魔法少女いろは☆マギカ 第2部 RE:Ms.Pain Planter(休載中 第二章一部完結済) 作:hidon
――モモ、お前が怒る気持ちは、よく分かる。
――でも、それじゃあ、本領を発揮できない。だからまずは、どうにかして自分を安心させな。
「大丈夫ですか!?」
カエレのアドバイスを思い出しながら、ももこは十字架に磔にされていた男性を開放した。
若い警察官だった。仲間の捜査員ではなく、交番勤務の制服で、ガタイも良い。
バスターソードで鎖を断ち切ると、落下した男性の体を抱きかかえて呼びかける。
息は有った。男性は目を覚まし、応える。
「ありがとう……! 俺は捕まったばかりだから、まだ大丈夫だ。だが……他の人達が」
警察官の男性が遠くを指さす。
そこに見えるのは――
「助けてえええええええええええ!!」
「嫌だあああ!! さっさと殺してくれえええ」
「神様……神様ぁ……!!」
無数の十字架と、悲嘆を絶叫する磔にされた人々。
まだ、あんなに沢山――
呆然とするももこに、肩を借りてよろりと立ち上がりながら、警察官が語りかける。
「負の感情エネルギー……と奴は言っていた」
「!? なんですかそれっ?」
「よく分からない。だが絶望した人間から回収できるという……奴はそれを餌にしているんだ……! 吸われ尽くした人は……!」
警察官が別の方向を指さした。
小学生高学年ぐらいの小さな女の子が、磔にされたまま、項垂れていた。
その表情に生気は無く、虫の息だ。
「あの子の様に廃人同然となり、あいつに首を切られて殺されるんだ……!!」
話しながら、警察官の肩はガタガタと震えていた。
その光景を見たトラウマが蘇ってきたのかもしれない。そして、警察でありながら、助けを求める人を救えなかった絶望感も。
「あの野郎……! なんて酷い事を……!」
「君は魔法少女だろ。他の人達を助けるつもりだな……?」
「……はい!」
一人でも多くの人を開放する。
ももこにとって、少しでも自分が安心できる手段がそれであった。
力強く頷くももこに、警察官は目を鋭くさせる。
「なら、俺にも手伝わせて欲しい……!」
「そんな無茶な!?」
「水名署に帳場が立てられた事は知っていた。仲間が祟りのことで必死に頑張っている中、俺は個人的な都合で妻と喧嘩し、別れてしまった。結果、奴らに捕らわれて、この様だ。罪の無い人達を殺されるのを黙って見ていることしかできなかった……情けない話だ! だから、せめて……償いぐらいはさせてくれ!」
彼もまた力強い瞳で訴える。
彼の警察官としての信念が恐怖を抑え、戦う覚悟を示させた。
だが、ここは魔女の結界と同じ。一般人を戦いに巻き込みたくないももこは悩む。
「でも……!」
「武器は持っている」
警察官の腰には警棒とホルスター(銃)が刺さっていた。
それを見て、ももこが微笑む。
「……なら、安心だ。一緒に救助をお願いしますっ!」
「了解した!」
ももこは警察官の警棒とホルスターに魔力を当てて強化した。
これで、鎖を破壊することができるし、魔法少女が襲ってきても対抗することができる。
ももこは大剣を、警察官は刃物状に強化された警棒を持ちながら、共に駆け出した。
一人でもこの地獄から救う為に。
(カエレさん、頼むよ……!)
――モモ、どうやらこの空間は、メンタルが自分の強さに影響するようだ。
――そうなると、かえでちゃんが、奴の言いなりになったのも。レナちゃんが、奴を足止めできていたのも説明がつく。
――恐らく、山吹啓吾も同じ影響下にあると考えられる。
――私は、ヤツの素性を知っている。揺さぶった後、落ち着きを取り戻したお前の真の力を発揮すれば、勝機は見える筈だ。
(アタシの、真の力……)
自分でも、よく分からなかった。
ただ、カエレだけが気付いている。
鍵は、ももこ自身の“願い”にある。
それは、果たして――
「先代から聞いたよ。昔の兄ちゃんの事を――」
カエレが遠くを見据えるように、目を細めて語り始めた。
――カマキリ男の本性・山吹啓吾は、元々“疎開”の人間だった。
それは、20年以上前の話。
カミハマヴィレッジが、前身の金融業だった頃まで遡る――
創業者である先代が、ある債務者を取り立てに行った時の話だ。
その男は、多重債務者で当時、先代は彼に何ヶ月も返済を踏み倒されていて、怒り心頭だった。
家を訪問して怒鳴り散らすが、全く返事が無く、玄関の鍵が開きっぱなしになっていた。
不審に思った先代が中に入ると、居間で首を吊った債務者の死体を発見した。
そして――
「――その近くで泣いていた貧相な少年が山吹啓吾、アンタだった」
「…………」
「先代に拾われたアンタは、会社に住み込みで事業を手伝った。先代の話では非常に飲み込みが早く、将来有望な役員になると期待された」
やがて、大人になった山吹啓吾は先代の勧めで宅建の資格を取り、弟が経営する不動産会社に転職した。
「そこでの営業成績はトップで人望も厚かったと聞いている。本社を東京へ移転する際、そのプロジェクトリーダーを任されていたと……それほどに立派な人間が、どうして?」
「お前に何が分かる……」
カマキリ男はカエレと目を合わせなかった。
消え入りそうな声で返しながらも、顔を深く俯かせたまま。
シルクハットを深く被っているせいで、表情が伺えない。
「やっぱり、深雪さんのことか……?」
隙間から伺えるカマキリ男の複眼が血走っていく。
「そうだよ……アイツが、全部悪いんだ……。アイツが、俺を裏切らなければ……!」
「それは違うよ。深雪さんは、アンタをずっと待っていた。アンタがもっと早く声を掛けて会いに行ってやれば、こんなことには……」
「ッッ!!」
カマキリ男が顔を上げた。
くわっと充血した複眼を剥いて、大顎を開放!
「黙れ!! 何も知らない癖に勝手なことをべらべらと!! お前みたいなガキに分かって堪るか!! 俺の絶望と孤独と悲しみが!!?」
「山吹さん、アンタ、本当は……」
「それ以上言うな!! 俺はもう山吹啓吾じゃない!! 祟りを司る神……パブロ・ディエゴ様だあああああああああああああ!!!!」
喉を引き千切らんとする程の怒り狂った絶叫と共に、カマキリ男が飛び出した。
カエレに向かって、大鎌に変形させた両腕で挟み掛ける!
しかし――
「ッ!!」
カマキリ男が大きく目を見開いた。
挟み込む寸前でカエレの姿がフッと掻き消える。
一瞬で背後に回り込み、バトルアックスの一撃を首筋に叩き込む――
「おっと!」
――が、決まらなかった。
必殺の一撃は、振り向き様に、ガキンッと大鎌に受け止められた。
「!? ……流石に二度目は無いか……!」
「動揺させれば、俺を倒せると思ったか……? “錯視”っていうんだろ、お前の能力……」
「……!」
ギクリとした。
焦りを悟らせないように冷徹な顔のまま、目を鋭くするカエレ。
「なるほど、お前の攻撃は意識しなければ見えないんだな……人間は普段、意識せずに物を見てるからなあ。不意打ちのタネはそういうことか……。だが生憎、俺はカマキリ男だ!!」
「!!」
やはり、あの複眼で見切られたか。
「カマキリの強さ、知ってるか。その気になれば天敵の鳥すら捕らえて食っちまうんだぜ? それが人間の大きさになったらどれだけ怖ろしいか……考えたことあるか?」
まずい――とカエレがバックステップで退こうとする次の瞬間!
「こうなるんだよおおおおおおお!!」
両腋から深緑の二閃が迫る!
一瞬でカマキリ男の両腕の大鎌が、カマキリ本来の前足に変身し、バツンッ!!とカエレの体を挟み込んだ。
「くっ……!」
抵抗するが、身動きが取れない。
カマキリの前足は鋸鎌の様な形状に発達している。つまり、このギザギザとなる部分を、しげみに引っ掛けたり、捕らえた獲物を放れなくさせる。
身をよじる度に、ギザギザが肌に食いついて、鋭い痛みが走る。
「っ!!」
「予定変更だ。お前はムカつくからじわじわと追い詰めてから殺してやる」
血走った複眼を向けながら、大顎がガバリと開いた。
瞬間、カエレの全身から、黒いアトモスフィアが放出される。霧状に宙に浮き出るそれらは、カマキリ男の大口に吸収されていく。
「くそっ……!!」
「アーハッハッハッハ!! いくらもだえようが無駄だ!! 負の感情エネルギーを全部吸い尽くして、生ける屍にしてやるぜ!!」
「負の感情エネルギー……なんだい、そりゃ?」
「これから死ぬお前に教えると思うか?」
「フッ……、昔の兄ちゃんは、虫も殺せない人だって、先代が言ってたのにね……!」
「その目がイラつくんだ……
話しながらも、カエレの体から負の感情エネルギーがどんどん噴出し、カマキリ男に吸い込まれていく。
まずいかな、そう思いながらも、カエレは――
「そうかい、じゃあ、性根を叩き直してやるしかないか……」
――挑発をやめなかった。
「今のお前に何ができる」
ケラケラ笑って一蹴するカマキリ男。
「確かにアタイには、何もできないさ。“今のアタイ”には……」
「なに?」
くくく……とカエレは含み笑いを零す。
死を直前に気でも触れたか、とカマキリ男は悟ったが――
「フェリー!!」
ギュンッ!!
――刹那、背後から風切り音。
勢いよく飛来してくる“何か”を察して、カマキリ男が慌てて振り向いた。
まずい、
複眼が捉えたのは、巨大な槍。蜂貴院優花のハルバード!
カマキリ男の弱点となる“水”を存分に含んだ蒼穹の槍が、遠く離れたフェリシアによって投擲された!! 距離は既に目前!!
「うああああああああ!!?」
カマキリ男もこの状況には焦った。
絶叫混じりの銀色の横一閃が、金属音と同時にハルバードを弾き落とした。
カエレの開放と同時に、片腕を大鎌に戻し、振り向き様に薙いだ。
落ちたハルバードの刃が、アスファルトの床にドッと突き刺さり――魔法陣を形成!!
やばい――と、カマキリ男がバックステップで退こうとした時にはもう遅い。彼の体は既に、陣の内に入っている!!
「っ……ぐああ!!」
足元から突如、間欠泉が発生!!
勢いよく噴出した水圧がカマキリ男の顔に直撃! 鼻頭を思いっきり殴られたような痛みが走ると同時に、大量の水が目と鼻と口に叩き込まれた――結果。
「っ!? うげっ、げほっ、ガホッ!!」
カマキリ男が、
地上にも関わらず。
窒息による酸素不足と水のせいで視界がボヤけ、呼吸ができない。
(!? まずいぞ……これじゃあ複眼が使えな――)
その場で直立不動のまま激しくむせ返るカマキリ男に、
「……」
カエレは音も無く背後に接近。
両手に携えたバトルアックスを大きく振り上げ、そして――
「ハアッ!!」
裂帛の気合と共に、振り下ろす!!
金色の二閃が走り、カマキリ男の両腕を肩口から斬り落とした。