魔法少女いろは☆マギカ 第2部 RE:Ms.Pain Planter(休載中 第二章一部完結済)   作:hidon

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彼の頭上にも、足元にも、彼を支えるものはなに一つ無かった。

それは僕にもわかっていた。

地を蹴って天翔っていたとでも言おうか。恐ろしいことだ。

――むしろ彼は、大地を粉微塵に踏み砕いていたのだった。

全くの孤独だった。


――コンラッド『闇の奥』









 


FILE-2 #34 絶交階段のウワサ / ウワサの支配人⑦ 決着編C

 

 

 

 

 

 

 

「灯花ちゃん、あなたの思い通りには、させない……!」

 

 悪魔の瞳。

 全てを深淵へと誘う妖しき紅光が私を見下ろしてくる。

 でも、屈する訳にはいかなかった。

 

「ふーん……」

 

 

 ――カエレさん、みんな……!

 

 ――レナちゃん……!

 

 ――かえで……!

 

 ――モモ。

 

 

「何度本音でぶつかっても、一緒にいられる。そういう関係ってすごく尊いものだと思う」

 

「…………」

 

「だから私は、その絆を切ろうとしたあなた達を許せない!!」

 

 微かに。

 だがはっきりと、この耳に聞こえてきた。

 今、一緒に戦っている仲間達の、お互いを慈しみ合う声が!

 だから、

 

「あなた達を、止める! みんなを救う為に!!」

 

 灯花ちゃんが、フッと笑みを零す。

 何を虫の良いことを――と、言いたげに。

 

「それをあなたが言うんだ? 妹を苦しませたあなたが? 絶望に追い込んできたあなたが?」

 

「それは……っ!」

 

「やれるなら、やってみればいいよ」

 

 瞬間。

 私の視界が光に覆われ、同時に意識も光の中へ堕ちていく。

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――ここは……。

 

 眼を覚ますと、いろはは、無音の闇を漂っていた。

 顔を上げると、モノクロの映像が流れている。

 

 ――――これは、彼の……?

 

 

 

 

 

 

 パブロ・ディエゴ(カマキリ男)=山吹啓吾は。

 自分を特別な人間だと思った事は無かった。

 

 才能が無かったのだ。

 背は低く、丸顔で。金も無い。勉強も不得意。

 家柄も底辺で、父は毒親だった。

 

「なんとかなるさ」

 

 いつも言い訳のようにそれを口にしていた自堕落な父は、ある日、学校から帰ると死んでいた。

 自殺だった。

 居間で首を吊っていて、父といつも食事をしていたちゃぶ台の上は流れ出る汚物に塗れていた。

 結局、なんともならなかったじゃないか。

 いつかは、こうなる気がしていた。父は、自分を捨てて逃げるだろう、と。

 

 でも、それは今じゃない。

 今でなくて良かった筈だ。

 

 全てがガラスを割ったように壊れた感覚が彼を襲った。足元がふっと軽くなり、その場で膝が崩れ落ちた。

 たまたま来ていた借金取りが、泣いている彼を見つけてくれた。

 それからは、彼が父親を務めてくれた。

 

 

 

 

 新しい家族、生まれ変わった人生。

 “租界”に彼を連れてきた新しい父は、暖かい食事と、欲しかった流行りの衣服、そして金と本を与えてくれた。

 前の父親とは打って変わって、優しく、そしてよく働く人だった。

 

「金を動かせる男になれ」

 

 それが、先代(オヤジ)の教えだった。

 先代は金持ちで、頭も良く、法律とお金の扱い方に精通していた。

 世の中の善悪の限りを知り尽くしていて、特に生き延びる術に関しては、彼の右に出る者はいなかった。

 彼の下にいたお陰で、山吹は色んな知識を吸収し、たくましく成長した。

 

 

 山岸深雪と出会ったのは、18の時だった。

 青み掛かった長髪が印象的な、綺麗な人だった。

 父親は市議会議員を努めていて、水名区の生まれで今は新西区在住。

 生まれ持っての富裕層。山吹とは身分違いも甚だしい。

 だが、二人はすぐに打ち解けた。

 深雪は大学で経済を学んでいて、金の流れに詳しい山吹と話があったのだ。

 以降、二人は、水名中央団地の公園で度々会って、話をした。

 

 もしかしたら――

 

 淡い欲望が山吹の中で目覚める。

 

 ――彼女になら、受け入れても貰えるんじゃないか?

 

 意を決して、山吹は身の上話をした。

 先代以外に話したのは、初めてだった。

 嫌われるかもしれない――だが、深雪はその話を静かに聞いて、過酷な少年時代を哀れんでくれた。

 心の中が、かーっと熱くなっていく。

 今までにない激しい感情を、深雪に抱き始めていた。

 

 それは、初恋であった。

 

 

 

 

 成人した山吹は、晴れて深雪と恋仲になった。

 最初は山吹の生い立ちに難色を示した深雪の両親も、彼の才徳兼備ぶりに歓心し、交際を認めてくれた。

 

「金を手に入れたいなら、土地を動かせるようになれ」

 

 背が低く、顔立ちも平凡で、生まれ持った才能も無い。

 何も持ってない自分が、深雪と釣り合うには、そうするしかない。

 土地を動かせば、もっと大きな金が手に入る。

 先代の教えを胸に、山吹は宅建の資格を取り、先代の弟が経営する不動産会社に就職した。

 そこで、彼はよく働いた。

 仕事は大変だったが、人の為になると思うと、誇らしかった。

 客の生活スタイルに合ったマイホームを一緒に探して、喜びを共有する。

 また、先代の下で細かいお金の計算をしていた頃とは比較にならない、大規模な開発事業にも携えた。

 その仕事が、自分の性に合っていた。すごく楽しんで働けた。

 

 

 数年後、山吹は営業部の主任となり、貯金もかなり増えた。

 山吹は晴れて深雪と同棲生活を初めた。

 場所は、新西区、アパート:コクーンの210号室。

 深雪の両親は高齢で、様子をいつでも見に行けるとのことで、そこに決めた。

 

 しかし、山吹に転勤の指令が来たのは、その直後だった。

 

 本社を東京に移転するとのことで、そのプロジェクトリーダーに任命された。

 自分の努力が身を結んだのと、未知なる東京での暮らしに憧れを抱いていた山吹は、大いに喜んだ。

 しかし、深雪を連れて行くことは叶わなかった。

 高齢の両親が心配なのもあるが、深雪も仕事が軌道に乗り始めたところで、職場を辞める訳にいかなかったのだ。

 仕方なく、山吹は独りで東京行きを決めた。

 

 『いつか、帰ってきたら、結婚しよう』

 

 深雪と、そう約束して。

 

 

 

 

 東京での生活は、過酷だった。

 神浜市よりも遥かに多い人波に飲まれそうになる毎日。

 地元とは打って変わって人情味が無く、只管仕事に打ち込み、自分の利益を優先する東京人達。

 そのドライな空気が、どうも肌に合わなかった。

 

 そして仕事も、多忙を極めた。

 毎朝5時には起きて、7時には出勤し、翌日の朝1時になってようやく退勤。

 すぐに横になって、またすぐ起きて、出勤……の繰り返し。

 必死にいくら頑張っても頑張っても、仕事は終わらない。

 休みの日は、疲労困憊と極度のストレスで、一日中横になって眠り続ける。

 溜まっていく深雪からのメッセージ。

 最初は読んでいたが、いつしか確認する気力も無くなった。

 心の中で深雪に申し訳無いと、謝りながら……。

 それでも、この難局さえ乗り越えれば、深雪との結婚が待っている――――そう信じてきたからこそ、諦めずに、仕事を続けられた。

 

 

 

 長期休暇が取れたのは、転勤してから3年後のことだった。

 社長は、今までの実績の見返りのつもりだと言っていたが、もしかしたら、自分の体調を気遣ったのかもしれない。

 だが、これで深雪に会いに行ける。

 ずっと連絡をくれてたのに、忙しさにかまけて、無視してしまったことを謝ろう。

 大変なのは、深雪も知ってる。

 きっと、許してくれる筈だ。

 

 そして――

 

 

 

 ―――――

 

 ―――――

 

 ―――――

 

 

 

 

「なんでだよ!!」

 

 休暇の初日。

 早朝から地元に戻り、210号室に訪れた山吹を待っていたのは、信じられない光景だった。

 

「だって、あなたが、全然連絡をよこさないから……」

 

 涙ぐんで顔を俯かせながら、深雪はそう呟いた。

 何を言ってるんだ、お前は。

 

 俺はお前に会いたい一心で、ここまで頑張ってきたのに。

 

 知らない男が、深雪の隣にいる。

 知らない男が、深雪に触れている。

 そこは、俺の場所だった。

 あいつの隣は、俺以外に居ることは許されない。

 

 男は、跡部雄馬と名乗った。

 美容師をしているといった。

 真面目そうで、精悍な青年。

 背の高く、色白で、整った相貌の美男子。

 直感で分かった。

 この男は、自分に無いものを、全て持っている。

 自分が、深雪を手に入れる為に、必死で今まで築き上げたものを、生まれたときから既に――

 

 勝てない。

 

 跡部雄馬は、自分に丁寧なお辞儀をして、申し訳無さそうに謝った。

 怒る気持ちは分かる、と。

 自分が不在の間に、深雪の気持ちを獲るような真似をして、本当にすまなかった、と――

 しかし、彼女の幸せを願うのならば、彼女の気持ちを尊重して頂けないか、と。

 

 勝てない。

 

 不意に、父親が目の前で首を吊っていた時の記憶が頭を過った。

 全ての景色が、足元が、ガラスのようにパリンと割れた。

 全てが暗黒に閉ざされた。

 

 嗚呼、あの時と、同じだ。

 底の無い暗闇を、真っ逆さまに、堕ちていく。

 

 裏切られた。

 信じていた人に、裏切られた。

 これで、二度目。

 深雪は俺の全てだった。

 俺にとって帰るべき居場所だった。

 何者にも耐え難い、俺にとっての、俺だけの――

 なのに――

 

 

 暗黒の中に瞬く瞳が、彼に語りかける。

 それは、昆虫――特にカマキリの複眼――によく似ていた。

 それは、彼によく似た声で、囁く。

 

 

 壊してしまえ。

 

 お前を苦しめる居場所を、破壊しろ。

 

 

 

 居場所?

 それはダメだ。深雪を壊してしまったら、俺は――

 

 

 その時は――

 

 新しい居場所を、また作れば良い――

 

 

 

 

 

 

 

 

 あいつをこの世から消したくなった。

 

 二度と、俺を惑わせないように、あいつに関わる全てのものを、俺の手で。

 

 光を閉ざそう――永遠に。 

 

 

  

 

 

 

 

 映像はそこで途切れた。

 暗闇に光が差し、閉ざされた視界が晴れていく。

 

 いろはが目を覚ますと、知らない家の中に居た。

 異様な光景に、愕然。

 肉が腐ったような異臭と、鉄臭さがツンと鼻を刺激して、うっと嘔気づく。

 6畳ほどの居間の隅には、密封されたゴミ袋が散乱している。

 人が生活しているとは思えないほど、汚染された空間。

 

 だが、いろはが何より驚愕したのは――

 灰色に汚れた天井から垂れ下がる、男の体。

 

 苦痛に満ちた顔で、首を吊って死んでいる。

 

 

「……っ!?」

 

 不意に聞こえてくる、啜り泣く声。

 首吊り遺体からではない。子供の声だった。 

 目線を下に向けると、見知らぬ、痩せ細った少年が居た。抱え込んだ膝に顔を埋めて泣いていた。

 いろはには、なんとなく分かった。

 

 ――もしかして、この少年が。

 

 

「山吹啓吾」

 

「!!」

 

 隣を見ると、里見灯花が立っていた。

 彼女は、邪悪な微笑みを浮かべながら、ぐずる少年を見下げていた。

 続けて、囁く。

 

「彼が“カマキリ男”だよ。環 いろは」

 

「っ!! そんな……」

 

「ここは、祟り神に進化したパブロ=ディエゴの中核。わたくし達の眼の前にいるこの子は、彼の魂」

 

「魂……?」

 

「彼を止めるんでしょ? 環いろは」

 

「…………!!」

 

「殺すしか、方法が無いよ」

 

「…………」

 

 

 愕然と彼を見つめるいろはを横目で睨み、冷酷に灯花は告げる。

 

 

「殺せ、たまき」

 

 

「…………………」

 

 

「その子は、この世に必要の無い人間だ」

 

 

「………………………………」

 

 

「だから、お前の手で、“処分”するんだよ。たまき」

 

 

「私が……!?」

 

 

「そうだよ、たまき。さあ、やれ」

 

 

 

 

 

 

 

「私が……………」

 

 どうしよう――

 

「この子を…………?」

 

 どうすればいい――

 

 教えて、みんな――

 

 教えて――

 

 

 ももこさん――

 

『いろはちゃん、トドメを刺すんだ!!』

 

『カマキリ男は今弱っている! 今仕留めなければまた力を取り戻してより多くの人達が犠牲になる! チャンスは今しか無いんだ!! 頼む!!』

 

 

 レナちゃん――

 

『いろは、何やってんのよ!?』

 

『こいつはかえでに酷い事をしたのよ!? 洗脳して、レナ達と殺し合わせたのよ!? かえでだけじゃない! 沢山の人達が殺されたの! こいつはレナ達の敵っ!! 分かってるでしょ!?』

 

 

 かえでちゃん――

 

『いろはちゃん、助けて……』

 

『私、もう……戦いたくない。レナちゃんも、ももこちゃんも、これ以上誰も傷つけたくないよ……』

 

 

 カエレさん――

 

『モモから聞いてる。射殺許可は出ているそうだ』

 

『殺された人たちの無念を晴らしてくれ』

 

 

 

「………………」

 

 

 皆の声が、聞こえてくる。必死なのは、伝わった。

 でも――“殺す”しか選択肢が無いの?

 彼は、ずっとここで泣いているのに?

 

 ここにいるだけで、伝わってくる……。

 彼の苦しみと絶望が、胸の奥にずしんと、鉛のように圧し掛かってくるようだ。

 

 そんな彼を、みんなは哀れんでいなかった。

 彼に大切な人達を奪われた怒りと悲しみは、分かる――けど、私は……

 

 

「……うぅっ、ひっぐ……、お父さん、お父さんおとうさん……。助けて、お父さん……」

 

 

 眼の前で泣いている、幼い“山吹啓吾”。

 とっくにいなくなった父親を尚求める彼の姿が、自分と重なって見えた。

 胸が痛い。張り裂けそうなぐらい、痛い。

 

「……っ!」

 

 私は、ぎゅっと拳を握りしめる。

 固い決意で、姿の見えない皆の声に応える。

 

 

 

 

 

 

 

 

「殺さない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 殺せないんじゃない。

 

 『殺したくない』。

 

 それが、私の気持ち。意志であり、選択だった。

 

 彼は苦しんでいるじゃないか。

 ずっと、心の奥で泣いていたじゃないか。

 

 確かに、私達は大切な人たちを彼に奪われた。

 彼に対する怒りと憎しみが、私達をここまで走らせた。

 でも、その過程で、私達は彼を理解しようと一度でも考えたことがあっただろうか?

 

 こんなにも、深く重い悲しみを。

 絶望を。

 たった独りで、ずっと背負ってきた彼を、“悪”と断じて始末することが、正しいのだろうか。

 射殺許可?

 警察の人たちがそういったから、魔法少女もそうしなくてはいけないのか?

 

 だとしたら、彼の救いはどこにある?

 

 憎いから、殺した。

 偉い人に言われたから、殺した。

 正しいから、殺した。

 

 そんなこと、カマキリ男に変貌した彼と一緒じゃないか。

 それに、彼を殺して、何が変わる?

 確かに祟りは治まり、捕らわれた人たちは開放され、町に平和が戻るかもしれない。

 けど、彼を慕っている誰かが、私達を憎しみ、殺しに来るのではないか。

 私達の大切な人を、復讐の為に奪うのではないか――

 

 ――結局、堂々巡りじゃないか。

 殺されたから、憎んで、殺して、ずっと……ずっとずっとずっと繰り返していく。

 そんな無意味な争いを続けて、誰かを救うことができるんだろうか?

 

 ううん、救えない。

 人の心も、ましてや命は……絶対に。

 

 だから、私は彼を殺さない。

 誰かが立ち止まらないと、この負の連鎖は永久に止まらない。

 

 

 

 

『おい! いろはちゃん!!』

 

『アンタねえ!? 罠かもしれないでしょ?』

 

『どうして……?』

 

『今止めなければ、ここにいる全員が死ぬぞ!』

 

 

 

 黙って。

 それでも、私は彼を殺さない。

 彼を、傷つけたくなかったから。

 

 

 

 

「うっ……ひっぐ……おとうさん……」

 

「ごめんなさい」

 

 膝を抱えて泣いている男の子の前で、私は跪き、そう告げた。

 

「あなたを救う方法が、私には思いつきませんでした……。でも、私はもう、あなたを傷つけたくない。これ以上、殺し合いたくないんです……!」

 

「ひっ、ぐっ……」

 

 彼は私に目を合わせようともしなかった。

 抱えた膝に顔を埋めて、永久に来ない父親を求めて、泣いている。

 それでも、構わない。

 争いはここで、終わらせる。

 

「あなたは、何も悪くない……。本当に、ごめんなさい……」

 

 

 

 私は立ち上がり、背を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前が……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 焼けるような熱が背中を貫通した。

 

 

 

 

 

 

「お前が、俺の事を理解した気になってんじゃねえよ!!」

 

「……!!」

 

 男の子のものではなく、カマキリ男の怒り狂った声。

 炸裂する痛みが、背中を走る。

 まさか――咄嗟に、私は振り向く。そこに見えたのは――

 

「あっ……」

 

「俺の両目を潰しといて、調子良いこと抜かしてんじゃねええええ!!!!!」

 

「ぐぅううう!!」

 

 真っ黒に染まった両目から夥しい量の鮮血を流す、子供の山吹啓吾。

 彼の手にはナイフが握られていた。

 背を向けた瞬間に、刺された。根本まで刃物が肉体に入り込んでいた。

 

「そんなに俺を救いたいんならよお……!」

 

「ぐっ……!」

 

 ナイフが引き抜かれ、前のめりに倒れる私の背中に、重い衝撃が走る。

 山吹啓吾が馬乗りになった。首を後ろに動かすと、血がべっとりと付いたナイフを高く掲げていた。

 彼が、吠える。

 私へのありったけの憎悪を、腹の底から、思いっきりぶちまけた。

 

「俺と一緒にてめえも死ねええええええええええええええええ!!!!」

 

 頚筋に目掛けて、振り下ろされる。

 まるで、カマキリ男の大鎌のように――

 もう、逃げられない。

 

「いやっ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 即死だった。

 

 突然彼に飛びかかってきた黒い“影”が、一瞬で彼を制圧した。

 

 メチャ、と、気色悪い破裂音が耳を貫いた。

 

 “鈍器”が、彼の頭を一撃で粉砕し、圧し潰した。

 

 私はその武器が、誰のものかよく知っていた。

 

 

 

 

 

 

「フェリシア、ちゃん……?」

 

 

 

 

「…………っ」

 

 ぐちゃりと、潰れた骸と化した山吹を踏みつけた。

 白い素肌を血塗れに染めた彼女は、何も答えず、ただ、私を睨みつけていた。  

 

 

 何をしてくれたんだ――――

 

 

 そう訴えるような眼差しは。

 怒っているようにも、悲しんでいるようにも見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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