魔法少女いろは☆マギカ 第2部 RE:Ms.Pain Planter(休載中 第二章一部完結済) 作:hidon
明るくて、社交的なのは、アタシの自慢だ。
……でも、ジジくさいってレナに言われた。
分かってる。アタシだって、女の子らしいムーヴが柄じゃない。
男兄弟に挟まれて育ってきたし、弁当だってがっつり肉食系。更に大好物が焼き鳥とかタコ焼きと来たもんだ。
そんな男っぽいっていうコンプレックスが邪魔して、恋愛に積極的になれなかった。
――一歩を踏み出す、勇気が欲しい。
でも、好きな男子の前で、いつかそう振る舞えたら。
例えば、擦りむいた時にさっと絆創膏を差し出すとか。
重いものを持ってる時に、手伝ってもらったり。
自分が怪我したときには、負ぶってもらったり。
一緒にカフェに行って、甘いスイーツを食べて笑い合ったりとかさ。
だから、
「好きな人に告白する勇気が欲しいんだ」
……結果は、玉砕。
つまり、バッドエンドって訳だ。
あいつの事が好きな女の子がいて、その子が先に告白したから、アタシは退いた。
『叶うことで確約された願いで、恋の成就を願うだなんて、邪道にもほどがある』
『一歩踏み出したその先の景色を……アタシは見てみたいんだ』
思い返せば――そういう所だぞ、十咎ももこ。
契約する直前、散々頭の中でカッコつけてたけど、結局それっぽい理屈で言い訳して二の足踏ん出るオッサンと一緒だったじゃないか。同い年の女子だったら、開口一番恋愛成就だろ。分かってんのか。
――でも、それで良かったんだ。
物語ってのは終わったら新しく始まるもんだって、気づけたから。
魔法少女になってなかったら。
アタシが今こうして、カエレさんと巡り合うことも。
調整屋に傍で支えてもらえることも無かった訳だし。
何より――
――ももこちゃんっていっつもレナちゃんのわがまま聞いてくれるし……。
――何があっても笑って許してくれるし。
――でも、本当に私がダメダメなときはしっかり怒ってくれるし。
――リーダー、ピッタリだよね!
――これからは平気。
――魔法少女の時も、そうじゃない時も。
――ももこのタイミングの悪さなんて、レナがフォローしてあげる。
レナやかえでと、一緒にいることも無かったと思う。
そういう事なら、きっとアタシは、無茶苦茶幸せ者な筈だ。
器用に取り繕って、適当に生きてるヤツより。
不器用でも一生懸命な“みんな”のことが、アタシは大好きだ。
(そうだな……)
大好きなみんなが、今も必死で戦っているんだ。
ここで苦しんでいる人たちの為に。
だから、応援してあげなくっちゃ。
(そういうことか……!)
ようやく思い出せたよ、カエレさん。
アタシの魔法は、その為に有るんだったな。
「みんな!!」
突如、腹の底から、声を張り上げるももこ。
「……?」
「ん……?」
目先に這い蹲り泣き叫ぶ人たちの大半の耳には届かない。
反応してくれたのは、3人程――しかし、それで十分。
「みんなの苦しみはよく分かる。いくらでも悲しんで構わない! でも、魔法少女の事だけは、諦めないで欲しいんだ!!」
3人は呆れるような眼差しをももこに向けて、一斉に吐き捨てた。
「……馬鹿も休み休みいえ」
「奴はもう無敵だ……もうどうにもできないんだ……」
「あぁ……神様……かみさま……!」
「それだ!!」
両手を合わせてひたすら祈るその女性をももこは指し示す。
「……え?」
「お姉さん。死ぬほど辛くても、神様には祈れるんだろ?」
「それは、そうだけど……」
「ここにはいない神様ってのに救いを乞えるんだ。だったら、その祈りをここにいる魔法少女達に向けることだって、出来るはずだ!」
何やら自信たっぷりな笑みで言うももこに、三人の大人はきょとんとなる。
「え……?」
「はあ? 意味わからん……」
「なあ、そこの兄さんとおっちゃんも頼むよ。アタシも一緒に祈るから、さ?」
ジジくさいとはいえ、ももこは年頃の少女である。
加えて露出度の高い魔法少女衣装のお陰でスタイルの良さが際立つ。
笑顔で“オネガイ”ポーズされたら、首を縦に振らない男はいない。
「……ま、まあ、他に方法は無さそうだしなあ……」
「くそ、こうなりゃヤケだっ!」
「魔法少女の皆さん……お願いです。私達をこの地獄からお救いください……!」
男二人は、女性と一緒に両手を合わせて、魔法少女に向けて祈り始める。
泣きわめいていた他の人達も、三人の様子を何事かと注目し始めた。
「みんなも、アタシと一緒に、魔法少女を祈ってくれ!!」
彼らの何人かを見て、ももこは気付いた。
いくら絶望に打ちのめされても、神様に祈ることぐらいはできる。
まずは三人が祈ればいい。
いずれ、連鎖的に全員祈るようになるはず。
そう願い、ももこも両手を合わせて、祈り始めた。
「みんな、頑張って……!」
(これから、アタシ達がみんなに掛けるのは――)
――願いによって得た力、『激励』の魔法。
勇気を与える、魔法。
☆
「レナ、ちゃん……それ」
「真鍮のリング……アンタ、作ってくれたでしょ」
それを見た途端、締める力が弱まった。
レナの首から手を放し、かえでは呆然としていた。
白くボヤけていく視界の中で、レナはかえでをしっかりと見据えて、それを見せた。
「レナ、覚えてたよ……」
「っ!!」
「3人でこれを付けて出かけるって、約束……レナ、ずっと覚えてた」
「…………」
「でも、みんな、忙しくて、行けなかった。ごめん……かえでが楽しみにしてるの、知ってたのにね……」
「そんな……!」
――アンタのこと、トロいとか言ったお詫び。
(そ、そんなっ……! トロいのは事実だし……)
――これでチャラ。受け取んないってことは、レナのこと、許さないってことになるんだからね?
レナとの記憶が、蘇っていく。
結界したダムから溢れる激流のように、かえでの脳に流れ込んでいく。
「うぅ……」
「かえで……!?」
「あぁ……あああああああああああああ!!!」
「ぐ……しっかりして!」
かえでが突然、頭を抱えて苦しみ始めた。
レナは起き上がり、かえでの体を抱き締める。
かえでが凄まじい力で抵抗するが、構うもんか。もう、絶対に放さない。
「かえで!!」
「や、めて、レナちゃん……うぅ」
(レナちゃんは、クレーンゲーム、よくするの……?)
――まぁ、アイドルグッズが出てるときだけね。コツ、教えてあげよっか?
「レナちゃんは、ずっと、優しくて……!」
「……うん」
「おせっかいなぐらい、私のこと、気にかけて、くれて……」
「……うん」
「でも、どうしてなのか、わからない。わたし、下僕、なのに……」
「当たり前でしょ。アンタのことが心配だからよ」
「心配……??」
――不安? 大丈夫よ。一人で戦えってんじゃないんだから。
また記憶が蘇る。
かえでがくっと口元を歪めた。
「私が、鈍臭くて、ダメダメだから……?」
「それもあるけど……アンタが、素直で優しいからよ!」
「私が……?」
うん、とレナは迷わず頷いた。
そして満面の笑顔で、はっきりと伝える。
「お日様みたいなアンタと一緒にいると、レナも暖かい気持ちになれるのよ」
「……!!」
「ももこだって、きっと同じ気持ち。だから、早く戻ってきなさいよ……」
ぎゅうっとかえでを抱きしめるレナ。
「アンタはレナの下僕で、
「レナちゃん……」
また一つ、思い出した。
――アイドルってさ、グループ内のキャラ被りはご法度なの。
――グループとかチームはとにかく、バランスが大事なの。
――必要ってことよ。かえでの慎重さが……アタシとももこにはさ。
『……かえで、何をしてる』
お互いの温もりを全身で感じている時。
突如、頭上から声を掛けられた。
「……!!」
「ディエゴさま……!?」
レナとかえでが揃って天を仰ぐ。
漆黒の闇空には、半月状の複眼が不気味に瞬きながら、二人を見下ろしていた。
「カマキリ男……!!」
レナがキッと睨みつける。
巨大な複眼は敵意に構わず、苛立ちの混じった指示をかえでに向けた。
『さっさとその裏切り者を殺せ。そいつはお前を放って男に走った奴だ』
「…………」
『お前を苦しめる居場所を、破壊しろ!』
「それは……」
曖昧な様子のかえでに、カマキリ男が声を荒げる。
『何故目を逸らす!? お前は分かっている筈だ!! お前の気持ちを理解できるのは俺だけだ!! 俺が!! 俺の生み出したこのウワサの世界こそが、お前にとっての本当の居場所だと!!』
「うぅ……」
『……俺の傍で何人見殺してきた?』
「う……うぅぅぅぅ!」
『お前は人が首を切り落とされたって何も感じなかっただろう? お前は元々、そういう人間なんだよ。俺と“同じ”なんだ。今更、降りることが許されると思うか……? もう、“こっち側”なんだよ! お前は!!』
「ぅうぅぅぅ……ああああああああああああ!!!」
「もうやめて!!」
再び頭を抱えて苦しみ藻掻くかえでを、レナが再び抱き締める。
そして、複眼に向かって、強く吠えた!
「アンタにかえでの何がわかるってのよ!!」
『わかるさ……こいつは男と戯れるお前に嫉妬してたんだ。孤独と喪失感と怒りで狂いそうになっていたところを、俺が救ったんだ』
「救った? これのどこがよ!? 苦しんでるじゃない!!」
『かえでは俺の事を受け入れてくれた! 俺の醜い姿を! 孤独と絶望を! 俺の暗黒を! だから俺はかえでの全てを受け入れる! 俺達は互いに分かりあえていた!! かえではこの世界で永遠に暮らしたいと言ってくれた!! それが全てだ!!』
「都合の良い事言って近づいて洗脳しただけじゃない! 受け入れたんじゃなくって受け入れてほしかったんでしょ!! アンタが、寂しいから!!」
複眼がぐらりと歪む。
『っ……お前が俺にそれを言うのか!? かえでを“下僕”扱いするお前が!!』
「かえでは最高の下僕よ!! 絶対に渡さない!!」
『傲慢なガキが!! お前如きにかえでが救えるか!!』
「うるさい!! かえでをこんなに苦しめて、望まない人殺しまでさせて、レナ達と戦わせて……本当にこの子を救ってあげたいなら! 一緒にいたいなら! 少しでもこの子の事を分かってあげなさいよ!!」
『お前にかえでの何が分かる!?』
「分かるわよ! かえではレナよりずっとヒーローだった! ペットの世話に一生懸命で、家庭菜園の為に願いを捧げたかえでの方が!」
――ごめんね。かえで。
叫びながら、レナはかえでの体をぎゅっと抱き寄せる。
もう二度と、自分から離れないように。
「レナに怒られても、ももこに呆れられても、ずっと優しくて素直なままで、悩んでも絶対にへこたれない! 誰よりも心が強くて素晴らしい人間のかえでが、アンタみたいなキモくて心の弱い殺人鬼と一緒!? ありえ無いでしょ!! ふざけんじゃないわよっ!?」
『黙れクソガキ!! お前に俺を攻める資格が有ると思うか!? とっととかえでを寄越せ!!』
複眼が怒りで真っ赤に染まった。
周囲に充満する漆黒の瘴気が集合して、触手のように変化し、レナの体に纏わりつく。
かえでから引き剥がそうと凄まじい力で引っ張ってくる!!
「いや!!」
全力で抱き締める。
かえでと体を密着させながら、レナが叫んだ!!
「かえではレナのものなの!! 一番大事な人なの!! 死んだってアンタなんかに渡すもんかあああああ!!」
――だって、これはただのマスコットなんかじゃない……
――レナたちだけの、●●●●●なんだもん。
「レナちゃん……!」
レナの必死な叫びと、流れてきた記憶。
かえでは確信する。
――そうか、そういうことだったんだ。
『かえで、分かるだろ? お前には俺が必要なんだ……』
複眼が、うってかわって穏やかな声色で語りかけてくる。
「…………」
かえでは、何も答えなかった。
『俺が、お前の居場所になってあげられる。お前もそれを望んだ筈だろう。なあ、かえで……二人で永遠の自由を享受しよう……』
「…………」
無言。
苛立ったのか、カマキリ男の語気が強まる。
『……おい、聞いてるのか? 分かってたら、返事をしろ。早くそいつを突き飛ばしてこっちに戻れ』
「…………」
密着するレナの体は、熱い。
彼女の体に纏わりついている触手は、冷たかった。
『俺の言うことが聞けないのか? 都合が悪くなって逃げ出したお前を受け入れたのは誰だ? 恩を仇で返す気か……!?』
「…………」
『かえで!! 何ボサボサしてる!! とっととそのクソガキを殺せって言ってるだろうが!! いい加減俺の為に働けよッ!! このウスノロがぁ!!』
そして、かえではもう一つ、確信した。
「…………それが、“答え”なんですね。ディエゴさま」
『何?』
「私を救いたいって気持ち、結局“ウソ”だったんですね……」
『ふざけるな! これ以上逆らえばお前もッ!』
「レナちゃん伏せて!!」
「っ!!」
二人が目を瞑り、同時に頭を下げた瞬間。
突如、闇が引き裂かれた。
目が眩む程の眩い光芒が差し込んだ。
『っ!! ぎゃあああああああああ!!』
天に広がる漆黒に大きな穴を穿ち、カマキリ男が悲鳴を挙げ、複眼が大きく揺れ乱れた。
降り注がれた白光は、一直線にレナとかえでに降り注がれる。
「これは……ももこ!?」
「今だ!!」
まるで太陽の朝日だ。
何故だか分からないが、この光がももこの能力だとレナは勘づく。
その隣で、かえでが立ち上がり、杖を大きく天に挿頭した。
足元に朱色の魔法陣が形成。
かえでの周囲の路面から、蔓がわらわらと出現。光を浴びたそれはぐんぐんと急成長し、天に向かって勢いよく伸びていく。そして――
『ぐぁっ!!』
ザクリッ!!
カマキリ男の短い悲鳴が響く。
勝負は決した。
極太に急成長した複数の蔓の先端が、天に浮かぶ複眼に次々と突き刺さっていく!!
「ディエゴさま……ごめんなさいっ」
傷口から血が滲み、真っ赤に染まる複眼に向かって、かえでは謝りながらも、強い眼差しを向けていた。
『かえで……なぜだ?』
「あなたに捕らわれた時、あなたの孤独と絶望の感情が、私に流れ込みました……あなたの気持ちは分かってます」
『なら……!!』
「でも……。でも、私は、帰ります……」
「かえで……」
レナは呆然とかえでの後ろ姿を見つめていた。
「私の居場所に!! 私を必要としてくれる人たちの下に!!」
そこでかえでは変身を解いた。
ポケットから何かを取り出して、複眼に見せつけた。
「この、“モカウサギ”に誓って……!!」
「かえで、それ……!」
その手のひらに乗るサイズの小さな人形に、ハッとなる。
出会い初めの頃、レナがクレーンゲームで取ってあげたものだった。
『そんなものの、為に……?』
「そんなものじゃない。私達だけのチームの証、だよね? レナちゃん」
かえでは振り向いて、レナに笑顔を向ける。
「!! ……うんっ!」
レナもまた、嬉しそうに笑顔を見せて頷いた。
光が差した彼女の顔は、誰よりも綺麗に見えた。
かえではようやく分かった。
一時の嫉妬心に支配されて、忘れてしまっていた。
レナとの間に確かにあった、楽しい思い出の数々を。
そして、気づくことができた。
『レナは最初から自分を“友達”と認めてくれていた』――その事実を。
『クソッ……』
名残惜しそうに吐き捨て、複眼が消滅する。
同時に、周囲を覆い尽くしていた闇が霧散した。