちまけるももこだが、カエレは動じなかった。
冷徹に一言。
<そうだ>
<なっ……!?>
あんまりな即答に、ももこは愕然となる。
<モモ、お前は確かに強い。……けど、みんなの前に立って戦うことだけが、リーダーか?>
<っ……!!>
<お前の本領はそこには無い……。
<!!…………>
歯痒いが、仕方なかった。
カマキリ男を前にして、腸が煮えくり返って仕方ない。しかし――
ももこは大剣を下ろし、踵を返して走り去っていく。
「おいおい、敵を前にして逃げるのかぁ~? ……ま、懸命な判断か……」
その後ろ姿を眺めて、カマキリ男はやれやれと苦笑を零した。
だが、次の瞬間――
「いい加減にしなよ。山吹の兄ちゃん」
「ッ!!」
背後からそう呼ばれて、カマキリ男が目を大きく見開く。
振り向くと、カエレが立っていた。
「まさかお前は……」
「久しぶりだね。20年ぶりか……兄ちゃんは、随分変わっちまったね」
魔法少女と祟神の化身。
お互いに憎み合う宿敵同士。
だが、カエレの雰囲気はうってかわって和やかだった。
旧友に会えたかのように、懐かしそうに目を細めて、穏やかな笑みをふっと零す。
「黙れ……」
カマキリ男は白い手袋嵌めた左手で、シルクハットをぐっと深く被る。
昔の知り合いに、今の自分を見て欲しく無いかのように、顔を覆い隠す。
溜め息を付いた後、カエレは続ける。
「……昔の兄ちゃんは、もっと優しい人だった筈だよ」
「…………」
カマキリ男は深く俯いたまま――
「……ねえ、山吹の兄ちゃん、どうして兄ちゃんは――深雪さんを殺したんだ?」
「…………………………」
――その質問に、何も答えなかった。
しかし、固く握り締めた右拳が、わなわなと震えていた。
それは怪物の皮の中に隠した、山吹啓吾の本心。
言い表せない程の強い後悔が、内側で炸裂しそうな程に膨れ上がっている証拠であった。
ボス戦のプロット用意してあったのに、すっかり忘れて書いてしまった。
もう後戻りできない。ちくしょう。