魔法少女いろは☆マギカ 第2部 RE:Ms.Pain Planter(休載中 第二章一部完結済)   作:hidon

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FILE-2 #35 戦いの後(エピローグ1)

 

 

 全ての闇が晴れ、全てが光に包まれた。

 

 

 

 

 山吹圭吾は、死んだ。

 深月フェリシアの手によって。

 祟り神の核――“彼の呪いの始まり”を破壊したことで。

 彼は完全に消滅した。

 この世から、跡形も無く。

 

 

 

 ――先までの周囲を閉ざしていた漆黒が反転したかのような真っ白な空間。

 そこに、全ての魔法少女達は立っていた。

 先の一瞬に唖然としたままのいろはが、自身に背中を向けて立っている血まみれのフェリシアに、声を掛ける。

 

「どうして……?」

 

「……“どうして”、だと?」

 

 低い声でフェリシアは応える。

 その肩がわなわなと震えた。

 瞬間だった。 

 

「っ!!」

 

 いろはの顔面に重い衝撃が走る!

 フェリシアの怒り狂った形相が垣間見えたのと、振りぬいた拳がいろはの顎を捉えたのは同時だった。

 勢いよく殴り飛ばされ、いろはは背中から倒れる。

 

「ぐっ……?!」

 

「てめえいつまでもふざけんじゃねえぞこの野郎!!」

 

 すかさずフェリシアはいろはの胸倉を掴み上げて怒鳴り散らす。

 

「死ぬところだったんだぞッ!?」

 

「あぐっ!」

 

 怒りは頂点に達していた。

 フェリシアの拳が再び顔面に振り落とされる。

 どすっと鈍い音がした。

 

「だからオレが助けた!! なのに、“どうして”、だあ!? 命の恩人に対していう事かよそれが!!」

 

「ぐっ……うっ!」

 

「敵の言う事はホイホイ聞く癖に何で俺の言う事はちっとも聞けねえんだよ!! いつもいつも!! 勝手な事ばっかしやがってっ!!」

 

「がっ、ぐふっ!!」

 

 勢いよく突き落とされた拳骨がいろはの鼻を叩き折った。

 鼻から血が噴き出すが、フェリシアは構わず追撃を続ける。

 

「シロアリ共だってオレの言う通りにやってりゃ上手く片付けられたんだ!! なのにてめえが勝手に助けたせいでレナが死にかけたじゃねえか!! なのに性懲りもなく敵に情けをかけやがってよお!!」

 

「やめろフェリシア!!」

 

 本気の拳が幾度も振るわれ、いろはの顔面が痛々しく歪んでいく。

 堪らずももこが叫ぶが、狂犬と化した彼女の耳には届かない。

 

「てめえ一人だけ“カミサマ”にでもなったつもりか!! 『自分は全部救いたいから人殺しも助けます』!? その為なら仲間が死んでも知ったこっちゃねえってか!? ああ!!?」

 

 胸倉を引っ張り上げて、鬼の形相をいろはの顔面に近づけて、問う。

 

「ぐっ……」

 

「おい、いろは……お前に何ができたっつうんだよ!」

 

「…………っ!!」

 

「何も持ってねえお前が、あいつらに何をしてやれるんだって聞いてんだよ!?」

 

「………………っ」

 

 答えられなかった。

 ただ、眉間に皺を寄せ、涙を浮かばせたその瞳で、じっとフェリシアを見つめながら。

 下唇をかみしめて、その怒りに堪えていた。

 鼻腔から流れた血が口に入り、口いっぱいに苦みが広がる。

 

「答えてみろよ!!」

 

 煮え切らない態度が、怒りに火を注いだ。

 キッと目を鋭くして、フェリシアは再び拳を振り上げる。

 

「もうよせ!」

 

「フェリー……」

 

「チッ」

 

 見かねたももことカエレが飛び掛かり、馬乗りになったフェリシアをいろはから引き離す。

 

「嘘だったのかよ」

 

「…………」

 

 いろはは起き上がり、何も言えずに、フェリシアを見つめていた。

 

「死んでも家族を取り戻したいっていうのは、嘘だったのかよ……?」

 

「フェリシア、ちゃん…………」

 

「お前の覚悟はカマキリ野郎より軽かったのかよ!! ふざけんじゃねえぞバカヤロー!!」

 

「っ!」

 

 ハッとなるいろは。

 

「フェリー落ち着け」

 

「……クソがッ!」

 

 フェリシアはカエレに羽交い締めにされながら、後ろに引きづられて行く。

 

「…………」

 

 フェリシアの言葉が突き刺さり、いろははただ俯いていた。

 正しい行いをしたつもりだった。

 でも、みんなのことを考えていなかった。

 独りで勝手に決めて、皆の意見を無視して動いて、迷惑を掛けてしまった。

 

 

「お前が、俺の事を理解した気になってんじゃねえよ!!」

 

 

 不意に、彼の言葉が脳裏を過った。

 彼を救いたいという気持ちは、確かに自分の判断で、その気持ちに嘘偽りは無かった――つもりだった。

 

 ――きっと、ういに対しても、私はそうだったのかもしれない。

 

 申し訳なさと後悔で、いろはは何も言えなかった。

 ただ、目線を下に向けて、黙りこくった。

 震えた瞳から、涙が一筋頬を流れ、血液と混じって足元に落ちた。

 

「いろはちゃんの気持ちは……よく分かるよ」

 

「……え?」

 

 不意にももこから声を掛けられて、いろはは顔を上げる。

 彼女は、困ったような笑みを浮かべながら、

 

「でもアタシたちは、治安維持部で、チームなんだ」

 

 はっきりとそう言った。

 いろはの口元がくっと歪む。だが、ももこは心を鬼にして責める。

 

「困ってる人達を助ける事が最優先。仲間を守ることが優先だ。そこを、履き違えちゃいけない!」

 

「…………」

 

 いろはは黙って頷いた。

 

「いろはちゃんは自分が正しいと思うことをやった。でも……アタシ達の努力を全部無駄にするところだった」

 

「っ!……」

 

 ももこの声色は、叱責とは思えない程、穏やかに聞こえる。

 だが、いろはには、自分に対する“苛立ち”と“呆れ”が含まれているように聞こえた。

 考えなくても、当然だった。

 ももこ達が死にものぐるいで助けた人達を、再び命の危機に晒した。

 それだけじゃない。

 あのまま、山吹啓吾を開放していたら祟りは継続され、犠牲者が激増する。

 肉体を棄て、“呪い”そのものと化した彼を倒せるチャンスは、あの時、いろはが殺す以外に無かったのだ。

 

「犯罪者の事を知って、同情する気持ちは分かるよ……でも、山吹啓吾(アイツ)を助ける為に、アタシやレナ達の意見を無視したのは、許されるべきじゃない!」

 

「…………」

 

「……やっていいこととやっちゃいけないことの判断は、これからできるようにならないとな。仕事なんだから。割り切れるようにならなきゃ、ダメなんだよ……っ!」

 

 その言葉が、胸に深く突き刺ささった。

 いろはが、顔を上げる。

 ももこ、レナ、かえで。カエレ、優花――周囲の魔法少女達全員を一瞥した後。

 深く頭を下げて、言った。

 

 

「みんな、ごめんなさい…………」

 

 

 謝罪は涙で震えていた。 

 そして、最後にフェリシア――

 

 

「本当に、ごめんなさい。フェリシアちゃん…………」

 

 

 彼女に対しても深く頭を下げて、謝った。

 フェリシアは、けっと吐き捨て、そっぽを向く。

 

 大切な相棒なのに――

 家族のいない自分にとっての、唯一無二の――

 

 これは罰だ。

 嫌いな彼女の前で、大したことのない意地を張り続けた自分への。

 どれだけ謝っても、きっと許して貰えないだろう。

 それだけの事を、自分は彼女にしてしまったのだから。

 

 もう、二人でやっていくのは、無理かもしれない――

 

 例えようも無い苦味が、口の中にずっと残っていた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わり――

 

 

 ――同時刻。

 立政町・(さかえ)区。

 役場近くの幹線道路は、丁度退勤ラッシュで渋滞していた。

 ごった返す車の大群の内の一台――黒いSUVの中では、運転手の男が、携帯端末で誰かと通話していた。

 

「はい……分かりました。承知致しております…………ご安心を。こちらの方は、万事抜かり無く…………只今、運転中ですので……はい、それでは……」

 

 礼服のような黒いスーツを纏い、眼鏡をかけた知的な印象が伺える学者然とした中年男性は、見た目通りの淡々とした声色だった。

 彼は通話を切り、端末を脇に置くと、後部座席に座る“少女”をバックミラー越しで伺いながら声を掛ける。

 

「ミス・ペインプランターよりご連絡です。パブロ=ディエゴとレメディオスが討たれました」

 

「…………そうですか」

 

 倒したのは十咎ももこと、七海やちよだと報告したが、少女には聞こえなかった。

 窓の外に映る近代的な商店街は、夕日の橙色に染められて、情緒的な風景を生み出している。

 だが、彼女は虚無の瞳でそれを眺めていて、完全に上の空の様子だ。

 

「お嬢様は慈悲深き御方と、オーナー・サンシャインより聞き及んでおります」

 

 お嬢様と呼ばれた“少女”は組織での立場的に、本来軟禁中の身だった。

 だが、不憫に思った【オーナー】の配慮によって、特別に外出を許可された。

 “彼”の監視付きで。

 

「…………」

 

「殉職された仲間への哀悼は、示されないのですか?」

 

 “少女”――梓 みふゆは、彼にそう聞かれて、ぽつりと答える。

 

「…………人を、殺しましたよね?」

 

「はい」

 

「…………ただ、普通に暮らしてただけの人達を、あんなにも、たくさん……」

 

「それが、ミス・ペインプランター(実働部隊統括)のご指示であり、同時に最高幹部会の総意であらせられます。()()は、ただ従うだけです」

 

「そうですか……」

 

 消え入りそうな声で返すみふゆ。

 “彼”は、フッと笑みを零して、冷然に言い放つ。

 

「変革は痛みを伴います。魔法少女や()()が完全に救済された世界が実現されれば、我らのシステムを奪い、独占或いは破壊を目論む輩も出現されるでしょう。その前に、力による脅威を大衆に示さなければならないのです。未来の我々を守る為にも……」

 

「それでも……殺す必要は無かった筈です……」

 

「今は耐え抜く時かと。時が満ちれば、大衆も“必要な犠牲だった”と受け入れてくれるでしょう。麻薬撲滅を掲げ、売人の殲滅を強行した現在のフィリピン大統領が、国家の治安回復を実現して、国民から圧倒的な支持を得たように……」

 

「…………」

 

 みふゆは“彼”に目を向けず、虚空を眺めたまま言い返す。

 

「…………既に、50人以上も殺しておいて……平気でいられる貴方達は、もう、人ではありません……」

 

「ふふふ……! ディエゴとレメディオスのことですか。確かに、()()()()()()、彼らはやり過ぎました。祟りの力を過信し、生き急いでいた……だが、私は彼らとは違う……」

 

 “彼”は肩を震わせて、そう答える。

 

()()()()は余計な殺生を容認しない。だから――彼らのような失敗は犯さない」

 

「っ………!」

 

 彼の言葉に、狂気が宿る。

 不意に突き刺さるような魔力を感じて、みふゆが思わず“彼”の方を見る。

 “彼”の顔面は変貌していた――人間ではなく、別の生物に。

 

 

「この私――『トリニダード』はね……」

 

 

 ギョロリ、と。

 鳩の怪物に化けた“彼”の巨大な丸目が不気味に蠢いた。

 

「……!!」

 

 背中に寒いものが走り、みふゆは息を飲んだ。

 “彼”――ウワサの支配人・『トリニダード』の瞳から放たれる、妖しい黄金の瞬きが、みふゆをそこに縛り付けた。

 獲物を捉えて放さない獰猛な、猛禽類のような眼光で。

 

 

 

 

 

 

 




第1章、エピローグとなります。
10月までに3話ぐらい投稿して終了予定です。
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