魔法少女いろは☆マギカ 第2部 RE:Ms.Pain Planter(休載中 第二章一部完結済)   作:hidon

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FILE-2 #36 月と太陽……な二人。(エピローグ2)

 後日――

 

 水名区。

 慶治町役場:十咎ももこの執務室にて――

 

「なあ、カエレさん。戻ってきてくれよ」

 

 何度伝えても、相手の仏頂面は変わらなかった。

 それに対する答えも、決まりきっていた。

 

「モモ……私がいなくても、もうやっていける筈だろう」

 

「…………」

 

 渋い顔を浮かべてももこは言う。

 

「今回の戦いで分かったんだ。やっぱり、アタシにはまだ引っ張ってくれる大人が必要なんだって。もちろん、かえでとレナにも……」

 

「……モモ」

 

「かえでとレナは確かに戻って来たよ? でも、あいつらは心に深い傷を負ったんだ。復帰できるのはしばらく後だ」

 

「モモ……」

 

「全てアタシの責任だ。アタシがリーダーとして、まだまだ未熟だから、あいつらに苦労を掛けさせちまった。きっと、カエレさんがいつもいてくれれば、こうならなかったろうな……」

 

「モモ」

 

「頼むよカエレさん。今のアタシは独りぼっちだ。アンタの前じゃ散々強がってきたけど、やっぱりみんながいないと何もできないんだ。レナとかえでがいない今、アンタに戻ってこないと不安で仕方がないんだよ。この通り、お願いだから!」

 

「…………モモ」

 

「……あのさカエレさん。モモモモ言ってないで、『はい』か『いいえ』ぐらい返してくれよ」

 

「モモ……っ! …………モモ」

 

 はあ、とため息をつくももこ。

 目の前のクールヴューティはその表情を変えぬまま『モモbot』と化していた。

 ……つまり、コミュ障全開である。うまい言葉が見つからなくて、悩んでいるのだ。

 

「モモ……」

 

「いやだからカエレさんさあっ!……ん?」

 

 刹那――ゴトッと。

 閉ざされた執務室の扉の裏側から、何かぶつかる様な音が響いた。

 ももこが振り向くと、誰かの話し声が聞こえて来た。

 

『ちょっと明日香……くっつきすぎだよ。気付かれたらどうするの?』

 

『ひあっ、ごめんなさいささらさんっ』

 

 聞こえて来たのは聞き覚えのある二人組の声。

 間違いない、秘書課の美凪ささらと竜城明日香である。

 ももこが、そろりそろりと扉に近づいて、ドアノブを握り、グッと引っ張ると、

 

「わわっ!?」

 

「うわっと!?」

 

 案の定二人組が部屋に流れ込んできた。その様子をジト目で睨むももこ。

 

「お前らさあ、盗み聞きなんて趣味悪いぞ?」

 

「「うっ……!」」

 

 慌てて体勢を直した二人が、ももこにバツの悪そうな顔を向ける。

 

「うう……失礼いたしました……。しかしながら、ももこさんの事が気になってしまって……」

 

 秘書課の一人、明日香は、がっくり項垂れながらそう答える。

 さながら、餌を取り上げられた子犬のようである。

 

「いやアタシはっ! 別に大丈夫だからっ!」

 

「そういって、独りで抱えこもうとするの、よくないと思うよ」

 

「う……っ」

 

 もう一人の秘書課、ささらは苦笑いを浮かべて指摘する。

 反論に詰まり、苦い顔を浮かべるももこ。

 

「みんなもっさんのこと、心配してるんだよ?」

 

「レナさんとかえでさんも、今はおりませんし……」

 

「だから、私と明日香で町長に無理言って、2人が帰ってくるまで、もっさんに協力することにしたんだよ」

 

「実は私達二人とも、戦いには自信ありますのでっ!」

 

 ぐっと力強く握った拳を見せて、頼もしく宣言する明日香。

 二人の実力はももこから見ても、折り紙付きだ。治安維持部でも十分やっていける。

 しかし、う~む、と困り顔を浮かべるももこ。

 

「でも、他所に迷惑はかけられないし……これからカエレさんに戻って来てもらおうと……」 

 

「カエレさんも会社経営で忙しいじゃない。そもそも無理なお願いだってのは判り切ってるでしょ?」

 

 うっ、とたじろぐももこ。あからさまに目線を泳がせる。

 

「それは、そうだけどさあ……」

 

「ももこさん、ささらさんとも話しましたが、ももこさんには無理しないで欲しいんです」

 

「もっさんはみんなの代表だし、笑顔でいてくれなきゃ始まらないしね。何より、困った時はお互い様。でしょ、もっさん!」

 

「二人とも……!! ごめん、カエレさ……あれ?」

 

 振り向くと、カエレは消えていた。

 

 

 ――モモ。

 

 ――私はモモの事が好きだ。

 

 ――大切だからこそ、幸せになって欲しいんだ。

 

 

「カエレさん……!」

 

 

 ――だから、いつまでも私の陰を追ってちゃいけない。

 

 ――お前を大切にしてくれる人は、もう、たくさんいる筈だから……。

 

 

 そう、テレパシーだけを残して。

 見渡すといつの間にか窓が開放されていた。そこから降りたのだろう。

 

「…………!」

 

 両目がかっと熱くなり、ももこは一瞬だけ俯いた。

 

「もっさん?」

 

「……っ、あー大丈夫!! もう、大丈夫だから!!」

 

 流れるものをゴシゴシと拭い、心配そうなささらにそう答えるももこ。

 陽の様な笑顔を見せてくれて、二人はホッとした様子だった。

 

 十咎ももこは、弱いという自覚がある。

 七海やちよのような威厳も、武術的強さもない。

 都ひなののような頭脳もない。

 常盤ななかのような度胸もない。

 強みというものは何もない。

 

 でも、みんなから愛されるリーダーであった。

 みんながいるから、自分はもっと頼っていいのだ。

 カマキリ男の戦いの時、みんなの祈りの力を借りた時のように。

 いつかみんなとの力が、闇を打ち消す程の、大きな光になるはずだ。

 それを、絶やさない為にも。

 自分を支えてくれるみんなを支えられる、リーダーになっていきたい。

 

 

(ありがとう、カエレさん……!)

  

 それが、今の十咎ももこの目標となった。

 心の中でカエレに感謝し、顔を見上げる。

 

「二人とも、ありがとう!! しばらくの間、よろしくな!!」

 

 ももこがそういった途端。

 秘書の2人は互いに顔を見合わせて、苦笑いを浮かべていた。

 

「あー、実はね……」

 

「協力を願い出てくれたのは、私達だけじゃないんです……」

 

「えっ?」

 

 

「もっさん大丈夫か―――――――!!!?」

 

 

ドドドドドドドド

 

 直後、雪崩のごとく押し寄せて来た水名女学院生徒会長・越塚凌子with水名魔法少女部の面々にももこがもみくちゃにされたのはいう間でもない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「shit……」

 

 その少女は、手に持っている本を只管めくっていた。

 

 ペラペラペラペラ……。

 

 何も、出てこない。

 

 

 

『まったく訳がわからんよ』

 

 

「……、shit」

 

 頭に浮かぶ“カラス仮面”の呆れ顔を振り払い、少女は再び漫画本に視線を落とした。

 そして、集中。

 

 ペラペラペラペラペラペラ……。

 

 やはり、何も出てこない。

 自分を響かせるものは、そのページからは、何も湧き出てこない。

 

 

『お前程の才能のある人間が、プロフェッサーに望めば』

 

『もっと高名な画家の絵画でも資料でも、いくらでも手に入るだろうに……』

 

 

 忌々しい。

 芸術のことなど何も分からない癖に。

 

「shit」

 

 違う本を手に取る。

 同じタイトルだ。

 少し前に読んだばかりだが、もしかしたら。

 

 ペラペラペラペラペラペラペラ…………。

 

 

『よりによって求めるのが、“マンガ”とは?』

 

『少女漫画誌に掲載されてる味気ない大衆娯楽作品……それに、何の価値があるのやら?』

 

 

 そう言われた瞬間、アリナはfuck youと追い返してやった。

 マジギレしたのは、久々だったと思う。コルボーはヘラヘラしながら退いたが。

 

 アリナが熟読している漫画のタイトルは、『怪盗少女マジカルきりん』。

 主人公のマジカルきりんが、世界中に散った魔器を、悪魔や魔物と戦いながら盗み出すという内容だ。

 笑い有り、涙有り、友情有り、バトル有り、感動有り……等と銘打っているが、内容に深みは無い。

 あくまで国民的アニメのような、“代わり映えしない”からこその“親しみやすさ”で人気を博している作品だ。

 

 客観的に見れば、それがアリナの特徴的―()()()()()()で唯一無二なーな芸術の才能とどう結びつくのか分からない。

 つまり、アリナが“それ”を読むのは、無駄に見えるのだ。

 時間をただ浪費してるだけの、暇つぶし。

 コルボーが揶揄するのも無理は無い。

 だからこそ、コルボーは何も分かってない。

 アリナのことも。

 芸術の事も。

 何も。

 

 

 ペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラ……

 

 

「Oh shit!!」

 

 アリナが“マジカルきりん”を無造作に投げ捨てた。

 そして、呼び出す。

 

「……いる?」

 

「紅羽根、こちらに」

 

 背後から音も無く出現する紅い外套の女に、一切振り向くことなく、

 

Complete(読み切っちゃった)。最新巻、買ってきて」

 

 冷徹にそう伝えるアリナ。

 紅羽根は一瞬困った顔をした。

 

「それが、最新巻でございますが?」

 

「…………」

 

「もう何度もお読みになられてますよね。 10回も20回も……」

 

 アリナは、何も答えない。

 最新刊だけでなく、一話から最新話まで、何度も何度も読み返した。

 それでも、アリナが求めるものは、何も見えてこなかった。

 

「その度に、我々にご注文なさる。……しかし、無いものは無い、お伝えする他、ありません」

 

「アリナに必要なの、今すぐ用意して」

 

 有無を言わさぬ指令に、紅羽根はハア、と溜息。

 

「では、作者を脅して、ミス・ペインプランターだけの最新巻を書かせましょうか?」

 

「…………」

 

「それとも、構想されてるストーリーをお尋ねいたしますか?」

 

「…………………………No,bad」

 

「では、如何致しますか?」

 

「マギウス……()()()()に頼んで」

 

 アリナは脇に積まれているマジカルきりん全巻を指さした。

 

「コレ全部あいつらの作ったAIにでもinput(学習)させて。Please,nextstory.(続きを見せて)Hurry up.(なるべく早く)

 

「承知致しました」

 

 紅羽根は恭しく頷くと、背後に控えた黒羽根と共に、マジカルきりんの既巻を抱えてその場から去っていく。

 

 

 ――そして、アリナは独りその場に残された。

 テーブルの奥に置かれた写真立てを手に取り、じっと見つめるアリナ。

 

Elixir(万能薬)は、Pharmacist(薬師)が作らないと効き目が無い……ってワケ」

 

 写真に映る少女は、もういない。

 だからこそ。

 アリナは、少女に軽く口付けし、家族に話しかけるような感覚で喋った。

 

「やっぱり、アナタが持ってきてくれるきりんじゃないと、Elixirにはならないヨネ……」

 

 フッと、浮かべた微笑は自嘲的で、寂しさのような哀憐が浮かんでいた。

 アリナのこの感情を知るものは、この世でたった独り、写真に映る彼女のみ。

 

 

『アリナ先輩はダメなの! 絵が描けても命を大事にできないとダメなの!!』

 

『だから、何?』

 

『だから持ってきたの!! 怪盗少女マジカルきりん!! これを呼んで命の大切さを知るの! 全巻置いてくの!!』

 

『あー……めんどくさい……』

 

 

 だが、彼女は、もうこの世にいない。

 

 

『怪盗少女マジカルきりんの最新刊なの!』

 

『分かってるんですケド……』

 

『これを呼んだら元気が出るの!』

 

 

 

 

 ホテルの一室のような、狭い部屋の片隅に置かれた絵画スタンドの上には、まだ何も書かれてない、真っ白な画板が飾られていた。

 

 

 

 

『この子は悩んでる……悩んでる先に成長があるの?』

 

『淡々とした成長はいつでもできると思うケド、レボリューション起こすなら、ビッグな引き金がいると思うワケ。アンダースタン?』

 

『なんとなく……。今、描いてる漫画……この主人公はわたし自身なの……。だから、悩んでいる主人公はわたし……。わたしは成長しようとしているの?』

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、皮肉だヨネ……」

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回で終わりです。
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