魔法少女いろは☆マギカ 第2部 RE:Ms.Pain Planter(休載中 第二章一部完結済) 作:hidon
FILE-2 #01 混沌の少女
オレの中には、“混沌”がある。
オレの鼻腔に、血の臭いや肉の焦げた臭いが広がる。
それを悪臭だと感じるような嗅覚は、研修時代に捨て去った。
何の研修かって?
それは当然、“傭兵”――つまり、ヤクザだ。
オレが地面に目を落とすと、“裏切り者”の朝鮮人の死体が転がっていた。
年はオレとそう変わらない、女の子。なんなら、親がいない者同士ウマがあって、一緒に飯も食った仲だ。けれど、
「
“アネゴ”はそいつを見下げてそう蔑んだ。
本当に、ゴミを見るような目で。
「死んで当然だ。なに、フェリーもすぐ慣れる」
オレはアネゴに従った。
そいつの事をカワイソーだと思ったが、従わなきゃオレが殺される……いや、殺されないが、地獄のシゴキが待っている。
オレが研修時代にいた“組”は、それがルールで、オレにとっちゃ当たり前の“日常”だった。
「…………っ」
オレは息を飲んで、そいつを眺めていた。
火傷で、全身のほとんどが炭化している。キツイ拷問の末に両手の指は全部切り落とされ、硫酸を掛けられた顔面の皮膚が消失し、頭蓋骨が覗く。腹部が破れて内臓がこぼれているのに、傷口が焼けているから出血はほとんどない。
人間を焼いたあとの強烈な酸性の臭気が、目と鼻にしみる。
「……ごめんな」
オレはアネゴに聞こえないように、ぽつりと呟いた。
体の制御を失って、くにゃりとくずおれたそいつの肉体に、無心で土を被せてやった。
ここは山奥で、
“何を”埋めようが、誰も気にしない。
「初めてにしちゃ、やけに落ち着いてたな。上出来」
――その晩。
アネゴはオレの仕事を褒めてくれて、褒美にステーキをご馳走してくれた。
今思えば、アネゴは飴と鞭の使い方が、絶妙に上手かった。だから、オレも良いように飼い慣らされていたと思う。
夢中になってオレはそれを頬張った。人を殺して、焼いて棄てた後なのにな……。
――――落ち着いてるだって?
当然だろ。
見慣れているんだ、オレは。
研修時代より前に。
オレは焼け焦げた死体を見たことがある。
何度も。何度も。
こんがり焼けて、皮がパリパリになったチキンのような。
焼けると筋肉が収縮して、それに負けた骨が折れたりしているのを見ると、人間というのはどこまでも物理的な存在だと思う。
死体になれば、とことんモノでしかないんだ。
そういうのを、何度も。
何度も。何度も。何度も。何度も。何度も見た。
何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も見た。
オレの“夢”の中で。
☆
――――翌朝。
オレは相方の環いろはと、
横の窓から覗くのは、雲ひとつ無い晴天。聞こえてくるのは、スズメ達の穏やかな鳴き声。差し込んでくる陽光が、起きたばかりの冷えた体を温めてくれる。
うん、今日は良い一日になりそうだ!
そんなことを思いながら、バターをたっぷり塗ったトーストを口に運ぼうとした矢先だった。
「……ねえ、フェリシアちゃん」
「っ、なんだよっ」
いろはの顔は真剣そのもの。
オイコラ、朝食にシリアスをぶっこむんじゃねーよ。
清々しく楽しい時間を邪魔された気がして、オレはムッとなる。
「……フェリシアちゃんは、どうして、大賢者試験を受けたの?」
なんだ、そんなことか。
オレはわざとらしくため息をついて、自身たっぷりに答えた。
「そりゃ勿論、強くなるためさ!」
「……っ!」
予想通り、いろははムッとした。
オレの楽しい時間を奪ったお返しってやつだ。
「大賢者に会えば、秘術が2つも手に入るんだろ。“
「今でも十分強いのに……どうしてもっと強くなろうとするの……!?」
なんだよ、いけないのかよ。
「強さは自由とイコールだ。オレはそう教わってきた」
強くなりたいっていうのも、オレの紛れもない本心であり、目的だ。
もっともっと強くなって、いつかあの部長様も叩きのめすぐらい、“最強”になれば、オレは晴れて自由の身になれる――そんな気がした。
「その為なら、人を傷つけたって構わないって訳……?」
「お前だって
「っ!!」
おっと、やりすぎた。
オレは
いろはの顔がブスッとむくれる。
「良い顔が台無し」
「うるさい」
プイッとそっぽを向いて、低い声で怒るいろは。
やれやれ。
「なに怒ってんだよ」
「別に。怒ってないよ」
「怒ってんじゃん」
「怒ってないってばっ!」
どー聞いてもメチャクチャ怒ってますがな。
ったく。この年ぐらいのガキは扱いがむずかしーな。
まあ、オレもガキなんだが。
「メシは?」
「いらないよ」
「じゃあ、オレがもらおーっと」
「っっ!!」
急にこっちを向いたかと思ったら、何も付けていないトーストをガツガツと貪り始めるいろは。
やっぱり、ムキになってんじゃねーか。
……案の定、ゲホッゲホッとむせこんだ。オレがそれをゲラゲラと笑うと、更に頭に来たようで、目玉焼きとサラダを口に押し込み牛乳で流し込んで、余計にむせこんだ。
……何がしたいんだか、全く。
なあ、いろは。
お高く留まってんじゃねーよ。
オレは気づいてるんだ。
お前はオレと同類だ。
中に、“闇”が沈んでる。
――――オレの中には、“混沌”がある。
いろんな色がぐちゃぐちゃに混ざり合ってできた、ふかいふかい“黒”が。
オレにさえ何が有るのかさっぱり分からない、ドス黒い暗闇が、心の奥底に広がっている。
オレはいつか知りたい。
そこに、何があるのかを。